レッスンで「音楽機材買いたい」の話があったので、せっかくだから関連事項をブログ記事にしておきます。
(2021年11月30日更新)
- ■はじめに結論
- ■機材取得候群は病気である(英語記事)
- ■実機機材は「贅沢のため」に所有する
- ■新しい機材を買っても何も変わらない
- ■アナログシミュレートプラグインは必要か?
- ■お金の使い方
- ■所有するデメリット
- ■「◯◯買いたい」という人に対する私の意見
- ■説明書を読み、使い方を学ぶ
- ■慣れ最強
- ■昔の自分の場合
- ■番外編、だけどもっと大切なこと
- ■フリー縛りは無価値
- ■できの良いプラグインを厳選して「1軍」の打線を組む
- ■関連記事
■はじめに結論
「◯◯買いたい」という人に対する私の意見はコレ。
- 本当に必要なら借金してでも買え
- 憧れがあるなら買って試すべき
- 要らないと分かったら手放す
- 腕とセンスを買えば死ぬまで使える
- 買う計画も無く機材語りをしているグループからは今すぐ離れろ
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以下詳細。
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■機材取得候群は病気である(英語記事)
(下記事は面倒なので翻訳やってません。)
https://sonicscoop.com/2020/08/13/do-you-have-g-a-s-gear-acquisition-syndrome/
Gear Acquisition Syndrome(機材取得症候群)を略してGASと言う用語まで出てきたぞ。
つーて、上の記事にもギア広告が入っているのが皮肉だ。
世界は広告で埋め尽くされているが、ちょっと考えて欲しい。郵便受けに入っているチラシを見て、買おうと思うか?
メールやウェブサイトの広告に威力があるのは認めるが、そもそも広告は世界を良くしているんだろーか?購入した個人を幸せにしているんだろーか?
何かを買おうと思った時、絶対的に信頼できる人に「これを買おうと思ったんだけど、俺がこれを買って意味があるだろうか?」と尋ねてみてほしい。
つまり、ギア広告は本質的にオレオレ詐欺と大差無い。
・そもそも「買い物依存」は病気です!
・売る側の理論
しかし、社会的に一定の地位を確立して、あたかも悪くないかのように見せかけているものも多くあります。
(中略)
なので、あなたに向けて「不安を煽るような人」「不安を煽る宣伝文句」は、つねに疑ってかかるようにしましょう。
その裏で、「何かトクをしようとしてるんじゃないか?」「商材を売りつけようとしているんじゃないか?」「変なコミュニティに誘ってくるんじゃないか?」と、すぐに心を切り替えてください。
「あなたのミックスがうまく行かないのは高いモニタースピーカーを持っていないからだ。」「持っていたとしても部屋の音響処理をしていないからだ。」「電源を見直せ」などは上のリンク先が否定するような露骨な霊感商法とまでは行かなくても、『オーディオオカルト』に片足を突っ込んだグレーな商売だと私は断言しています。
もし本気でスピーカーを使ったミックスをやりたいなら、まず買うべきはオーディオに適した形状の部屋です。それを買えないなら、何をやっても付け焼き刃です。スピーカーとは空気に振動を与える装置であり、空気とは部屋の形状そのものです。最も大きな影響を与えるマテリアルを変更せず、細かな部分から改造しても、得られる効果は極めて小さいです。
これはクルマの世界では常識です。
手持ちのクルマを速くしようとして、手軽に導入できるマフラーやシートを変えても差はほとんど出ません。まずクルマ本体をレースに適したものにしなければいけません。(もちろんショボいクルマを徹底的に改造することで、半端なスポーツカーよりも速くすることは可能ですが、それに必要とされる金額と技術はとてつもない領域になります。チューンショップが冗談半分でやる行為です。)
安易に購入できるものを買っても大した変化は起きません。
もし変化があるとしたら、「身の丈に合わない高いものを買ったから、もう引き返せないぞ」という覚悟だけです。なので、安物を買っても心境すら変化しません。
■実機機材は「贅沢のため」に所有する
当ブログの過去記事『小さな選択肢の神話 ~ 音楽制作における「パレート法則」』では、海外記事(リンク)で機材購入について下のように述べていると紹介しました。
8) It’s Not The Gear
A poor craftsman blames his tools. A poor audio engineer thinks he needs better ones.
