eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

技術三態という造語

『技術三態(ぎじゅつさんたい)』とは「上級者が初心者と同じようなことをする」という意味の造語です。その意味補足のための分割記事です。

(2023年5月2日更新、主に推敲)

 

■『技術三態』は私の造語です。

当ブログではNHKのTV番組『奇跡のレッスン』のレビュー記事で使用していた言葉です。その記事から分割・独立させた記事となります。

eki-docomokirai.hatenablog.com

初めてこの言葉を使ったのがいつなのかは覚えていません。

割と汎用性のある言葉で、何かを学ぶ際に常に戒めとなってくれる便利な概念です。

一言で言うと「上級者は初心者と同じことをするようになる」ということです。

武道や芸能で使われる守破離」にも近いと言えますが、ちょっとニュアンスが違う。「守破離」じゃなくて「守破戻り」みたいな感じです。

・上級者は初心者と同じことをする

スポーツや音楽においては、

  • 初心者は適当に楽しくやる
  • 中級者は上達を目指してつらい訓練をする
  • 上級者は楽しさに戻って、能力を爆発させる

ここで注意しなければいけないことがあります。

第一線のガチプロ上級者が「音楽は楽しくやるのが大事だよ」と言っていても、それは鍛え上げられた能力あってのことです。その上で改めて童心に帰って、音楽をやることの楽しみ、音楽をやり続けることができていることの幸福を還元する志を持つ、ということです。

 

楽しくやっているだけでは中級者にすらなれません。

上級者の言う美しい言葉を鵜呑みにしてはいけません。

上級者も安易に「楽しければ良いんだよ」などと言うべきではありません。中級者は楽しめるようになるために必要な能力を、手段を選ばず身に付けなければ上にも下にも行けない状態です。

 

初心者を入り口に誘う言葉として「楽しく」があり、その先には地獄のガマン競争があり、最後には「楽しさ」を取り戻すんです。

 

マンガ『ピンポン』がまさにこれ。

ネタバレですが、楽しく卓球をやり、挫折し、特訓で負傷。それでも楽しさを武器に羽ばたき、周りの人たちも変えていく物語です。読め。10年後に誰も聞いていない最新音楽なんかチェックするより、20年以上ずっと語り続けられている傑作マンガを読め。

血ヘド吐いて特訓してから楽しさを取り戻すプロセスは、全クリエイタにとって有益なビタミンになること間違いなしです。クソみたいなプラグインを買うくらいならマンガ『ピンポン』を買え!

 

・ゲームだってそうだ

  • (初心者)適当にワイワイやる
  • (中級者)効率厨
  • (廃人)効率プレイや競争に飽きて適当にやる

上達とは上達を捨てた時に完成するのかもしれない。

競争している限りいつかは敗北することを悟って、競争とは違う価値観のためにゲームをするようになる。そういう上級者に対して「こうした方が効率が良いよ」と言っても、『もう効率とかどうでも良いんで』と返されるだけです。ゲームとはそもそも不毛な行為なので、もっと不毛な接し方をするべきだという考え方に到達します。

また、ゲームを作る立場になった際に最も重要なのは効率やハイスコアのためにゲームを作るのではなく、適当にワイワイやれる作品にしなければユーザーがついてきません

初心者の気持ちも、中級者の気持ちも理解した上でゲームを設計しなければならないのがクリエイターという立場です。

・エクセル計算は本当に正しいのか?

  • (非IT時代)手で計算する
  • (IT時代)エクセルに任せる
  • (超☆重要な書類)手で計算する、ダブルチェックをやる

togetter.com

真に重要な数字を扱う際にはエクセルの外で手計算することは様々な業界で実在します。「そんなのエクセルで一発でしょ」と信じているのだとしたら、それは小さな業務しか担当したことがないという証明でもあります。適材適所であることを理解した上で自動化ツールに接しなければいけません。

「今どき手書きかよw」と嘲笑しているようではまだまだなんです。

 

似たような状態として、

「紙→デジタル→紙」

「口頭→書類→口頭」

がありますね。

 

超ウルトラ機密情報は書類を残さないことが重要っていうアレです。映画『ミッションインポッシブル』シリーズで毎度おなじみの「この情報は自動的に消滅する」も同じようなものですね。

・ダブルチェックは愚かか?

