(人気記事!)DTM、MIXに関する記事です。
海外(英語)のミックス情報を許可済みの上で翻訳・要約して紹介する内容です。
今回はイコライザーの使い方について紹介します。
この記事はSonic Scoopを経由して執筆者(Joel Wanasek氏(リンク))に正式に許可を貰った上で要約した内容を紹介するものです。
英語は得意ではないので、誤訳・意訳が生じていることについてはご容赦願います。
全体・部分の引用は控えてください。
(2020年8月23日更新、単語約のケアレスミス修正。報告ありがとうございます。)
■はじめに
今回の記事はSonic Scoopさん(アメリカ、ニューヨーク拠点)の記事を紹介します。
この記事は翻訳記事である以上に、重要な部分を短くまとめた要約記事です。原文(非常に長いです!)を読みたい人は上のリンク先で読んでください。
■独学で間違えてしまった人の救いになるか?
日本国内で簡単に入手できるEQの使い方の情報には誤った方法論があり、それはとても広まってしまっているように感じます。
かくいう私もDTMでのミックスについて独学していた頃に明らかに誤ったやり方を覚えてしまい、その後エンジニアの先生にマンツーマンで教わって大きく軌道修正をしました。
この記事で紹介するEQの使い方はその先生に教わった方法論と極めて酷似しており、私がDTMのレッスンで教えている内容ともほぼ同じです。
つまり、それなりに勉強した人にとって、この記事の内容は至極当たり前のものです。
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では、ここから下が本編です。
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■EQの間違い1、EQチャートに依存するのをやめよう
下のようなEQチャートまとめ画像を見たことがあると思います。
今すぐ捨ててください!
チャートに書かれていることのためにEQを使っても良い音にはなりません。
こうしたチャートはあくまでも「ゆるいガイドライン」程度でしかなく、曲と録音物(打ち込みの場合はシンセ/サンプル)によって異なります。
つまり、日本でのDTM/MIXベストセラー書籍になっているEQレシピ系の本もゆるいガイドラインだったり、参考資料程度でしかないので、根本的には無意味です。
他、海外記事でも「こういうの」が定期的に出てきますが、それらを一刀両断する提言です。
EQ Cheat Sheet for Over 20+ Instruments :: Abletunes Blog
「EQチートシートは今すぐ捨てて!」という言葉を知った上で改めて上のリンク先を見てみてください。マニュアル好きな人にとっては価値があるもののように見えるのは分かります。数値で答えそのものを得た気分になれるからです。でも、実際にチートシートに従ってミックスをしたところでろくな結果になりません。あくまでも参考程度のものだと思っておきましょう。実際のミックス作業ではまったく役に立ちません。
■EQの間違い2、アナライザとマッチングEQに依存するのをやめよう
最近のDAWには標準装備されていて、ミックスを習得する初期には役に立ちます。
しかし、あくまでも、「怪我人が使う松葉杖」「幼児が自転車につける補助輪」だと思ってください。
そういう補助具を使っていると耳が鍛えられません。
・編者注:誤解をさけるための注釈
この部分について誤解をしてしまった人がいたので追記します。
「アナライザを使っていると耳が育たない」というのはある種の「ベキ論」です。原文に書かれているとおり、怪我人は松葉杖が必要です。「松葉杖を使うのは甘え」なんて言うのはおかしいです。自転車の練習をしている幼児をつかまえて「補助輪付きの自転車に乗っているとプロレーサーになれない」と言っているようなものです。
さらに言えば、ボクシングの練習をしている人がヘッドギア(防具)を使っているのを見て「試合でヘッドギアを使うボクサーはいない。練習の時も防具を使うな!」と言っているようなものです。
ナンセンスな理屈の当てはめ方をしてはいけません!
