アレンジの打ち合わせやリテイク作業の話です。
「この曲みたいに作って!」と言われて作ったのに「そうじゃないんだよなー」というリテイクが発生する理不尽を回避するためのプチノウハウです。
仕事じゃなくても、音楽仲間とのやり取りがスムーズになる方法なので、周知徹底をよろしくお願いいたします!
(2023年8月30日更新)
■リライトするべきか?
雑多な内容になりすぎているのでリライト予定です。
が、ファイルやりとりに関連する多角的な情報を網羅していると言えなくもない内容なので、このまま放置。
気まぐれに追記・修正していきます。
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- ■リライトするべきか?
- ■制作打ち合わせについての話です
- ■「Bメロの転調の部分のー」と言うのをやめよう
- ■あいまいな用語で通ぶるのをやめよう
- ■クラシックでも変な言葉を使うと嫌われるのは同じ
- ■作曲発注、アレンジ発注する際の注意
- ■打ち合わせでは徹底的に対話するべき
- ■専門用語を避けるべき理由
- ■どこで打ち合わせのスピード感を出すか
- ■構成をAメロBメロと言わないほうが良い?
- ■楽器名も言わないほうが良いことがある
- ■こちらから時間の会話を切り出す
- ■最初からわがままを言うべき
- ■関連したゲロ話
■制作打ち合わせについての話です
ファンが「この曲のサビ良いよねー」と談義するだけなら楽しくやれば良いと思います。誰も困らないので。
ただし、制作の打ち合わせでは「Bメロの入りがー」と言っても、どこがBなのか全員が情報共有出来ていないことのほうが多いです。
ファンが楽しくお話をする時と、作品を制作する実務が必要な時で、話し方を変える必要があります。
・打ち合わせでは時間を指定しよう
「あのアーティストの」「このCDの」「この曲の」「Bメロが」「♪その両手を~のところのコードが」と言われても全く分かりません!
CDの何曲目、何分何秒なのかを明確に伝えましょう!
ファンの間では略して呼ぶのが当たり前だとしても、ファンじゃない人には通じません!カラオケ用の練習をしているわけでもないので歌詞なんて覚えていません!
とはいえ、歌詞をスラスラ暗記できる人のことは尊敬しています!まじで!
暗記力がある人、構成を一発で把握できる人なら良いのですが、制作に関わる誰しもがそういう能力に長けているわけではありません。「プロならそのくらい一発で覚えろよ」と言う人がいるとしたら、それは人付き合いが狭すぎると思います。プロでもびっくりするくらい話が通じないのが普通です。その代わりに小節・拍でやり取りするとスムーズになるんです。
バイオリンの松本さんもこう言ってる。
楽譜の変更箇所、ニュアンスの変更箇所。
— 松本一策🎻宅録バイオリン/即納対応可! (@issaku_m) 2023年5月5日)
急遽の変更の事態も即対応を心掛けます。
ただし、その曲を演奏する奏者に伝える際は
①楽譜、音符
②小節番号(または再生時間指定)
これを先に伝えよう。
Aメロ、Bメロ、サビ、歌詞、音名などの単語はインスト担当者にはない方がむしろ助かる事が多いぞ
(編者強調)
長期間ベッタリでやり取りを継続して慣れてきた際には「サビ前の」「そのチャララーの部分」とか言うことがあります。でもそれを最初から共通認識だとするのは間違ったコミュニケーションです。
細かい変更ではなく【Aメロから演奏スタートします!】等の全体をざっくり指示するときは、楽譜にAメロと書いてあればすぐ対応できるけど、ベートーヴェンの楽譜みたいに区分けがパッと見て分からないときも多いので、やはり練習記号や番号が1番やりやすい。その曲をはじめて見る人の方が多いのだから
— 松本一策🎻宅録バイオリン/即納対応可! (@issaku_m) 2023年5月5日
(編者強調)
伊織さんはこう言っています。
取引先からの提出物の指定は手順ごとお伝えする派です
— 伊織 (@bookofiori) 2023年8月29日
単語でのやりとりの落とし穴は「知らなかった」以外にも、覚え違い・読み/聞き間違い・業界別の差異など枚挙に暇がないので…
『音楽の打ち合わせをでは変な用語を使わず「時間を指定」しよう』https://t.co/sbsc6SngUa https://t.co/tR3C12qiE8
雑な指定でうまくいくならそれに越したことはありません。
でも、初手で丁寧に行動しておくと「あ、この人はきっちりやるタイプなんだな」とか「場数を踏んでいて、いろいろな地獄を見てきた人なんだな」という印象を植え付けることもできます。
その上でシンプルな構成の曲の場合や、互いの認識が一致してきたら「あー、Bメロのオブリね」とか言うようにしてスピードアップしていけば良いだけのことです。
クラシックの定番曲の場合には、ものすごく雑にやることもあります。すでに全員が楽曲を理解しているものとして現場に立つからです。
・ジャンルや業務内容によっては小節数を使う
必ず時間指定だけで、ということではありません。
小節数で話を進めた方が圧倒的に良い場面もあります。
これができるのは明確な小節指定のある楽譜がある状況です。
たとえば3拍子に聞こえる曲でも、6/4で書かれているかもしれないからです。
4/4に聞こえる曲でも2/2で書かれているかもしれないからです。
ポピュラー音楽でわりと多いのが、スローテンポのようでも実は倍計算で結構速いテンポを長い音符で書いている曲。(クラシックでもありますが、ポピュラーでの方がよく見る印象。)
1拍だと思っていたのが実は8分音符、っていうアレ。
こういう曲で「2小節目の」と言うと、ズレが生じることがあります。
認識ズレを起こさないためには資料(楽譜)を用意するのはとても大事です。
楽譜の精度は適当でも構いません。
汚い楽譜でも構いません。
基準になる資料があるか無いかの差だけです。
楽譜の美しさや、表記の正しさ(レのシャープなのか、ミのフラットなのか)はどうでも良いです。
ちょっとした打ち合わせや使い捨てのライブ資料で、そういう些細なことに正確さ、プロレベルの過剰なクオリティを要求してくる人は地雷だと思います。まぁ結構いるんですが。
eki-docomokirai.hatenablog.com
予防策としては、スコアのタイトル下とかに「ダッシュで10分で作ったスコアです。細かい点はご容赦ください」って印刷しておけば、必要のないダメ出しを回避できるかもしれません。うーん、どうだろう。
■「Bメロの転調の部分のー」と言うのをやめよう
プロ音楽家だからと言って、一度聞いた曲を一発で暗記できるわけではありません!
