(人気記事!)海外MIX技術記事の紹介です。「細い(thin)ミックスを修正するチャート」という記事です。
このサイトからは翻訳許可がもらえないので、軽く紹介しつつ、持論を添えておく程度にします。
正しい内容を知りたい人は原文で読んでください。
(2021年10月31日更新)
■元記事
何度か紹介しているBehind the Speakers、Jason Moss氏の記事です。
氏独特のレトリックのせいで誤解されそうな内容なので、補足しつつ紹介します。
■1,トーンバランス
全周波数帯域の鳴り具合をチェックしましょう。
・アナライザを2つ使う
アナライザを2つ使う方法でリファレンスMIXを行います。
今回紹介されているアナライザの使用方法は平均抽出です。
瞬間的なピークを細かく表示する方法ではなく、「長い時間でゆるいカーブ」を取得する方法です。
原文に丁寧な画像が紹介されているので参照してください。
1つは参考楽曲の「リッチな部分」を抽出し、その状態でフリーズさせます。どのくらいの時間で抽出をするべきかについては原文を読んでください。
これに対して、自作曲も同様にゆるい表示を行い、比較を行いましょう、という手法です。
リファレンスMIXのやり方が間違っている人は精密な表示を行ってしまっています。
アナライザを使った比較は、通常このようにゆるい表示を使うべきです。
・良くある症例
主に見るべきポイントは
- 150hz以下(ローエンド)
- 150~400hz(ローミッド)
の2箇所だと紹介されています。
細いミックスになってしまっている場合、このエリアのレベルの低さが原因であることが多いとのことです。
「ローエンド」とか「ローミッド」という呼び方は個人や状況によって様々なので、「なるほど、150以下をローエンドと言うのか。φ(..)メモメモ」という方法で学習するのは絶対にやめてください。そういう方法は間違った勉強方法です。数字が明示されているとそれを絶対的な正解だと思って暗記しようとする人は勉強の方法が根本的に間違っています。
■2,フィルタリングの再チェック
この文脈において「フィルタリング」と「EQカット」は同じ意味です。
前処理として行ったローカットの話です。
フィルタリングと言っても、EDMのビルドアップでフィルタを開いていく演出的な「フィルター」や、ボーカルをラジオボイスにする「ローファイにするフィルター」話ではありません。DTM/MIXの話では、1つの単語の意味が複数の使われ方をすることが多いので、「今の話ではこの単語はどういう意味で使われているのかな?」とちゃんと考えるようにしましょう。
勉強がうまくない人は「フィルター」と聞いただけでいろいろなフィルターを連想してしまい、話が頭に入らないタイプの人がいるようです。
連想ゲームや、ボケ合戦をやっているわけではありません。
・ローエンド
なんでもローカットする癖をやめましょう。
100以下、150hz以下のローエンド処理は間違った方法が流通しています。
国内ミックス情報で「まず全部のトラックをローカット(ハイパス)しましょう。低域にはノイズが含まれています。」というような文言を見たことがあるはずですが、それは間違いです。
そういうローカットはマイクで録音した雑音だらけの素材の最初の一手として使われるものであって、すでにローカット加工済みの素材をさらにローカットすると二重処理になるので、極めて貧弱な音になってしまいます。要するにシンセ化されているピアノやストリングスはローカットしない方が良い、ということです。
「100以下カットスイッチ」は一部のアナログコンソールに付いています。そういうコンソールを使う時にも「ローカット機能をオフにしたほうが良い結果になる」という使用方法があります。また、マイクにも「100以下カットスイッチ」が付いていることがあります。
そういう方法を紹介している教科書でも、もうちょっとページを読み進めると「カットしすぎだった場合には、ローカットをちょっと戻してみようね」ということが書かれてるはずです。
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「ローカットしすぎ」の件についてはこちらの動画も参考にしてください。英語が全く分からなくても、音とグラフィックでなんとなく分かるはずです。
「基音が何ヘルツだからそれ以下は削って良い」という方法は理にかなっているようですが、間違っていることもあります。あらゆる楽器は音符として演奏される基音よりも低い周波数に重要な音があります。それを全てノイズだと分類してしまうのか、重要な成分だと考えるかの差です。
また、勘違いしてはいけないのは、EQで指定した周波数から下が全て消えるわけではないということです。フィルターには「角度」があり、緩やかに減衰させます。
