過去記事「 スペクトラムアナライザーを調整する理由」から分離した記事です。なお、絶対にやってはいけない狂ったノウハウです。知らなかった人は知らないままでOK。
(2021年10月1日更新)
■絶対やるな!
ピンクノイズミックスは海外フォーラムでたまに語られるおかしなミックス手法です。
珍妙な方法を提唱することで優位性を保ちたがるエンジニアが一時期広めていましたが、多数派は「絶対やるな」と警告しています。
やるべきことは、
- スペアナをちゃんと調整する
- リファレンスミックスをする
です。
普通のことを普通にやりましょう。
・学者・研究界隈の悪癖
アカデミックな世界には特許を筆頭として「新しいことを先に言ったもん勝ち」という価値観があります。
斬新な手法を提唱して評価を得ようとするのは、音楽に限らずあらゆる分野にあります。やるべきことは「普通のことを継続する」ことだけなのはみんな分かっているはずなのにね。
このピンクノイズミックスも「斬新で奇抜」という観点から提唱されましたが、『実用性は皆無である』というのが定説です。
・そういう言葉に出会うのは、あなたがまじめに努力した成果
珍妙な言葉、奇抜な手法に遭遇するのは、あなたがたった一人で勤勉に調査し続けたからです。その努力は本当にすばらしいことです。でも、その調査能力は行き過ぎています。そのまま独学でさまよっていると「まじめであるが故に詐欺に逢うタイプ」なので気をつけてください。
楽な方法はありません。
魔法のような技術はありません。
道具を買って解決する悩みはありません。
その勤勉さを、ただ作品に向けて、真摯に作り続ける以外に上達の方法は存在しません。
そういうマジメな人を騙すために、様々な奇抜なメソッドが発明され、小銭を吸い取っているんです。それはテクノロジーではありません。教育でもありません。セコいビジネスです。
■不安を煽るビジネス
この記事が書かれた頃に一部で「ピンクノイズに合わせると良いぞ」という珍妙な方法論が広まったようですが(厳密にはもっと昔からある手法ですが)、いつの時代にも変な方法論を提唱して売名行為をしたり、ビジネスにしようとする人たちがいます。
近年の日本だと「マナー講師」のようなものです。
ありもしないマナーを、さも世界の常識であるかのように喧伝し、その作法を指導することで小銭を得ている人たちです。
たとえば(この記事をリライトした頃に話題になった最新のおかしなマナーは)、
葬式でのネクタイの結び方に規則など無く、世界一流のVIPでさえマナー講師の言うような作法は用いていない、と証拠を並べています。
音楽の世界も似たようなもので、変な手法を提唱し、それができないと時代遅れだとか体を壊すとか、恐怖心を煽って商売をする人たちがいます。気をつけましょう。
西村博之はこう言っています。
もっともよくないお金の稼ぎ方は、相手を不安におとしいれてお金儲けをする方法です。
音楽系にはこういう人や企業が非常に多いです。
あなたの音が良くない理由はこうだ、だからこれを買えと。
そういう口調で書かれているものは「情報」ではありませんし、そういうことばかり書いているサイトや書籍も同様です。確かに有益な情報も含まれているかもしれませんが、毒が多すぎます。
スピーカーを売って儲けることが目的、ソフトウェアやプラグインを売って儲けることが目的だと見抜いたら、すぐに離れましょう。本当に必要なものだけを持っていれば大丈夫です。
■ピンクノイズミックスって何?
絶対にやってはいけません!
が、念の為に、これがいかに狂った方法なのかを書いておきます。
「ピンクノイズミックス」は、スペアナを使わずに中位(-18dBなど)の全帯域ノイズを流し、それを基準にしてミックスする、という奇妙なミックス学習手法です。
一定音量のノイズよりそれぞれの帯域で「大きく」聞こえることで、フラットなバランスを構築できるよ、という手法です。
でも、もしフラットな基準が必要ならスペアナを水平に調整した方が「ものさし」として圧倒的に上です。だって、つねにノイズを聞きながらやってたら、あっという間に耳を壊してしまいますよ!
そもそも未熟な学習段階の人の耳で全帯域の音量差を聞き分けろだなんて矛盾しています。もし全帯域ノイズの中から特定の音だけを選択的に聞き取れる能力があるなら、すでにフラットな音を判別できるのですから。
また、たまに誤解をしている人がいますが、仮に-18dBのノイズを流し続けたとしても、-18dB以下の音が全て消されるわけではありません。大きなノイズの中に、楽器の音が薄く聞こえるだけです。その楽器の音がその帯域のノイズより大きいか小さいかを判別することは不可能に近いと言えます。
(もし、ノイズではなくドラムループに対してシンセパッドが大きいか?という通常のミックスにおける音量比較なら、非音楽的なノイズとの音量差を判別するよりも容易です。)
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単にリファレンスミックスをした方が良いとしか言いようがありません。
リファレンスの代わりに比較基準としてノイズを使っているということなんですから。
リファレンスミックスなら、ドラムなどのダイナミクス変化や、メインメロディと伴奏の差も「生きた音楽」から学べるので、あらゆる点で上です。それをせずにノイズを参考曲にするというのは、どう考えても狂っています。
ノイズを参照するミックス方法がダメだということは、下のリンク先(英語)でも取り上げられています。
ただし、「あなたのミックスをぶっ壊す恐れのあるTIPS」としての紹介です。ちょっと意地悪なタイトルの記事なので気をつけてください。
上のリンク先記事では「ピンクノイズにぴったり合わせるとクソ音になるよ」と言っているだけです。
当たり前ですね。メインメロディの鳴るべき音域と、ローハイエンドが同じ音量だったらクソミックス確定です。完全にフラットな帯域バランスでは音楽になりません。ローキックが大きくないと絶対成立しないジャンルもありますね。クラシック系の楽器が入るミックスで、ハイエンドまで倍音を出したら安っぽいシンセの音になってしまいます。
音楽で大事なのは音楽的な山・谷を作ることです。
ノイズは山谷を示してくれません。
ノイズのピーク音量とRMS音量を判別できる人なんてまずいません。
・音量を作るためには良いという説があるが
たとえばこういう記事。
音量合わせたいならピークとRMSをメーターの数値を見れば良いだけじゃん?
もしあなたが数字を読めない場合にはピンクノイズミックスは素晴らしいメソッドですね。
ただし、上の記事では他の方法もしっかり紹介されているので、記事全体としては「ピンクノイズミックス」を釣りタイトルにしておいて標準的な方法に誘導している、とも読めます。
Whether you’re using pink noise or not, I recommend mixing in height order.
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Mixing with pink noise isn’t the only way to get a solid mix balance.
Let’s take a look at some other things you can do to perfect your static mix.
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By using pink noise and any of the other tips included in this article, you’ll perfect your static mix every time.
・やるべきことは3つ
スペクトラムアナライザーをちゃんと整備して、水平なものさしを作っておきましょう。
SPANや古いスペアナをデフォルトのまま使っている人ものさしが傾いているので要注意!
eki-docomokirai.hatenablog.com
プロの曲のミックスに揃えること!
eki-docomokirai.hatenablog.com
ショボいスピーカーでもちゃんと聞こえるようにすること!
eki-docomokirai.hatenablog.com
以上の3つの方法を普通に練習するだけで良いです。