もちろん一発で暗記して楽譜に起こせる人もいますが、私はそういうタイプの能力で仕事をしているわけではありません。
そのひがみから「パフォーマンスには興味がない!」と言っていますが、もちろん暗記力があるに越したことはありません。4声ソルフェージュとか超苦手でした。
さて、アレンジの打ち合わせやリテイクなどで頻繁にあります。
「Bメロの転調するところのコードがー」と言われても分かりませんし、「Abm7のところが」と言われても即座に分かるわけではありません。その場所を探すだけで時間をロスしてしまいます。
正しい伝え方は「42秒の部分ですがー」です!
とにかく時間を秒数指定で話を進めたほうが良いです。
・変則的な構成の曲では特に気をつけよう
コテコテの形式の曲なら「サビ」とか「第二主題」で通じるかもしれません。
しかし、たとえばサビ開始のポピュラー音楽では「1サビ」は最初のサビでしょうか?それとも1分あたりのことでしょうか?
「ソロ」と言っても、明確に1フレーズ演奏するソロなのか、カウンターに入ってくる音のことなのか?
「ベース」は楽器の名称なのか、音域のことなのか?
音楽の世界には誤解を招きかねない用語が非常に多いので常に気をつけなければなりません。
・時間表示がわかりやすいメディアプレイヤーを使う
上はfobar2000をColumn UIでカスタマイズした例です。暇人は作ってみてはいかが?まじで便利になります。
多少機能が劣っていても、時間表示が見やすいメディアプレイヤーはその1点だけでも音楽制作をする人にとって優秀だと言えます。
可能であれば上のように波形表示やレベル表示もあると何かと便利です。
カーソル左右で5秒移動とか、Ctrl+左右で30秒移動とかの設定もしておくと本当に便利です。
逆に役に立たないのはビジュアライザーに特化している見せかけだけのツールです。光がぐるぐる回っても何の約にも立ちません。まー気持ちは分からないでもないのですが、
■DAWでも時間を見やすくする
DAWを開いている時も同じです。
ひとりで黙々と作っている時には邪魔にしかなりませんが、修正箇所のチェック時や打ち合わせ時には、周りの人がみんな見えるように大きな時間&小節表示があると、それだけで作業がスムーズになります。
そういう表示をしていないと、いちいちDAWの画面を拡大縮小しなければいけませんから、手間がかかります。本人は自分の手で画面を拡大しているから問題だと感じないのですが、横で見ている人は視線がチラつくので集中できなくなります。
・タイムディスプレイを表示する
DAWの種類によって呼び方がことなります。
Cubaseでは「タイムディスプレイ」という名前で、小節数や実時間を表示することができます。
同じような時間表示は「トランスポートパネル」にもあります。
しかし、トランスポートパネルは小さいので文字を見て確認するまでに一瞬時間がかかってしまいます。
その不便さを解消するのが大きな時間表示のできるタイムディスプレイです。
これは脇から覗き込んでいる人やオンラインで画面転送している相手にも見やすいので便利なんです。
また、小節数で話を進めると、プロジェクト上の小節数と相手に送った楽譜上の小節数がずれていることがあります。
そういうトラブルを避けるためには、プロジェクトの小節数オフセットを使うようにすると良いです。(時間もオフセットできます。)
ただし、若干のバグがあるので気をつけましょう。
いずれにしても両者に共通する時間軸を定めておくことがとても重要です。
先日使ったボーカル用の楽譜にも歌い始めの位置に「ここ1小節目で!」という但し書きと、楽譜の小節数を書いています。
こうしないとイントロの効果音などの都合でどこが1小節目なのかが不明瞭ですし、変拍子を6拍で数えるのか4+2の2小節で数えるのかで小節数の都合がおかしくなります。
とにかく時間で話をすれば齟齬は起きようが無くなるので、最も確実だということです。
■あいまいな用語で通ぶるのをやめよう
「Aメロが」「大サビが」と言うべきじゃないのはもちろんのこととして、
洋楽用語を使って「バースが」「ブリッジが」
という言い方は絶対にやめましょう!
そもそもブリッジとかミドルエイト、プレコーラス、フックなどの言葉はすべてのジャンルで共通した定義が無い狭い用語ですから、誤解が起きやすいです。
そういう用語は小節尺の決まった、たとえば古典ブルースとかの用語なので、現代の自由な形式のポピュラー音楽には完全に当てはまるものではありません!
特にJ-POPにおいてはBメロCメロ、果てにはDメロなどまで登場しますし、ブリッジという言葉が日本に輸入された際に多くの誤解が起きています。
ブリッジは本来は「いわゆるサビ以外で、イントロじゃないところ」程度の意味しかありません。
が、日本に輸入された際に完全な誤解として「間奏のこと」と認識した人たちがいるようです。
さらには完全に逆の意味として「ブリッジはサビのこと」という大間違いをした人たちまでいます。
どれが正しいブリッジの意味なのかは問題ではありません。
日本国内においてブリッジの意味がちゃんと認識されていないことが問題なんです。
私は「ブリッジはサビ以外でイントロじゃないところだよ」と主張する気は一切ありません。
「変な言葉を使うな」と強く主張したいだけです。
ついでに書いておくと、「英語では8ビートって言葉は無い」「英語ではドミナントモーションという言葉は無い」とか言ってマウンティングしてくる人がいるんだけど、ここ日本ですよ。
他に話を進めるべきことが目の前にあるのに、そういうことを言って自慢雑談をしてくる人がいたら、「詳しいですね!後々教えてください!えーと、ところで、その箇所なんですが、」で話題を戻して受け流せば良いです。
あまりにもムカつく感じだったら怒れば良いです。だって、今やってるのは音楽の打ち合わせでしょ?自慢大会じゃないでしょ?
ともかく、ジャンルや界隈によって意味がずれる言葉は使わないようにするのがベターです。
用語話は仕事が終わった後の雑談タイムに好きなだけやれば良いんです。
あと、バースとかの談義になると「アウトロは日本独自のものだ。Endingって言え」って主張する人がいますが英語でもアウトロって言います。どっちにしても日本では雑学にしかなりません。
上から重ねて訂正して偉ぶりたいのでしょうが、理解しているならそれで良いんじゃないでしょうか?
