eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

『6つのノヴェレット』の楽譜が出版されました!

久々にクラシック室内楽曲の出版の話です。

"4本の低音金管楽器のための『6つのノヴェレット』"  ユーフォニアムテューバ四重奏。

ASKS Winds様からの出版です。

(2018年6月26日更新)

 

 

■ASKS Windsで販売となりました!

販売ページはこちら。

吹奏楽楽譜販売 ASKS Winds / 4本の低音金管楽器のための『6つのノヴェレット』 ユーフォニアム・テューバ四重奏譜

簡潔な楽曲解説も添えてあります。

 

参考演奏はこちら。(札幌大谷大学音楽学部)

www.youtube.com

(演奏内容について私からのディレクションは行っていません。)

今回の出版にあたり、明らかなミス箇所の修正など、若干の変更を行っています。

 

■経緯

2016年、正月。

音楽知人との話の流れで「今年の目標を明言しようぜ!」ということになり私は「音楽の何かで1位を取る!」という目標を掲げました。

 

この作品を第29回HARVEY G.PHILLIPS & CHITATE KAGAWA COMPETITION 作曲部門に応募し、結果は2位受賞。1位じゃなかったのは正直残念です。同時期、他の様々な応募でも2位が続きました。これらの結果に対し知人からは「2位ってすごいんじゃね?」的なことを言われています。が、ストック作品の応募ではなく1位を狙うと決めていたので、逆に悔しかったです。 

 

 

この作曲コンクールは北海道ユーフォニアム・テューバ協会の主催で、「中高生向けの優れたオリジナル作品を増やしていく」というコンセプトです。

私はこの趣旨を以下のように解釈しています。

  1. 難易度のコントロール
  2. 幅広い場面で使える明快な曲想
  3. 挑戦心を掻き立てる内容
  4. 楽器の魅力を引き出す

学生向けの曲というと若者をナメているとしか思えない退屈な曲が多いのは誰もが知ることでしょう、そういう「上から目線」のナメた曲ではなく、中高生の挑戦心を掻き立てる何かが必要なはずです。

そこで私が構想したのは、様々なジャンルの面白い要素を盛り込んだ多彩なサウンドを持つ自由な曲想です。「ノヴェレット」とは短編小説という意味で、この曲は「6つの短編集」として構成されています。それぞれの物語の具体的内容は明示されず、正解の無い物語を自由に想像していただければと思います。

 

 

具体的な作曲技術としては、保守的な和声構造に引き寄せられすぎず、楽器の音域特性に十分に配慮することで様々なサウンドを構築しています。6つの場面でそれぞれ異なる演奏スタイルを要求し、また、その要求は作曲者のエゴの押し付けではなく、若い奏者が自発的に「こうしたい」と提案できる誘導的な内容になっている、はずです。大人から演奏指示を押し付けられる音楽ではなく、自発性を促す内容であることを察していただければこの上ない喜びです。

 

私は小学校でトランペット奏者として金管楽器を始め、その後すべての金管楽器をお遊びではなくステージで演奏しています。ユーフォニアムテューバは学生時代に本コンクールに名前を冠する香川千楯氏の指導を受け、国内ソロコンクールで上位入賞をしています。(これも1位になれず3位という結果でしたが、ライバルより上の結果だったので良しとしています。)

今は演奏することは無くなり作編曲家となりましたが「ここまで来ました」という氏と氏の主催する協会に対するお礼の意思を込めた作品でもあります。

 

当初の「音楽の何かで1位を取る!」という目標は音楽作品ではなく音楽関連書籍の売上で達成され、まぁこれも広い意味では音楽の一環だよなと受け止めることにしています。

 

■出版に至る経緯

もし1位だったら喜び勇んですぐに出版していたはずです。

審査員講評に書かれていた内容に対して強く憤慨した、という理由もあり、無かったことにして次の仕事に取り掛かり「何かで1位」を目指していました。

音楽で順位を狙う姿勢に対して異議を唱える人がいることはわかりますし、私も状況によっては順位と関係ない自由な音楽を推奨する発言をしています。が、時には順位を強く意識して取り組むことで得られる何かがあるということも理解していただけると思います。音楽が自由であるなら、競う姿勢も自由なわけですから。

 

しばらくした後、出版社(ASKS Winds)とのやり取りの流れで、お蔵入りの未出版曲があることをお伝えしました。曲を聞いていただいたところ大変高評価で、出版しようということになり、今に至ります。

 

今回の出版に際し、ご厚意をいただきましたASKS Windsの森様、他関係者に深く感謝いたします。

 

 

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以下駄文。

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■構想

難しい調への挑戦、楽器の機能上やりにくい運指の組み込み、演奏しやすい調と音域での伸びやかな演奏アピール、一般的な学生の取り組む音楽では使われない超低音でのアンサンブル。ただ単に高くて速い音による理不尽な難しさではなく、楽器性能を熟知した上での「やりがい」と、将来的に遭遇するであろう難しいソロ曲に取り組む前の「架け橋」としての効用を盛り込んであります。ユーフォニアムテューバの奏者であれば「おっ!」と感じてもらえる部分が見えるはずです。