どのくらいの角度のフィルターがどういう音のローカットサウンドに仕上げるのかを観察する練習は重要です。また、角度はEQのモデルによって異なります。1/6oct.と書かれていても、本当に1/6oct.でカットされているのでしょうか?そして、2オクターブ以下、3オクターブ以下でどうなっているでしょうか?さらに言えば、EQのGUIに表示されているカーブはまったくあてになりませんし、Equalizerに付属している簡易アナライザの表示もかなり適当です。
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また、近年の高性能EQは、極めて強力なローカットフィルターを持っています。
通常のローカットフィルターの角度は、1オクターブ下がると6dB低くなるフィルターです(6dB/oct.)。12dB.octや64dBoctまで設定できるEQでも、基本的には6dBフィルターで十分です。理由もなく数字の大きいものを使うのは絶対にやめましょう。
・ローミッド
150~400hzのローミッドはついつい薄くしてしまいやすいポイントです。
たしかにそのあたりにディップを作ることですっきりした印象を作り出すことはできます。
しかし、「ディップを作る」という知識ばかりが先行してしまうと、ディップではなくグランドキャニオン状態になってしまいます。ディップはあくまでも「くぼみ」です。
この帯域は、ベースのオクターブ上の音域と言うことができます。
アレンジでは非常に目立たない楽器、耳コピをしても非常に聞こえにくい音域です。
アレンジが不慣れな人は、目立つ高い音域ばかりに楽器を配置してしまい、150~400Hzに基音の無いアレンジをしてしまいがちです。
オーケストラや吹奏楽の演奏経験がある人なら分かるとおり、中低音の楽器がしっかり鳴っていると非常に充実したサウンドになります。目立つ花形楽器のバイオリンやトランペットに頼らず、チェロ、ビオラの低音、トロンボーンとホルンの中低音をしっかり鳴らすアレンジにするだけで、自然とこの150~400Hzの帯域が豊かになります。バンド楽器の場合にはギターの中低音、ピアノ・キーボードの中低音です。もしくはベースの第2倍音第3倍音あたりです。
それらの楽器をしっかり書いた上で、ミックスの最終調整でディップを作って余計な響きを軽減すると良いでしょう。
・「ローエンド」「ローミッド」の不足をどう補うか?
幾つかの方法があります。
- 複数トラックが合流したバスで持ち上げる方法
- 個別トラックを再確認。削りすぎた箇所を戻す
- アレンジに戻って、低中音を補強できる音を追加する
なお、私がレッスン等で多く見聞きしてきた打ち込みDTM系で音が細い原因は9割がアレンジのミスです。その原因のほとんどは、「聞こえやすい楽器の聞こえやすい動きにしか注目できない耳」だからです。これを強化する方法はできるだけ完璧な耳コピをやってみることです。自分の曲では入れたことがない妙な音があることを自分の耳で発掘することです。
無い音をミックスでどうにかしようとするから、妙なミックスを行わなければならないことになり、ミックスの方針も、経験も、すべてがブレたものになってしまいます。解決策はリアルな音源を買うことではなく、アレンジの勉強をすることだと私は思っています。
(現行で最高級のシンセを買い揃えたとしても、アレンジが悪ければおかしな曲にしかなりません。レッスンを受けることで全てのプラグインの能力を数倍にできる技術を買えます。)
■3,エフェクトかけすぎ注意
ここはMIXの教科書によくある誤解ポイントなので要注意です。
原文では「エフェクタを使えば使うほど音が痩せる」現象について紹介されています。
しかしこれはアナログ回路のパスフィルターの話であって、DAW内でプラグインで処理している場合には概ね無視できる話です。
すべてのアナログ機器はそれ自体がフィルターです。ケーブルもフィルターです。機器を通れば通っただけ、音はフィルターされていきますし、ノイズも増えて行きます。最小限の回路とケーブル長にすることのメリットを忘れてはいけません。
逆に言えば、アナログを的確にシミュレートしているデジタルプラグインの場合には同じ減衰が起きているかもしれないからチェックしてね、ということです。
ごくまれに、「DAWの中でもルーチンすると音が劣化する」と主張している人がいます。もし興味があるなら、10段くらいのグループバストラックを立ち上げて、通過させるテストをしてみれば良いと思います。
とは言え、このセクションで書かれている「エフェクト書けすぎ注意」はデジタルでもおおむね正しいです。問題を感じた時にエフェクトを足すことで解決する場合と、考えなしに差し込んだエフェクトをオフにすることで解決する場合があるからです。「このエフェクトは本当に必要ですか?」と考えてみるのは、上達のためにとても重要です。
新しく買ったエフェクタを使いたくなる気持ちは分かります。でも、そのエフェクトは今本当に必要ですか?というわけです。
「使いこなした状態」とは、もしかしたら「あえて使わない」ことかもしれませんよ?
