翻訳記事。Sonicscoopの記事の紹介です。
結論だけ書くと「音楽の本だけじゃなくて、ビジネス書を読め!」という内容が書かれています。
最近ビジネス書を読みましたか?
役に立つんだか意味が無いんだか、なんとも言えない背伸び感のある記事ですが、あえて紹介します。反面教師的にも役立つはずです。
(2018年12月26日更新)
部分的に翻訳しつつ、私の意見を付け加えておきます。
■海外記事だからと言って鵜呑みにするなよ?
原文はたいした内容じゃないです。
4つのライフハック手法を音楽業務でも使おうぜ、という程度の記事。
とかく日本人は「海外では」という接頭語を使うことで自分の意見の優位性を高めようとします。まぁ実際私もやるんですが。
でも、海外記事だからと言って、全てが優れているわけじゃないです。
このブログで以前に取り上げた海外記事とか、相当ひどいですよ。
eki-docomokirai.hatenablog.com
が、こういう記事でもかなりアクセス数が多く、ブログを書いている私としては「そんなクソ記事読まなくて良いから、もっと役立つ情報を集めろよ」と思うんです。
私が行っている音楽レッスンは、長年集めた本当に役に立つ方法論を紹介することがほとんどで、音楽の勉強をやっているだけでは絶対に接触できない分野の方法論も統合したものです。
その内容は今回の海外記事に書かれている程度のことは10年以上前に通過しています。「俺すげえアピール」的に言うと、私が教えていることはこの程度の海外記事より10年進んでいます。本を読めば書いてある程度の理論の話とか、1年たったらゴミクズになるプラグインや機材の話は皆無です。
■仕事術の話
「オーディオ・ライフハック。日々の音楽業務を改善する4つのターボチャージ」という感じのタイトルの記事です。
「ターボチャージって何?」と思うはずです。なかなか日本語に訳しにくい言葉なのですが、感じ敵にはエナジードリンクを飲むようなニュアンスです。
原文の記事は「音楽制作で役立ちそうなビジネス書の紹介」であり、「お前ら他の分野から学べ」と主張しています。
・音楽作業をライフハックするために
2004年ころからプログラマーを中心として広まった仕事改善術をライフハックと呼びます。まぁスラングだったり、典型的な「カタカナ用語」です。
私はその頃にプログラマーと接することが多く、ライフハックという言葉を随分多く聞きました。しかし残念なことに、彼らのほとんどはそういう情報を取り入れているとは思えないほど愚かでした。
単なる流行やノイズ情報に近いと感じます。
音楽界隈でわかりやすく例えると「もっと効率的にコード理論を身につける方法が無いかなー」と言って、楽することばかり考えている連中に良く似ています。情報を探しているようで、具体的な努力をしないから、いつまでたってもスキルが伸びないタイプ。
そういう人たちがこぞって「これは良いライフハックだ!」と叫んでいただけのようにしか思えないわけです。
・本棚に並べるための本「わたしはがんばってるから」
「私は海外流の洗練されたライフハックを勉強しています。」というアピールのために、それっぽい派手なタイトルの本で本棚を満たし、そういうデスクの写真をブログにアップすることで自分を演出する。2004年という時代はそういうブログが流行っていた頃です。国産SNSとして流行したmixiもそういう感じがありました。
今現在、2018年で言うところの「インスタばえ」とか、「スタバでMACを使う」ような「私頑張ってるアピール」が好きな人がライフハックという方法論にすがっていた、という印象です。
背伸びして見せるために本を飾る人、いますよね。
音楽界隈でも、使い物にならない理論本を並べてる人、多いじゃないですか。本はインテリアじゃねーんだよ。
■原文で紹介されている4つのライフハック
・1,「10days to Faster Reading」
速読法の技術の本です。
本から情報を入手するなら、1冊あたりにかける時間を減らす必要があります。
よくできた本は目次が良くまとまっていて、結論を明確に書いています。
クソ本は思わせぶりなオビとタイトル、壮大な目次で人を迷わせます。(危機を煽って救済策を述べるのは営業や詐欺の手法の定番です。)
とは言え、私が思うのは「1冊読んで、役立つことが1つでもあれば大収穫!」という小さな満足の積み重ねこそが重要だということです。
速読法で斜め読みしても「この本はクソっぽい」と判断することに偏ってしまい、結果として「本なんか読んでも役に立たない」という生き方が染み付いてしまいかねないからです。
近年ネットで良くみかけるのは「TVとか新聞とかオワコンだから」という切り捨て方です。たしかにTVも新聞も9割はクソ内容ですが、ほんの少しは糧になる情報があります。
摂取する母数を増やすことこそが最も効果的な栄養摂取です。
食べたお肉の全てが筋肉になるわけではありません。
大変下品な例えですが、食べたもののほとんどはエネルギーとして消費されるか、ウンコとなって排泄されるので、もっと食べなきゃ強い体になれないのは当然です。
情報を摂取するためには早食いスピード、速読術は絶対に重要だということです。