Once the basic requirements are met, any additional equipment is a luxury, not a necessity.
It’s not worth fretting over luxuries. They are to be enjoyed, not worried over.
「ダメな奴は道具のせいにする(blames his tools)」
「ダメな奴はもっと良い道具を望む(needs better one)」
「しかし、機材は贅沢(laxury)のため。基本的な技術がちゃんと身につけば必要ではありません。」
と書かれています。
うなるほどの高級機材に囲まれている人が、「これはただの贅沢だよ」と言っているんです。
■新しい機材を買っても何も変わらない
そもそも「うまいミックス」とは上手い人が慣れた機材で入念に作業をした結果です。機材だけ更新しても大きな差はでません。
エンジニアのnkさんはこう言ってる。
そりゃ、環境がよく、エンジニアがマイクを適切に楽曲や歌い手に対してチョイスできるのであれば、文句の一つや2つ垂れてもいいかもしませんが、選択肢が限られた状態のレコーディングに対して、文句を言うのは筋違いなのです。この考え方は難しいと思いますが、環境やデータのせいにしてはいけません。
超辛辣な内容で拍手喝采である。
モノが少なく制限の多い宅録の時点で、「モノを買えば解決する」という考え方をしている時点で完全に勘違いなんです。
なお、海外エンジニアの記事でも「優れたサウンドとは優れた機材の音ではない。慣れた機材で丁寧に時間を惜しまず仕上げたからだ」「丁寧にやった最後のひと押しとして高級機材の差が出る」という声がわりと頻繁に出てきます。
eki-docomokirai.hatenablog.com
乗り換えた機材はスペックとしては音は良いのかもしれませんが、著しく使いにくいこともあります。だったら慣れた道具を入念に使った方が上かもしれません。というか上です。慣れ最強。
腕が無くても時間を掛けて丁寧にやることはできます。
セール情報を見続けても、目の前にある音は一切良くなりません。
現状に不満を抱きながら、実際に聞いてもいない機材の音に片思いしながら作った曲が良い音になるわけがありません。
気分転換、耳の休憩にはなるので、時間を決めて行いましょう。「さて、10分休憩したら作業に戻るか。」と切り替えられるなら健全です。
・慣れるためには時間がかかる
Black Friday期間は、プラグイン等を「あえて買わない」という選択が大事。
— Noah (@noahponpon) 2021年11月29日
どんな製品であれ、マニュアルの熟読・音色の整理・細部のパラメーターの把握等に時間が掛かる。これらをゼロから行う学習コストはなかなかに膨大。
それで楽曲制作における生産性が下がっては本末転倒。道具は厳選しよう。
どうせ買っても慣れていないと使いこなせない。使いこなすためには時間がかかる。
慣れていないなら何を使っても同じ。
高機能なものを買っても、その本当の性能を引き出せないなら、今までのものを使い続けても同じ。それどころか慣れていることによるスピードは全てに貢献する。
・「迷ってるならさっさと買え」
予算が根本的に足りないなら、手の届かない高嶺の花に憧れるのをやめた方が健康的です。
予算が溜まった時に何を買うか、しっかり決めて計画的に過ごしましょう。
お金が余っていてなんとなく買うだけなら、それはただの贅沢品だと割り切りましょう。
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どうしても買いたい。本当に必要なら分割払いでも親に頭下げてでも何でも良いから買ってしまえ。良いものを買えば逃げ場が無くなるから頑張るしか無くなる「背水の陣」になります。それはとても良いことです!
私は昔これをやったことがあります。はい。カード限度額まで買い物をしてしまえば、サラリーマンをやめるわけにも行かなくなるので仕事もがんばれます。飲みに行く金も無いのでまっすぐ家に帰って音楽をやるしか無い生活リズムを作れます。
それは衝動買いとは違います。計画的な人生設計です。選ぶのは自分です。
いつまでもカタログを見てグダグダ言ってる商品知識だけの奴を見てステキだと思いますか?グダグダ言ってるだけのグループにいて何か得るものがありますか?彼らが言っている「良いもの」をさっさと買って、そのグループの上に立ちましょう。卒業して次のグループに属しましょう。
■アナログシミュレートプラグインは必要か?
