eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

オーケストラミックス、音量バランス編(1)

オーケストラ曲のミックス話。今回は音量バランスの話。

(2018年10月17日更新、サンプル音源更新)

 

 

あえて逆順で説明していきます。

トップダウンミキシング」の手順の方が整えやすいからです。

トップダウンというのはいわゆる通常のミックス手順とは逆の方法で、個別のトラックからではなく、マスター出力音量→グループバスでのバランス取り→個別トラックの微調節、という「大から小」の流れでミックスする方針です。

 

 

■製作中

ラフマニノフの『ピアノ協奏曲第2番』を製作中です。

https://www.dropbox.com/s/tdbjjf1doz27h8o/Rach2_1_2018109.mp3?dl=0

もうちょいがんばります。

ピアノ音源の差し替えを依頼中です。

出来上がったら公開します。たぶん。

 

■マスター

最大音量がリミッターに適度に引っかかる最大音量だけ気をつけます。

マスターの手順は普通にやれば良いです。

ダイナミックコンプ、マルチバンドリミッターなどで少しずつ音量を調節し、最大音量で快適な音量になるようにします。同時に、最小音量が小さすぎないようにすると良い仕上がりになります。

よく耳にするのは「クラシック曲はコンプしない」という誤解です。

クラシックの市販録音物などでもコンプ/リミッターは使われますし、EQもされます。「クラシックはピュアな音」という思い込み、先入観で無加工だと思いこんでいる人は気をつけましょう。特に劇伴、トレイラーともなるとガチガチに加工しまくります。

これはマスターでも個別トラックでも同じです。

 

■グループバス

最も重要なのがグループバスでの制御です。ここでほとんどの音が決まります。

弦、木管金管、打楽器、その他、のグループに分けて、コンプしつつ相対的なバランスを作ります。

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バランス作りにはダイナミックEQが非常に役立ちます。

概ね「低域が過剰に膨らまない音」にしてからインサートリバーブに送ると程よいサウンドになります。どうせリバーブに送ると低音が過剰に聞こえやすくなるので、前もって押さえるわけです。

特にドライな音のオケ音源をそのままリバーブに送るとクソ音になります。

 

低周波数帯域(低域)の制御

低周波数帯域です。低音楽器という意味ではありません。

そもそも低周波数帯域はどの楽器にも存在し、特に録音による「近接効果」が顕著です。近接効果については音響心理学の勉強をしてください。割愛します。

ドライな音のオケ音源は、近接効果が強く出た音が収録されています。それは「生々しい」という言葉で語られます。

この音をそのままリバーブに送ると、「近い音」がそのまま残響を伴って響き、おかしなサウンドになります。

遠くで鳴っている音に対してリバーブをかけなければいけません。

 

もちろん収録時点でエアーノイズやキーノイズなどが入ってしまっているので、ドライな音を後から加工して「遠いっぽい」音にしても限界があります。

「ドライ音の方がウェット音のオケ音源より自由度がある」というのはある一面では正しいですが、はじめからちゃんとホール音で録音されたもののほうが説得力はあります。どこまで行っても妥協は妥協です。

 

・遠くの音?

それなりの経験が無いと遠くの音をイメージするのは難しいでしょう。

「遠くで鳴っている、リバーブの無い音」というのは、学校のブラバンが遠くで練習している音です。

距離による音の違いを学ぶ場合、楽器に限定しない方が良いかもしれません。

たとえば踏切の近くで聞く通過電車の音と、踏切から数十メートル離れて聞く通過電車の音を比較してみてください。近くにいる方が低域が強く聞こえるはずです。

もっと手軽に試すなら、机に耳を近づけて机をコンコン叩いてみてください。耳を離してコンコン叩いてみてください。その聞こえ方の違いをなんとかして再現するわけです。

その上で的確にホールリバーブをかければそれなりのリアリティが得られます。

 

