巨星堕つ。物理的に巨大なデブで名前が星。 これほどの巨星は他に無い。
巨星の周りにはいろいろな人がいて、彼の音楽を不滅のものにしている。
本人のキャラクターに沿って明るくたのしく追悼する記事。
(2021年10月6日更新)
■強烈なCMソング「パッとさいでりあ」
小林亜星の作品だということをはっきり認識しつつ、最も好きだったのは「パッとさいでりあ」と、「積水ハウス」。
氏はデブタレントとしても活躍していたので、デブは敬称。
方方の追悼記事では「パッとさいでりあ」について触れているものは皆無でしたが、世代的にはこの曲の印象が強烈でした。
・美しいアレンジ曲群で引き継がれる「積水ハウス」
サウンド全体の編曲については積水ハウスのCM曲群が本当にすばらしい。新作が常に楽しみなCMのひとつです。
積水ハウスCM群は関連動画にやまほどあるので、気に入ったアレンジがあったらぜひ耳コピしてみてください!。一時期はこれの耳コピをレッスン課題にしていたこともあります。
現在放送中のアニメ『スーパーカブ』に近いノリのものとして、こういうバージョンもある。
リア充っぽい少女がプレベを1000円で買うよりも『スーパーカブ』の主人公の少女のような陰キャが事故車を10000円で買うことで生活の彩りを獲得していく方が圧倒的にエモいと思う。
なお、一定レベル以上の音楽家なら死ぬほど知っているとおり、こうやって楽器を手に入れた後が地獄の始まりなのだ!
どこまで上達できるか、挫折してハードオフに売るか。たとえ挫折したとしても、それが音楽に対するより深いリスペクトにつながっていく。彼女のミュージックライフ(地獄)に幸あれ!
■生活音楽「あなたとコンビに、ファミリーマート」
順進行と跳躍の絶妙な使い分けとその機能性。一瞬で終わるジングルながら、分析に値する傑作。
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曲中の最高音から強く開始し、跳躍を使いつつ下降。
最初の4音。AF GDの音形はいわゆる「学校のチャイム」の音列の引用。こういう引用で休日のショッピング感よりも日常の生活感に寄り添っている。ショッピングモールとかだともうちょっと高級感のある動機の方がふさしいんです。
2拍目、普通に「コンビニ」と発音すると「ビニ」の方が高くなるがあえて「コン」を高い音にした逆の動きで印象付けをしている。不慣れで知識だけある人がメロ歌詞を作ると「コンビニ」の部分を下から書きたくなるはず。
よくある安っぽい歌ものの作曲理論本だと「言葉の高低に合わせる」とだけ書かれていることがありますが、このように「あえて外す」場面をどこで使うか?というのが音楽の魅力を生み出す重要なポイントです。有名所では童謡『赤とんぼ』のメロディ分析があります。
最後の「マート」ではよくあるCMソングでは最高音に跳ね上がるのだけれど、あえてスタートのA音よりも低くまとめ、安心できる生活感を演出している。
これも安直に書くとCAGFという音列になりがち。もしくはチャイムの音列に引っ張られすぎてCFGFになってしまう。CFGFになりそうなところを順進行のCDにし、穏やかな生活感に寄り添っている。
「ファミリー」の部分をチャイム音列でCFで歌ってみれば、それが不自然になることは理解できるはずです。
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レッスンでもこういう解説や添削をしています。
「なんとなくメロとコードが並んだからそれで楽しくやっていれば良いんじゃないの?」という次元で止まらず、もう一歩上の作曲技術について指導を行っており、リピーターも多く好評です。
たしかに小林亜星のような古い作曲家の音楽はシンプルすぎて面白みに欠けると感じる人もいるかもしれません。しかし、よくよく分析してみると隙きの無い緻密な音選びが行われていることを実感できるはずです。
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・生活感の演出手法としての定着
これはアニメ『マクロスフロンティア』で盛大にパクられ、パロディ音楽として完璧に機能した。
『マクロスF』とは未来の巨大宇宙船の中での都市生活を軸にしたSFアニメです。ファミマとタイアップした内容で、アニメ内の生活空間にファミマが出てきます。
そこに強い生活感と親近感を与えるために、小林亜星のパロディが使われました。
上で紹介した本家ファミマの動機がうまくアレンジされている点に注目して、下リンクの音楽を聞いてみてください。
菅野よう子は『マクロスF』において、この曲の他にもいくつかの架空のCM音楽を作り、素朴な生活感を表現しています。(同様の演出は昔からたまにあり、わりと定番の演出手法です。マクロスFがエポックというわけではありません。)
小林亜星が昭和CMの大御所なら、『マクロスF』を作曲した菅野よう子は平成初期「90年代CM作曲家の王者」とも呼べる存在であり、文脈上の後継者に相当する、というのが私の時代解釈です。
昭和アニソンの王者にしてCM音楽の王者、小林亜星。
そしてその後継、平成アニメ女王、菅野よう子。
小林亜星の訃報に対して「知らねえよ」と思った人も、菅野よう子の前枠だったと思えば興味が出るはず。
そしていつか、鮮烈な菅野よう子の音楽も「知らねえよ」「平成かよ」「古臭い」と思われてしまう日が来るのでしょう。
■作詞と編曲の分業
ここから話が大きく逸れる。
メロディ作曲家として「小林亜星」という名前を見ることは多かったが、私が最も興味を持ったのはそこから派生する編曲の面白さでした。
小林亜星の曲のほとんどの編曲はボブ佐久間です。
ボブ佐久間のアレンジ『ガッチャマンの歌』(1期、初期ED、後にOPへ移行)(1972)
旧OP歌はここには貼りませんが、かなり古臭い音です。
対して、強烈なインパクトがあったのはED曲の方で、あまりの人気のためにOPに格上げされたらしいです。『ガッチャマン』と言えばこの歌だと思うのは普通ですし、OPだ歌だと思っているのも間違ってはいませんが、厳密には「もともとはED曲で、OPに格上げ」が正しいです。EDがすべてを食ってしまったわけです。
前年、1971年が『仮面ライダー』(歌詞「せまるーショッカー」)なのでこの頃からインパクトのあるOP曲というフォーマットが定着しつつあったのでしょう。このような経緯で70年代からアニメ音楽は一気にモダン化しました。
後年。1975。『テッカマンの歌』ではさらにケレン味抜群の仕上がりとなっています。知名度においてやや落ちる印象がありますが、曲とアレンジの完成度の高さはこちらが上だと思います。(優劣をつけることに違和感を持つ人も多いでしょうが、クリエイタを目指すなら優劣を明確にすることにもメリットがありますよ!)