超本格的なスタジオ商売でもやらない限り、すでに不要です。
eki-docomokirai.hatenablog.com
「非線形、ディストーション、ノイズ」という3つのアナログ要素をデジタルで実装できる技術を身につけるだけで大丈夫です。
もちろん実機そのものの音ではないですし、「アナログ実機を通した音にしたぞ!」という心理的アリバイを得られないので「プラグインじゃダメだね」と考える人もいます。
でも、後で再調整したい時にもう一度アナログを経由させる不便さがあるので「アナログ通したし、別に録音し直さなくても良いよね」という逃げ腰になるデメリットもあります。理想的な調整をしたいのか、アナログを通したという心理的アリバイが欲しいだけなのかを、自分の中できっちりしておくのは大事です。
実際やってみるとアナログを通過させる面倒さを痛感できるはずです。適当な機材で構わないので一度やってみて「毎回こんなことやってられるか!」「これを全トラックやるのか……」という辛さを実感して、その上でどちらが自分に合っているか考えてみてください。
妥協の産物であるアナログシムのプラグイン、いわゆる「in the Box」つまりDAWだけで仕上げる場合、いつでも瞬時にやり直せるメリットがあるので、調整を繰り返したい人の場合にはより良い結果になると言えます。
・アナログ実機を買う際に覚悟するべきこと
定期的なメンテナンスが不可欠です。
その知識はありますか?
知識がない場合には、頼りにできる知人・業者とのつながりはありますか?
修理・メンテナンスというランニングコストを考えずにいると、それはただのノイズ発生機になってしまいます。
■お金の使い方
学生時代の話を。
・先生を買う
音楽学校に通っていた時、ある学生がカタログを見ながら「これ欲しいなー」「70万かー」と四六時中ボヤいていたのがウザかったので、私は『それ買ってお前の音は良くなるのか?』と責めたことがあります。
私の主張は、
- 買っただけで誰でも良い音になるわけがない
- そもそもお前には腕がない
- 良い楽器を持ってるだけのクソ奏者になりたいのか?
- 70万あるなら、その札束で先生の頬を叩いて専属講師として雇え
- こんな学校で講師をやっている人の月給が70万以上あるとは思えないから確実に落とせる
- 国産の先生がイヤなら70万で留学しろ
- 留学しても言葉ができない?じゃあ通訳を雇え(音楽留学をしたと言えるようになるぞ)
というものです。
そういうことがあった上で、私は「買いたい病」に対して私の担当の先生がどういうリアクションを取るのか興味がわきました。試しに先生に「◯◯を買いたい」と相談してみたら割と本気で怒られました。 先生だって買うことには反対なんです。
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その後、都内有名楽器店勤務の時、上司に「やっぱこういう店ってプロの人がたくさん来るんですか?」と聞いたら、『いや、買うのは無知で下手糞なアマチュアばかりだよ。』と教えられました。
確かにプロの先生はいっぱい来店していましたが、たいていは「ウチの生徒が楽器を買いたがっているから、来週いくつか用意しておいて欲しい」という要望でした。なお、私が勤務していた時にプロ奏者本人が買っていったのを見たことは一度もありません。
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これらを結びつけることで分かるのは「買う前に相談できる専門家との付き合いが無いアマチュア」となります。そういう人たちが群れているのがネット音楽界だと言うこともできます。売る側からすればカモでしかありません。あなたはカモですか?
・憧れを買う
私が大学に入学した時にはすでにOBだった某女史はアマチュアとしては十分すぎる腕のホルンプレイヤーでした。
彼女は社会人になり、お金をためて、昔から憧れていた外国製の名機を購入しました。
https://www.neromusic.jp/model-23(PAXMAN Model 75-3)
なお定価は265万円です。ちょっと良い車を買えますね。
関税・仕入れ値を考慮した限界割引(3割引)で買ったとしても180万円超。
しかし購入後に話をしたら「重たいし、何かと使いにくい。後発品の方がよく出来ている。」と評価し、半年もたたずに手放していました。彼女は 「憧れ」を手に入れ、率直に評価し、不要だと判断したということです。その行動力と審美眼に感服したものです。
誰だって昔からの憧れは持っています。いつまでもそれに囚われているくらいなら、買って、評価して、手放すことで卒業した方が前に進む力になります。
なお、後輩は外車好きで憧れの赤いイタリア車を購入していました。その後はたぶん故障率の高さとメンテの面倒さで苦労したんじゃないかと思います。でも、それってステキな人生だと思います。
・告白し、先に進む
最新の機器、最新のプラグインの方が、昔憧れたアレより優れているということはよくあります。というかほぼ全てがそうです。
でも、憧れの気持ちがあるなら買ってしまった方が良いです。本当に。
迷いがあるならとにかく購入し、実際に経験し、その上で判断することで次のステージに進めるはずです。
私も上の話ほど高い買い物ではありませんが、購入し、使い、手放してきた過去があります。いつまでもウダウダ言っているくらいなら、心の治療だと思って手を出すべきです!