 

コンクールのレギュレーションは8分以内というものでしたが、国内の室内楽コンクールに合わせた5分の曲にすることが極めて重要だと考えました。

また、この編成の性質上の欠陥として、どうしても陰鬱なサウンドになりやすいことと、音色が悪い意味で均一なので退屈な内容になりがちです。そういう引力に逆らい、多彩なサウンドを追求してみようと企図しました。

 

様々なジャンルの音楽を横断的に取り組んできました。自己紹介で稀に良く言うのが「幼少から家でシンセをいじってテクノを作り、通学中に友人が貸してくれたメタルを聞き、学校でバッハを練習し、毎年楽器を変えていました。」というものです。

そうした経験から、「低音金管楽器群で演奏させたら面白いはず」と思う古今東西のさまざまな音楽エッセンスを取り込んでいます。特にこの曲は「エマーソン・レイク・アンド・パーマー」や「YES」などに代表される1970年台の初期プログレッシブロックの要素が多く散りばめられています。そうしたプログレッシブロッククラシック音楽のエッセンスを強く取り込みつつロックの文法で発展したジャンルで、それを逆輸入しています。

 

■演奏に際しての注意

アンサンブル演奏に要求される技術は大きく2つに分けられます。

「一致性」と「独立性」です。

4人が一致した演奏をする場面と、単独のソロイスティックな場面を明確に切り分ける分析が必要です。

今日ではスマートフォンなどが普及し、簡易録音によって客観的なチェックをすることが容易です。積極的に録音し、離れた位置で聞いた時に自分が思っている通りの出音になっているかをチェックしてみてください。

 

・そのフレーズで使う音量の幅

音楽は音量と周波数でできています。

アンサンブルはその組み合わせです。

楽器ごとの特性は音域によって異なり、同じ音量で演奏しているつもりでも、音域によって異なる聞こえ方になってしまいます。優れた奏者は得意な音域だけ大きくなることが無いからうまく聞こえるということです。

自分が構えている楽器の距離だと、音域ごとの音量差を適切に感じ取ることが難しいものです。録音し、客観的に聞くことで、今のあなたの奏法で響きやすい音域と、響きにくい音域を明確に理解できるようになります。

 

すべてのテューバ奏者はこれを熟知しています。

低音域では多くの息が必要とされるので、長い音だというだけでとても困難になります。

長さだけを求めるなら誰でも長い音を鳴らせますが、どのくらいの音量であるべきか?となると、ただ伸ばすだけの音符でもとても難しいものに豹変します。

低音金管楽器の難しさは指先の難しさではなく、音量設計の難しさです。

 

・他の奏者が使える音量幅に寄り添う

どの楽器でも音量操作がやりやすい音域と、音量操作がほとんどできない音域があります。

自分が自分のパート譜を見て「こうしたい!」と思う演奏は、果たして他の人のパート譜の音域で可能でしょうか?

その場面でもっとも音量操作の難しい人に合わせて、4人の音量バランスを設計することで自然なアンサンブルが成立します。

「やりたいこと」と「やっていいこと」のバランス。

「やりたいこと」と「できないこと」のバランスをよく考え、譲り合い、

 

・過剰な歌い込みの弊害

往々にして問題になりやすいのは、メロディを「歌いこむ」際に、「感情過多」になってしまうことです。必要以上に音量が変化しすぎて、ソロの音量が伴奏より下に潜ってしまう状態です。

 

上の参考演奏は音楽学校の学生による短期間の練習によるものです。

中高生向けの曲ということもあり、彼らのような音楽学校の学生が短期間で組み立てられるレベルの曲になっています。

が、その演奏を聞いてもわかるとおり、ソロの音量が過剰に繊細になってしまっている箇所があります。過剰に小さくしようとすると伴奏に負けてしまうので、そのフレーズでの最大音量と最小音量を決めて、場面ごとに使う「音量幅」を設計してみてください。この設計の練習は今後のあらゆる音楽活動で役立つはずです。

 

同様に、「過剰な歌い込み」によって音程が不安定になることがあります。

これはバルブ金管楽器の構造的欠陥ですが、訓練によって均一な音程を作れるようになります。

積極的にビブラートの練習に取り組むことで音程の問題の多くは解決します

ビブラートの技術をマスターすることで、音程の操作幅に高い自由度が生まれます。まっすぐの音をマスターしてからビブラートに取り組む姿勢は謙虚ではありますが、逆に、この価値観によって多くの奏者が一定レベルより上に行けなくなっている弊害もあります。この機会に積極的にビブラートに取り組み、その上で「ここはまっすぐの方が良い!」と確信を持てる場面でのみビブラートをオフにするという方針が良いはずです。 

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