ちょっとした用語の差で人を見下そうとする態度は改めるべきだと思います。結局そういう人は「偉そうだ」とか「文句が多い」と思われるだけで「かっこいい」と憧れてくれることにはなりません。また、そういう重ねる言い方をしていると、「すぐ反論されて話が長くなる」と思われるようになり、誰も注意してくれなくなります。悪循環です。
・海外勢の愚痴を聞いた
海外でもそういう言い方は通じないで二度手間になることのほうが多いそうです。
・楽譜を読めない人も多い
「プロなら楽譜くらい読めて当然」という『ベキ論』も間違った認識です。
楽譜に慣れていないと小節番号を数えることすらままならない人も多く、特に日常的に楽譜に振れない音楽をやっている人や、演奏よりエンジニアリングを主とする人はリハーサル用のシート(構成を簡潔に示したコンデンススコア)を渡されても、苦手意識のほうが強いので積極的に活用してくれないとのことです。
・スコアでもシートでもパート譜でも割りとどうでも良い
楽譜の種類、呼び方。
特定楽器(パート)の演奏のために使うのが「パート譜」(シート)。
曲全体を網羅する場合は「スコア」(フルスコア)。
フルスコアだとページが多くて使いにくいから、構成を簡潔にまとめたのが「コンデンススコア」。稀に「リダクション」なんだけど、リダクションは厳密には定義が違う。正しい意味の「リダクション」は、ピアノ1台だけで演奏できるようにしたもの。割りと曖昧。
他、リードシートとかとか。
でも話が伝われば良いので、楽譜担当のアシスタント業務でもない限り「楽譜」で良いです。
変に「スコア用意しておいて」と略してと指示して、フルスコアを用意されて使いにくい、となったなら、指示を出した人が悪いです。ちゃんと「A3の本番用フルスコア」と言うべき。指示を受けた方も「A3フルスコアですね」と復唱するべき。普通に一般企業で勤めた事があるなら常識ですが、特殊な業種では特殊なので指示されたら復唱という常識がありません。復唱するとウザいと言われることさえあります。
そういう時の対処法は、相手に聞いてもらうための復唱がウザがられると察したら、独り言っぽく「よっし、A3フルスコア5部、っと……」とつぶやけば良いと思います。それが相手に聞こえていれば「おいおい、コンデンスで良いよ」とツッコミをもらえたり、「あー、やっぱりコンデンスにしとくか」と訂正してくることもあります。指示を出してる人だって人間ですから、訂正の機会を設けることにもなるので機能的で便利な話法です。割りとおすすめ。
・コードで話をしないほうが良いこともある
コードで言われてもそのコードの場所を特定するのに余計に頭を使う必要が生じてしまいます。(コードネームを同じように認識しているとは限りませんし、そもそもコードネームが確定してない状況もあります。)
音楽を知っているふりをして「サビが」「Am7が」という言葉を使っていると、結局その場所を特定するまで数秒待たされることになってしまいます。
コード認識が呼吸と同じレベルでスラスラ出来る人だけではありませんし、コード当てゲームをやっているわけではないので、時間で言った方がスムーズです。ジーシャープセブンスフラットファイブって言うより43秒って言う方が早いでしょ?
伝える側が最初から秒数を指定すればポンと移動できるので話のスピードが速くなるんです。
絶対に間違えの起きない時間という数字を使うことでスマートなコミュニケーションを確立することができます。
アレンジの打ち合わせではコードの変更などが必須なのでコードネームで話をすることはありますが、それ以外の場面ではコードはあまり役に立ちません。コードは分析の道具でしかありません。
キーや前後の関係によってコードの呼び方が変わってしまうのは、基礎理論をちゃんと理解しているなら分かるはずです。
ドレミの階名も同じです。あまり役に立ちません。移調楽器の人がいる場合はなおさらです。固定ドで話が通じない一流プロの人もいます。私の師匠(読売交響楽団団員)は移調のドだけで話をする人でした。
・文字伝達の再に妙な省略をしない
あと、変な略語も控えるべきです。
仕事上の伝達で「XFD」と書かれて「クロスフェード」の意味だと通じる人は少ないと思います。
せいぜい「F/I」「F/O」がフェードイン(アウト)だということは通じるかもしれませんが、これも避けたほうが良いと思います。
たとえあなたの普段の仕事で通じる言葉だったとしても、他の界隈の人と組んで仕事をする際に全ての略語が通じるとは限りません。
また、それを知らないからと言って相手を笑いものにするのは大変な失礼にあたります。知らない場所であなたの上司に無礼さを伝えられるかもしれないのでやめたほうが良いです。
明らかな共通語以外はできるだけ使わないべきです。外部の人と組む場合は平易な言葉でやりとりするべきです。
業種が違って、たとえば自動車屋やコンビニだとしても、会社が違えば言葉が違います。もちろん共通する用語もありますが、共通していない用語もあります。
飲み会とかの雑談には良いネタなので、変な略語の話はストックしておくと割りと楽しいです。
・ちょっとした動詞・指示語でさえすれ違う
「そこちょっと上げて」と言っても、その文脈を理解できない音楽家のほうが多いです。
音程を上げるのか、テンポを上げ気味(食い気味)に演奏するのか、音量を上げるのか。それすら通じないこともあります。
普段からちゃんと「音量を上げて」と主語を付けるクセをつけておくべきです。
「そこの」「さっきの」では通じません。
ちょっと手間だと思っても主語述語指示語をちゃんと使い、1回で正確に伝えるほうが、二度手間になるストレスを感じるより良いです。
ストレスを感じているあなたを見た人にストレスは伝染します。悪循環です。
・「DAW」が通じない人もいる
なお、「DAW」を「ダウ」と呼ぶと「ドーだろ」「ディーエーダブルだろ」と言う人もいます。
MIDIのことを「エムアイディーアイ」と呼ぶ古い人もいます。
話し始めのあたりで「ディー、エー、ダブル。ダウで使うデータなんですが、」という感じでスムーズに誤解を避ける瞬間を設けるようにしておくと良いです。
まぁ流石に「ダウ」「ミディ」は常識化しているようですが、稀に通じない人がいます。
近年は動画の肉声で「ダウ」という呼び方が世界中に一般流通していますが、初期からDAWを使っているベテランの一部は未だに「ドー」と発音しています。
そういうタイプの人は「にわか」プログラマに多いです。何しろ特殊な用語が多いので。
が、本職でちゃんとやってるプログラマの人曰く「そんなのはどうでもいい」だそうです。
些細な点にこだわるのは未熟な初学者に共通する特徴であることはどこの分野でも同じです。プログラマとして交流が増えてくると、出身によって用語がメチャクチャなのだそうです。だからいちいちどの呼び方が正しいとか論じていると、本質的な話に到達できないから「どうでもいい」なのだそうです。
・「DTMer」はまだサブカル臭が強いのでは?