好きな人がいるなら「好きです!」とはっきり言って、運良く付き合えたとしても、玉砕したとしても、自分から動かないといつまでもダメなままなのと同じです。 何事にも通過儀礼は必要です。
・憧れは理性ではない
ダメなアドバイスは「最新のこっちのほうが優れているよ。そんな古いものを買うな!」という押さえつけです。どんな正論でも憧れという感情は抑え込むことはできません。駄菓子を大人買いしたり、時代遅れのスポーツカーを買ったりするのと同じです。
幼い頃のゲームより最新ゲームの方が圧倒的に高品質ですが、「このゲーム、昔やりたかったんだよなぁ……」という気持ちを満たすのは昔のチープなゲームしか無いんです。その古いゲームをやりながら食べるのは、もちろん大量の駄菓子のはずです。
(でも、そういう気持ちでペットを飼うのだけは止めた方が良いと思います。「こんなはずじゃなかった」という心変わりで、すぐに手放せるものではないからです。)
■所有するデメリット
憧れを入手すると、未知のトラブルもセットでついてきます。ペットを飼う面倒さや、古いスポーツカーを買うとメンテナンスだけでも大変だということです。 大切な恋人や家族のために自分の時間が減らされるのは当然です。
・メンテナンス、輸送リスク
あらゆる実機は買っただけで完了しません。
保全、メンテナンスの手間がかかることを忘れてはいけません。
実機の音楽機材はソフトウェアと違って再インストールやアップデートパッチという手軽な方法では治りません。素人のDIYでどうにかなることは極めて稀で、破壊するのがオチです。
自分の手に負えないのでメーカー工場送りになります。その輸送費は莫大ですし、時間がかかります。特に精密機器の海外輸送という行為そのものが極めてリスキーです。もし国内で修理が可能な代理店に送るとしても、長距離輸送のリスクは避けられません。
これは初期不良の部品交換だけではなく、経年劣化のメンテナンスでも同様です。
つまり、宅録仕事で実機機材を常用するなら、メンテ送りしている間に代替品が無いといけないわけです。これは車検の間に代車を貸してくれるのとはまったく違います。音楽機材で修理中の代用品を無料で貸し出ししてくれるところはまず存在しません。
数ヶ月のメンテ期間を埋め合わせできる同等のものを持っていないと、その間は何もできないことになってしまいます。車検期間の代車は数日で済みますが、特殊なオーディオ機器が数日で戻ってくるわけ無いですよ。送ってから検査、パーツ取り寄せ。最悪の場合パーツのロット待ちになります。
もし代替品が適当なものでも良いなら、初めからその適当なものだけを使っていれば良いんじゃないの?
自分で修理できるのがベストですが、相応の技術が必要となります。往々にして音楽家は修理という行為をナメています。(まー自分でいじった達成感が、完全な修復を上回る満足感になるならお好きにどうぞ。)
メンテナンスとチェックだけでも相当な労力となります。毎日確実に動作するように保全し、トラブルがあった時に結線を変えるだけで1日たってしまうかもしれません。
これは音響機材だけではなく、車でも同じです。
外車を購入した人が故障時に極めて長期間を代車で過ごしているのを見たことはありませんか?いわゆる「壊れやすいイタリア車」という話です。
ちょっとした部品交換だけでも国内にリサプライヤーが無い場合には、パーツの輸入待ちになってしまいます。
外車(ビンテージ機材)を購入するということは、そいうリスク込みだということを理解しなければいけません。特に地方在住の場合には致命的になることがあります。
国産で共用部品で修理できる車種は確かに陳腐です。しかし、いつでもすぐに修理できるメリットは日常を共にする道具にとって極めて重要な要素です。
■「◯◯買いたい」という人に対する私の意見
上をまとめると、
- 憧れがあるなら買って試すべき
- 要らないと分かったら手放す
- 買わないとモヤモヤが続く
- 腕とセンスを買えば死ぬまで使える
ということです。
DTM的によく見聞きする例だと、Wavesとかソニーのヘッドホンとか、NS10Mとかのことです。
実際今時Wavesを買うくらいなら、同価格帯でもっと良いものはいくらでもあります。もっと言えば、今どきのまともなDAWなら付属エフェクトでも古いWavesと同等、いやそれ以上の性能です。
新しいWavesならともかく、初期のWavesプラグインってもう20年前のソフトウェアですよ?20年前って1998年ですから、Windows95とか98の時代、つまり携帯電話の出始めの時代で、インターネットには電話接続していた時代ですよ?その頃のCPU性能でも動く程度のチープなソフトウェアに何を期待できるでしょうか?