  • (田舎中小企業)ダブルチェックしろ!
  • (大手大企業)そんなの意味無い
  • (命に関わる現場)ダブルチェック、しかも1人

www.nursing-ehime.or.jp

ただし状況によります。

業界によっては「ダブルチェックとは2人の異なる感性で行うこと」と刷り込まれているかもしれませんが、『1人でダブルチェックする』現場もあります。

業界が違えば行動の基準も違います

扱う道具が違いますし、実行までの許された時間も違います。

投薬は決まった時間に行わなければならないですが、大企業の大規模案件は少々スジケジュールを変更してでも数字が正確でなければなりません。

安易によその業界のルールを持ち込むべきではないですし、異業種を笑うべきではありません。そこにはそこのルールがあるので互いに尊重されるべきです。

・ところ変われば

  • 値段どおりに買う
  • 値切る、安い店を探す
  • 値段どおりに買う

海外では「値切り交渉」があっても、日本のコンビニで値切り交渉をするのは狂っています。薄利多売のマーケットと、ニッチな品揃えと商品知識のある専門店の定価販売も違います。専門店で常時3割引を求めると、その専門店は遠からず潰れてしまい、大きな損失となります。(優れた専門店が無くなることは地域文化の衰退に直結する致命傷となります。)

・料理でも変遷する

カレーのルーを、

  • そのままドボン
  • 刻んだ方が速いしダマにならないよね
  • そのままドボンの方が洗う手間が減るし、今どきのルーは大きくても溶ける

togetter.com

直感的には細かく刻んだ方が速そうですが、化学の世界では直感とは異なる結果になることが多々あります。安易に「ちょっと考えれば分かるだろ!」と思い込んで行動すると逆に損をすることがあります。

■創意工夫よりも基礎科学

が、直感的なイメージ優先の行動をしないと怒られることもあります。

 

私が過去に怒られた例としては、ボトル洗いをする際に中の水を早く抜く方法でした。職場的には全く業務と関係ない雑務(掃除)だったのですが、ボトルを逆さにして下の口をクルっと回してドボドボ放置していたら、上司は「振った方が早く出る。さぼるな」と説教してきました。

おいおい待てよ。これはサボっているわけではなく、科学的には回転させて内部に渦を作るのが圧倒的に速いんですよ。と言っても無駄だと思ったので言われた通りにやりました。

が、そんな非科学的な指示を、業務スキルと関係ないところで強制して、果たして深から上司に対する評価が高まるんでしょうか?「こいつ小学生レベルの科学知識も無いんだな。その上、業務と関係ない知識でも常に自分が上だと思い込んでる社会経験の少ない阿呆なんだな」という評価にしかならないです。だったら「どっちが速いか競争しようぜ!」くらいに屈託ない態度でいた方が、予備業務をレクレーション化できて、社内コミュニケーションにもなるのにね。

(なお、このビン洗いの職場ではなく、事務所・給湯室のお茶くみ道具の掃除を余った時間にやっていた時のことです。)

 

www.youtube.com

 

このエピソードから、

  • 教わった通りやる
  • 創意工夫
  • 教わった通りの方が速い

という技術三態が見えてきます。

創意工夫はたしかに楽しいですが、自己満足で無意味なことが多いです。

なにか工夫したり力を入れた方が効果的な気がしてしまうのは人間の心理として仕方のないことです。

でも、小学生レベルの科学知識ってめちゃくちゃ洗練されているんです。一流大学に入ってまずやるのが小学生レベルの情報を、なぜそれが効果的なのかを大学レベルで明らかにする、というプロセスもあるようですし。そういうものをシンプルにまとめたのが小学校の教科書です。

 

自己満足の創意工夫よりも、基礎知識を徹底的に使っていくという技術三態です。

 

■紙メモは本当に強い

  • 紙に書く
  • デジタル書類
  • 紙に書く

デジタルには良さもあるけど欠点も多い。

 

脳科学的にも「手を動かした方が記憶につながる」ともされています。

 

また、コピペやブックマークで資料集めばかりしている人に限って内容を記憶して実行できていないのは良くあることです。

 