近年私が違和感を感じるのは「DTMer」という呼び方です。
「ディーティエマー」もしくは「ドトマー」と発音するのですが、これはまだ一般化しているとか言い難いです。避けたほうが良いでしょう。
ボカロ以降、アマチュア一般で「DTMerです」と名乗る人が出てきましたが、プロ作家に対して「DTMerのプロなんですね」という言い方はどうかと思います。プロのミキサーに対して「MIX師」と呼んだり、プロの歌手に「歌い手」と呼ぶのと同じくらいヤバいです。このヤバさが分からないなら本当にヤバいです。
似たような卑下した呼び方に「走り屋」とか「金貸し」、「水商売」などがありますが、そういうカテゴリーに含められるのを嫌う人がいるので避けたほうが良いのと同じです。
指揮者が「棒振り」と名乗ることはありますが、「棒振りの◯◯さん」という呼び方をして良いのはよほど親しい間柄だけです。
・特に職業音楽家の前では控えよう
実際プロのエンジニアの人が「MIX師」と呼ばれて閉口しているのを見たこともあります。
ある会社のDTMレッスン企画で「DTMer」という用語が出てきて、そこの講師(私ではありません)の紹介文にも「DTMerの先生」と書かれていたことがありました。その表記だと講師がサブカル/アマチュアレベルだと思われる懸念があることを伝え、文章を訂正するように進言したことがあり、実際に書き換えることになりました。
もう何十年かすると現在のサブカル的なDTMerの人が一流になってDTMerを名乗り続け、DTMerという言葉が今で言うDJくらいに一般化するのかもしれませんが、今はまだセンシティブだと思います。
少なくともプロ歌手に「歌い手」とか、プロエンジニアに「MIX師」と言うのは激しく失礼にあたるのが今の現状ではないでしょうか?画家やイラストレーターを名乗っている人を「絵師」と呼ぶのがおかしいのと同じです。
少なくとも私の周りでは(職業音楽家が)自分をDTMerだと名乗っているのは一度も見たことがありませんし、「DTMerって呼び方してる人いるよね」という話題になると、ほぼ例外なく否定的で、「ボカロの人とかアマチュアって意味でしょ?」という扱いなのが現状です。
例外的なのは上に書いた「アマチュアDTMerを囲う事業」をやっている人たちだけでした。
あー、あと言うまでもありませんが、DTMという呼び方は日本だけです。
海外では一般的にコンピューターミュージックですが、だからと言ってそれを日本で主張しても雑学マウンティングにしかなりません。すでにDTMという呼び方で一般化して定着しているからです。
ヤマハがDTMerという呼び方の入った商標を登録し、それがピアニカとかエレクトーン、少なくともハローミュージック並に浸透すればDTMerという呼び方が一般化するかもしれませんが。
・正式名称を強要しない
逆の例で、一般的とは呼び難い正式名称を強要してくる人もいます。
過去に明らかに偉ぶった態度の人が「エムピースリー?エムペグレイヤースリーのことかな?」と突っかかって来たこともあります。そこでマウンティングするなら「エムペグワンオーディオレイヤースリー」が正しいです。
普通に流通するようになってきた現代用語は覚えるべきだと思います。突っぱねるより自分を変えないと。
往々にして「正しくはこうだろ!」という話は、指摘した方も間違っているものです。
で、「それも違うよ」と指摘すると、怒るんです。
正確さを求める話題に持って行きたかったのであれば、より正確な情報に平伏するべきなのですが、彼らがやりたいのはマウンティング目的でしかないので、訂正されるとキレたり、否定してくるんです。
という観点からしても「ブリッジが」という言い方を強要するのははおかしいんです。正しい意味が流通しきってないですから。
「PAって言うなSRって言え」とかも同様ですね。単に新しい呼び方でマウンティングしようとしてきているだけです。音響業界の全員がSRって名乗るよう布教活動を頑張ってください!SRと名乗っても全然認知されていません!
追記。CRIWAREの読み方がクライウェアなのかシーアールアイウェアなのかもどうでも良いですし、ゲーム音楽やってるならそのくらい知っておけと言われても、音のファイル納品「だけ」をやってるなら知らなくても問題ないです。
このように誤用で揚げ足取りをしてくるタイプの人が私の同世代に増えつつあり、非常に嘆かわしいです。頭が固くなりつつある中高年になると、いつの時代もそういうふうになっていくようです。若いみなさまにお詫びいたします。
・敵対心を捨てよう
ちょっと脱線。
でもとても大事なこと。
「子供叱るな来た道だ。老人笑うな行く道だ。」ということわざがあります。
若いみなさんも数十年すれば私のような中年になります。
私は大学では現代文学専攻、その次くらいに国語学を熱心に学んでいたので、言葉が変化していくことに対して肯定的な態度です。新しい若者言葉が出てくると「おもしれー」くらいに好奇心を持っています。当時の大学の講義でも「ギャル語」(チョベリバ、MK5など)を真面目に取り扱っていました。
が、同時に、そういうことに否定的な大人の方が圧倒的に多数派なのもわかります。
私達の世代が若いみなさんに対して不快に思うことがあるなら、その思いを忘れないで欲しいです。自分の子供の世代が台頭してきた時に、ぜひ「未来の若者言葉」を好意的に受け入れつつ、その危険性について嫌がられない程度に面白おかしく話をしてあげてほしいです。
・「ウォーム」 「パンチ」などの曖昧すぎる表現でリテイクを出すのは阿呆ではないかという話
要するに「明確な言葉で指示しましょう」「編集技術に直結する単語を使おう」と述べています。
私に言わせるなら、その程度のことを述べるために19分の動画で伝えるのもいかがなものかと思います。3行で終わる話では?