それでもWavesが欲しいならポンと買ってしまうべきです。
買ってみれば「付属と大して変わらない」とか「思ってたほど使いやすいものでもない」と感じるはずです。
そもそも「プロがWavesを使う」というのは、他のスタジオに行っても同じ道具があるから便利だというメリットがあったからです。また、軽量に作られているので大量にインサートしても負荷が低いからです。そもそも普及した理由はデジタル初期にものすごい営業を行い、一気に世界に浸透させたからです。
ソニーのヘッドホンやNS10Mも別に音が良いとかいうことは無く、実際に音を聞いて「こんなもんか?」と思うはずです。「業界標準だから」と主張する人もいますが、業界標準っていうのはカブとかハイエースとか、カントリーマァム、かっぱえびせんのようなものです。別に高性能なわけではありません。
そういうのを退屈なミーハーだと割り切って回避する人もいますし、定番だからと言って所有したがる人もいます。
もし憧れがあって、自分でも所有したいなら迷わず買えば良いです。買って実際に試した上で評価すれば、一歩前進できます。
今の時代。学生でもニートでも簡易ローンを組んで簡単に買えるので、今すぐポチるべきです。別に良いじゃないですか。騙されてローン組むわけじゃないんだし、自分に責任のない借金をかかえるわけでもないんだし。
ウダウダ言ってる時間が積み重なると、精神を蝕みます。毎日ウダウダ言ってる奴と友達になりたいと思う人は存在しません。ウダウダしてる同類とはTwitterで仲良くなるかもしれませんが、買えば間違いなく彼らより1つ上の世界に行けます。
欲しいなら欲しいものをドンと買いましょう。
・買うなら一番良いものを買うという方針
中途半端なものを買うと「やっぱりアレを買うべきだった」となる人がほとんどです。安くはない買い物なのに「安物買い」をしてしまったという悔だけが残ります。
ある知人は「我が家には昔から『買うなら一番良いものだけを買え』という家訓がある」と言っていました。
またその人は「もし一番良いものを買えないなら、一番安いもので納得せよ」とも言っていました。
消費を抑えたというメリットを得ることができるすばらしい家訓のある家だなぁと感心しました。
■説明書を読み、使い方を学ぶ
道具を1つ買ったら資料を1つ読む(買う)、という習慣づけがお手頃だと思います。
たとえ英語が分からないとしてもです。
海外通販サイトで買い物をしてアクティベートができるくらいなら、それはすでにある程度の英語ができるということです。心配はいりません!アクティベートに失敗して冷や汗をかいている時は、頑張って英語を読んでいたはずです。
アクティベートに成功したことでホッとしてしまい、その一歩先にある調査をしない人が圧倒的多数です。必ず機能と特性を調べましょう。
良いプラグイン製品には良いマニュアルがついていたり、そのメーカー自信が多くの使い方TIPSを公開しているはずです。そういうのもちゃんと読みましょう。数時間かけましょう。
また、メーカーと提携している(と思われる)人たちが、特定のプラグインの使い方をクローズアップしていることもあります。
シンセやエフェクタの基本は「とりあえず触ってみる」のが重要ですが、説明書をちゃんと読むことも大事です。どういう時にどういう使い方をし、どういうサウンドを目指すべきかがちゃんと説明されているはずです。
(このことのみについて啓蒙する記事もあるくらいです。URL忘れた。あとで追記します。たぶん。)
また、私も、いくつかの海外プラグインメーカーに翻訳許可申請中でいくつかはすでに許可を得ることができています。もうしばらくお待ち下さい。特にいつまでに書けと指定されているわけでもないので、そのうち書きます。たぶん。(レッスンでは必要に応じて口頭で説明しています。)
ただ適当に新作プラグインをいじるだけではなく、まずは道具の正しい使い方を身につけるべきでしょう。「このボタンってそういう効果だったのか!」「そんな設定方法があったのか!」と驚くことになるはずです。仕組みを理解すれば、より優れたアイディアを引き出せるかもしれませんし、新しくプラグインを買い足さなくても、すでに持っているものでいろいろできるかもしれません。(あるいは付属でも全く同じことができるかもしれません!)