■4,ソースを知る
原文では主に録音物の状態チェックの話が書かれています。
DTMで打ち込みで仕上げる人の場合、シンセ個別の特性、サンプルデータの特性を観察することが重要です。
全ての音源が同じ方式で音を作っているわけではありません。
知っているMIX方法が上手く作用しない場合、そもそも音源ソースが「そのMIX手法」に合っていない状態だからかもしれません。
特に打ち込みDTMで良くあるのは、シンセから出てきている音がすでに処理されているケースです。そのような音に対して「勉強したMIX手法」を使ってしまうと、二重の処理になってしまいます。ほとんどのMIXのTIPSは生音を録音する段階からの話が含まれているので、このミスをしている人は非常に多いです。
教科書通りの正しさを実行する前段階として「ちゃんと音を聞く」ことが重要です。
ちゃんと音を聞き、他の音色と比較し、「同等に扱いやすくするための前処理」をしておくのは良い方針です。
(3)と反する考え方をしてみます。
「エフェクトを減らせば良い音になるかもしれない」と考えるのが(3)でしたが、
「後々の処理をやりやすくするための『踏み台』としてのエフェクト用法」も重要です。
たとえば、トラックそれぞれのフェーダー位置と、そのトラックの音量レベルを一致させるために「レベラー」として適当なコンプやEQを挟んでおく、という下準備があります。
これによって、後々のミックス工程が非常にスマートになります。
近年のDAWでは浮動小数点演算によってデメリットが皆無なので、そういう方法を導入してみても良いかもしれません。
ソースの状態が最も音に影響するのは波形の位相の状態です。
単純に位相を反転しどちらの音が他の音にマッチするかを確認しましょう。
また、タイミングをちょっとずらすことでも位相の問題を改善できることは非常に多いです。
エフェクタでどうにかする前に、位相の状態を丁寧に確認する時間を設けてみましょう。
■5,客観的な複数の視点
頑張りすぎると視野が狭くなります。
疲れてくるとなおさらです。
きっちり休憩することで正しい方向性を取り戻せます。
誰かにちょっと聞いてもらい、アドバイスをもらうのも良いことです。
誰かに聞いてもらう時、反論したい気持ちを抑えましょう。
「そんなこと分かってるんだよ。もっと的確なコメントしろよ。ていうか褒めてよ!」
「仕方ないだろ生音じゃなくてシンセなんだから。しかもフリーのシンセだから薄くて当たり前だろ!」
という態度ではダメです。
なぜなら製作中だったり、上達する途中だからです。
できることなら同レベルで気心の知れた仲間、遠慮なく意見を出し合える仲間が良いでしょう。お互いの欠点をすべて指摘できるのが本当の仲間です。褒め合うことしかできないのは現代のSNSの病です。それは本当の音楽仲間とは呼べない状態だと思います。
他人に意見を求めておいて、それに反発するだけの人は非常に多いです。
反発するよりも、少しでもヒントをもぎ取ってやろう!という貪欲さの方が大事です。
この危険なコミュニケーションをする時のコツは、悪い点を挙げた数をカウントし、同じ数だけ良い点を見つけて、はっきり伝える方法です。
このコミュニケーションの優れた点は、どんな曲からでも良い点を吸い上げる能力が養われることです。
最も優れた方法は、ディレクションに長けたプロに依頼することです。
10人の仲間の意見よりも一貫性のあるアドバイスを得ることができます。
身の回りにいない場合には私にご連絡ください。有料レッスンで対応いたします。
eki-docomokirai.hatenablog.com
■逆の視点からのヒント
(原文のこのセクションは誤解を招きやすい文法になっているので注意!)
全トラックを再生しつつ、1つのトラックをミュートしてみます。
そのトラックをミュートしたことによって、サウンド全体はどう変化するでしょう?
今回のテーマである「薄さ」を見つけたい場合、どのトラックをミュートした時に全体のサウンドが最も「薄い」と感じるようになるでしょう?
また、ミュートしたのに「全然変化がない」と感じるトラックがあるはずです。
そのトラックは(その「処理済み状態のトラックは」と言う方が適切)、すでに細く、存在感が無かったということです。ためしに太くしてみるとどうなるでしょうか?
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■その他のアプローチ
・Matthew Weissによる「細いミックスを脱する5つのコツ」
Matthew Weiss氏は、上よりも積極的なエフェクタ活用に偏重しています。
ソースがダメならコンプを積極的に、とも主張しています。
また、中低音(200~1000Hz)の棲み分けを重視しています。
・Rob Mayzes氏による「なぜお前のMIXは細いのか?」
Musician on a Mission、Rob Mayzes氏による記事 です。
ベース音域に対する追加処理について特化した記事内容です。
■おわりに
三者三様のアプローチがあり、共通している点もあります。また、よくよく読んでみるとターゲットとするジャンルが違っているようにも読み取れます。
取捨選択しつつ、自分のレベルと癖に見合った手法を試してみてスキルアップを目指しましょう!