これからはデジタルネイティブ世代が世界を書き換えていくのは間違いありませんが、そこで重視されるのは手書き速記メモ術になるのかもしれません。

また、紙に印刷して目視したほうがチェック精度が良い、という出版業界の話も見聞きしますし。

togetter.com

これは楽譜を作る時にも実感します。ディスプレイ上でどんなに拡大縮小を使ってチェックをしていても、印刷したものを見れば瞬時にミスを発見できてしまいます。

 

・真のデジタルネイティブはまた来ていない。攻殻機動隊とホモデウス

PCやスマホ、インターネットがある世界に生まれた若者を「デジタルネイティブ」と呼ばれていることがあります。

が、私が思うに、真のデジタルネイティブはまだ存在しません。

 

人間が根本的にアナログ生物であるうちは、真のデジタルネイティブにはなれないからです。

肉体、筋肉を使わずにデジタルにアクセスできる時代になるまでは、どんなに進化したテクノロジー下に生まれたとしても、生身の人間としての足かせの方が強くなってしまいます。

たしかにデジタル機器で学習し、コミュニケーションすることはすでに常態化していますが、扱っているのが疲れと感情に支配された生身である以上、肉体とデジタルの両方を扱う不便さ・不一致の方が足を引っ張っていると私は考えています。

 

漫画(アニメ)『攻殻機動隊』の未来世界では大人になったら脳をデジタル化する技術のある世界を描いていますが、胎児の時点で電脳化を施すエピソードは未だに描かれていません。草薙素子とは異なる方向性の未来を提示する続編に期待しています。

ポストヒューマン (人類進化) - Wikipedia

 

『ホモデウス』の解説は岡田斗司夫が超ざっくりやっているのが面白い。が、雑。(それが芸風だからそれで良いと思う。)

www.youtube.com

 

が、『ホモデウス』のまとめとしては下の方が優秀。(久々に見に行ったらPDF DLは無くなってた。)

news.line.me

PDFは当時ダウンロード済みなのでチラ見せ。もしDLができるように戻っていたらぜひキープしておきましょう。

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話を「技術三態」に戻す。

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生身の人間として生まれ、ダイレクトにアクセスできる外部記憶装置を持たない現時点では、「手書きでメモをした」という運動による様々なメリットの方が強いのではないでしょうか?

  • デジタル

という3段階で、デジタルの欠点がどんどん浮き彫りになっているのが現在です。ぜんぜんデジタルネイティブ時代ではないと思うんです。

電脳化時代を待ちましょう。

 

・人力、工具、人力

原始的な道具の方が最終的には上になる、という事例。

  • 人力手回し
  • 自動工具(トルクレンチ)
  • 精密な手回し

cbnanashi.net

これはTV番組『知られざるガリバー』という工業系企業を取材紹介するニッチな番組で知りました。工業が好きなら超燃える番組です。大好き。

www.facebook.com

www.tv-tokyo.co.jp

ミシン会社JUKIの回では、定期的に社員のネジ回し技術を訓練・チェックし、極めて高精度のミシンを少量ロット生産している、というお話だった。何から何までアツい。

 

・雑記、ハイテクの根底を支えているのは「器用さ」

関連。

工業系を支えるのは実は超精密な工作能力を持つわずかな「匠」だということを紹介するYoutube動画。

www.youtube.com

この動画では解説していないけど、こういう「超平面」「ゼロ平面」は工作機械の精度の根本にある。近年の半導体の性能が上がっているのは、こういう人たちが超精密な「平面」を作り出すことで、機械がより高精度で動くことが可能になったから、だそうです。たしかに機械設計はいわゆるCAD的なデジタル設計図で完璧に設計はできる。でもその工作機械を実際に製造し、動作するためにはデジタル設計と遜色のない超高精度のアナログものさしが欠かせない。

最近増えている「そんなのは3Dプリンタでできるよ」とか言ってる連中は何も分かってない。工業ネタ非専門家が見ても楽しいぞ。上動画の4分50秒あたりからは、ある意味ホラーを感じる。

高性能CPUがサクサク処理してくれている時、それはこういうおっさんの「すごい器用さ」に支えられている技術の結晶なのだと感じてみてください。

 

USBメモリの正しい抜き方

  • (初心者)USBメモリをそのまま引っこ抜く
  • (正しい)正しい安全な取り外し手順
  • (上級者)上級者は引っこ抜く

ここだけ見て「なんだ、引っこ抜いて良いのか」と思った人、ちょっと待って!