あえて書きますが、私がレッスンをやっていて色々な人の現状を多く見聞きしているのですが、ほぼすべての人が「宝の持ち腐れ」な状態だと言わざるを得ません。すばらしく良い高価な道具を持っているにもかかわらず、根本的にそれらの使い方を誤っています。その機材の個性的な機能にまったく触れていないケースもあります。
あと、憧れのプラグインを買うのは素晴らしいことではありますが、同等あるいはそれ以下の価格で、より優れたプラグインがあるかもしれません。欲しいのが性能なのか、思い出なのかを切り分けるのは重要です。
・「最新」「最強」の賞味期限は半年
最新のものは高性能PC向けに作られているので、異常なほどの負荷がかかったり、容量が異様に巨大だったりします。確かに「最新!最強!」なものを手に入れたことには間違いありません。
しかし、その「最新」はあっという間に後続に追い抜かれます。半年後には半額かもしれません。
「最強」は負荷も使いにくさも「最凶」かもしれません。1年後には使いやすさ重視のモデルが出るかもしれません。
後発品が優れているのは当然です。
別の角度から見れば、軽量コンパクトに設計された付属プラグインで一貫性のあるワークフローを組めることもを考えれば安定性も含めて最強だと言えます。たとえば古いWavesのプラグインの最大のメリットは大量に使ってもスムーズに動く軽量さです。
■慣れ最強
長く使い、毎日使うことで熟練度が上がります。
操作のスピードも上がります。
慣れた道具は疲れを感じることもありません。
新しいものを使うワクワク感は得られませんが、道具としては慣れたものの方が上です。
メリット/デメリットを比較してから新しい道具を導入しましょう。
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■昔の自分の場合
近年の私の様子から「お前、本当に買い物に興味無いよね」と言われることがあります。
が、以前は他人から心配されるくらい買う人でした。音楽機材に関わらず、ありとあらゆるものを買うタイプでした。借りられるものは遠方まで足を運んででも借りに行きました。
その買い方も迷って選んで買うのではなく、「ものすごくつまらなそうに買い物をする男」と言われるくらいスピーディに買う人でした。
サラリーマン時代には仕事をやめたくならないようにと思い、カードの限度額まで一気に音楽機材の買い物をしたこともありました。会社で仕事をし、帰宅したら黙々と音楽をやり、寝て起きて仕事に行く日々でした。おかげで会社での成績も新人1位でしたし、音楽制作を副業にできる腕もすぐに身につきました。
そういうことをしてきた上で今は非常に簡素な環境だけで音楽仕事をしています。
何が必要で、何が必要ない贅沢なのかを切り分けることができたんだと思います。
私がほぼ一貫して新製品について「いらん」と一刀両断するのはそういう経緯があってのことです。
はじめから簡素な環境でやっていたわけではありません。
■番外編、だけどもっと大切なこと
音楽以外にちゃんとお金を使おう。
・人生は有限
若く活力に満ちた時間はすぐに終わります。
映画『風立ちぬ』では「創造的な人生の持ち時間は10年」という印象的なセリフがあります。
新しいことをどんどん身につけられる時期はあっという間に終わり、すべての男はおっさんになり、すべての女はおばさんになります。そして価値観も感性も凝り固まってしまいます。老いとは定年後に孫が出来た時に訪れるものではなく、20代後半から確実に始まります。(老後にお金があっても、旅行する体力が無くなる、という話です。)
そういう大切な時期を「フリー環境で音楽を作る」という行為に費やすのは、若さをドブに捨てているのと同じだと断言します。借金をしてでもそれなり以上の音楽環境を手に入れるべきです。
今は大金だと思うかもしれませんが、地方に住んで必需品となる車のローンだと思えば大した金額ではありません。ドーンと買い物をして引き返せない状況になれば、真の能力を発揮できるきっかけにもなります。
・健康のためにお金を使う
座椅子でPCを使うのはやめろ。絶対。
遠からず通院のためにお金も時間も無くすぞ。
