eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

EQの使い方、の前に。(2)フラットトップの話

良くある間違ったEQの使い方と、正しい使い方について書いておきます。

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(2020年12月23日更新)

 

 

 

■まず過去記事。

「ピーク探し時スイープ」「あちこち細く削りすぎ」に気をつけてね、というお話を書きました。

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

 

 もう1本。こちらには「サチュレータで適度に歪みを追加」「目に頼るな」「面倒くさがらずオートメを丁寧に使え」というお話が書いてあります。

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

こういうことを知らないと、どんなに高いEQを買っても無駄無駄。

知っていれば付属EQでも大差ないです。

 

■Qの整え方

で、今回はQのお話。

よく言われている方法では、

  1. スイープで良い感じ(or悪い部分)を見つける
  2. 場所を見つけたらゲインをQを整える

と説明されることが多いです。

が、

 

・あなたの曲を知っている人はいない

DTM界隈の最大の害悪となっている「EQレシピ本」。この楽器はこの周波数だとかいろいろ細かく書いてある書籍と、その内容をパクった書籍や個人ブログが大量にあります。

ミックスで重要なのはとにかく聞くことです。一見効率的っぽい本を読んで数字を暗記しても全く意味がないどころか、曲のキーを無視した周波数を扱うことになってしまいます。

・必ずキーと音程を考える

てきとーにEQをぐねぐね動かして遊んでいる場合ではありません。

その曲のキー、最低音、特にベースの最低音を確認しましょう。

主和音(CEG)と属和音(GBD)は理論的にもその曲で最も大きく演奏される可能性が高いです。その時のベースの基音の周波数を確認しましょう。

それらの数値を根拠に数値を決めましょう。

 

 

 

GUIは賑やかしでしかない

なによりGUIの見た目だけで判断しないことです。

カーブ形状が美しく描画されていますが、実際の音とはあまり関係ありません。

 

・フラットトップの落とし穴

近年流行している「フラットトップ」とか「フラットシェイプ」と呼ばれている形状。

平たく下げることができるのはエンジニア垂涎の優れた特性ですが、視覚的な落とし穴があります。

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見るべき点、ではない、「聞くべき」点は中央ではなく、両肩。特に低い方の傾斜部分です。

曲のキー、その楽器が使う音域のことをしっかり考えないと、EQをセットした場面ではベストだったのに、別の場面ではミスマッチになってしまいがちです。

Qの扱いについては通常の「アナログベルシェイプ」よりも慎重にならなければなりません。

通常のベルシェイプは「中央を決めて」「そこからの傾斜の太さ」だけで良かった。

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昔の人はフラットトップを実装するために複数のバンドを束ねていました。

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これを一発でできるようにしたのがフラットトップシェイプです。

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この方法については飛澤正人のインタビュー記事でも少しだけ触れられています

www.dtmstation.com

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「2.2kHz、次に2.5kHzを7~8dBほど切っているといいよ。そこに倍音が固まりやすいので、確実に効果が出る。必要に応じて2.7kHz、2.9kHz、3.1kHzと200Hz置きに切っていくといい」とのこと。

これがどういう意味なのかについて補足すると、2.5kはEb6のことです(厳密には2489Hz)。

「必要に応じて2.7」等を切っていくというのはEbの半音上のE(2637Hz)、F(2793Hz)、F#(2960)、G(3136Hz)も処理するということです。

また、「200Hz置きに切っていく」とは半音という意味です。

要するに半音単位で削っているということです。

一般的な音楽(楽器)は12音階でできているので、それを半音単位で削ると、どの音を慣らしても封じ込めるという意味になります。これがフラットトップシェイプです。

 

カッコに数字を書きましたが、自然倍音は基音周波数からズレるので、2489Hzじゃないから飛澤氏は間違いだとか指摘したいという意味ではありません。

そういう意味においても数字の暗記に全く価値がありません。

もちろん厳密に自然倍音を算出することもできますし、私の手元にはそういう資料もありますが、たまたまそういう書籍を見つけただけであって、手に入れた後も「意味ねえ」と切り捨てています。そもそも演奏は基音そのものがズレますし、干渉も起きます。だから数学的に正しい数字にフォーカスしてもあまり意味は無いんです。

とはいえ、てきとーに「高いところをEQしよう」という雑な作業をするだけではなく

 

話を戻す。

ともかく上の飛澤氏のEQ実例は細いEQを束ねてフラットトップを実現しているよ、ということなんです。

 

チューニングが440Hzなら、そこから生成される半音階とその周波数は特定できます。もし440チューニングじゃないとしても、半音階の周波数差はほぼ同じです。

適当にEQを当てるのではなく、根拠と目的を明確にして使いましょう

 

なお、みんな大好き変態プラグイン屋のMeldaは「Harmonics」というパラメタを設けることでフラットトップを実装していました。

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なお半音だけではなく、かなり自由に幅を変えることもできるので、フラットトップ黎明期としてはかなり強力なものでした。

・余談、自動追従EQの無意味さについて

上位モデルには「MIDIノート番号に応じてEQ周波数を自動で変更する」という機能がついているものがありますが、これは無価値です。(キートラッキング、Key Trucking)

なお、MIDIノートを自動追従をしたところで、周波数変更前の残響音をスムーズに処理できるわけではないので、実用性は皆無であると言わざるを得ません。

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逆に言えば、単発の音ならそれなりの効用を期待できます。が、単発ならMIDIノート番号に追従させる意味がありません。

ということについては、私は過去に全手動入力で音程の周波数にオートメ移動させる方法でおかしな音になることを実験済みです。なので、後発でこういう機能を持ったものが出てきた時に「あー、これ無意味なんだよね、うん。」と思いました。

 

・Qの「肩」を慎重に確認する

上の飛澤氏のインタビュー記事をもう一度引用します。

必要に応じて2.7kHz、2.9kHz、3.1kHzと200Hz置きに切っていくといい」

「必要に応じて」削るわけですから、フラットトップのEQ操作で見るべき点は中央ではなく、その幅がどこまで影響を与えるのか?です。

先程は高い周波数で倍音を扱っていたので「200Hz置きに」でしたが、低い周波数では数字の大きさの意味が変わってきます。

E2音域では半音の差は10程度です。つまり「200置き」を「半音単位」と考えるなら、10Hz置きに細いEQを束ねた集合体でフラットトップを形成する、と考えましょう。

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ハイローパスフィルターを使う時と同じくらい、ベルカーブ(フラットトップ)を使う時に傾斜部分に神経質になるべきです。

その根拠は曲のキーです。

影響力の大きいフラットトップが、別の場面でも適切に機能しているかを確認することです。

イヤートレーニング

暇な時に数回聞き流すだけで周波数を把握できるようになります。

eki-docomokirai.hatenablog.com

聞いてみたら「あー、なるほどね」と納得できるはず。

ミックス時、EQを表示して適当にコネコネしてしまう人に特に効果があるはずです。 

 

■関連記事

 

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

 

 

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