昔の打ち込み作法では何が何でもベロシティをランダマイズしていました。が、モダンな打ち込みではベロシティを無意味に散らさない方がメリットがあります。
(2021年6月30日~2022年8月14日更新)
■はじめに結論
1,むやみにベロシティをランダマイズするのをやめましょう。
2,使用音源も分からないのに、「Velが揃いすぎているのでランダマイズしましょう」などと指導してくる時代遅れのDTM講師からは一刻も早く逃げましょう。
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■ ベロシティレイヤーとは何か?
サンプリング音源のための用語です。
ベロシティ数値によって異なるサンプルを演奏することで、楽器の強弱のニュアンスを表現する仕組みです。
・ベロシティレイヤーを「またぐ」危険性
考え無しにベロシティをランダマイズしていると、ベロシティレイヤーをまたいでしまう事故が起きます。
事故を避けるためには、ベロシティは固定し、ベロシティレイヤーを管理するために使うべきです。
・何でもライダマイズするように指導するのは古い
昔のMIDIカラオケ時代に何が何でもランダマイズすることが普及しましたが、今日の完パケ前提のMIDI打ち込みではむやみにランダマイズしない方がメリットがあります。
eki-docomokirai.hatenablog.com
頭の古いままの老害と、その老害から指導されたDTM講師が「データがベタだからちゃんとランダマイズしましょう」と指導しているので気をつけましょう。
私のところにレッスンを受講しに来る人でもたまにいます。その際にはこの記事のように解説し、ランダマイズが不要であると指導しています。
そもそも昔のMIDI音源でもベロシティレイヤーが2段階や3段階のものは普通にありました。
128段階の2分割だと0~63、64~127。
3分割だと0~41、42~83、84~127。 という具合です。
更に細かいものだと下のようになっています。
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最も注意を要するのは、奏法によっても分割ポイントが異なるサンプル音源です。
なお、上のテーブル資料はあまり良くないです。分割ポイントがどちらの数値なのか分からず、資料価値がまったくありません。
「0~15、16~31」なのか
「0、1~16、17~32」なのかが不明です。
(上から読めば「112~127」を基準として「80~95」「96~111」とも読めなくも無いですが。)
この点については別記事で「ダメ資料」という観点から解説しています。
eki-docomokirai.hatenablog.com
ともかくこういう音源が実在することからも、ベロシティというパラメタをうかつにランダマイズするべきではないのは明らかです。
■ベロシティはフォルテやピアノを示すものではない
昔のMIDI打ち込みの解説で「フォルテは100です。メゾフォルテは80です」などと行った解説がありますが、完全な誤りです。
下のリンク先記事はそのことを明確に説明しています。
音源の特性によってベロシティ数値と音色の関係性は異なります。
ベロシティ数値が同じ24だったとしても、出てくる音質・音量は違います。
異なるメーカーのものはもちろん、同じメーカーの、同じシンセの中でさえVelと発音ニュアンスの感度は異なります。
■ベロシティのキャリブレーション
音源内部で調節
演奏トラックの設定で調節
奏法ごとにトラックを分ける
などの施策があります。ワークフローによって的確に使い分けます。
手持ちの音源を扱いやすいように、音源の導入時にワークフローを見直すべきです。つまり、凝り固まった編集方法にとらわれず、さまざまな音源に合わせた柔軟な作業手順を習得するべきです。
・ベロシティのキャリブレーション方法1
MIDIデータの中身を編集し、楽器ごとにベロシティを整えます。
音域サンプルごとにバランスが整っていない音源では極めて入念な制御が必須となります。
・ベロシティのキャリブレーション方法2
同じベロシティ数値で同じニュアンスの演奏をさせるために、トラックの詳細設定を行い、演奏データを自動変更してから音源にデータを送る方法です。
一括である程度の制御が可能ですが、細かい調節をする際には二度手間になります。
・ワークフローを整える
その場その場でベロシティと発音の関係性を伺いながらでは時間がかかりすぎます。
音程情報のみを打ち込みしておいて、後でベロシティのみを整えていく、という手順で作業するべきです。
■ランダマイズに完全対応したサンプル音源
BFD3など、非常に音楽的に設計されている音源では、ベロシティのランダマイズでレイヤーをまたがないように処理されるものもあります。極めて稀です。
このような仕組みが一般化することや、レイヤーの切り替わりポイントをユーザーが自由に設定できるようになれば最高なのですが、残念ながらDTM音源の世界にはそのような機運はありません。我々が対処し続ける以外の対処方法は無いので、常に柔軟に構えなければいけません。
今後はMIDI2.0の普及によって様々な恩恵を得られるようになるとともに、同時に生じるデメリットにも甘んじるしかありません。
「こうなれば良いのに」という理想について語っても世界は変わりません。