・人付き合いを改善するためにお金を使う
お金を自分のためだけに使う人は嫌われる。
より良いお付き合い、 新しいお付き合いのためにお金を使おう。
・メメントモリ
先日、作曲家の友人が亡くなりました。
30代なかば。結婚を予定し、音楽仕事をやりやすい環境に引っ越した後でした。これからどういう事業にしていこうかと話している合間に「俺ガンだってよ!」「この後セカンドオピニオンでちょっと病院行ってくる」と笑っていたのが最後の会話でした。
闘病しつつ、完治を前提として作品を作り続けていましたが、最後の数ヶ月は入院。
既存の治療法はどれも効果が得られず、終末期医療へ。
通話する体力もなくなり、肉声を聞くことはできませんでした。SNSへの投稿だけで1日の体力の多くを奪われるとか、握力を使わないフリック入力に感謝すると言っていました。
病の発覚から1年ほど、あっという間のことでした。
病床で書いた遺作は穏やかで明るく、理路整然とした曲でした。しかし、あえて酷評します。悪く言えば攻めの姿勢が無く、表現する喜びの無い音楽でした。
死は定年後にゆるやかに訪れるものではなく、理不尽に唐突に襲いかかるものです。
買うか買わないかで悩んでいる時間などありません。今すぐ買いましょう。そして前に進み、次の曲を作りましょう。
■フリー縛りは無価値
機材やプラグインを買うことに対し、純度100%のメリットがある人とは、全てフリーでやっている人が、初めて有料プラグインを買う時です。
貧乏人が断腸の思いで身銭を切ると、必死になります。
「フリーでやっている」という無意味なこだわりの世界から足を洗うことになります。「フリーでこんなにできるなんてスゴい!」という褒められ方をすることが無くなるので、戦う相手が変わり、世界が変わります。
何より、フリーにこだわっているコミュニティから抜け出すことで、人付き合いと価値観が一変する
フリーソフトだけで「縛りプレイ」をすることに価値はありません。断言します。
むしろ「フリーだけでやっている」と自慢げに言う人には「そんなこと自慢にならないから、さっさと基本的な道具を買え」と強く勧めているくらいです。
フリー環境で音楽をやっていても、作業の手間が増えるだけで効率が上がりません。身につくスキルは「フリーでやること」を最終目的にしたスキルだけであって、本質的な音楽スキルの向上に費やせる時間を逼迫しているだけだからです。
下は「無料のものを集めてないで、ちゃんとした1つの道具に慣れようぜ?」という海外記事。
もし「フリー機材のスペシャリスト」として食っていく覚悟を決めているのであれば、それは素晴らしい決意だと思います。
でも、1つだけ考えてみてください。どんなに頑張っても、どんなに尊敬されても、そういうコミュニティの人たちは1円もお金を落とさないですよ?
どんなに頑張っても収入に繋がりません。もらえるのは「フリーなのにすげー」という言葉だけです。
フリーは入り口として最適かもしれませんが、出口がありません。深入りするくらいなら、その洞窟から出て、別の洞窟を探すべきです。
■できの良いプラグインを厳選して「1軍」の打線を組む
こちらの動画では「Fabfilter Q3かQ2」だと言っています。
参考までに、近年の私の場合、
EQ - Toneboosters EQ4(ダイナミックEQ)
Comp - Malda Turbo Comp(アナログ系) , PSP VW2(バスコンプ)- Melda Free Comp,(加工用)
これらに加え、色付用にMelda Satulator。
他はCubase Pro系の付属。特にMultiband Envelope Shaper。
他は無くても何も困らないです。
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「必要ない機材情報を拡散するのをやめよう」というお話。
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音楽の話が機材の話ばかりになっている人はいろいろな意味で危険だと私は考えています。
私は機材の話ではなく、音楽の話をしたい。