・ダイナミックEQでの処理例

私はこういう加工ではToneboostersのFLXを使っています。

 

弦。一定以上の音量になった時に低域を押さえ込みます。

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 全体的に過激なEQ調整になっていますが、リバーブに送り込む前の調節です。念の為。

 

次。

木管も同様です。大規模オケの中では相対的に木管が最も繊細な音になるので低域をかなり押さえます。

少ない楽器でアンサンブル演奏する際には木管の低域がきっちり聞こえた方が良いですが、ラージホールの音にしたい場合にはローカット大事。

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金管も同様です。

音源の特性も加味して大幅に低域を削ります。

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単にEQでロー下げする方法だと、音量が小さい場面で異様に細く聞こえてしまいます。なのでダイナミックEQによるロー処理の方が良いんです。

金管は最終的に目指したい全体のサウンドのために割と細い音にしています。

 

 

Toneboosters FLXはバンドごとの表示を重ねられないのが不便。

無理やりスクショをモンタージュするとこういう具合になる。

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これは-6dBというかなり大きな音量でピンクノイズを流し込んでマルチバンドコンプを均一に反応させた状態です。実際に演奏する音楽でここまで強く反応することは一切ありません。誇張されています。

どの帯域も出すぎたらとにかく抑え込む。

鳴らしている音源・サンプルの都合にもよるので、たとえば5番のディップは真似すると危ないかもしれません。が、視覚的に判断せず、徹底的に聞こえてくる音だけを参照するべきです。いわゆるエクストリームEQです。

「全部押さえるんだったらシングルバンドでも良いんじゃないの?」と思うかもしれませんが、アタックの強いサンプルへの対処も兼ねた、いわゆる「音源バランシング」の工程なのでマルチバンドが役立ちます。スタッカートのサンプルが妙に突出して困ること無いですか?

 

 ・加工されまくっている例

今回はジマーマン/小澤征爾盤の仕上がりのようなピアノの大きいミックスを目指しています。

ジマーマンが音響について非常に造詣が深いらしいので、クラシック演奏を加工することにも前向きなのでしょう。聞いてみれば分かるとおりです。めちゃくちゃ加工されている音です。

www.youtube.com

再現するレコード再生としてではなく、今風の劇伴よりの音です。

ピアノが主役であることを徹底的にアピールし、細部の演奏まではっきり聞こえるように設計されています。

異様に大きなピアノの音場は誰が聞いても「ミックスされた音」だと認識することでしょう。

実際のホールではこんな音響がするわけもありませんが、逆に言えばステレオ再生でホールの音がするわけもありません。ステレオスピーカーをホールで慣らしても違和感しかありません。そういう矛盾をかかえて板挟みにあるのがクラシックのレコード芸術というものです。

そして私達のような電気的な音楽をやっている人が直視しなければならないミックスの限界と、技術が示唆する新たな可能性です。

 

ですが、リファレンスとしては使用していません。あくまでも「このミックスの方向性」の印象であって、寄せるわけではないです。

 

 

■目でバランスを見る

フォルテシモ、tutitの箇所を2箇所をサンプリングしてみました。

が、製作中にこういう表示を使ってはいません。結果としてこうなっていたよ、という話です。

 

画像はクリックで拡大できます。

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ピアノ(白)の強いアタックは波形表示で突出しています。

オレンジ(黄)が弦です。弦は最も人数が多く、幅広いです。よって常に聞こえやすいです。

単に波形として見ると弦が非常に大きいのですが、音色特性によって金管(赤)のフォルテシモの演奏は波形のサイズ以上に突出して聞こえます。この辺はメーターを使った表示だけではなかなか分かりにくい部分です。

ピアノ協奏曲なので、ピアノ(白)はあまりコンプせず、近く聞こえるように設計しています。コンプ感による距離表現はポピュラー音楽のミックスと同じです。

 

