ただバラバラにするランダマイズと、音楽的に良い演奏にするヒューマナイズは違うよ、というお話。(過去の別ブログ記事から移転。)
(2022年8月14日更新)
- ■概要
- ■ランダマイズとヒューマナイズの差
- ■ランダマイズ
- ■MIDIカラオケ時代の悪習という説
- ■自動ランダマイズ
- ■ランダマイズによるノート重複に注意!
- ■ヒューマナイズとシミュレート
- ■ずれ方向を最適化する
- ■思い込みを払拭する
- ■BPMとTicks
- ■タイミング操作環境
- ■かんたん人力バッキング
- ■正しいことを身に付ける
- ■ランダマイズによるベロシティレイヤーまたぎ問題
- ■よそさまの記事。
■概要
そのうち記事内容を刷新します。かも。
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以下、過去ブログ記事
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■ランダマイズとヒューマナイズの差
MIDI打ち込みで人間らしくする編集加工のことをヒューマナイズと言います。
初歩的なヒューマナイズはノートオン(鍵盤を押すタイミング)を前後に適当にずらす方法です。これをランダマイズと言います。
また、付随する用語として「その楽器らしさ」を表現することをシミュレートと言います。厳密な区別は無いのですが、ランダマイズとヒューマナイズとシミュレートはちょっと意味が違うということをまず認識するべきです。
※この記事ではノートオンとノートオフについてのみ解説します。つまりピアノの話です。
ピッチやフォルマントなど、その他のパラメタについては原則的に掘り下げた説明をしません。
■ランダマイズ
ランダマイズは多くの場合において失敗します。
なぜなら人間的表現を「タイミングが正確ではない」という一点だけで表現しようとしているからです。この方法だけだと逆に不自然で非人間的、非音楽的な演奏になってしまうことがあるからです。ベタ打ちのほうがましです。
私はこれを「改造と改善は違う」とか「微調整オナニー」言っています。
やらなくても良い微調整を長時間やってる俺すげえ、みたいな。
結局ベタ打ちの方がましなケースはとても多いです。
私が仕事で納品しているデータでもかなりの頻度でベタ打ちそのままの箇所があります。
■MIDIカラオケ時代の悪習という説
ランダマイズをしたデータを数値で見ると、なんかとても細かいことやってて凄い!みたいな印象がありますが、これは90年代末期からのMIDIカラオケ業界の悪習であるという説があります。
つまり、ベタ打ちで納品するとデータチェック担当者は一瞥しただけで雑な仕事だと判断してしまい「ベタじゃん!ちゃんと丁寧に作ってよ!やり直し!」と突き返していたという説です。あくまでもギョーカイ裏話的な「説」です。すべてのデータチェック業務がそのように行われていたというわけではありません。が、そういうチェックをしていた人が居たのは確かな事実であり、そういう人の目を一発で欺くために「全ランダマイズ化するマクロ」が用いていた人たちが居たのも事実です。いずれも非音楽的で、「おしごと的」な業界マナーでしかありません。
それを回避するためにベロシティをランダマイズし、さも丁寧に1音1音作っているかのように見せかける、仕事上のハッタリです。
また、昔のMIDI音源(厳密にはMIDIデータ送受信)では、同一タイミングで多くの命令をシンセに送るとデータが渋滞して演奏がもたつく現象がありました。それを避けるためにノート位置をずらす必要がありました。(今の時代ではデータ転送速度も上がったので原則的に必要ありません!)
