トゥルーピーク(True Peak)がちょっと出っ張って気持ち悪いよね問題の解消法について簡潔に書いておきます。
(2021年10月31日更新)
- ■Cubaseでの確認方法は「オーディオ→解析」
- ■結論は-1.0dB
- ■そもそもTrue Peakって何?
- ■トゥルーピークに関する誤解
- ■0.0付近を安全に書き出す手っ取り早い解消法
- ■SPANのアップデート
- ■関連記事
■Cubaseでの確認方法は「オーディオ→解析」
オーディオのリージョンを選択した状態で、
メニューバーからの場合はここ。
右クリックのメニューならここ。
こんなのが出る。確認する場所は一番下の「最大TP」だけで良いです。
提出先が神経質な場合には、一番上の「最低サンプル値」がゼロになっているかも確認。
ストリーミング用の音源なら下から3段目の「統合ラウドネス」も確認。
他の箇所はまず使いません。
上は0.00dB仕上げのmp3をCubaseに読み込んで解析した結果です。
最下段の「最大TP」が0.61dB飛び出していることが確認できますね。
wav仕上げでは綺麗に0.00dBで仕上がっていても、mp3に変換した結果、TPは飛び出します。これを防ぐ手段は現時点では存在しません。ファイル変換によるTP飛び出しは防げないので「マージン」を確保しておくべきですよ、というのがこの記事の趣旨です。
■結論は-1.0dB
EDM等では音圧が欲しいから-0.5とか-0.1でOK……
と言われているんだけど、完全に間違っています。
上の結果を見ての通り「0.00仕上げがmp3変換で0.61飛び出し」になっているので、0.5や0.1は無意味だと証明できています。
理解度の低い人に説明する時は、「-1.0だと覚えておけばOK」と言うべきです。
そうしておかないと、MP3変換等でプチプチしますよ!
以下詳細など。
・音量をさげろ
TPを完璧に解決する唯一の方法は音量を下げることです。
TPが本当に怖いなら-2.0dBまで下げるべきです。
これでいかなる変換にも耐えられる、というのが定説です。
現存するいろいろな機材で過酷なテストを実際にやった人曰く「怖いなら-2.0にしとけ」だそうです。なおiZotopeは-3だと言ってる。
-2dB以上の下げは誰が聞いても分かるレベルで明確に音量が下がりますが、TP防止を重視するならこのくらいやらないとハンパってこと。(-2.0dBがどのくらいかと言うと、多くのスマホやテレビでポチっと1段階下げた音量です。)
それ以下の処理だと、何らかの要因でTPが出っ張る危険性が出てきます。
-1で良いと言う人もいます。
-0.5と言う人もいます。
-0.3、-0.1で十分だと言う人もいます。
TPに興味がある人なら御存知の通り、-1.0でもたまに出っ張ります。
つまり、-0.1はDAWのメーター上で赤を出さないだけであって、変換後にはガンガン出ます。見た目の数値でなんとなく「-0.1」って手入力してるだけでしょ?
あまり気にしないならそれでも別に良いですが、「-0.1にすれば大丈夫です!」と断言するのは大きな誤解を招きます。個人的に-0.1にするのは自由ですが、それを正解だと言って広めるのは危険です。理解度の低い他人に短く説明する時は、せめて「-1.0なら安心」と言うべきだと思います。私はそうしています。
「マスターを-1.0dBで書き出す」ことについては、私はあちこちで見聞きした情報の平均というか、説得力のある話を元にしています。
近年はオンラインで安価に(雑な)マスタリングをしてくれるサービスもあり、そのひとつLandrでもこのように主張しています。
MP3をWAVからオンラインで変換するとき、あなたの曲のピークレベルが高まることがあるので、直接DAWから低いシーリングレベル(例:-1.0dB)でミックスダウンをエクスポートしてみるのがいいかもしれません。
このソースの説得力の高さがどこにあるかというと、先程私が失礼にも「雑なマスタリング」と揶揄したオンラインサービスでさえ、このような安全策を採用しているということです。
マスターデータがどこでどのように使われるかも分からないので、責任回避できる方策として「-1.0dB」だということが透けて見えます。
たとえば動画サイトにアップロードした際、勝手にエンコードされるわけですから、その仕組みがブラックボックスである以上、対策しなければならなりません。
「◯◯っていう動画サイトが勝手に俺の音を悪くした!」と怒鳴り散らしても、その◯◯動画サイトの方針は変わりませんし、あなた専用の丁寧なエンコードをやってくれるわけもありません。
・なぜそんなに下げるの?と思う人へ
たしかに製作者の環境でだけ「DAWから書き出した高品質wavファイルで」TPが出なければOKなら、0.1でも良いんです。いや、自分の手元でOKというだけなら0.0でも構わないとさえ言えます。
でも、そのwavデータをmp3に変換してみてください。
まず間違いなくTPが出ます。
適当なメディアプレイヤーで再生するとさらにTPが出ることがあります。
配信サイトでさらに(勝手に)加工されて、さらにTPが出ます。
あなたが作ったファイルは、再生されるまでの間で様々な加工が「作者の意図を無視して」行われてしまいます。しかも何重にも。
だから余白を大きくするべきなんです。
中間過程で加工されまくった音源を聞いた人が「音割れますよ」と苦情を言います。
あなたは自分の手元のファイルを確認し「いえ、割れていません」と言い返します。
原因が分からないままだと喧嘩になるでしょう。
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以下詳細。
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■そもそもTrue Peakって何?