我々音楽家も、精密なミックスをする時にはアナライザを使っても構いませんし(その方が早いですし、正確に作業できます)、疲れている時はなおさらです。
納品用に音量調節する際にはレベルメーターを使うのは当然です。また、モニター機器やエフェクタの性質を検査するためにアナライザを使うのは当然です。
あくまでも「耳をトレーニングする練習目的の時は補助具を使わない」ということです。
■EQの間違い3、基本をすっ飛ばすのをやめよう
EQは普通の使い方、基本的な使い方をしましょう。
極端に細いQで大量にカットせず、大きなQにしてゆるやかに1箇所をカットするべき。これが普通のEQの使い方です。
「凝ったことをやっている」「すごいことをやっている」ふりをするのは初心者・中級者に多い。私もそうだった。
私も昔、ミックスのレッスンDVDで全てのチャンネルに8個のプラグインを挿しているのを見て、真似していたことがあります。プラグインを大量に使わなければ良い音にならないと思い込んでいたからです。
でも経験を積むに従って、作業スピードを速くする必要性から、プラグインの使用数を減らした。そうするとプロっぽい音になった。シンプルだが勝負できるサウンドになった。
優れた同業者と出会い、彼らの仕事を見てみたら、私と同じやり方だった。
そこにはネットのフォーラムで語られているようなトリッキーなEQ用法、風変わりでコソコソしたEQ用法をする人はいなかった。
ジグソーパズルのピース正確に組み立てるように「ハマる」方法だった。
■学習曲線
EQスキルの上達度合い、学習曲線は「急激な段差」があるものだと私は考えています。
訓練を積み重ねると、ある時ガクン!と1段階上昇します。
人間の脳は段階的に学習し、ある時、飛躍的にブレイクスルーが起きるものです。
脳科学の分野では「神経がつながる」「記憶がネットワーク化する」と言われています。
脳の中で毎日少しずつ構築され、ある時ガクン!とギアが入るわけです。
はじめのうち、あなたの耳(脳)は周波数を聞き取ることに時間がかかります。
聞き取れる帯域ごとに異なる訓練時間を要します。
ある帯域の扱いは得意でも、苦手な帯域、聞き取りにくい帯域が存在するという意味です。
・著者の「学習曲線」体験談
私は初めの頃、音を明るくしたり暗くするためにシェルビングを使っていましたが、ベル・フィルターでミッドレンジを触ることはありませんでした。
しばらくしてミッドレンジのためにベル・フィルターを使うようになりました。
真面目に取り組むようになり、様々なタイプのEQシェイプを使うようになりミックスは改善していきましたが、まだまだアマチュアっぽい音でした。
長年に渡り、「特定の周波数が気になって仕方がない」症状がありました。500hzが気になりすぎる時期、4kHzとか2kHzばかり気になる時期。900Hzに執着していたこともありました。
3ヶ月ごとに聞こえ方が大きく変わり、そこを調整しすぎていました。
しかし、「気になる周波数帯」ごとにそれぞれ学習できたこともあります。それは収穫と呼べるものでした。
何年も経ってミックス方法は改善し、ミックスを専門分野とすることを実現しました。
■LDFCメソッドとは何か?
- Listen(聴く)
- Diagnose(診断)
- Fix(修正)
- Compare(比較)
これらの頭文字を取って「LDFC」です。
・1,Listen(聴く)
EQの数値を動かす前にちゃんと音を聴くこと。
加工する1つのトラックだけを聴く(Listen)のではなく、曲全体に対する影響を聴く(Listen)こと。
- EQ加工が全体のバランスに貢献していることを確かめること。
- 加工による相乗効果は起きているか?
- 矛盾した加工をしていないか?
- 噛み合っているか?
- 他の音をマスキングしていないか?
- ヘッドルームに悪影響は無いか?
- バランスは良いか?
- 迷惑を与えていないか?
これらを良く考え、批判的な姿勢でチェックしましょう。
・2,Diagnose(診断)
集中して聴くことによって診断を進めます。
EQの上達が難しいのは「段階的な学習(学習曲線)」があるからです。学習曲線については上で述べたとおりです。
問題の診断(Diagnose)は、
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今扱っているトラックを見る
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周辺トラックを見る
たとえば、ギター単体の音を聞いて痛いと思ったら高音を「カット」するのと同様に、スネアのパンチが出ないならベースのミッドを「カット」するという手法です。この時、スネアのミッドは「ゲイン」しません。
今EQで加工しようと思ったトラックでEQを操作せずに、周辺のトラックを見てそちらをカットする方法があります。
どちらの方法が正しいのか2つの方法でアプローチしてみてください。
やり直す時には数値を微調整するのではなく、逆のアプローチを試してみてください。
(日本でよく見るEQテクニックの話では、とにかくカットが正しいかのように語られていることが多いです。)
・3,Fix(修正)
問題が診断(Diagnose)できたら、修正(Fix)することができます。修正のためにはEQタイプを正しく理解することが必要です。
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ハイ・シェルビングEQ
極端(Extreme)な加工。明るさ、暖かさ。 -
レゾナンス
ブースト/カットの手前に「山」を作れます。
(訳者注 - モダンなプラグインEQの場合は様々なレゾナンス種があり、また、そもそもレゾナンスを使うよりバンド数を多くして操作できます。元の記事はバンド数の少ない実機EQを想定した記事なので、レゾナンスを積極的に活用する方向性で説明を書いています。) -
ベル・シェイプ
特定周波数帯域の加工に便利です。明るくしたいトラックでゲインします。 -
狭いベル・シェイプ
外科手術的な加工用。ピンポイントでマスキングを引き起こしている原因の周波数を除去する時に使います。 -
カット・フィルター
不要なローエンド/トップエンドを除去する時に使います。
(訳者注 - 一般に「ミックスノウハウ」の記事は生録音をミックスする話です。打ち込み用音源の話ではありません!市販ドラムシンセなどの多くはサンプル収録時にすでに加工済みであることがほとんどですから、二重に除去してしまうことが無いように注意するべきです。ちゃんと「Listen」「Diagnose」してから「Fix」しましょう!)
