eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

パーシーグレインジャーがIMSLPで見られる!

私が大好きな作曲家、パーシーグレインジャーのスコアが無料で閲覧できるようになっていました。クラシック楽譜好きにはおなじみのサイト、IMSLPです。

(グレインジャーで検索してきた人へ。このブログはDTM(コンピューター音楽)の話題を扱うことが多いのでご了承願います。)

 

 

パブリックドメイン

久々にIMSLPで楽譜漁りをしていたら、なんとグレインジャーが日本でPD(パブリックドメイン)になって公開されていました。他の国ではPDではありません。国によっての法律の違いや、第二次世界大戦による「時計の停止」によって、著作権の扱いは様々なんです。詳しくはググってね。

 

で、この「日本PD」はTPP施行など、世の中の流れによって変更される可能性が極めて高いです。

楽譜出版の仕事など、パブリックドメインを扱うことがある人は気をつけてください。

 

 

・IMSLP、パーシーグレインジャー 

Category:Grainger, Percy - IMSLP/Petrucci Music Library: Free Public Domain Sheet Music

IMSLPというのは著作権切れの無料楽譜を扱うサイトです。

念の為書いておきますが、決して違法サイトではありません。

クラシック音楽の研究資料、練習楽譜を手に入れることができる最高に素晴らしいサイトです。

 

ただし、楽譜のスキャン品質が低いものもあるので、綺麗な楽譜が欲しいなら出版譜を買いましょう。

 

■2曲おすすめ

いずれもコンデンススコア(簡略楽譜)なので、完璧な内容チェックはできません。パート譜を参照してください。

 

・『戦士たち』

グレインジャーの曲で一番気に入っている作品は『戦士たち』。

The Warriors (Grainger, Percy) - IMSLP/Petrucci Music Library: Free Public Domain Sheet Music

若干文字が潰れているスキャンPDFなので、精密に読みたい人は出版譜の購入を。

 

オーケストラにおける鍵盤楽器の扱いが最も卓越した曲、という評価をしている人もいます。ピアノ(複数)、鍵盤打楽器、ハープの作り出すサウンドは唯一無二です。

巨大な弦楽器群はもちろん、調達も困難なマイナー木管楽器、舞台裏にも金管楽隊を配置、3台のピアノを要求。その制御に3人の指揮者が連動する必要があるなど、あまりにも変態的な編成のため、演奏される機会は皆無です。なおピアノ版は「6手(3人)」で演奏可能だそうです。

 

・3人指揮者?

www.youtube.com

 

PDFでは74/108ページ。上Youtubeでは9分58秒~

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 その後、12分40秒あたりが独立した音楽を演奏しているのが聞こえやすいです。

 

今の時代ならコンピューター演奏や多重録音でこういうサウンドを作ることは容易でしょう。事前に録音した別の音楽を再生して流せば良いだけです。

当時としては非常に挑戦的な音楽で、今の時代に聞いても「こんなサウンドがあるのか!」と驚くと思います。

そういう音楽を1910年代にやっていた人がグレインジャーです。

 

 

・関係ないけど最強ピアノ音源の話

チャレンジャーなDTM諸兄等はVienna Synchron YAMAHA CFXを3台起動しての演奏に挑戦して欲しいです。

sonicwire.com

恐らく現時点、いや、この先10年以上は「最強」だと断言できるレベルの変態グランドピアノ音源としてヒソヒソされること間違いなし。半端なPCだと起動しただけで他に何もできなくなる超弩級のピアノ音源です。「最強」が好きな知人が勢いで購入して絶句していました。

価格÷容量で単純計算すればコスパは良いです。4万円で240GBですから。

 

・『戦士たち』のCD

たまーーーにCDがリリースされます。

これは初期のハイレゾCD(SACD)で 、どんな音かと思って購入したのが『戦士たち』を知るきっかけでした。アルバムのメインはホルストの『惑星』なのですが、正直なところ『惑星』はあまり好きな曲ではないこともあり、私はこの『戦士たち』ばかり聞いていました。

SACDは特殊な媒体なので通常のPCの光学ドライブで再生できるかどうかは知りません。問い合わせの上、自己責任で購入を。

 

他にもたしかサイモンラトル指揮のCDが出てた気がします。ググってね。

 

・『リンカンシャーの花束』

吹奏楽の傑作のひとつと言われている『リンカンシャーの花束』は、残念ながらあまり演奏されないようです。出版スコアの出来が良くないことも一因で、ややマニアック。

版によって内容が異なる箇所があるので、スコア調達後にいろいろ調査して加工しないと正しく演奏できないです。そういう調査・修正の作業を行う経験もできたので思い出深いです。 

 

Lincolnshire Posy (Grainger, Percy) - IMSLP/Petrucci Music Library: Free Public Domain Sheet Music

www.youtube.com

 

