eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

ミックスを先に行うべき理由(1)

DTM、作編曲、ミックス/マスタリングの作業のお話です。

個人で仕上げる場合のワークフローについて簡潔に書いておきます。

(2019年11月18日更新)

 

 

■はじめに

この記事で紹介するやり方の一部もしくは全部を否定する人がいるのは事実です。が、実際にこういうやり方を推奨している人が私以外にもいるのもまた事実です。

「超一流プロはそんなやり方しない」という理想論を収集したい人にとっては不愉快な内容であることをあらかじめお断りしておきます。

 

■テンプレートによる高速化

スピード制作の時には毎回白紙のプロジェクトから作業をすると時間の無駄です。

可能な部分はテンプレート化し、無駄を省きます。

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■テンプレート制作の注意

なんでも入れる過ぎると重たいテンプレートになってしまいます。

マシンパワーと相談し、「快適さ重視」のテンプレートにするべきです。

重すぎるテンプレートは、不要な部分を削除したり非表示にする作業だけで時間が消費されてしまいます。

 

 

・テンプレートの制作手順

テンプレートを作るための作業ではなく、1曲作りながらテンプレートを煮詰めるべきです。

その方が実用的なテンプレートになります。

 

テンプレート制作のためだけの作業をすると、思いついた楽器をなんでも入れてしまい、重たすぎて使い物にならないテンプレートになってしまいます。

 

1曲できあがったら別名保存し、テンプレートとして保存する準備をします。

音符やMIDI CC、オートメーションの削除、テンポやマーカー情報などをどんどん削除します。

また、その曲特有のクセのあるエフェクトはすべて削除します。

 

・テンプレートは1日にしてならず

これらがすべて完了したらテンプレートとして保存し、似たような編成・ジャンルの曲をもう一度作り、テンプレートとしての完成度をチェックしていきます。

どうせ初めから優れたテンプレートはできあがりません。

ここまでの作業を繰り返し、数曲作っていく中でテンプレートの質を洗練させていけば良いです。

 

・テンプレート不要論

「テンプレートとして保存」することを目的にしないスタイルも紹介しておきます。

似たような曲を作る時に、過去に作った似たような曲のプロジェクトファイルを複製し、音符等の情報だけを削除し、臨時のテンプレートとして連作していく方法もオススメです。

 

■ミキサー部分のテンプレート化

ここで言う「ミキサー設定」とは、トラックごとの設定ではありません。

ミキサー全体の設定をそのまま残すという意味です。

曲を作るたびに、トラック個別の設定を毎回選び直すのはスピードに貢献しません。

ラフミックスされた状態のテンプレートをそのまま使うべきです。

 

・ラフミックス

テンプレート化されることを前提とする場合、いわゆる「ラフミックス」を心がけて作ります。

妙に細かいミックス(オートメーション)を行わず、とにかくスピード制作を目指すということです。

ラフミックスがどの程度のレベルなのかはケースバイケースですが、コツは「絶対にやらないと致命的だ!」と感じる点以外を放置するスタイルだと思っておくと良いはずです。

 

・仮マスタリング

そこそこ仕上げのマスタリングの状態もテンプレートに含めておくべきです。

まだまだ異論がある人も多いようですが、マスタリング用プラグインをさしたまま作編曲しても構いません。

結局はマスタリングされた音をリリースするのですから、最初からその音を聞きながら作業しても同じです。

この方法は俗にファイクマスタリング”fake mastering”と呼ばれることもあります。

theproaudiofiles.com

フェイクマスタリングという言葉より、プリマスタリングという呼び方の方が浸透しているかもしれません。

いずれにしても「仮のマスタリング」をしておくことで、本マスタリングで大きく崩されることを予見することができるメリットがあります。

 

音楽の製作工程の順序を「作曲編曲をやって、次にミックス。全て終わったらマスタリング」と解説しているサイトや書籍があります。しかし、実際にはこうした「仮」の作業が挿入されます。作曲中に仮の音色を使うことや、仮のアレンジをすることと同じです。

