コンプのアタックタイムの(初心者向けの)説明が全世界的に間違っているので死ぬほど分かりやすく証拠を出しておく。
アタックタイムは「コンプが効き始めるまでの時間」ではありません。
アタックタイムは「コンプが指定値に到達するまでの時間」です。
(2022年5月17日更新)
■テスト方法
コンプを立ち上げ、スレッショルドとレシオ30をきつく設定。
アタックタイムにオートメーションを書く。
一定音量のホワイトノイズを0.5秒(500ms)でブツ切りにし、コピペする。
コピペじゃないと発音内容に誤差が生じるので、こういうテストでは必ず全く同じ波形を使うこと。
今回のテストではアタックタイムを1ms 20ms 50ms 100ms 200ms 500msで行う。
(オートメーションは発音と同時に変更すると、変更前の値が適用されてしまうので、発音前に変えておくこと。)]
(追記。ホワイトノイズだと波形にザラつきが出るので、好みによってはシンセの基本波形をテスト波形として作用することもあります。)
■結果を見る
書き出し結果を見る。
すべての設定で発音直後から傾斜していることが確認できます。
つまり、アタックタイムは「コンプが効き始めるまでの時間」ではありません。
50ms、100msを見れば非常に分かりやすいはずです。
遅いアタックタイムでも、初めからコンプは圧縮を開始しています。
もし「コンプが効き始めるまでの時間」なら、発音直後には水平の部分が残り、時間がたってから傾斜するはずです。しかしコンプはそのような挙動はしません。
繰り返します。
アタックタイムは「コンプが効き始めるまでの時間」ではありません。
アタックタイムは「コンプが指定値に到達するまでの時間」です。
この結果に対して疑問や興味がある人は自分でもテストをやってみてください。
・「通すだけで音が変わる」の意味
アタックタイムが長くても、コンプを通すだけで音が変わるということです。
その他にも軽度の歪みなどは必ず追加されます。追加されてしまいます。
コンプを通すことによる歪みについてはまた別の機会に。
・加工時の傾斜について(調査中)
(注意。この項目は調査中です。間違ったことを書いている可能性があります。)
モデル、動作原理によって様々です。
大きく下げる時に、
・「勢いよく下がる」(OPTO、VARIMU、DIODE)
・「等速で下がる」(VCA、FET、PWM)
スレッショルドに近づくほど遅くなるもの(OPTO)、
などなど。
これはリダクションする時と、リリースされる時も同様です。
■何が言いたいか?
こうした検証は、別に私だけがやっているわけではありません。
国内外、時代を問わず、やってる人はちゃんとやってます。
ちょっとしたテストで誰の目にも明らかなのに、誤解が続いています。
ほとんどの人が検証もせずに、初心者レベルの知識を右から左に流し続けているということです。
そのくせコンプの設定数値の話ばかりしているということです。コンプの「モデル差」とか「方式が」「アナログ実機が」とか言いながら、感覚的な使い方しかしていないということです。
また、もし感覚的に理解しているとしても、それを言葉で伝える力を持っていないということです。
初心者レベル同士の横つながりで情報を共有しても、互いの成長になりません。
SNSの短文で説明できる内容には限界があります。
学ぶ際には情報源を吟味しましょう。
■例外とその他
・Melda MCompressor
アタックタイムの挙動は、モデルによって稀にに例外がある。
たとえばMeldaの標準コンプなどは下画像のように「アタックタイムまでスルー」の挙動になる。
アタックが(1)指定時間までスルーし、(2)指定時間から効き始める。
これは使いやすいこともあるし、邪魔になることもある。
Melda標準コンプに対する個人的な感想としては、非常に音楽的に使いやすい。良い意味でアナログ系のようなクセが無く、意図した通りのダイナミクス調整を文字通り「整形」することができると思っている。(あくまでも個人の感想です。)
※なぜこのような挙動か?
Melda MCompressorの挙動は、電圧(音量)を受け付けた際、その量に直接反応しないタイプだからです。入力が起きるとRMS設定に応じた速度でメーターが上がり、メーターがスレッショルドに達した後にGRが掛かるからです。RMSが速すぎると出力音がビビるので、過剰な設定はケースバイケース。
なお、この記事と同様に「アタックはスルー時間ではなく、下がりきるまでの時間ですよ!」と主張している人の一部が、「『アタック=スルー時間』のものを存在しない」と主張していることがありますが、誤りです。ご覧の通り存在します。実装できます。
・Steinberg Cubase付属シングルコンプ
素直な効き方。昔のはひどかったけどな!
■マルチバンドコンプの弊害
Cubase9.5付属のマルチバンドコンプ。
DCオフセットが著しく悪くなる。(波形が中心から上に偏っているのを見てください。)
これは帯域で分割する際にどうしても生じてしまう「位相の問題」です。
他のメーカーのマルチバンドコンプでも同様の結果になります。どんなに高性能なものでも、「マルチバンドに分割してから加工」という回路になっている以上、この問題を避けることは不可能です。
もし興味があるなら確認してみてください。
マルチバンドを使った時に「何か変だなぁ」「狙い通りに行かないなぁ」「マルチバンドって難しい」と感じたことがある人は正しいです。マルチバンドはシングルバンドの上位版ではなく、まったく別のものだから、そう感じるのは正しいんです。
こういう検査をやりまくると、一見高性能そうなものでも実は「良い音」を損なう結果をもたらしているということがよく分かる。いうまでもなくGUIの見た目と音は全く関係ない。
エフェクトを掛ければ必ず音は悪化し、やりすぎるとおかしな音になっていく証拠として残しておきます。
ただし、「良い音」とは何か?という哲学的な問いを考えると、このように歪んでしまった音でも、特定の帯域を他の楽器とすり合わせた結果、「曲として良い」となるのは自明です。
この辺を取り違えて、マスタリングエンジニアを中心とした計測好きの人が、作家に対してマウンティングを取ってくることがあるので気をつけましょう。担当する領域によって価値観は異なるものです。(念の為に擁護しておくと、彼らマスタリングエンジニアは原則的に原音2mixを破壊しないことを目指すべきなので、著しく加工されてしまうことを忌避するべきだし、だからこそ計測による厳密さにこだわるのは当然なんです。)
計測的には「マルチバンドは音が悪くなる」のは事実ですが、マルチバンドよる補正の恩恵は大きいです。
音が崩れるからと言って、クソ音をそのまま鳴らしても綺麗なクソのままです。やむを得ず崩してでも矯正された音のほうがトータルで良い曲に仕上がるケースの方が多いのが現実ではないでしょうか?
ダイナミックEQの場合はこの「分割による位相問題」が起きにくいです。なんだか分からずに古典的なマルチバンドコンプを使うくらいなら、モダンなダイナミックEQを使った方がイメージ通りに仕上がるのではないか?というのが(現時点での)私の考え方です。
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