この記事は便利機能の紹介ではありません。読まなくて良いです。拙著「Cubaseカスタマイズの教科書」執筆に際しての対談にあった「Cubaseのここがダメ」という話題に関する雑記です。
■Logicの色管理は便利だよねという話
Logicの色管理機能がいかに優れているかについては下リンク先でどうぞ。
最小限の操作で「リージョンのみ」を任意の色に変更できます。
このような操作はCubaseでは面倒です。
同じ結果を得ることは「可能」なのですが、その手順が多く、またマウスカーソルの移動距離が長いんです。
■ソフトウェアが求めている使われ方
あらゆる道具、あらゆるソフトウェアは「このように使うと良いよ」という意図があります。
無理をすれば設計者が意図しなかった使い方もできることがありますが、いびつなことになります。
例えば鉛筆は紙に字を書く道具であって、紙に穴を開ける道具ではないということです。穴を開けることは「可能」ですが、綺麗な穴を開けることは極めて困難です。
その昔、エクセルの「セル」の色を超高速で変更するスクリプトを使って動画ファイルを無数の極小セルで再生する狂った使い方が話題になったことがありましたが、エクセルは動画再生のためのものではありません。
DAWで言うと、ピアノロールやトラックリージョンは音楽を作るための道具であって、お絵かきをする道具ではありません。
もうちょっと具体的に言うと、Cubaseはサンプラーではないので波形に対してエンベロープを書き込んで音作りをするスタイルを推奨していません。
いわゆる「外科手術」的な手法は可能ですが、それをメインにして曲作りをするために設計された道具ではありません。
■道具が求める手順
音楽を作る手順というものがあります。
音楽を習得していくと、どのような手順で音楽を作っていくかが習得できます。
■楽譜と実演奏
楽譜で作るなら、楽譜をメインとしたプレイバックになるのは当然です。そこに「変態的なMIDI打ち込み」の表現力を埋め込むのは不可能です。
もっとも顕著なのはピアノのアルペジオ記号です。アルペジオのどの部分をオンタイムにするかを楽譜で記述することはできません。そのタイミングを表現したMIDI演奏をそのまま楽譜化すると、多くの場合に不具合をもたらします。
同様にドラムの微妙なズレを楽譜上で表現することは事実上不可能です。
■で、色の話
トラック色はそもそもプロジェクトのテンプレート化によって基本的に不要になっていくものです。
「毎回トラックに色付けをする」ことを必要だと感じるということは、テンプレート化を導入できていない証拠でしかありません。
そもそもカスタマイズは時間短縮のために行う準備ですから、時間短縮のためにテンプレートを使っていて当然です。
DAWでの楽曲制作中に求められるのは「このリージョンはあとでちゃんと◯◯をしなきゃ」というメモのためですから、一時的にリージョンの色を変更し、処理が終わったら戻す、という手順が自然です。
その手順を踏まえているのがLogicという道具の設計であると伺い知れる、というわけです。
昔からCubaseを評して「Cubaseは音楽家ではなくプログラマが設計したDAWだ」とされているのはそういうところです。
音楽を作る手順から必要とされる機能を盛り込むのではなく、技術的に可能そうなことを片っ端から突っ込んだ感があり、その仕上がりはちぐはぐであると言わざるを得ません。
同様のことはプラグインに対しても言えます。Meldaはどう見ても音楽家ではなくプログラマが設計した、それもかなりのナードが設計したとしか思えないアレな臭いがプンプンする。