・2,「ポモドーロテクニック」
「25分作業して5分休む」という作業時間管理メソッドのことです。
別名は「キッチンタイマー作業」です。
「ポモドーロ・タイマー」と呼ばれていることもあります。
根拠としては、人間の脳がハイパフォーマンスを維持できる時間が25分くらいだとか、25+5=30で、30*3が90分。3ポモドーロで90分という大学の1講義の時間に相当する、という感じ。
ですから、ハイパフォーマンスが必要ない仕事では必要ありません。
集中力というものは個人差が大きいので、継続しつつ自分に合った数字を模索すると良いです。
業種によっては取り入れることが不可能なので、「ポモドーロテクニックという優れた仕事術があるんですよー^^」と言っても「うちじゃムリだろそれ」となるだけです。土台となる戦場がどういう環境なのかを見極めずに、新しく覚えた方法論を振りかざすのは阿呆のやることです。
ライフハックが流行したのは2000年以降ですが、ポモドーロテクニック自体はもっと古いです。「ポモドーロ」という名前は使っていなくても、学校の授業時間の根拠として知られており、誰もがすでに経験しています。授業時間は小学校では45分、中高では50分。大学では90分が標準です。
中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会(第4期第9回)議事録・配付資料 [資料2] 6.教育課程の基本的な枠組み−文部科学省
集中力は個人差があります。
また、作業の品種 によって必要とされる集中力のレベルと性質が違います。
ですから、単純作業でそれほどミスが生じる余地がないのであれば、もっと長い時間スパンで区切られることになります。(なので、「ポモドーロテクニックという海外で研究されている時間管理術があるから、私達の職場にも導入すべきだ!」と頭ごなしに導入するのは真性の阿呆のやることです。)
このブログはDTMを使った音楽制作者向けの記事をメインにしているブログなので、DTM的に例を挙げておきます。
アイディア出しはネタが尽きるまで徹底的にやるタイプの仕事ですから、ポモドーロテクニックは無価値です。
アイディアのパーツを結びつける加工は非常に繊細で、また、先読みの想像力が必要になるので、ポモドーロテクニックが有効です。
アレンジ初期段階では無意味で、アレンジ後半では有効です。
ミックス初期段階も同様です。何時間もやっていると、人間の耳は絶対に劣化(というか、正確には馴化)してくるので、積極的に耳をリフレッシュした方がトータルでの効率アップにつながります。
楽譜制作系の作業は単純作業なので、ミス探し以外はいくら長時間でも一区切りするところまで継続した方が統一感のある浄書になるでしょう。
そもそもライフハックが流行した時代に、それっぽい技術をかき集めるのが流行した(情報収集に特価したギークな人たちの間で、)という時代の風潮ですから、それ以前にも優れた技術は無数にあるわけです。
ライフハックというカテゴリに入っていなくても、受験勉強のための効率的な方法論や、企業での研修の技術、異業種交流のための技術などは大昔からあります。
ライフハックという言葉が生まれた時代に高度な効率化技術が生まれたわけではありません。ライフハックという言葉が流行した頃に、積極的な効率技術の収集が行われただけです。勘違いしてはいけません。
音楽界隈では2010年すぎくらいから散見されます。
音楽でこのメソッドが使われる、というか、プレイヤーの間では遥か昔から行われています。演奏とは体力と集中力なので、意図的に時間をあけることで本番演奏時のパフォーマンスを向上できるようになるよ、という練習方法です。10回練習した後に1回成功させるだけで良いのはインターネット用の動画演奏の人だけで、ライブをやる人は音出しできない時間の後にドン!と演奏できなければいけないので必須です。それを成功させるためのメソッドです。
スポーツの世界でも同じです。一発勝負で成功するためには必須です。この手のメソッドは音楽やビジネスより、スポーツマンから学ぶことの方が多いです。音楽家の付き合いだけではなく、スポーツマンとの付き合いもするべきだと私は本気で思っています。(もちろん部活レベルじゃなくて、それなり以上にハイレベルな人との付き合いを作るのが良いです。)
DTM的には長時間の作業で「バカ耳」になってしまうので、休憩を積極的に挟むべきというだけの話です。
ただし、DTM的に問題になるのは25分でどのくらいの作業が可能か?というスピード技術の問題です。ひとつひとつの編集項目に対して、毎回「あの操作ってどのメニューだったかな?」と探しているようだと、とてもじゃないですが25分では何の成果も出ません。自分にとって必要な全ての編集操作を熟知し、素早く実装できる腕が無いとまったく無意味です。だから私はショートカットやマクロなど、環境をきっちり作ることを推奨しているんです。
スピード作業ができる環境と腕があって、初めてポモドーロテクニックを取り入れる準備が整うということです。
あと、25分はマシーンのように作業しなきゃダメですよ!