 

上級者がいきなり抜くのは、タイミングやOSをちゃんと理解し、「この状況ではいきなり抜いても絶対に破損は起きない」ということを完璧に理解しているからです!

理由を明確に説明できないなら、自分を中級者であると謙虚に認識し、正しい方法で取り外してください!

 

ちょっと酷い例になりますが、「こういう状況で、この程度の金額なら、横領しても絶対にバレない。だから横領する!」という話です。悪には悪の理屈と知識があるということです。

 

技術三態において重要なのは、安易に上級者を気取らないという謙虚さです。

知っていることと実行できることは全く違います。上級者のふりをするのは絶対にやめましょう。到達点としての上級者を知っておくのは良いことですが、それを実行できるようになるためには多くの知識と経験が不可欠です。

 

 

・PCは何もしなければ壊れない?

ネットで頻繁に見る「なにもしていないのに壊れた」に対する反応は『なにもしてないならPCは壊れるわけねーだろ!』という声。

しかし、パソコンは何もしなくても壊れる。dic.nicovideo.jp

上サイトから引用すると、

虫の侵入、地震、ホコリ、パーツ寿命、内蔵電池の消耗、温度差による劣化、湿度と温度差による結露(寒い季節に多い)、HDD/SSDの寿命、悪意を持った第三者による破壊、自動アップデートによる不具合

などの原因によって、PCは本人が何もしなくても当然壊れるものです。

  • (初心者)何もしてない(と言いつつ、エロサイトなどを見たり)
  • (中級者)初心者がやりがちな余計な行動を笑う
  • (上級者)経年劣化やアップデートによるトラブルに悩む

「子供叱るな来た道だ。老人笑うな行く道だ」という言葉のとおり、軽々に初心者をバカにした発言をするべきではありません。何でもかんでも本人のせいにするのでは、教育にもアドバイスにもなりません。寄り添いつつ、レベルに応じて適切な知識を伝えていくのが先輩の役割です。

特に周知されてほしいのは温度差と結露によるトラブルです。最悪の場合一発でオシャカになります。PC本体の場所が邪魔だからと言って、窓際に設置するのは絶対にやめるよう広めて欲しいです。

freesoft.tvbok.com

■同じことを言っている人はいる

lnfo-project.com

さて,上記2つの話で,共通していること。

それは「初心者と上級者がやっていることは同じ」ということです。

ただし,その行動に至った「思考」は全然違っていたりします。

 

「音楽は楽しいものです^^」というのは幼稚園児に音楽の入門を指導する時の言葉。

上達を目指すなら、笑顔も消えるほどの猛訓練をしないといけない時期がある。

一人前の技術を身につけたら、再び「音楽の楽しさ」を伝える側に立つ

 

音楽が楽しいだけで良いなら空き缶をカンカン叩いて笑っていれば良いです。

「音を楽しむと書いてオンガクです!」で良いなら、上達する必要は無いですから。

kotobank.jp

「ミュージック」は「音を楽しむ」とは書きません。

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私の師匠は「ぼくらは毎日一生懸命に学び練習する。それば聞く人に数分間の非日常を体験させる。それが音楽家だ。」と言っていました。

  • (初心者)聞いて楽しむ
  • (中級者)苦労して演奏する
  • (上級者)他人を楽しませる

もちろん楽しみを持って練習する時間も必要です。でもそれは毎日練習をすることに疑問を感じた時の処方であって、楽しくやっているだけでプロになれるのは本当の天才だけです。天才じゃないから努力しなければ楽しめないんです。

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「楽しい音」だけでは満足できない狂った欲望を持ってしまったの人が読むのがこのブログです。普通の人は作曲しようなんて思わないですし、コンピューターは娯楽の道具としか思っていません。高くて使いにくくて不安定な音楽ソフトなんか買いません。

実際レッスン問い合わせでも「あー、それだと酒飲みながらカラオケやってスコア競ってた方が絶対楽しいですよ」と言ってレッスンをお断りすることもあります。そんな音楽中級者が書いているのがこのブログです。音楽やめれば楽しくなれるのかもしれないけどドMなんで。

 

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