先日のミックス談義の最中にちょっと気になったので3種類のディエッサーの比較検証をしておきました。
(2018年3月26日更新。Waves Desserのバグ説明について追記。)
ノイズに対して各種ディエッサー処理をした結果を比較してみます。
上のアナライザはほぼ水平に出力されるホワイトノイズに対し、ディエッサーをかけた結果です。特定の帯域が削られている様子がわかります。
■Wavesディエッサー
試したバージョンはV9.3.0.Build29537です。バージョン表示はプラグインのWマークを押すと出てきます。
上のアナライザでの赤い曲線がWaves Deesserです。
デフォルトではローパスフィルター(ハイカット)になっています。これをバンドパスフィルターに変更しても効果はローパスのままというバグがあります。つまりWavesのディエッサーは特定帯域のみを削るバンドパスフィルターにはできません!
ローパスの角度は-12dB/oct.くらいです。
指定した帯域で-12dBなので、そのかなり手前の帯域から緩やかにハイ落ちしてくるということです。デフォルトの数字が5506なので、3000あたりで既に-6dBくらい削れていることになります。
これを「歯擦音は8000辺りだからー」とか言いながら8000に数値指定しても極めて無意味な結果になります。で、「Waves使えねえ!」あるいは「Wavesつええ!」となるわけです。
フィルター角度が浅いので8000辺りを削ろうと思ったら、もっと手前から削らないと8000あたりでしっかりした効果が狙えないということです。
言い換えるとかなり強い下げ方にしないと効果が望めないということです。
また、各種加工済みの音、特にインサートリバーブ済みの素材など(ディエッサーはボーカルだけに使うというわけではありません)に対して使うと超高周波帯までローパスされてしまうので大きな違和感の原因にもなるので要注意です。
この特性を無視してディエッサーについて語っていた人がいたのでこんな記事を書いています。Wavesのはあなたが期待している効果は出ていなかったという証拠です。イメージで語らず、ちゃんとプラグインの性質について検証を行うべきです。
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上の内容を読まずにGUIにボタンがあることだけを根拠に「分かりやすいところにボタンあるのに」と指摘している人がいたので別の言い方をしておきます。
たしかにバンドパスにするボタンはありますが、バンドパスとして挙動しない、と私は言っています。
それを押してバンドパスにしようとしても、加工結果はバンドパスになりません。ということです。2種類どちらのモードにしても結果はローパスです。厳密に言えばシェルビング的です。
2種類のモードは下のようになります。
ノイズ音を分岐させ、異なる設定のWaves Deesserに通し、マルチアナライザで3種を見るとこうなる。(設定はどちらも2000/40)
もう1枚。別環境で同一設定。
ということです。
うちではこうなりますよ、という話です。
そちらの環境で正しく動作すると主張し、それを根拠に記事の訂正を求めるかのような態度を取られても、こちらの環境でバグがあることは間違いありませんし、他の人の環境でも再現性があるのは事実です。
自分の環境で同じようにならないからと言って、当ブログを中傷するのはやめてね。
なおこの記事で使用したWaves Deesserのバージョンは、9.91.0.7 Build 106399です。
■Steinbergディエッサー(旧)
Cubase6.0系付属のものです。
上のアナライザの青い曲線がSteinberg Cubase6系の Deesserです。(※これはCubase6系の古い付属プラグインです。新しいCubaseのDeesserは帯域可変、低域と高域のスルー帯域を設定できる+サイドチェインできる高機能なものになっています。)
フォーカスが7200Hzあたりで固定されているので使いにくいです。
が、バンドパスフィルターとしては正しく機能しています。
「Wavesを試してもイマイチで、ダメ元で付属に変えたら良い感じだった」と感じる原因は、つまりWavesがローパスフィルタだからです。あなたが欲しかったのはバンドパスフィルタだったということです。
逆に言えば、付属のディエッサーがイマイチでWavesが良いと思う場合、それは「特定帯域をピンポイントで削る効果が欲しかった」のではなくて、単にローパスフィルターの効果が欲しかったということです。適材適所ですね。
個人的な用法だとボーカル以外の楽器や効果音に対して使う時には割りと良い感じになりやすいのでたまに使っています。
■Toneboosters FLX
ディエッサーの話ですが、多機能ダイナミックEQをディエッサーとして使っても構いません。そもそもディエッサーは帯域指定ダイナミックコンプなので、FLXのようなパラメタの多いダイナミックEQで代替できます。この方法の欠点はプラグインによる負荷が高くなること。無駄にたくさんの処理を通過させることになるので当然ですね。
Wavesと同じ5506Hzにフォーカス、Qは2.0です。もっと鋭くしようと思えば可能ですが、ディエッサーとして使う場合はこのくらいで限度だと思っています。
私はこのToneboosters FLXを使うことが多いです。
他の用途でも万能なのでほぼ100%の曲で使っています。
なにしろ6バンドのダイナミックEQなのでディエサーとEQを2つのプラグインで処理しなくても同一画面で全部できるので便利です。
ディエッサーとして効かせたい部分を狙い通りに削れます。なによりこういうEQは他のトラックでも日常的に使っているものなので、ディエッサーより使う頻度が高いです。いつもと同じように扱うだけで良いので、ディエッサー専用プラグインを刺すより使い勝手が良いです。
先日のミックス談義のような曲中の数カ所だけ突出してしまうキック処理においても万能だと思っています。ギターやベースに対してディエッサーをわざわざ立ちあげなくても同様の処理ができるので本当に便利。
もしこのEQで設定をいろいろやった結果が7200あたりをQ1くらいで削っているのだとしたら、それはSteinbergの付属ディエッサー(軽い)に差し替えても構わないということになります。
で、さらにWavesのバグについて。
同じ設定にして片側をモニターモード(S Chain)にする。
青がモニターモード。
見ての通り、モニターモードで聞いている音のフォーカス位置と削っている位置はかなり違うし、削っている音量と当量のモニターができるわけでもありません。あまりあてにならない機能なので気をつけましょう。
念のために念押ししておきますが、ゆるいローパスフィルターとしてのディエッサー運用で良いのであればWavesでも構いません。普通に聞きながら耳で合わせて良い感じに調整すればそれでOKです。
暇人がいたら手持ちの他のディエッサーで同様の検査をして画像アップしてみると誰かの一助になるかもしれません。
Toneboosters推しな感じの記事になっていますが1円ももらっていません。念のため。
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あー、あとディエッサーについて根本的に勘違いしている人がいるようなので追記しておきます。「ダイナミックEQでやるとディエッサーと音が違う」と主張している人がいますが、それは違います。もし音が違うと思うなら、それはモデル差です。原理に差はありません。