診断(Diagnose)した結果に対して最適なEQタイプを選択したら、それを使って調整をします。
・4,Compare(比較)
ほとんどのEQはバイパス機能を持っています。
バイパスボタンを押して一時的にEQ機能を無効化し、無加工の音と比較(Compare)してみます。
EQのバイパス有り無しで聞いてみて、EQした状態の方が良い音になっていますか?
もしEQした結果おかしな音になっているなら、もう一度やりなおします。やり直す時は、たぶん「まったく逆のやり方」試してみてください。やりなおす時には、数値の微調整ではなく、根本的に逆の方法を模索してください。
良い音になっているなら先へ進みましょう!
■LDFCを鍛える方法
新しい曲に着手するたびに「さぁ練習するぞ!」と思っていても遅いペースでしか成長できません。
しっかり訓練した人は瞬間的、あるいは自動的と言える速さでEQを的確に扱います。
でも、よく訓練されている人の操作を見て「鬼はええよw」と思っていても、本人の感覚としてはスローモーションのように感じています。ミックスをしている人と、そばで聞いている人とのスピード感覚は異なります。
速くEQ作業できるようになるための訓練方法は以下のやり方があります。
- 毎日30分~45分のミックス練習時間を作る。
- 同じ曲ではなく、違う曲で練習する。
細かい部分に注目せずに。 - できるだけ速くミックスしてみる。
ただし、直感的に!
分析的な考え方で挑まないのが上達のコツ! - アナライザや、マッチングEQを使わない。
トレーニングの成果が下がります。
ちゃんとEQスキルを身につければ、アナライザやマッチングEQを使うよりも良い結果にすることができるようになります。 - 30分~45分以内に全体の具体的な音量バランスとEQにします。
- 出来上がったサウンドをリファレンス曲(参考曲)と比較してみましょう。
これはEQトレーニングなので、コンプ感や音圧感は無視。EQカーブについて集中してチェックします。 - 毎日繰り返して!近道はありません!
あなたのスキルを強化するのは一貫したトレーニング、責任感、そして方法論(メソッド)を持つことです。怠惰にならないこと。
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■さいごに
以上が引用元の記事の翻訳・要約です。
訳者の私の経験も書き添えておきます。
私はもともと楽器の演奏と指導、楽譜での作編曲が専門分野でした。あとMIDI打ち込み。
だから、電気的なミックス工程については20代後半まで無知でした。それからミックスを独学しつつオーディオファイル納品も行うようになったのですが、ミックスについては書籍に書かれていることを自力で勉強してもなかなか上達できませんでした。
しばらく悩んだ後、エンジニアの知人を師としてマンツーマンで教えてもらう機会を得ました。
そこでいろいろな音を聞きながら、「あなたの耳は今こういう状態ですね」という診断をしてもらいました。元記事で言うところの「気になる周波数帯」がころころ移動している状態だった、ということです。
その時点での私の耳(脳)が、特定の周波数帯を極端に嫌がる傾向があることを先生は見抜いてくれました。また、楽器演奏の経験が多いことから、音量についての感覚はすでに卓越しているとも診断してくれました。
その後は苦手な要素に対してどのように向き合うべきかを教わり、偏った知識と、こだわりの弊害を取り除く指導を受けました。
何が言いたいのかと言うと、今回紹介した「LDFCメソッド」でさえ、独学では学習速度が遅くなってしまう可能性があることと、間違った方向に行ってしまう恐れがあるということです。
何事においても指導者がいたほうがベターなのは言うまでもありません。
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■感想
この記事の素晴らしい点は一流プロが「自分も昔はできなかった」「こうやって上達した」「途中段階ではこうだった」という話を正直に述べている点です。
一方、良くない先生は格好つけるためか、「まず一流の道具を買え」的な話ばかりです。しかもそれが提携しているメーカーの品物を売るための広告でしかないことが多いです。
それどころかこの記事では「プラグインをたくさん使わなくても良い方向性」を提示してくれています。
上達のために必要なのは「今のレベルではどういうトレーニングをするべきか?」ということを知ることです。一流プロと同じ道具を使っても同じようになれるわけではありません。
■レッスン宣伝
私のオンライン個人レッスンでもいろいろな技術を指導しています。
今回紹介した記事のように、独学だと間違いやすい点や、今のあなたに必要なトレーングメニューなどもアドバイスしています。
「プロの◯◯と会ったことがある」とか、「すでに製造中止になっているビンテージの◯◯を持っている」という自慢話をして、「俺の先生すげーんだぜ!」と自慢できるようにするためのレッスンではありません。
興味がある人からの連絡をお待ちしています。
毎週の定期レッスンや、単発レッスンなど、オンデマンドでOKです。