(作詞 - 竜の子プロ文芸部 / 作曲 - 小林亜星 / 編曲 - ボブ佐久間)
サビ後半「宇宙の騎士、宇宙の騎士」の音価の巧妙な使い分けで溜めを作ってからの「テッカマーン!」の伸ばしの開放感が素晴らしい。音価とはこう使うのだ。他の箇所ではメロディアスな部分とパワフルな部分の使い分けで1曲2シーンというフォーマットを完成させているのが功績だと思う。
なお、不確定な情報ですがいずれもトランペットは数原晋。2021年4月に亡くなっています。
優れたトランペットサウンドをテレビ音楽に提供し続けた昭和から平成初期までの日本のテレビで聞こえるトランペットはほぼすべてがこの人と言っても過言ではありません。
『天空の城ラピュタ』の印象的なトランペットソロも数原氏の演奏です。(田舎少年の演奏としてはうますぎる、という批判もあります。)他だと『必殺仕事人』の印象的なトランペットなどなど。
当時私はブラバンをやっていて「ポピュラー音楽のトランペットはこういう音だろ!」と力説し続けていました。トランペットとは強烈で突き抜けていなければなりません。
なお、テッカマンのイントロで聞こえる特徴的音は「ターン(turn)」というジャズ奏法です。中低音域では運指で、高音域では自然倍音列を使ってラフに演奏します。詳しくは下のリンク先で。
他にも「シェイク、リップトリル(倍音反復による派手なトリル)」「ベンド(音程上げ、下げ)」「スクープ(下から入る)」などがあります。
幼い私に様々なラッパ奏法を教えてくれたのはボブ佐久間のアレンジだったんだなぁと。その後の時代の学生はこういう奏法を知らない人が多くて「なんだよお前テッカマン聞いたこと無いのか!」と思ったのですが、知らなくて当然でしょう。御存知の通り、ラッパを使ったポピュラー音楽なんて今では絶滅危惧種ですから。
・作詞パロディ「あれは誰だ?」
『ガッチャマンの歌』の冒頭、「誰だ?誰だ?誰だ?」という歌詞は、たぶんスーパーマンの有名なナレーションから来ていると思われます。
「空を見ろ!」「鳥だ!」「飛行機だ!」「いや、スーパーマンだ!」
デビルマンのうた 十田敬三/ボーカル・ショップ 歌詞情報 - うたまっぷ 歌詞無料検索
「あれは誰だ 誰だ あれはデビル デビルマン」
などなど、それら昭和ヒーローソングで似たような表現がよくあった。
それらをまとめてパロディとした『炎の転校生』の「あれは誰だ?」→「俺だ!」というパロディ歌詞は完全に頭がおかしい。(作詞:島本和彦=漫画原作者)
炎の転校生 歌詞「関俊彦」ふりがな付|歌詞検索サイト【UtaTen】
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脱線しすぎたので小林亜星の話に戻して終わりにしよう。
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・名前も知らないギターの音がするでしょう
ちょうど先日のギター談義でも話題に上がったのがこれ。
某人が「12弦ギターと言えばこの曲ですよ!」と言いながら完璧なコピー演奏を実演してくれて爆笑した。こういう細かすぎるところに注目するのが廃人ギタリストのようです。イントロに特徴的な音を持ってきて一発で引き込む。そうだ。これこそアレンジだ。そのためにちょっとギター的ではない音列を持ってきて、入念な演奏を要求する。いいプロダクツだ。
アレンジ的には少年合唱とハーモニカの運用、スネア音色のレトロ感が素晴らしい。ベース演奏の高趣味なねじこみ感にも注目です。
という感じで、小林亜星のメロ作曲そのものよりも、そこから派生するアレンジの面白さに注目するきっかけとなった楽曲群のお話でした。
今後もたまにこういう記事を書くかもしれません。心のこもらない追悼記事で死者すら食い物にしてアクセスを稼ぐのではなく、ちゃんと音楽の話をしていきたいです。
■訃報関連記事
同様のスタンスで書いた記事。
eki-docomokirai.hatenablog.com
追悼耳コピ。
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