eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

訃報・荒野のエンニオ・モリコーネ

(時事)2020年7月6日、映画作曲家エンニオ・モリコーネ Ennio Morricone が亡くなりました。学生時代に研究していました。個人的に割と大事な作曲家です。

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(2021年2月2日更新)

 

■はじめに

このブログは故人を消費物として扱うブログではりません。

今後、偉大な人物がこの世を去ったとしても、よほどの思い入れのあった人物以外では言及しません。安易に「お悔やみ申し上げます」と常識人ぶって防御を固めつつ、アクセス稼ぎに利用するのは私故人の倫理観に反します。

エンニオ・モリコーネの映画音楽は学生時代に研究して多くを学んだ事実がある人物だからこそ記事にして残します。

彼の作品から学んだことを形にしていきたい。 

■巨星堕つ 

eiga.com

御大の葬式の曲はコレしか無いだろうと思ってる。

映画『アンタッチャブル』から「死のテーマ」。

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しみるぜ。

 

でもやっぱりこっちになるのかなぁ。本当に美しい。

youtu.be

 

長めの曲集動画はこちらをどうぞ。1時間30分。

www.youtube.com

https://www.youtube.com/watch?v=9ZqZ3is9tpk

 

・死ぬほどアツい作曲家 

若い人は直接知らないかもしれませんが、西部劇の印象的なテーマ曲の多くはこの人です。

映画作品を象徴するテーマ曲は非常にケレン味の強い音楽で、単純明快な昔の映画にマッチしていました。その一方で、映画内の印象的な場面、愛や死、陰謀、裏切り、忠誠。そういう場面では一変してセンシティブな曲を聞かせてくれました。

その後の世界中の劇伴BGMのスタイルに多大な影響を与えましたが、今はそういう音楽はすっかり無くなったと言えます。良くも悪くも「昔の映画の音楽を作っていた人」です。

 

巨匠って言うと、なんか小難しい曲を作って人で、一般人の評価は無い、ということがありますが、そんなことは一切ありません。徹頭徹尾、娯楽映画を音楽で彩った超アツい作曲家です。わかりやすい曲ばかりなので、この機会にいくつか聞いてみて欲しいです。

 

短く乱暴に紹介するなら、こういう具合になります。

 

これ以上の解説はニコニコ大百科が一番まともな内容だと断言できる。曲リンクもあるのでぜひ。

dic.nicovideo.jp

(がんじがらめのWikipediaなどとは比較にならない。もちろんニコニコ大百科は酷い記事が多いが。)

 

・近接する音楽

なお、似たような作曲家としてエルマー・バーンスタイン(故人)を挙げておきたい。

エルマー・バーンスタインと言えば『荒野の七人』。

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オーケストラ音楽としての品質で言えば、圧倒的にこちらなのは分かります。が、「フルオーケストラ=優れている」というわけではありません。モリコーネの特徴と長所は「異質な楽器を過激かつ的確にブッこむセンス」だからです。

誤解を恐れずに言うなら、「暗い西部劇音楽はモリコーネ」「明るい西部劇音楽はエルマー・バーンスタイン」として見分ければ、だいたい当たってる。

さらに雑な言い方をするなら、エルマー・バーンスタインの音楽は『バック・トゥ・ザ・フューチャー3』でのパロディの方が有名かもしれない。なおこれの作曲はアラン・ジルベストリ。

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あえてこれ以上は言いません。

エンニオ・モリコーネエルマー・バーンスタイン。どちらが「西部劇ド真ん中か?」の議論は平行線の末に「決斗」になることと思われます。作曲家なら口で議論せず、西部劇っぽいBGM制作の仕事で勝負するべきでしょう。

なお、ウェスタサウンドを使ったゲーム音楽として『ワイルドアームズ』があります。過去にちょっと絡んだことがありますが、テーマ曲以外が典型的なRPGゲーム音楽なので論外です。

ゲーム音楽で言うなら西武生活ゲーム『Red Read Redemption』(1)がモリコーネ魂を理解し、発展させています。

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・薄くてアツい音楽

曲の作りは概ね非常に「薄い」オーケストレーションです。逆に言えば明確なサウンドなので、BGMとしての機能性が極めて強いです。

 

『続・荒野のガンマン』テーマ曲

強烈無比なモチーフ。

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『荒野の用心棒』テーマ曲

TV番組のBGMでも使われることがあるので聞いたことがある人がいるかも?

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学生時代に西部劇の劇伴を勉強していた頃、どうやらスゴい作曲家らしいと知って研究していました。しかし、そのあまりにも薄い音遣いには正直首を傾げていました。若い学生が指向するテクニカルで理解不能な、つまり若い学生が背伸びしたい感覚を満たすものでは無かったからです。

しかし、実際に映画(西部劇以外も)の映像と一緒に聞くと、BGMとして完璧な機能性を持っていることを実感できました。添え物のBGMであることに徹しつつも、来るべきところでしっかりアピールするインパクトを両立しています。

このバランス感覚こそ彼から学ぶ点だと思います。

 

■個人的には三枝成彰と無理やり関連付けたい

本当かどうかの事実確認はできていませんが、三枝成彰の初期の「薄いオーケストレーション」はモリコーネの影響だ、と聞いたことがあります。誰かの一方的な評論が、伝言ゲームでそうなっただけかもしれません。

特に『Zガンダム』などに出てくる、静かな緊張感のある長い音に対して、異様に細かい音符群を叩き込むスタイルは強い類似性があると指摘されることがあります。たとえば『アンタッチャブル』のタイトル曲など。

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こういう緊迫感の出し方が、三枝成彰だとこうなる。

安定したリズムを無くし、ぶつ切りのオスティナート、断片的な動機で緊張感を出す。そして三枝成彰の特徴、シグネチャサウンドとも言える高密度のパッセージを叩き込む。

youtu.be

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もうちょい音符が多い例だとこう。

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モリコーネの音楽に共通するストロングポイントは音符の数を減らすことの意味。休符の意味。短い音と長い音の意味。必要な音色を適切に配置することの意味。

作曲テクニックをひけらかすのではなく、音を減らし、適切な音色を使う。この当たり前のことが本当に良くできていると思うんです。安易にフルオーケストラやバンドスタイルに迎合せず、「これだ!」という印象的な楽器を持ってくるセンスはズバ抜けています。

そういうメンタルを色濃く継承しているのが三枝成彰だと「私は」思っています。シリアスな曲が上手いという評価も共通していますし。

www.4gamer.net

 

DTM的な観点で言えば、モリコーネが活躍した時代よりも今の私達は無限の音色を瞬時に扱えるはずなのに、このようなインパクト、訴求力のある「映画本編を食ってしまう」威力のある音楽を作れないでいるような気がしてなりません。

 

最後に、冒頭に貼った『アンタッチャブル』のこの曲、『死のテーマ』。

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マフィアを追い詰めるヒントを探す相棒が残したメッセージは「タッチャブル」、「手は届くぞ」。

形だけ「お悔やみ申し上げます」などと言っている奴らは放っておけ。音楽を続けよう。そうすれば手が届くはずです。

 

楽譜動画はこちら(サントラで聞こえる実際の演奏音と異なる点が散見されるので、たぶん市販譜の書き写し。どこで売ってるのかは不明です。)

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