・3,「Getting things done」
BioMedサーカス.com - 医学生物学研究の総合ポータルサイト
Getting Things Done - Wikipedia
作業を分類し、あとで行う。
・4,「エリートマインド」
東洋経済で執筆しているネタとしか思えない背伸びライター、ムーギー・キム氏が関わっている本。
その筋では有名な、典型的なエリートマウンティングの尖兵です。
言ってることは非常にもっともらしいのですが、「勝ち組、負け組」で世界を分けて考え、成果よりもスタバでMACノートを開くことで「勝ち組っぽい自分に酔える」系のファッションを優先するタイプです。
具体的には東洋経済オンラインで氏の記事を流し見し、コメントで総ツッコミされている様子を見ると良いでしょう。
ムーギー・キム | 著者ページ | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
氏に対する面白い評価記事があるので、ネタとしてどーぞ。
たしかに氏が言ってることは本当にすばらしいんですが、見せかけるためのテクニックとか、理想論とか、近年の言い方だとマウンティングのための技術なんです。
今回のSonicScoopのライターも、「他分野の意識高い系」に騙されちゃったんだと思います。
まぁネタとしては本当に面白いので、ムーギー・キム氏のことはもっと知られるべきだと思います。DTM的に言うと、最新機材を買い集めて「一流のDTMerは」「プロは」「海外は」と言って偉そうにしてる感じの人です。
そういう人の論法を見分けて遠ざけるためにも、おかしな人が使う論法の特徴を知っておく必要があると言えるでしょう。
■個人的に追加したいもう1冊
『人を動かす』1936年初版。
これは文句なしにオススメです。
個人のみで音楽を作っている人なら不要です。
誰かと組んで作品を作ったり、依頼を受けて作業をする人が、対人ストレスを解消するために非常に効果的だと思います。
ビジネス本、自己啓発本の金字塔。デール・カーネギーの名著です。
心理学の勉強をしても心理学の歴史の話ばかりなので、人間の心理を現場で観察し続けた結果として執筆された本書を読む方が良いでしょう。(今から心理学を学ぶくらいなら、という話。)
自己啓発っていうとウサン臭い感じがして当然ですが、乱暴な言い方をするとあらゆる自己啓発本はこの『人を動かす』を源流としていると言っても過言ではありません。
ただ、とても古い本なので、今の時代に合わない内容も多いです。
その辺を時代を超えて読み替えられない能無しのために、「今の時代の日本のこの業界で言うとこういうことだよ」と書き換えているのがあらゆる啓発本だということです。
何冊も啓発本を買い集めたりセミナーに行く必要は無いので、この本をしっかりと読むことをおすすめします。読み替える力も養われるので、今後遭遇するであろうノイズ情報をシャットダウンできるようになるはずです。
なお、『人を動かす』という壮大なタイトルですが、書いてある内容は「他人を動かそうと思ってもムダだから、自分のやり方を変えれば良い。先に頭を下げたほうが優位に立てる」という内容です。
本気で読み込むに値する本なのでぜひ買って読んでみてください。
・蛇足の紹介『孫子兵法』
あともう1冊紹介したい本は『孫子兵法』なのですが、ビジネス書界隈では非常に評判が悪い題材です。耳あたりの良い、かっこいい言葉が多いのですが、根本的に兵法書の読み方を間違えて、一部分の言葉だけでゴリ押ししている本が多すぎます。孫子兵法をビジネス本化したものは95割が地雷なのは常識です。もし読むならビジネス要素の入っていない本が良いと思います。
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■追記更新
2018年12月26日追記。
「仕事が終わっていないのに残業ゼロを目指すな」というお話です。
ショッキングな事件をうけて「我が社は残業ゼロだ」と叫ぶために残業を減らすのではなく、ちゃんと仕事を終わらせた上で残業を無くそうよ、というお話です。
これは我々音楽家が作品を作るにあたって、特にアマチュアの人が「時短」だけを目標にしてはいけないということです。
アマチュアDTM界隈で短時間で制作するコミューンがあるようですが、それはちゃんとした作品を作れるようになった後にやることです。
中途半端さの言い訳で「でもこれはスピード制作ですから」と言うのは百害あって一利なしです。私はそう断言します。絶対にやめるべきです。
ちゃんとした作品を作れるようになった上で、同等の作品を短時間で作れるようにするのが音楽制作における「時短」の価値です。