eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

デジタルでアナログサウンドに迫るコツ(1)

海外記事紹介。ミックス・マスタリング話。「高級なビンテージアナログ機器じゃなくても大丈夫だよ!」というお話。

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(2021年1月2日更新)

 

■デジタルでアナログサウンドに迫るコツ

theproaudiofiles.com

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■要約と解説

3行でまとめると

「歪みで色付け」

「細かい数値を見ないのが真の職人」

「今ある道具でがんばるのが真の職人」

です。

 

つまり、この記事にはあなたが追い求めている魔法のテクニックの話は書いていません。

というか「魔法のテクニックなんてねーよ」と諦めるお話です。

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・1,歪み(ディストーション)の付加

デジタル環境では自分で「色つけ」をしなければいけません。

DAW(デジタル編集)では「透明な」エフェクト効果だけが起きます。

それは良くも悪くも正確な加工だけが行われてしまうので、自分でディストーションを設計する必要があります。 

この色つけのことを、ミックス用語では「ディストーション(distortion)」と呼びます。

 

ディストーションは非常に幅の広い言葉なので注意が必要です。

日本語では「歪み」ですが、これは一般的にエレキギターディストーションサウンドのことです。言葉が同じでも使われる場面と程度が異なることが多いので気をつけましょう。体温と火炎放射器はどちらも「熱」なのと同じです。

 

わずかなディストーションは「サチュレーション(飽和)」のことです。

アナログ機材で得られるわずかなサチュレーションは日本語のミックス用語だと「色つけ」と表現されています。 おっさん連中が「ディストーションかける」と言った時、それは今風に言えば「軽くサチらせる」であることがあるので気をつけましょう。

アナログ機器をエミュレートしたプラグインエフェクタでは、様々な操作によって自動的にサチュレート等が追加され、これが「味がある」と言われている理由です。この原理さえ理解していれば、アナログ機器によるメリットを必要なだけ実装することができます。

逆に、面倒ならアナログエミュレート系のプラグインを使ってワンタッチで様々な効果を付け足せば良いです。

が、往々にしてアナログ系プラグインは融通が効かないので、使用するモデルそのものを切り替えることでサウンドキャラクターを選択する、という方針になります。(個人的には本末転倒であるように感じています。私の方針は最小限の柔軟な道具で済ませることだからです。)

 

・Unsure What Saturation Does? Learn How To Use Saturation Effectively.

www.cmastering.com

You can always use a saturation plugin across your entire mix if you are trying to emulate the way it's done in the analog world, and I absolutely encourage this. Just make sure you balance how much the effect is doing, because is always right around the corner if one isn't careful.

デジタル編集でアナログのエミュレートを試みるなら、常にサチュレーションエフェクタを使うべき、と推奨されています。

上での述べたとおり、サチュレーターとは軽度のディストーションのことです。ディストーション用のエフェクタをわずかにかけることでも可能です。サチュレーター専用のエフェクタは、ディストーションと内容は同じですが、非常に軽微な飽和を付け加えることができるように設計されています。「大さじ」「小さじ」の違いだと思っておけば大体あってる。

サチュレーターとディストーションの差について詳しく知りたいなら、ぜひアナライザを使って可視化してみてください。また、飽和音の追加によって音量そのものがどのくらい変化するかをチェックしてみてください。

 

サチュレーションに対する深い理解を望むのであれば下の記事を熟読するのが良いです。すばらしい内容。

soundevotee.net

サムネイルにも見えるとおり、アナログ特性とは直線的に処理できない、つまり非線形特性によって生じる様々な歪みです。

 

明確な意図が無い限り、特定モデルの音を目指すことは無意味です。(そもそも実機には個体差もありますし。)

あらゆるミックス加工において共通する鉄則を思い出し、戒めるべきです。つまり、あまりにも軽度ならやる意味がないし、やりすぎるとどんな加工でも破綻するということです。自分に正直になってブラインドテストし、明確に判別できないなら現時点での自分自身にとって無意味です

 

なお、私は90年代のMIDI時代、SC-88ProとかヤマハXGとかの時代に、全体に軽くディストーションを掛ける方法で他の人とサウンドの違いを作り出すことに腐心していたことがありました。やってることは「マスタリングで軽く歪ませる」のと全く同じ、ということです。

・2,フェーダーによる大胆な作業

フェーダー操作はDAWのオートメーションのように正確に動かせません。

フェーダーワーク(手コンプ)では「ここからちょっと上げよう!」と思っても、その少し手前から持ち上がってしまったり、遅れて持ち上げたり、上げすぎてからちょっと戻すことがあります。 

要するに雑だということです。

逆に言うと、正確さには音楽的な意味はあまり無いということになります。これは演奏でも同じですね。

・3,DAWは目に頼りがち

データの視覚的な厳密さはあまり意味がありません。

全てのデータが目に見えてしまっているので、必要以上に神経質になってしまいます。デジタルミックスは人を神経質にしてしまう欠点があります。明るい場所で鏡を見ると顔の毛穴が見えすぎるからいじりたくなるのと同じです。 

・4,DAWは細かい操作ができすぎる

神経質になり、目に情報が入り、それらを修正したくなります。

もし視覚情報が無かったらそれらに気がついたでしょうか?

転じて「耳を使え」というのは、「どうでも良い細部を気にするな」という意味にもなるでしょう。

どうでも良い部分を何時間も編集するより、もっと大事なことがあるはずです。

(ただし、デジタルではデジタルクリッピング等の致命的な事故が起きる恐れがあります。そういう点については数値を見なければいけません。)

・5,アナログ機器は不便だから工夫する

最大の誤解は、「アナログサウンドはアナログコンソールの音だという誤解」です。

みんなが憧れているホンモノのアナログサウンドとは、上手い人が慣れた機材で丁寧に作った音です。

素人がアナログギアを導入しても素人の音のままなのは当然です。しかも使い方に慣れていないので、いきなり良い音になるわけではありません。その上、アナログ機器(とアナログ系プラグイン)は道具としての融通が効かない傾向なので次々とプラグインを買い続けることにもなりかねません。

■で、何を使えば良いの?

自由度の高さで圧倒的にこれ。

www.meldaproduction.com

そこの男子。またMeldaかとか言わない。

色々なサチュレーターを試したけど圧倒的にこれ。

ただしダサい。でも道具としては完璧を超えた完璧さ。

 

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■実機には必ず個体差がある

ポンと起動すれば同じ音が鳴る。それはとてつもないことなのである!

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

■追記

より極端なアナログミックスの音、いわゆるビンテージのひなびた音も「ハイローカット」「ノイズ」「歪み」で再現できるよ、という解説動画。

www.youtube.com

ビフォーアフターを細かく比較しながら進めていくので非常に分かりやすい内容のTIPS動画です。

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■その他のアナログ効果

これについては今後の記事で。

・今後の記事用のメモ

  • ノイズ
  • テープシム
  • 揺れ
  • ケーブルはフィルター
  • コンプの設計によるキャラクターの違い

 

■関連記事

 歪みを付加するお話。

マルチバンドサチュレーターの使い方。

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

 

 

見た目だけアナログっぽくするためにVUメーターを導入しても無意味だよ、というお話。

eki-docomokirai.hatenablog.com

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■(サイト内検索用の単語置き場)

アナログミックス

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