ちょっと脱線話。
なんでも動画にしたがる近年の風潮は、数十年後から見れば「あの時代は狂ってたよな」と笑われるのではないかと思っています。現時点でのYoutubeは再生時間が価値に直結する評価システムなので仕方が無いのですが、だったらその評価基準の外で戦えば良いだけです。Youtubeでの価値はYoutubeの中だけのものでしかありませんから。
それぞれの時代、それぞれの業界、それぞれの密室の抱える問題に対して常に批判的でありたいものです。「それ本当にベストですか?」ってね。
怪しいと思った動画はシークバーで確認して「顔だけ動画」だと分かった時点で倍速再生にするべきです。こんな内容に19分を取られるのは時間の無駄です。なお、倍速再生がYoutubeの評価システム上でどのように換算されているのかは知りません。もし「等速で見た方が再生時間が長いから価値のあるコンテンツだ」とされるのであれば、それは本当に狂っています。本を速く読むことは価値が低いということになってしまうし、早口の人の価値が下がるということになってしまいます。「あー、それはねー、うーんとー、」という政治家の弁明のような冗長な喋り方の方がトークとして上だということになってしまう。無駄に連載を長引かせる漫画の方が価値があることになってしまう。寿命が有限な生命体の生き方として完全におかしいです。不老長寿を手に入れるまではスピードは正義であるべき。
■クラシックでも変な言葉を使うと嫌われるのは同じ
「展開部が」「第二主題が」という言い方で場所をしているするリハーサルはありません。小節数で言いましょう。
「転調後から」という言い方もしないほうが良いです。
パートによっては転調が明記されいないので気をつけましょう。音程が関係ないパーカッションのパート譜では調号が無いことがあります。楽譜上で全てのパート譜で間違いようのない明確な転調が明記されているならOKです。
そもそも明確な転調が生じているかどうかは解釈によります。一時転調だと言い張る人がいた場合、その楽曲分析を否定することになります。明確に転調しているように感じる場所でも、すぐに別の転調がコロコロ起きるから調号を書かないケースは多いです。だから「転調から」というリハーサル開始はおかしいわけです。
リハーサルは解釈を言い合う議論の場ではなく、システムです。そういう通ぶった言い方をして時間を無駄にする指揮者(ディレクター)は間違いなく能無し扱いされます。「俺ちゃんと分析してるよ」アピールはいらないので、淡々と小節数で話を進めましょう。
他、クラシック(楽譜音楽)で作家向けに言いたいことは、小節数を明記しましょうねということです。
少なくとも行頭には小節数を書くべきです。
「Bの13小節目がー」と言っても、13を数える時間が必要ですし、数えるのが苦手な人は間違います。誰かの間違いが起きると全体のリハーサルに悪影響が出ます。悪いのは数えるのが下手な人ではなく、数えさせた指揮者です。もし数えるなら「Bから数えて、1,2,3,~11,12,13の」と一緒に数える猶予を与え、確実に位置を指定するべきです。
・リハーサル番号
蛇足ですがリハーサル記号の発音には気をつけましょう。BとD、DとJ、MとNなどは不明瞭な発音による誤解が起きやすいです。楽譜上のフォント飲み間違いが起きやすい「IとJ」などにも気をつけましょう。
通ぶってドイツ語読みで「G(ゲー)」などを言っていると、「A(英語エー、ドイツ語エー)とE(英語イー、ドイツ語エー)」の勘違いが誘発されます。確実な言い方で伝えましょう。
「デンマークのD」などの言い方をする人がいますが、「エンジェルのE」と言った阿呆がいたので、頭文字を使った方法には気をつけましょう。エンジェルのスペルはAngelなので、「エンジェルのA」です。が、英語教養の無い人はエンジェルのスペルがEだと思うかもしれません。そういう人に恥をかかせることになりますし、嘲笑が起きて時間が無駄になるので、ボキャブラリーの多さを自慢するのではなく、誤解の起きない伝達を重視するべきです。
実情としてドイツ語と英語が混在したリハーサルになるので、「エーの、えーっと、13小節目の、エーの音がえー感じにならない」というカオスなことになっていることが多いようですが。場の空気を一気に変えたい時には効用があるかもしれませんが、原則的に慎まれるべきです。
よく訓練されている人はみんな効率的な言葉を使います。無関係な話に脱線し続けることはありません。
・オタク知識を押し付けるな
あと、軍事オタや無線オタがフォネティックコードで英文字を呼ぶことがあるのですが、一般的じゃないのでやめたほうが良いです。
アルファ=A、ブラボー=B、ウィスキー=Wのような無線通話で聞き間違いを避けるために使われる規則なのですが、一般性はありません。
「そういう人たち」だけの場なら良いのですが、世間の常識ではないのでやめたほうが良いです。
ウケ狙いでおかしな言葉や流行語を当てはめるのもやめた方が良いです。時間の無駄です。そのまま雑談開始するのはクソ指揮者です。そういうネタに談笑してくれるイエスマンが数名いるかもしれませんが、「(てめーのネタなんか知ったことか)」と強い反感を抱く人もいます。
過去にドイツ語自慢をし始めたクソ指揮者(アマチュア)がいたので「今ディミニッシュって言いましたけど、ドイツ語でなんて言うんですか?」と言っていじめたことがあります。
相手の理屈に乗った上で同じ理屈で恥をかかせるのは私が他人を攻撃する時に使う常套手段です。
お前のドイツ語は雑学レベルなんだから、せいぜい音名を特定しやすいメリットがあるからツィスとかエスとか言うのは良いけど、お前のドイツ留学自慢なんて今この場に関係無いだろと。
真っ向からそういう言い方をすると完全に喧嘩を売ってるだけになるので、相手がドイツ留学を自慢したいという私欲で行動している事実を使って反撃するわけです。
もし本当に能力があるなら、些細なことでマウンティングを試みようとせず、今この場でやるべきことだけ普通にやれば良いのにと思います。その実務能力によってのみ尊敬を得られるのではないでしょうか?
なお、フォネティックコードを好む人だった場合は「ゼロ」と発音した時に「そこはズィーロウじゃないんですね」と指摘するのが良いと思います。他の数字も「ファイフ」「ナイナー」など、独特の強調した発音になるのがフォネティックコード的に正しいです。近年の野球中継でホームランの時に「イッツゴーンヌ!」と発音されているのと似たノリです。『スタートレック ディープスペースナイン』のタイトルコールが明らかに「ナインヌ」と発音しているのも同じです。
この知識が役に立たないことをお祈り申し上げます。普通の言葉を普通に使いましょう。おかしな言葉遣いで個性を表現しようとする価値観から離れましょう。外国語が日本で発音される時点でどの発音が正しいかなんて無意味ですから。
・MIDIノートナンバーを強要されたことがある
これは音楽ツール開発の場で「C#」と言ってもいつまでも理解できないプログラマを相手にした時です。
音楽ツール開発に足突っ込むならそのくらいの基礎知識は叩き込んでおいてほしかった、という願望はあります。
が、一向に覚える気が無いようだったので、仕様書はすべてMIDIノートナンバーで記述しました。
少人数の場合は自分が相手に合わせてば済むだけの話なので。
そこで得た教訓は、MIDIノートナンバーは案外機能的だなということです。
私達が音楽で使う「C3」はメーカーや国によって定義があいまいなのは皆さんご存知の通りです。これが「ノートナンバー60」と言えば正確さが向上するということです。
異なるメーカーの音源使用法を個人的にまとめる資料を作る場合など、ノートナンバーを書き添えるとキースイッチミスなどが減るのでちょっと便利になるかもしれません。
・ボーカル音域の指定
ミドルCって言うな。まじで!そんな音域の定義ねーよ!