なお、先述のとおり実際のホールでの演奏ではこのようなバランスには絶対になりません。誇張したサウンドを目指していますので勘違いしないでください。

 

スペクトラムバランスで見る

毎度おなじみ、Meldaのマルチアナライザーです。

これも製作中には使っていません。記事用に表示してみただけです。

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オケ曲のミックスでは、ポピュラーのミックスと異なり低域のキックやベース(サブベース)が無いので「カマボコ型(D-shaped)」になるのが正解です。ポピュラー用ミックスの時のようなキックのバランスを基準にする方法は絶対にNGです。

 

ピアノの高域は音で聞くとかなりキンキンしていますが、すぐに減衰するので時間平均で表示するメーター上にはかなり小さくなります。

一方、持続音でビリビリ聞こえる金管と弦の強奏は高域にかなり強く表示されています。

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あと、言うまでもなくチューバやバストロンボーンなどの低音はそれほど聞こえません。低域でもっとも支配的なのはコントラバスです。が、これもポピュラーのベースやサイドギターのようにアタックを聞かせようとしてハイ出しをするのは厳禁です。

 

オーケストレーション

以下、記事の趣旨とは異なりますが、大事なことなのでここにも書いておく。

オリジナル曲の場合にはとにかくオーケストレーションのバランスに気をつけるべきです。オケ曲というのは9割のサウンドが弦だけで完結し、そこに管楽器が添えられる音楽だと思うべきです。

不慣れな人やブラバン上がりの人が書くと、とにかくトランペットやクラリネットにメロディを担当させたがる傾向が極めて強いです。

どんなオケシンセの音源を使っていても、オケ曲らしくするためには弦だけで曲の9割を表現しなければいけません。それだけでそれなりに「あ、オケっぽい」とイメージさせることができます。まじで。メロディに管楽器が頻出した時点で全然オケっぽくないし、パーカッションがドラムセットの代わりにビートを刻んでる時点で相当ヤバい。

 

 

ちょっとだけで良いのでちゃんとしたオケの楽譜を見て、楽器の使用される割合だけでも勉強してみてください。楽譜の細部まで読める必要はありません。

 

・グループのコンプ、リミッター

それぞれの楽器カテゴリーが最大音量を出した時に「これ以上は絶対に出ない」という音量があります。それを制限するためにグループに対してコンプを行います。

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PSP Vintagewarmer2を使っていますが、上述のダイナミックEQ(Toneboosters FLX)でも全体的なコンプ/リミッター的な処理をしています。手段は問いません。普通のコンプだけでやっても全く構いません。慣れている道具を使うのが一番です。

また、上のPSPVW2ではアウトプット音量(右下)を制限させています。

中央の大きなツマミはテープサチュレーターです。キャラクターを差別化する意味もあって異なる設定にしています。その他、必要に応じて楽器ごとに微細な加工をしています。

 

模式化すると下図のようになります。

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それぞれのカテゴリーが出せる最大音量をコンプ/リミッターで制限しておくことで、オーケストラ全体のバランスは保たれます。

 

・バランシング(1)

オケ音源シンセのほとんどはそのままの状態だと各楽器の音量バランスがおかしいです。たとえば、多くの音源でオーボエなどが異様に大きいです。これは特定ジャンルの演奏だけを行うために設計されていないからです。オーケストラの編成は様々なので、そのどれかに特化していないということです。(逆に、特定ジャンルの、特定のサウンドのためだけに設計されたオケ音源は最初からバランスが取られています。そのため、想定されたサウンド以外の曲では極端におかしなバランスになります。全てのジャンルに対応できる状態で販売されている音源は現時点では存在しません。)

グループごとの限界音量を設計した上で、個別の楽器の音量バランスをちゃんと設計しなければなりません。(これを狭い意味での「バランシング」と呼ぶ人もいます。)

 

・バランシング(2)

