eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

音楽と個体差の話

この世に存在するあらゆるものには「個体差」があります。

バイオリン、ボールペン、自動車、100円ライター、たけのこの里(お菓子)。どれも1つ1つに違いがあります。当たり前のことです。しかし、ソフトウェアには(実質的に)個体差がありません。

DTMを演る人はこの「個体差」 についてよく考えておく必要があります。

(2019年6月4日書きかけ)

 

 ■アナログ機器の個体差

アナログ卓の中身の部品も個体差があり、32chのチャンネルストリップ1つ1つには誤差があります。

 

それを表現しようと努力しているプラグインもあります。

vocal-edit.com

別に同社のプラグインを使えという意味ではありません。DAW付属のものでも、設定差を少しだけつけることで十分に「個体差シミュレート」ができるということです。

■個体差は「出す」ものではなく「出てしまう」もの

個体差があれば良いというわけでもありません。

ちゃんとしたメーカー、ちゃんとしたスタジオは、可能な限り全てのストリップや、同モデルのエフェクタが同じ音になるように入念なチェックをしています。

「それでも個体差が起きてしまっている」だけであって、意図的に差をつけようと努力しているわけではありません。

■検査機器にも個体差がある

なお、当ブログの人気記事ではスペクトラムアナライザーについてDTMの立ち位置から説明しています。 

eki-docomokirai.hatenablog.com

しかし、スペアナのような検査機器にも当然個体差があり、真に同一のものは実質的に製造不能なのは自明です。

検査機器を検査するための、より制度の高い検査機器が必要となります。

・時計合わせ、重さ合わせ

最も身近で分かりやすい例として「時計合わせ」がありますね。

www.aist.go.jp

世の中が正確な時間で統一されるからこそ、社会は維持されています。

 

しかし、今日でも横行しているう正確でなない計測の代表例があります。

www.nu-nobettenn.com

「走る速さを正確に計測する」ことに最もシビアなのは陸上競技短距離走です。コンマ1秒を競うために死に物狂いになっている陸上選手に対し、上記事のサッカー選手や野球選手の50メートル走の計測は目で見て手でストップウォッチを押しているだけの原始的な方法です。陸上選手の正式なタイムと、他のスポーツ選手のモチベーション上げのために「すごいぞ!オリンピック級だ!」と褒めちぎる手動タイムを比較してはいけません。絶対に!

 

重さの基準。

当たり前の使われている「1キログラム」という重さの単位が世界中で共通しているということは、人類文明の栄光の輝きでございます!

japanese.engadget.com

 

歴史、日本史が好きな人なら、年貢米を計るための「ます」の歴史を知っていることでしょう。

ますの大きさを統一することで平和で公平な社会構造が保たれるようになった、という江戸時代のエピソードがあります。

www.masu-japan.jp

 

というわけで、単位の正確さが乱れてしまったら世の中は大変なことになってしまいます。

 

■音楽における個体差の歴史

「ドレミファソラシド」という音階が定まるまで長い年月が費やされています。

また、A=440Hzというチューニングの基準が定まるまで、おびただしい試行錯誤が繰り返されています。

 

DTMをやっていて、シンセを立ち上げるたびにチューニングをする人はまず居ないでしょう。稀にアマチュアが作ったサンプリング素材でチューニングが合っていないものもありますが。

 

個体差が最も顕著に活用されているのは、おそらく弦楽器です。

1挺だけのバイオリンと、集団バイオリンのサウンドは明らかに違いますね。同様に合唱隊のサウンドも、ソロ歌手とはまるで違います。

こうした「セクション楽器」は個体差の恩恵を前向きに活用した例です。もし完全に同じ音を重ねただけだと、DTMにありがちな奇妙な音になってしまいます。

逆に個体差が出すぎると、田舎学生の演奏のようにバラバラに聞こえてしまいます。

このように集団演奏をクラシック音楽では適度に一致し、適度に個体差が出る演奏が求められます。

・シンセのデチューン等

デチューンされた音は均一な音を均一にずらすことで表現されています。

しかし、今日ではあまりにも均一なデチューンは機械的すぎて、安っぽいシンセに聞こえてしまうことがあります。

安易なデチューンではなく、LFOを巧みに使ったランダム性のあるデチューンの方がよりリッチに聞こえるでしょう。

ラウンドロビンとランダマイズ

シンセによっては毎回同じ音を出さない機能がついています。

TR-808のランダム性

実機TR-808の音はオシレーターのスタート・ストップではなく、VCA開閉なのでランダムです。

DTMをやっていると突き当たるちょっと難しい単語の話(1)位相 - eki_docomokiraiの音楽制作ブログ(808キック問題、の部分を読んでください。)

 

■デジタル機器における差

これは個体差ではなく、厳密に言えば「入力データの時点でズレている」ことが原因です。 eki-docomokirai.hatenablog.com

入力される波形が違えば、群遅延の処理タイミングもズレます。 同じものを作るのって大変なんだぜ?

 

超わかりやすく例えるなら、花火を「見た」タイミングと「聞いた」タイミングが違うという感じです。(雑な比喩すぎる!)

 

 

■個体差とミスの違い

個体差と不良品、設計ミスは根本的に違う!

photrip-guide.com

 

http://photrip-guide.com/wp-content/uploads/sites/2/2017/07/kinokoru1.jpg

http://photrip-guide.com/wp-content/uploads/sites/2/2017/07/kinokoru1.jpg

設計ミスやアライメントのとれていない不良品との差が瞬時に分かる秀逸な画像だと思う。まぁ食えりゃどっちも同じだけど。

 

何を言いたいのかというと、単に「雑なだけ」と「個体差」は違うんだぜ?ということです。雑にやってるだけなのに「味わいがある」とか言うのはやめましょう。

 

・機械は人になりたがる

DTM的に最も分かりやすいのが「MIDIベタ打ち」でしょう。

ただ作っただけのMIDIデータの演奏は機械的すぎるので、適度にバラす必要があります。

しかし、やりすぎると下手くそで不安定な演奏にしか聞こえないです。乱数化しただけの「ランダマイズ」と音楽的な魅力を実装した「ヒューマナイズ」は違います。

 

よくできた生音系シンセはベタ打ちでも適度なランダマイズをしてくれます。そういうシンセで雑な「ランダマイズ」だけを実装すると、おかしな演奏になってしまうことがあるので注意が必要です。むしろベタ打ちのままの方がベターなことも多いくらいです。

 

・人は機械になりたがる

一方、ドラムの練習をしている人は均一なビートを目指して練習をします。バイオリンの人はフレットの無い指板で正確なピッチを演奏できるように訓練しています。

生楽器を演奏する人が目指しているのは基本的に「機械のような」演奏能力です。

その上で適度な音楽性を宿したズレが生じることで魅力的な演奏になります。

訓練不足でズレズレな演奏はグルーヴとは言えません。

 

© docomokirai 2017 非常識な無断転載、商用利用を禁ず
レッスン案内はこちら。  寄付はこちら