ボーカル教室によってもまちまちだよ!
しまいには「その程度はハイとは呼ばない、ミドルだね」とか言い出す人が居て、音域の話のはずが高い声出る自慢大会になってしまったこともある。全員の時間を奪う行為、つまり残りの人生を削る行為なのでやめてほしい。
あと関係ないけど、「7オクターブの声が出る歌手」という話は、7オクターブ幅が出るという意味じゃなくて、ピアノの鍵盤で下から数えて7オクターブ目の高音が出せるという意味だよ!
・周波数で要求する奴
ねーよ!
と怒ったら「周波数で言ってくれた方が演奏しやすいんですがね」と逆ギレされた。やばい!
さすがにねーよ!
宇宙人か幽霊、もしくは3歳から現代音楽で純製培養されたバケモノか!
ともかく、そういう具合におかしな用語や基準で自慢をしたがる変人が多いので気をつけよう。また、自分もそうならないように気をつけよう。奴らや私、そしてこれを読んでいるあなたもどこか変態的なはずで、似た者同士だ。
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話を戻す
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■作曲発注、アレンジ発注する際の注意
参考曲を用意してくれるのは本当にありがたいことです。
しかし、参考にして欲しい部分が、「どの曲のどの部分なのか」は明確に指定してください。
そうしないと二度手間になってしまいます。最悪の場合、リテイク料金が発生しますよ!
昔実際にあったのは、「この曲っぽくアレンジして」という発注だったのに、似たように作ったラフを聞いてもらったら、
「うーん、参考曲の間奏の部分の雰囲気が欲しかっただけなんだけどなー^^;」というリテイク 1曲まるまる作り直しになったこともあります。
他にあったのは「この曲っぽく作曲して」と言われて参考曲(歌ものバラード)に似せて作ったら、
「うーん、遅い曲じゃなくて、ピアノ曲って意味だったんだけど……キミ大丈夫?」
と見下されたこともあります。
発注主が欲しかったのはピアノ曲だったそうです。
作編曲家はテンポを大事にしますが、発注主によってはテンポに対して恐ろしく鈍感で、鳴っている好きな楽器しか聞いていない人もいるようです。
さらに言うなら「キミ大丈夫?」という言葉は完全に余計です。そんな言い方をしてお互いの関係が良好になると思っているんでしょうか。たしかに発注を受けているので主従関係的には作家が従者なのですが、だとすると指示ミスを部下の責任にする上司だと思われるだけではないでしょうか?(なお、まともな会社だと、発注先にそのような失礼な発言をすると「厳しい指導」があるそうです。発注者と受注者は対等なビジネスパートナーです。下請け相手だからと言って相手を下に見る態度の会社は他社と比較されていますよという意味です。)
その他、参考曲と言っているのに「個人的にこのアーティストさんが好きなんですよ^^」という仕事と無関係なファン宣伝を行われたこともありました。そんなものよこしてくるな!お前の個人的な趣味は仕事の資料ではないし、一緒にファン活動をする契約など無い!来月のファンイベントのURLをもらっても二度と見ないぞ!
まーともかく酷いオーダーをしてくる人がたまにいます。
そういう愚痴を知人から言われた時、私は「まともな上司というのは空想上の生物、つまりドラゴンとかエルフとか、そういうファンタジーの話だろ?」と言うことがあります。
そうならないために明確な打ち合わせ、明確な修正点指示を促すのが作家の仕事のひとつだと思うわけす。
たとえその時は「めんどくせー奴だな」と思われたとしても、その後のスムーズな流れで「あいつ生意気だったけど上手いな。良いやり方だからパクるか」と思わせれば良いだけのことですし。
指示待ち、言いなり、陰口、後出し批判。それらは職種を問わずダメな人に共通する点だと思います。
こちらから提案しましょう。
わかったふりをやめましょう。
自分の常識が相手に通じると思うのをやめましょう。
・人は立場によって狂う「スタンフォード監獄実験」
「人は立場が上だと認識すると思わぬ狂った行動を取るものだ」というのは心理学の実験で明らかになっています。
(知らない人へ。かなり怖い内容なので閲覧注意!)
(追記。スタンフォード監獄実験については演技指導があったという証拠が出ており、信憑性に強い疑いがかかってきています。2018年7月21日追記。)
この有名な心理実験をかいつまんで説明すると、「警察役と犯人役を演技させ続けると、どちらも人格がおかしくなっていく」という内容です。人は環境と立場によってナンセンスな行動を取ってしまうのだそうです。
だからと言って、横柄な態度を取って良いというわけではありません。そうならないように留意しなければならないはずです。
これは学校の先輩後輩関係や、職場の上司部下の関係の中でも発生します。
私の学生時代にも、中学校と大学で全く同じ状況になった人がいたのを目撃しています。
自分たちが上級生になったら、悪習を無くそうと泣いて誓い合ったのに、結局同じことをするようになってしまったんです。(なお、卒業後に後輩に質問したのですが、数十年たってもその悪習は残っているとのことでした。古い伝統校によくある「悪しき伝統」ですね。)
音楽制作でも発注者が上下関係を錯覚して状況に「飲まれる」ことがあるのではないか?と私は考えています。
安易な理屈では「お金を出すほうが偉い」と解釈されるのはわかりますが、クリエイターへの発注とはつまりビジネスパートナーの関係です。高圧的に札束で頬をひっぱたいても良い成果物は望めないのは当然です。
自動販売機、ジュークボックスではないので、的確に発注を指示しなければ望む品質の製品は得られません。
「金を出しているのはこっちだぞ!」という理屈で良いサービスを引き出したいなら、家族の生活までもを完全に保証するレベルで囲わなければ人は動きません。たかが数万数十万で人を完全に支配できるわけはありません。
■打ち合わせでは徹底的に対話するべき
しかしながら、上はいずれも当時の私が未熟だったことが大きな原因です。相手だけの責任ではありません。
初めからちゃんと打ち合わせをきっちりやっておくべきだったんです。
打ち合わせではこれでもかというくらい対話を重ねなければいけません。
言っている言葉が本当に言葉通りなのかということさえ疑ってかかるべきです。
特に、以下に書く「専門用語」は齟齬(そご=誤解、食い違い)が起きやすいです。
みなさんご存知の通り、音楽の奏法や学理、理論には様々な流派があります。同じ門下生でもない限り、言葉の意味ひとつひとつに微妙な違いがあります。ましてやジャンルが違ったり、職務が違ったりすると、もう同じ音楽用語ですら通じないと思っておくべきです!