ここでの解説は割愛。
知らないなら調べましょう。
真に厳密さを必要とする人は「インターサンプルピークとトゥルーピークは違う」と主張していることもありますが、我々作家が扱うレベルでは『同じ』で構いません。
serさんとかはこうも言っていますが、
改めて用語さらったらトゥルーピークは実際の出力信号のピーク値、インターサンプルピークはオーバーサンプリング後のサンプルピーク値を指すのかな。ただし、トゥルーピークはメーターで観測できないから、便宜的にトゥルーピーク値=インターサンプルピーク値=メーターでのトゥルーピーク値を指すと。
— serieril(せりえりる) (@serieril) 2018年12月26日
一連のツイートを見てなんだか分からないなら分からないままで何も問題ありません。
じゃあ何が問題なのかというと、誰にでも分かる「見た目上の数字」です。
■トゥルーピークに関する誤解
自分で聞いて「音割れなんかしてねーよ!」と主張するのはごもっともです。
他の人の環境で聞いた時には、音声データはあなたのデジタルオーディオ環境と違うオーディオエンコーダで変換されます。その時に『あなたがチェックできないTP問題』が起きます。
あなたの丁寧なwavデータを、雑にmp3変換されたり、雑に動画変換・配信変換された時に問題が生じます。
このことを全く分かっていない人が非常に多いです。
自分の手元に完璧な確認方法があるなら、その方法を信頼すれば良いです。
もし完璧な確認方法を持っていないなら、おとなしく音量を少し下げればOKです。
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以上のことを理解していない人は、何を言われても「いや、俺の環境だと音割れしないし。お前の環境が悪いから」と強弁します。
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例えるなら小包を送る時に「俺がダンボールに詰め込んだ時は壊れてないから」と言っているのと同レベルです。ヤマト運輸だろうと佐川運輸だろうと、荷物を両手で丁寧に扱うことはありません。ブン投げて移動されても大丈夫なように梱包するのは100%自分の責任です。
相手が受け取るまでを保証するために、丁寧な梱包は欠かせません。
■0.0付近を安全に書き出す手っ取り早い解消法
Ozoneでスレショルド0.0のまま、
そこの上にあるTPのみonにして書き出す。
これで計測表示上のTP出っ張りは割と綺麗に解消されます。
(なお、ここではOzoneがTP処理した際の音の劣化については完全に無視して話を進めます。)
下は市販CDをリマスターした例です。
0.05が-0.11になっていることを確認してください。
いわゆるブリックウォールリミッターで「0.0より出ません」と謳っていてもさっぱりその通りの効力を発揮しないものが多い中、Ozoneは少なくともCubaseの解析表示の数値上は綺麗に出力してくれます。
なお、Ozone(注、現行バージョン)でもスレショルドを0.0以外にする、つまり圧縮しながらTP処理を同時にやるとはみ出すことが稀にあります。完璧にやりたいなら圧縮する用+TP抑止専用に2つの段で使うのが確実じゃないかと思います。
が、一流どころのメジャー流通盤でもTPがちょくちょく出っ張っているので、そこまで神経質になる必要が本当にあるのか?というのは疑問が残ります。
・(注意)ファイル変換すると当然くずれる
DAW上のOzoneで処理、CubaseでMP3出力。そのファイルをCubase上で確認するとこうなる。
このように、書き出しでMP3にすると当然くずれます。当たり前です。
なんだか分からない人はちゃんと調べましょう。当記事では説明は割愛。他所様に任せる。
で、上記事に書かれているとおり、「変換」というのは、
- DAWから直接MP3書き出し
- DAWでWAVを書き出してから外部ツールでMP3変換
- 動画に変換
- AIFを通過する際のデジタル/アナログ変換(ADDA)
- CDから再生する時のADDA
- OS、音楽プレイヤーで再生する際の処理
- ラジオ、テレビで放送する時の変換
これらはすべて「変換」です。
(見落としている人がいるけど、AIFも音楽プレイヤーも変換してますよ!)