・揃っている方が扱いやすい
ラフ制作は軽量音源で作り、最終的に出音のみを重視した重たい音源に差し替えることがあるのは今も昔も同じです。
音源差し替えの際にはデータが揃っているものの方がアドバンテージがあります。
これはベロシティも、ノート位置も同様です。
また、MIDI分解能の都合としては、低い解像度で整っている方が、いかなる環境でも再生可能なデータとして優秀です。
解像度が高いほど高音質な気分になるのはわからないでもないですが、解像度1920などはまったくもって不要です。960でさえ多いと思います。
MIDI解像度は480あれば必要十分です。240では明らかに不足する状況が生じます。
■自動ランダマイズ
ここだけ主にベロシティの話。
音源によっては入力に対して自動でランダマイズをしてくれるものがあります。
そういう音源だとベタ打ちでもOKです。
むしろデータ上でランダマイズをするとおかしなことになりかねません。気をつけてください。無意味なデータ加工に時間を使わないでください。
私が過去にニコ生でDTM作業放送をしていた時に「なんだベタ打ちか」とコメントしてきた人がいましたがそういう人たちは画面の見た目で指摘しているだけなの死ぬべきです。
■ランダマイズによるノート重複に注意!
音源やシーケンサの性能にもよりますが、何も考えずにランダマイズをすると、ノートオフする前に同じ音がノートオンされてしまい、発音が止まってしまうことがあります。
押している鍵盤を離さずにもう一度押す、という命令が実行されてしまうので音源が誤動作を起こすということです。
この誤動作の恐ろしさは100%の再現性が無いことです。鳴ったり鳴らなかったりしますし、レンダリング(MIDI演奏からのオーディオ書き出し、バウンス)の時にもそれは起こります。耳で数回チェックした時は正しく鳴っていても、レンダリングの時に発言してしまい、音が鳴らないことがあります。雑なランダマイズで仕上げるスタイルの人は気をつけてください。
★予備知識:1つの音符のMIDIデータに含まれる情報はノートオン、ノートオフ、音程、強さの4つです。
■ヒューマナイズとシミュレート
ヒューマナイズとシミュレートは、ランダマイズだけでは表現できない人間的な表現を行う編集工程です。
「ランダマイズとは違うことをやる」と自分に言い聞かせてから作業することが何より大事。
あと、悪化に注意。頑張ってヒューマナイズしたデータをベタに戻すと音が良くなるという不思議な現象が稀に良く起こります。
■ずれ方向を最適化する
ランダマイズだけだとベタ打ちの方がましだと感じることがあるはずです。
そういう場合にはランダマイズで移動したノートオンの位置を逆方向にすれば良いです。
人間の運動であれば遅れるはずの場面で、早く演奏してしまっているとおかしく聞こえるので、早いの反対、つまり遅い演奏にすれば良いです。
「本物の打ち込みシミュレートは奥が深いんだよ!」などと言って手の届かない変態的職人芸だと考える必要は無く、前か後ろかの二択を正しく選択するだけです。
この方向性を間違ったまま「もうちょっと大きくずらしてみようかな?」と思っても無意味です。変だと思ったらまず逆方向にしてみるべきです。
この経験を積み重ねていくとどの方向にどの程度ずらすと良いのかが分かるようになります。
これがランダマイズとヒューマナイズの違いです。
■思い込みを払拭する
ヒューマナイズに不慣れな状態で頻繁に起きるミスは間違った知識による思い込みです。
多少勉強しただけで身につく知識はほぼ間違いなく間違っています。
ちなみにここ数年のDTM系雑誌で書かれているヒューマナイズ系の記事の多くは思い込み系です。(雑誌に書かれているTIPSは素早くそれなりのヒューマナイズをする際には使えますが……所詮は初心者レベルの話しか書いていません。それは執筆者も分かったうえで、雑誌を読んで勉強するしか無い人でもサクっと実装できるレベルの話しか書いていないのでしょうが。紙面の都合もありますし。)
よくあるのはピアノのアルペジオで音符のジャストタイミングに対して前か後ろか、もしくは拍をまたぐのか、どの程度またぐのか。本当によくあるのは「ピアノのアルペジオは最後の音を拍ジャストに合わせる」という思い込みです。もちろんそういう演奏解釈もありますが、毎回そのやり方だと実に気持ち悪い仕上がりになります。