とにかく、
あなたと相手が覚えてきた専門用語が
一般性のある言葉だとは限りません!
これ、まじで重要ですよ……
■専門用語を避けるべき理由
特に音楽に不慣れな人というか、中途半端にわかっている人は専門用語を使うことで歩み寄りを試みてくるものです。しかし、間違った意味で使われる専門用語は齟齬を生むだけです。
がんばったことによって悲劇が生まれるなんて、とても悲しいことですね。
そこで便利なのが時間指定による対話です。
稚拙なやりとりだと感じる人もたまにいるようですが、大工が寸法を「1520の840ね」と言ってミリ単位で話すように、誤解の起きないやりとりをするべきです。
音楽は時間の芸術ですから、時間で話をするべきです。時間で言えば誤解の生じる余地は一切ありません!
プロっぽく、仕事っぽく会話をしたいと思う人は「Bメロの転調が」なんて言い方をせず、時間を秒数で言うべきです。大工を見習いましょう。
■どこで打ち合わせのスピード感を出すか
変にプロぶって「あーはいはい分かったよ」という雑なやり取りで打ち合わせそのものを短くするスピードアップをやめましょう。
打ち合わせで秒数指定で会話することを約束してもらった上で、打ち合わせの中身のスピードを上げることこそが大事ということです。同じ時間でやり取りする内容の数を多くするということです。
「アレ取って」『はいよ!』で通じる長年連れ添った老夫婦では無いんです。
■構成をAメロBメロと言わないほうが良い?
CDや音源ファイルをポンと渡すだけで「こんな感じで」という雑なスピード感を出すのをやめましょう。
曲名と秒数を指定する手間をちょっとかけてでも「7曲目の24秒のつなぎの感じ」という言い方にするべきだということです。
これを「Bメロ前のつなぎ」と言ってしまうと、どこをBメロだと判別するかは分析方法によって異なるので誤解が生じるということです。おk?
雑なスピード感について知るためには『半沢直樹』で国税庁の支店査察が登場した時の態度を見れば良いです。
黒崎の部下は銀行側が査察を受け入れる準備もしていないのに「◯◯と△△と✖✖の何番から何番を出せ」と早口で命令し、『メモを取るのでもう一度……』と言うと「使えねぇな!」と文句を言います。もし本当に急ぐのであれば、事前にメモを用意し「このメモに書かれている書類を出して」と言えば最もスマートなはずです。
まぁ、この査察は相手に準備をさせず、パニックにさせることで嘘情報を作る心理的余裕を奪う意味もあるのですが、音楽を制作してもらう際に高圧的になっても、作家が良い仕事をしてくれることにはつながらないということです。
■楽器名も言わないほうが良いことがある
同様に「ドラムが入ってくるところ」と言われても、ループドラムが小さく入っているのを聞き取る人もいますし、コンガが入っていることを「広い意味でのドラム」と呼ぶ人もいます。
ギターと言っているけど実はチェンバロかもしれません。楽器名を完全に判別できる人は意外と少ないですし、ミックスの仕上がり具合によっては別の楽器の音に聞こえてしまっている作品も少なくありません。
うかつに楽器名を出すべきではありません。
近年のシンセ音色の呼び方に「プラック」というのがありますが、これもジャンルやシンセ音色の分類法を知らない人にとっては「ドラム」に聞こえてしまうかもしれません。「ハイベース」と言っても通じるとは限りません。
作家が制作過程で脳内で意識する言葉と、制作をやらない人の認識には大きなズレがあります。
私が別の作家さんの手伝いをした時には、ラフアレンジに入っている音色がどう聞いてもオルガンだったのに、その作家さんの使っているラフ書きシンセの音色名的にはストリングスだった、ということもありました。
私が「オルガンのコードが」と話をしているのに『オルガン入れてないですよ』という問答になったことがあります。そこからラフ用シンセの話や最新ストリングス音源の話をしばらくされてしまい、時間をロスしてしまいました。今は雑談したくないです!
愚痴。
その人はその後も話が横道にそれることが多すぎ、酒を飲んで打ち合わせに来たこともありました。私は「仕事の話の時は飲酒するのをやめてください」と数回言った後には『今日は飲んでいませんから!』と言ってたにも関わらず、数分後には『実は飲んでるんですけどねw』と言い出したことや、その後もいくつかの仕事上の損害等が連発したので縁を切ることになってしまいました。
気楽にのびのび打ち合わせをすることと、酒を飲むことは違うと思います。
私は1つだけの欠点で人を見限ることは絶対にしないことにしています。欠点の無い人など存在しないからです。しかし、それがあまりにも多岐にわたり継続的だった場合には、さすがにお付き合いできないと結論を出さざるを得ません。それが付き合わざるを得ない隣人だった場合には仕方無いかもしれませんが、物事には限度というものがあります。一度付き合いがあっただけで、それが恒久的なものになるわけではありません。
そういう欠点を1つでも減らすために、「打ち合わせでのミスを防ぐ」わけです。
たしかに「時間指定で話をしたがるウザい奴」というマイナス点がひとつ付いてしまうでしょう。しかし、それによって多くのプラスを生み出していることを証明し続ければ、トータルでプラス評価になるからです。
やり取りがなれてきたら厳密な時間指定ではなく、徐々にラフなやり取りが可能になってくるでしょう。そうなったら「サビ」でも「ブリッジ」でも適当に言って通じるから大丈夫です。
逆に言えば、あなたが今付き合いのある誰かとの間で、すでに「ブリッジ」で意味が明確に通じていて、誤解が1つも起きていないならそのままで良いんです。
ただし、その「阿吽の呼吸」を初対面の人に求めてはいけないということがこの記事の最大のテーマであるとご理解いただければと思います。
■こちらから時間の会話を切り出す
こういうやり取りを面倒くさいと思う人もたしかにいます。
そういう人は私のような人を避けて、自分の言葉が通じる人たちとだけ仕事をしていれば良いと思います。どうせ目上の音楽家先生や外国人の言葉がいちいち意味不明で「あー、まじで言葉が通じねえ」と痛感することになりますから。
そういう押しても引いても動かせない人が相手になった時に「つまり、おっしゃる場所は50秒のことですね?」と確認を取る必要が出てくるはずです。楽譜仕事の場合には「123小節目のことですね?」と言えば一発で通じます。時間指定で話をするのはとても大事なことです。特に外国人の場合はあいまいな意味の言葉で話をするのではなく、シンプルに数字で話をすれば一発で通じます。
シンプルで入念な打ち合わせこそプロの技術であり、敬意です。
わかったふりをしない確実さ、地味だけど大事な点をきっちりする入念さ。それこそが良い結果に至る道を作るのだと私は考えています。
もちろんそうした『「確実性」「入念さ」のためにこういう打ち合わせスタイルにしているんですよ』と明確に伝えるのも総合的な「入念さ」です。
いきなり「時間で言ってください」と押し付けるのはその逆の行為です。自分の常識を押し付けてはいけません。
「時間で話をするのは今まで仕事をしてきた経験からです。この方法だと齟齬が起きないんですよ。サビが、コードが、楽器名が、ってやってると必ずミスが起きるんです。たとえキャリア数十年の音楽家同士でも。」と言って納得しない相手はまずいません。
(例外的に、楽譜+演奏のみの音楽などでは小節数と拍数だけで話を進めるべきです。ジャンルによりますよ!この記事の話は「オーダーと受注制作」の状況を想定した話ですから勘違いしないでください!!クラシック演奏の現場で秒数で話を進めることは絶対にありえません! あ、いや、秒数で書かれた現代曲ならあるかも?)