これらの曲では調性を持ちつつ、非常に過激な和声感覚で仕上げられています。

中学の時に熱心に聞いていたラジオで初めて聞いて「なんだこのカッコイイ音」と思い続けていました。大学で演奏する機会があり大変な僥倖でした。

 

 

・風変わりな箇所

リンカンシャーの花束』で風変わりな記譜が行われています。

 

上の動画では、10分51秒から。

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「拍子無しで」と書かれており、いくつかの演奏解釈が提示されています。(コンデンススコア29ページ)が、結果的には拍子を感じる演奏になるので、あまり効果を挙げている記法だとは言えません。

これは民謡の節回しをどうにかして楽譜で表現しようと腐心した結果だそうです。

ここの続きには毎小節で拍子が変化し、分数拍子も使うなどの工夫をしています。

 

こういう表現を使った面白い吹奏楽曲として、ジェイムズ・バーンズの"Invocation and Toccata score"(『呪文とトッカータ』)があります。

下リンク先の記事、4枚目の楽譜画像を参照してください。

h-ongendo1964annex.cocolog-nifty.com

 

演奏動画で指揮者の動きを見ていると分かります。

(時間指定再生URL)

www.youtube.com

指揮者がテンポを指示し、反復シーケンスを演奏させ、手を止めます。(7分39秒)

7分50秒から、上の『リンカンシャーの花束』とそっくりの記譜で、完全に「free time」の演奏タイミングをトロンボーンに指示しています。

 

 

■ロンドンデリーの歌(アレンジ)

アイルランド民謡を吹奏楽等にアレンジした傑作。これもコンデンスです。

http://conquest.imslp.info/files/imglnks/usimg/c/cd/IMSLP269891-PMLP188825-IrishTune-sc.pdf

 

詳しい内容はパート譜参照。

https://imslp.org/wiki/Irish_Tune_from_County_Derry_(Grainger%2C_Percy)

 

非常に美しい和声が、効果的な管弦楽法で書かれています。

www.youtube.com

このアレンジは発展的な和声・対位法の教材、吹奏楽の作編曲の教材としても極めて優れていると思います。

吹奏楽で頻繁に演奏される小品として知られていて、このアレンジでグレインジャーの名前を知った人も多いはずです。

 

・ピアノ版と、DTM的な話

演奏家が勝手なバランスで演奏することに憤慨していたグレインジャーは偏執的な音量指示を楽譜に書き込んだことでも知られています。

www.youtube.com

指それぞれに対して音量を指定、ペダル位置を垂直線で指定するという偏執性は、時折ネタにされるほどです。

メロディは上下に和音を伴って演奏されるので、大きな音符と小さな音符で差別的に書かれていなかったらどれがメロディなのか全く分からない内容です。和声運動も極めて立体的で、深く解釈して演奏しないと曲として成立しません。

が、聞いてのとおり、適切に演奏すれば非常に美しく、独特のサウンドになります。

 

DTM的にはこういう内容を緻密にプログラミングすることは可能です。「DTMだからできること」は、演奏不能なスピードや音域、3本腕の要求ではなく、こういう緻密な制御こそDTMの最大のメリットなのだということも覚えておいて欲しいんです。

 

また、グレインジャーは超初期のシンセサイザーや自動演奏音楽にも携わっていた音楽家でもあります。彼が今の時代に生きていたら、恐らく生演奏という曖昧さを拒絶し、正確で再現性のある音を出せるDTMにのめり込んでいたに違いありません。

私自信も学生時代からグレインジャーのことを調べるうちに、コンピューター音楽の持つ可能性に夢を見るようになった1人です。

(大学時代の先生はバルトーク研究をライフワークにしていました。バルトークもまた再現性にこだわった作曲家で、曲の演奏速度をアレグロとか数字で表記するどころではなく、「この曲は何分何秒で演奏せよ」と尺を具体的に指定する、という変わったことを試みています。)

 

 

これも指ごとに音量を指示している曲です。

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DTM的に言うなら「ピアノの和音は一番高い音をちょっと大きくする」という技法を、グレインジャーは楽譜で実行しています。

 

超高速の演奏でアドリブさせる部分と、制御する部分を使い分けた曲。

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言うまでもなく、通常のピアニストには演奏不能です。

楽典の教科書以外ではなかなか見ることのない64分音符(連桁が4本)が楽譜に印刷されていますね。

 

■作曲者について

作曲者、パーシーグレインジャーについてはこちら。

パーシー・グレインジャー - Wikipedia

上の楽曲についてはWikipediaにリンクがあります。たぶん。

 

演奏機会の少ない作曲家ではありますが、非常に優れた作品と、先進性を示した音楽家として覚えておいて欲しいです。

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