完全に切り分けることをプロの真似だと思ってはいけません。

・分業について考える

ミックス/マスタリングの教科書に書かれているのは「分業スタイル」の話です。

また、PCスペックが低く、ちょっとしたマキシマイザーやリニアフェーズEQを使っただけで音がプチプチ鳴ってしまう時代の話です。

近年のそこそこハイスペックなPCなら、マスタリング用エフェクトを幾つか使用していても、普通に多数のシンセを鳴らしまくれるはずです。

 

この方法にはもちろんデメリットもありますが、メリットの方が大きいと言えます。

 

特に、分業スタイルで問題になることが多かったのは、音圧上げによってリバーブ/ディレイが必要以上に持ち上がってしまう問題と、マルチバンドリミッターの作用によって帯域バランスが崩れてしまうことです。分業の教科書では、これを見越して美しいバランスの2MIXを作るように書かれていますが、肝心の「プロの2MIX」がどんな音なのかをちゃんと聞いたことがある(いつでも聞けるように所有している)人は皆無です。(仮にいくつかのプロの2MIXを所有していたとしても、あなたが作りたいあらゆるジャンルの参考2MIXを所有している人はおそらく存在しないはずです。)

基準も分からないサウンドを目指すだったら最初からマスタリングエフェクトを通した音を聞きながら作業した方が良いよ、という理屈です。

参考曲と比較しつつ、マスタリング用エフェクトを通して快適な空間処理に聞こえるように仕上げてみてください。その上でマスタリング用エフェクトをバイパスすれば、2MIXでどのくらいの薄いリバーブなのかを実感できるはずです。良い2MIXを逆算で作れるわけです。

 

・仮マスタリングを用いる際の最大の注意点

それらはあくまでも仮の措置です

外した時にもそれなりに丁寧な2mixとして成立するようにしておきましょう。

そうしないと自分以外がマスタリングをした時にめちゃくちゃなことになります。

あくまでも「雑に音圧上げをされた際にどうなるか?」のチェックを事前にするということです。誤解をしないようにお願いします。

 

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■作編曲の開始

作編曲はテンプレートから行います。

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■曲固有の要素をテンプレにつけたす

テンプレートだけではまともな曲になりません。

 

その曲専用の楽器やシンセ音色などが必要になるはずです。

そういう専用音色を追加しつつ、ラフミックスのサウンドで妥協しつつ、とにかく曲を書き進めます。

 

同様に、その曲専用の演出が必要です。ソロ楽器のボリュームを一時的に大きくするオートメーションや、瞬間的にディレイ/リバーブを大きくかける処理などです。

そういう要素はテンプレートに含めることが絶対にできないので、曲ごとに毎回行う必要があります。

この理由により、テンプレートは絶対に完璧なものになりません。

逆に言えば、どの要素をテンプレート化し、どの要素をテンプレートで切り捨てるかを実感できるのは、そのテンプレートを実際に使って次の1曲を作っている時です。

 

テンプレート作りのためだけの作業は本当に無意味です。

 

■ミックス/マスタリングは先に行う!?

まじめにミックスの勉強をしてきた人は「ミックスはすべてのトラックをオーディオ化してから」というスタイルを身に着けているはずです。

そのスタイルは「作曲(編曲)」「ミックスエンジニア」が完全分業の、いわゆるトッププロの仕事のスタイルです。

作曲家が曲を作り、演奏家が演奏し、レコーディングエンジニアが録音し、オーディオファイルをミキサーが加工し、マスタリングエンジニアがマスタリングする、という分業です。

自宅DTMでそれなりにハイスペックなコンピューターを使っていて、最後まで一人で仕上げるなら、オーディオ化は必要ありません。

 

テンプレ段階ですでにラフミックスが済んでいるということは、音符を1つも書いていない状態なのにミックスとマスタリングがそこそこ終わっているということになります。

これを意外だと感じるか、当然だと考えるかで、DTMの作業スピードは桁違いです。

すでにバランスが整えられている状態で作編曲をするということです。

 

■オーディオ化のメリットはあるのか?