■最初からわがままを言うべき
コメントに返答を書いていて思い出したことがあります。
相手先によってやり方が大きく異なることがあり、いつも迷うところです。
私は仕事となるとシタテに出過ぎる癖があって悩んでいたところ、知人から「自分のわがままを先に言ったほうが良いよ」と諭されました。
あまり悩みすぎると作品の出来にも関わってくるので、最初の時点で「自分はこういうやり取りを望む!」という姿勢を明確に出したほうが良いと考えています。
もっとベターなやり方があるのでしょうが、現時点ではこの記事で書いたような方法でやることが多いです。
良い意味でわがままになり、エゴを出し、自分がどういう人なのかを先手を取って出してしまうべきだという考え方です。自己開示というやつです。
近年はネット界隈で「マウンティング」という言葉を見ることが多くなりました。
年上だから俺が偉い、俺のほうが経験が長い、俺の方が背が高い、この前はビッグな人と仕事をしたぜ、などなど。そういう強みを出すことでイニシアチブを取ろうとする姿勢のことを「マウンティング」と呼ぶのだそうです。
このマウンティングは悪い意味で陰口のように使われる事が多いようです。
しかし、自己紹介の一環として積極的に「自分がどういう人なのか」と伝えるのは悪いことではないはずです。少なくともビジネスマンぶって当たり障りのない言葉しか言わないよりは良いはずです。(というか、むしろ、ビジネス本とかで「交渉ではこちらから自己開示せよ」というノリが推奨されているように感じます。クールな態度だけがビジネスじゃないですよね。)
どういう打ち合わせを行った上で仕事をすると自分の性能がフルに発揮されるのか?つまり良質なサービスを提供できるのかを考えた場合、完璧な音楽制作マシーンではない私たちは「自分はこういうスタイルで打ち合わせをすれば、最高のパフォーマンスを発揮できます!」という宣言をするのはお互いにとって良いことのはずです。
■関連したゲロ話
作家Aさんが私にゴーストの話を持ってきた話。
「駆け出しのころから付き合いのあるクライアントとはいろいろ縁があって断りにくい。忙しいのでゴーストを頼みたい。安いんだけど。」という依頼でした。
結局その人と私の作風が違いすぎて、「ディレクター→作家Aさん→私」という伝言ゲームによるリテイクの連続になり、仕事内容はめちゃくちゃに。作家Aさんと私の関係は悪化しました。おそらく作家Aさんとクライアントの信頼関係もマイナスになったのではないかと思います。
作家Aさんがクライアントに対して本当に長い縁があり、それが大切なのであれば、
「お陰様で多くの仕事が舞い込むようになり私も忙しい身となりました。申し訳ございませんが、今回はお引き受けいたしかねます。代理として信頼できる知人作家へ同条件でのバトンタッチであれば可能です」
と、状況を明確に伝えるべきだったのではないかと思うわけです。そうすれば伝言ゲームではなく、私とディレクターが直接話をできたからです。
伝言ゲームによって指示が不明瞭になります。
「つまり、こういうことですか?」という確認もできないので機械的な命令になってしまいます。すべての人が同じ言葉で同じ受け方をできるわけではありません。「あの人が言うこの言葉は、つまりそういう意味だよね」という認識ができないからです。繊細な意味を伝える場合、あらゆる言語は共通語として機能しません。
まー要するに自分で作らずゴーストを使って中間を取ろうとした結果、コスト以上の手間になってデスマじみた状況になってしまった、ということなのでしょう。安い仕事だからと思ってゴーストに回したのに、思いの外うまく立ち回れなかったわけです。
伝言ゲームの仕事がようやく終わった後で雑談をしていたら「実は途中で『ゴーストにやらせてるの?』ってツッコミされたんだよねw」とゲロっていました。ゴーストを使って伝言ゲームをやるならその点もちゃんと伝言してくれれば「ゴーストが直接打ち合わせしたいと言っている」という流れにもできたはずです。
仕事を請けたのは作家Aさんなのだから適切な中間を取ってもゴーストとしては何の文句も無いです。何もしないでもらえる仕事ですから。もし作曲者名を書き換えたいならそういう契約の上でやれば良いだけのことですし。
ゴーストを使う人は中間をうまくやる能力を組み立てた方が良いと思いました。
悪い意味でゴーストを隠そうとするからそういうことになるんじゃないかなと。
その後、私が2度目のゴーストをやると言ってもいないのに、一方的に「こういうの作って。なるはやで。」とだけチャットで言われました。「なるはや」は「なるべく早く」の意味。
数日して「進捗どうですか?」と言われたので、私は『自分の仕事が忙しいので受けるとは言っていません。あなたの部下になる契約もしていません。チャットのログを確認してください。』とだけ伝え、その後は一切話をしていません。なぜならその後いろいろ調べて直接仕事をもらえる関係になったからです。