(何度も変換された先に、お客さんの耳があるということだけは覚えておいて!)
ですから狙った通りのTP封じ込めはそう簡単に再現できません。
「じゃあMP3にする時はどうするの?」と疑問に思うことと思います。
解決方法は音量を下げてヘッドルームを用意するしかありません。
もし神経質にTPを制御して、真の0.0dB出力をしたいなら、相当の覚悟が必要となります。
当たり前ですよ。DAW上でプラグインを使って検出しているTPは「フロート処理中の検出」だけですから。DAWから書き出された後のにどんなクソ処理されるか分からないのに、書き出し前に予防できるわけ無いです。
■SPANのアップデート
(2019年12月29日)
事実上の世界標準といえるSPANがアップデートされました。
下部やや右にある「TP」を点灯させておくと、従来の適当すぎたクリップ検出がかなり信頼できるTP検出になります。
さまざまなリミッターのプラグイン間に大きな差があることが認知され、それに対応できるようにしていたようです。今後はSPANのTPではみ出すブリックウォールは徐々に駆逐されていくことでしょう。
言うまでもなく、あらゆるプラグインのTP処理は、DAW内部で「ここではちゃんとTPチェックしたからね!俺の責任じゃないからね!」という程度のものでしかありません。
・誰への対処か?
でも見た目の数値で文句言ってくる人がいるのが実情なので、そういう連中への対処方法として知っておく価値はあります。
納品してチェックする人に届いた段階で、一般的な検出方法でTPを越えていなければ作家的にはOKです。その先でどんなクソ変換をされていても知ったことではありません。手が届かないんですから。最終的に聞くお客さんがさらにクソ変換していても、それを止める手段はありません。
宅配便の荷姿にも似ていると思います。
荷物を業者に預けた時は綺麗な状態でも、運搬中に破損するのと似ています。
アレですよ。カラオケMIDI納品でデータ見ないとベタかどうかも分からないくせに、データ表示を目視してから「ベタですよねこれ?」と言ってくる奴らへの対処と同じです。
一昔前によくいた「Addictive Drums使うのやめてください」とか言ってくる無能と同じです。で、口頭でだけ「BFD買ったのでAddictive Drumsはもう使っていません」と言えば余裕で通って『やっぱりBFDはリアル感が違いますよ』とか言ってくる阿呆。実はずっとAddictive Drumsなんですが、嘘も方便です。
見た目や態度を求めているだけの人は多いです。うまく対処しましょう。
彼らにとって、「一流エンジニアの 出すTPは美しい音楽的なTPですが、付随業務としてマスタリングをする私のTPはミス」となるようです。
それでもダメだと言ってきたら、メジャーリリースされているCDの計測結果を見せてやるとか、確実にTPを封じられるであろう-2dBでの出力とか、そういう過激なことをやってやれば良いんです。そこから先はそっち「一流エンジニア」とやらを雇って勝手にやってねと。そもそも作家が付随業務としてやっているレベルの仕事で何言ってんの?という難癖でしかないんですから。一般人が郊外の安い土地に家建てるのに一流宮大工を雇うのかって話です。
なおグラミー賞受賞曲集のCDでさえTPが出ます。なので気にしなくても良いと言えば良いのかもしれません。
その他、仕事のやり取り上での技術はブログでは書きません。レッスンでご質問どーぞ。
■関連記事
雑にリミッター一発だとTPは事故を起こしやすいです。20年前なら(当時の)高いリミッタ一発通すだけで「マスタリングはこうやるものです」という話もありましたが、そもそも道具の使い方としてちょっとおかしい。
eki-docomokirai.hatenablog.com
「多段コンプ」を正しく身につけると、必然的に「多重コンプ」もマスターできます。邪道と言う人もいるけど、できる人はみんなやってる。まじおすすめ。eki-docomokirai.hatenablog.com
マスタリング話なのでこれも貼っておこう。
eki-docomokirai.hatenablog.com