ギターストロークのシミュレートでも似たような誤りがよくあります。
よほどの分析の経験が無い限り、付け焼き刃の知識でシミュレートをするとおかしなことになります。よく観察して何種類かのパターンがあることを見つけるべきです。
■BPMとTicks
どの程度遅く(早く)するかについてTickで説明している本やサイトが非常に多いですが、人間の運動はBPMではなく実時間なので「2Ticksずらします」などの説明は完全な誤りです。
BPM60の曲の2TicksとBPM180の2Ticksには3倍の差です。
その記事にBPMが書いてあるなら正解です。
実時間でランダマイズをかけられるようにシーケンサの設定を変更するべきです。もしくは曲のBPMによってランダマイズするTickを適切な値に設定するべきです。
また、MIDI分解能によってTicsは異なります。
分解能120の2Ticksと分解能480の2Ticksは4倍違います。
■タイミング操作環境
ヒューマナイズをマウス操作でポチポチとやるのは不毛です。
ノート位置をワンタッチで微調整できるようにショートカット等を作ってから取り組むべきです。それができない環境ならベタ打ちで良いと思います。どうしても必要な目立つ場所だけマウス手動でヒューマナイズするだけで十分です。バッキングパターンをひとつひとつマウスでヒューマナイズするのは本当に時間の無駄で自己満足にしかならないのでやめましょう。
また、そういう環境が整っていない人がニコ生DTM作業をやっていても、ベタ打ちであることを指摘しないようにしましょう。相手のためを思うのであれば操作環境を改善する手伝いをしてあげるべきです。ベタ打ちであることを指摘し、それを直せと指示するのはイジメと同じです。
それはWindows付属のペイントでベタ塗り絵描きをしている人に「グラデーションつけろとか」「レイヤー分けろ」言ってるのと同じです。そういう人に言うべきことはまず別のソフトに乗り換えることを推薦することです。問題が生じる構造を把握できず、目の前に見えている問題点だけを指摘する人のことを「無能」と言います。
■かんたん人力バッキング
鍵盤が上手に弾けなくてもできるバッキング打ち込み方法として、3つか4つの鍵盤をコードを無視してグルーブだけ意識して叩き、後から音程を最適化する、という方法があります。少し手間はかかりますが確実に生演奏のニュアンスをデータ化することができます。
一度でもそういうやり方をしてみれば、手で鍵盤を弾いた時にどういうタイミングのずれかたをするのかが正しく認識できるようになります。
ただし、レイテンシーが大きい環境だと鍵盤からの入力がタイミングどおりに書き込まれないから要注意。そういう環境の場合は全体をずらしてグルーブを最適化してね!
■正しいことを身に付ける
少し上で触れましたが、シミュレート作業において思い込みは敵です。
生演奏ではどういうタイミングのズレ方をするのかを、上手な演奏のオーディオ波形を観察して正しく認識するべきです。
ループパターンやMIDIパターンをよく観察してみてください。
そういう訓練をしないでなんとなくランダマイズするだけだと、生っぽではなく下手な演奏になるだけです。
■ランダマイズによるベロシティレイヤーまたぎ問題
ベロシティをうかつにランダマイズすると、「ベロシティレイヤー」をまたいでしまう大問題が起きる恐れがあります。
eki-docomokirai.hatenablog.com
ベロシティレイヤーを完全に把握した上でランダマイズすることは可能ではありますが、今日のモダンなサンプリング音源ではラウンドロビンも備わっていますので、ベロシティが一定であることに軍配が上がります。
古臭い知識を鵜呑みにして「ランダムにすれば良くなる」と即断しない方が良い時代です。
老害の撒き散らす「べき論」には気をつけましょう。
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■よそさまの記事。
ベロシティ数値に対するよくある勘違い「フォルテは100です」的な認識が完全に誤りであることを指摘している記事です。
BFD3など、非常に音楽的に設計されている音源では、ベロシティレイヤーを適切に扱ったヒューマナイズが可能なものもあります。極めて稀ですが。