個人仕上げのDTMで一度オーディオ化するメリットは「アレンジに戻れなくするため」だと思った方が良いかもしれません。オーディオ化されてしまえば、ミックスしながらMIDI打ち込みの甘さを感じたとしても、ピアノロールを開くことができません。

ただ、近年ではこのメリットすらなくなりつつあります。なぜなら、オーディオ状態でも多彩な音程加工ができるようになってきたからです。よもするとMIDI打ち込みと大差ないエディットができてしまいます。

こうした時代の流れもあるので、個人仕上げでは一度オーディオ化するメリットは無くなりつつあると言えます。

 

・音質より重要なこと

オーディオ化した方がエフェクトの乗りが良いと主張する人がいますが、プラセボの一種だと思います。

そんな些細なことよりも重要なのは、ランダマイス演奏の抑制です。細かい説明は割愛しますが、毎回必ず同じ出音になるのがオーディオ化のメリットです。

が、少々のランダマイズ演奏程度で曲がぶっ壊れるようなことは皆無だと言えます。

もしあなたが些細なランダマイズを聞き分けられるのであれば、あなたが神経質だという証明です。

神経質であるならば、作編曲が終わった後で完全に分割されたミックス作業に移行したとしても、その神経質さによって「ここは打ち込みをもう一度直したい」という衝動が起きるはずです。つまり、オーディオ化と打ち込みの修正を何度も繰り返すことになり、二重三重の意味で時間をロスすることになります。(しまいには疲れてきて神経質さがすり減り、当初の建前だったランダマイズの固定化すらどうでも良くなってしまいます。実際にそういう矛盾を抱えている人を多く見てきました。)

神経質さを良い方向に発揮したいなら、オーディオ化せず、最後までMIDI修正が可能な状態をキープした方が良いとは思いませんか?(そして往々にしてDTMをやる人は神経質な傾向がありますね。)

 

■2MIXの重要性

2MIXとはマスタリング処理をしていない状態のステレオオーディオのことです。

上の説明で「マスタリング用エフェクト込みで作編曲をする」と書きましたが、2MIXをきっちり残しておくことは重要です。

 

趣味のDTMだとしても、2MIXを残しておく理由は明確です。

あとで自分の曲をまとめてCD化したり、友達と同人CDを作ったりする場合に、2MIXがちゃんと残してあれば、綺麗にアルバムマスタリングができるからです。

少々おかしな状態でも構わないので、2MIXは必ず書き出して永久保存するようにしましょう。

 

・2MIXを作るタイミングと注意点

2MIXを作るのは仕上げのマスタリングが終わってからで構いません。

本来であれば2MIXが先で、2MIXのステレオオーディオを使ってマスタリングをします。

しかし、2MIXは公開するわけでも、マスタリングだけを行う人に手渡すわけでもありません。

完成品を作ったら一旦終わってしまって、それから2MIXを作ります。

 

注意点はマスタリングプロセスが過剰なものだと、マスタリングエフェクトを外した時におかしなバランスの2MIXが現れてしまいます。

が、それでも構いません。

 

このワークフローでの2MIXは、すでに完成しているマスタリング済みオーディオファイルに至る中間物ではなく、「将来再利用するために残すためのもの」です。

なので、この後作る2MIXがマスタリングが終わったものに直結できるものでなくても構いません。

 

目指す2MIXの仕上がりは、今後再利用する時に使いやすい状態です。

よく言われているように、-6dBFS程度の最大ピークあたりであればなんでも構いません。

 

問題はサンプリングレートです。

古いマスタリングの教科書で推奨されている41/16で作ってしまうと、今時のマスタリング入稿では低音質だとされつつあります。48/24やそれ以上のハイサンプリングレート(ハイレゾ)で残しておいたほうがベターでしょう。

(でも実際問題として、ちゃんとマスタリングプロセスを経るなら別に41/16でも構わないんですけどね。)

 

 

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