あとは個別の楽器がグループのコンプに突っ込みすぎているなら、個別に調節してあげれば良いということです。

この方針の良い所は、コンプに引っかかることによって各々の楽器の音に圧迫感が出ることです。ダイナミクスの音量そのもので迫力を出すのではなく、コンプ感によってスリリングな音が得られます。

まー「綺麗な音で」というコンセプトの人は異論を持つとは思いますが、

「コンプはダメ」「コンプはクラシックでは邪道」と考えるのではなく、ポピュラー音楽のコンプされたサウンドの圧力を積極的に取り入れたスタイルだと思って積極的に取り入れていると理解してもらえればと思います。

 

ただし、コンプが過剰だとMIDIによる抑揚がすべて潰されてしまいます。適度な設定が必要です。これは数曲作りながら洗練させていく必要があるので、1曲目から完璧なバランス作りをするのは極めて困難です。打ち込みのやり方を均一にし、その打ち込みに音源が反応し、出音がエフェクタに反応する、ということをよくよく考えなければいけません。毎回場当たり的にMIDI打ち込みをしていると、エフェクタの反応が場面ごとに変わってしまうので、いつまでたっても出来上がりません。

 

さらに多重コンプ、アップワードコンプなども積極的に行い、音が小さすぎる部分でも明瞭に聞こえるようにグループの音量を最適化していきます。

こういう工夫をすることで、クラシック・オーケストラ音楽の構造的欠陥としての「小さくて聞こえにくい」要素を明確に聞かせることができるようになります。

 

実際、サウンドトラックが映画やテレビに乗る音量というのはそういうものです。生で聞く音量差をすべて忠実に再現してしまうと、セリフや効果音とのバランスが取れないのでかなりコンプされています。そもそも放送用の音はほぼ例外なくコンプされた音です

 

■個別トラック

グループで上記のようなバランスを作った上で、その中身に入る個別の楽器のトーンを調節します。

グループでも強くローカットしていますが、ドライ音の音源の場合には個別の時点でもローカットした方が良いと思います。その上でコンプもしておいた方が良いです。
「EQによる住み分け」はオケ曲では不要です。周波数帯域の住み分けは音符で行うのがオケ曲の作法です。

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もしそれぞれのグループの中で特定の楽器だけが支配的になってしまっているなら、その楽器1つだけを下げます。音源側で行っても構いません。

「1つの楽器だけが支配的」というのは、例えば同じくらいの音量で鳴るべき金管tuttiの最中に、トランペットだけが大きくなってコンプに引っかかり、コンプが金管全体を下げてしまっている状況です。

そういう時にはトランペットの1番だけを小さくし、すべての金管楽器によってもちあ上がった音量が金管グループのコンプに引っかかるようにする、ということです。

 

同様に、音源サンプル都合によってチェロのアタックだけが弦グループのコンプに突き刺さっているのが分かったなら、チェロだけに対してコンプをかけておきます。こうすることで弦グループ全体のサウンドがまとまります。

曲の中で最も大きい音量になる場面を見つけて、そこでグループごとにソロチェックすると良いでしょう。グループの中でバランスがまとまったら、グループ対グループの相対的なバランスを作るだけで簡単にトータルバランスが整います。

この手順を使わずに楽器1つ1つから積み上げるミックス手法を使っているといつまでたっても終わりません。コツは「グループ全体がどの程度コンプに当たっているか?」を聞くことです。

 

■ドラムだと思えば良いだけのこと

長々と書きましたが、要するにポピュラーでドラムのミックスをする方法と同じです。

曲全体に対するドラムの大きさを作っておいて、その中でキックだけが大きい、スネアが鳴るとダッキングしてしまう、ローがマスターコンプに当たっている、などの症状を改善していく手順を思い出してください。

曲の一番大きい部分でバランス作りをする方法も、ポピュラー歌曲でサビのバランスを作ってから前後のシーンのバランスを作るのと同じです。

 

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