海外ミックス記事の紹介です。以前に紹介した「あなたのミックスを殺す5つの神話」の続編です。元記事を書いている人が同じなので、似たような内容です。
(2021年10月1日更新)
- ■日本国内のDTM記事の大半は間違っている!?
- ■1,ハイパスフィルターの濫用はダメ!
- ■2,軽いカットEQだけではダメ!
- ■3,エフェクタの設定数値を覚えてもダメ!
- ■4,特定のモニター環境に特化したミックスはダメ!
- ■5,ピンクノイズに合わせたフラットなミックスではダメ!
- ■6,低音量でミックスするだけではダメ!
- ■7,バスミックス(ステムミックス)に頼ってはダメ!
- ■関連記事
■日本国内のDTM記事の大半は間違っている!?
ちょっと意地悪なタイトルと内容なので気をつけて読んでください。(Jason Moss氏による記事)
「◯◯という方法がよく知られていて、みんなやってるよね」
→「でも、その◯◯だと落とし穴があるから気をつけてね!」
という内容です。
急いで斜め読みする癖のある人は気をつけてください。
動画版はこちら。
日本国内でいわゆる「DTMer」の人たちが書いている無料TIPSは、超初歩の導入話だけです。
なぜ初歩の話をいつまでも引きずってはいけないのでしょうか?
■1,ハイパスフィルターの濫用はダメ!
「とりあえず全トラックに100Hz以下のローカットをしましょう!」
いいえ。違います。
ハイパスフィルター(ローカットフィルター)は多くの楽器の低域ノイズを除去するために使われます。
しかし、そもそも「ノイズ」とは何でしょう?
その低域は本当に邪魔なのでしょうか?
確かにしっかりしたミックスの教科書でも「100以下は切る」と書かれていることがありますが、それはボーカル等の録音物の初期トリートメントでとりあえず100で切っておくという話のはずです。
■2,軽いカットEQだけではダメ!
「EQは音を劣化させてしまうから、必ず軽く使うべし!」
「ブーストは音をダメにするから、EQはカット方向にだけ使わなきゃダメだよ!」
いいえ。違います。
思い切りカットするべき状況、ブーストするべき状況が多くあります。
EQをやりすぎると音が壊れることが多いから、「原則的に軽いEQだけを使おう」という話です。
思い切ったサウンドが必要な時には思い切ったことをします。
調味料の塩と、相撲取りが土俵に撒く塩の使い方の差です。
■3,エフェクタの設定数値を覚えてもダメ!
「コンプを4:1にして、EQを4321kHzで1.2dB下げて……」
そういう数値を覚えても意味がありません。歴史や円周率の暗記じゃないんですから。
大事なのは加工する前の音をちゃんと聞き、今の音からスタートしてどういうゴールに向かうべきなのかを決めることです。
コンプをある数値にすることは目的ではありません。コンプの結果、どの程度の音量を得るかがゴールです。
EQで4321Hzを-1.2することが目的ではありません。EQの結果、他のトラックに対して適切なバランスになることがゴールです。
精密な数字が書かれているとついつい神秘的なものだと思いこむ人が多いです。書籍やネット記事を作る人も自分の記事を迫力あるものにしようとして、精密な数字を並べる人が多くいます。
しかし、そもそも数値はソースによって変わるものです。ジャンルや曲のキーによっても変わります。
特定の曲で使われた数値は、他の曲ではマッチしません。
自分の曲は世界に1つしか無いので、一期一会の構えで大事にしましょう。
■4,特定のモニター環境に特化したミックスはダメ!
「ちゃんとDTM用のモニタースピーカーを買って、大きな音でミックスしないとダメ!」
「車の中やスマホのスピーカーでチェックする方法があるらしいけど、じゃあ最初から車の中でミックスすれば良いんじゃないの?」
いいえ。違います。
どのような環境でもそれなりに聞こえるのが優れたミックスです。
高級スピーカー専用のミックスというものもダメです。
あなたのヘッドホン専用のミックスは、他人のための音になっていません。
(たまにいるのですが「◯◯というヘッドホンで聞いてください」と言ってしまうと、音楽をわかっていないと言っているのと同じです。)
■5,ピンクノイズに合わせたフラットなミックスではダメ!
「水平なピンクノイズに合わせて「フラットな音」にすれば完璧なバランスになります!」
いいえ。違います。
適切な起伏をつけるかがミックスです。
水平な「ものさし」としてノイズを使うことは可能ですが、全ての帯域をノイズに合わせたら、当然それはノイズになります。
「ピンクノイズに合わせるって何?」と思った人は下の記事をどうぞ。
eki-docomokirai.hatenablog.com
斬新な手法を提唱して評価を得ようとするのは、音楽に限らずあらゆる分野にあります。やるべきことは「普通のことを継続する」ことだけなのはみんな分かっているはずなのにね。
このピンクノイズミックスも「斬新で奇抜」という観点から提唱されましたが、『実用性は皆無である』というのが定説です。
ということです。詳しくはリンク先でどうぞ。
■6,低音量でミックスするだけではダメ!
「低音量でスピーカーを鳴らせば、部屋鳴り・共振を防げるから優れています!」
いいえ。違います。
スピーカーが適切な性能を発揮するためには、ある程度以上の音量が必要です。自動車と同じだと思ってください。ある程度以上のパワーを出さないと車は動きません。もしくは調理器具だと思ってください。ある程度以上のパワーを出さないと肉を焼くことはできず、温まるだけです。
どのような音量でもそれなりに聞こえるのが優れたミックスです。
大きな音量でも小さな音量でも試すべきです。
生活環境によっては大きな音を鳴らしにくいこともありますが、休日の昼間など、問題を最小限にできる時間帯に大きな音でどうなるかを練習しておきましょう。
小さい音でミックスすると、大きい音の時にこうなる!という想像力を磨きましょう。
大きな音だけでもダメです。
迫力に圧倒されて冷静な作業ができません。また、音量を変えるとバランスも変わります。
大きな音と小さな音では、人間の耳の聞こえ方も異なります。
eki-docomokirai.hatenablog.com
良いミックスとは大きな音でも小さな音でも、どちらでもそれなりに聞こえるバランスを作ることです。
■7,バスミックス(ステムミックス)に頼ってはダメ!
「同じ役割のトラックをまとめて行う『ステムミックス』の方が優れている!」
いいえ。違います。
ステム作業は便利ですが、万能ではありません。ステムで過激な加工をすると悪影響を受ける個別音があります。
ステムミックスはモダンで便利な方法ですが、魔法のミックス方法ではありません。個別トラックの音を直さなければいけない場面は多々あります。
個別のトラックが整った綺麗なステムでなければ、ステムミックスは無意味です。
個人的に思うことは、ステムミックスの場合にはステムミックスにするための専用の手順が必要になるので、それほど必要ではないと思います。よほど狭い世界に限定して活動しているなら、その世界にあったスタイルでステムミックスで仕上げることも必要になることもあるでしょう。そうじゃないならそれほど意味がないことです。
上の「ピンクノイズに合わせるミックス」に書いたのと同様、ステムミックスもまた近年流行しているだけのもので、「ステム納品じゃないと仕事にならないよ」と不安を煽って無駄な作業をさせたり、腕を鈍らせてしまう危険性もあります。
また、ステムミックスはそもそも「全体を合体させた状態でコンプする」ことが原理的に不可能なので、どうやっても完成度は落ちます。それでもステムで仕上げる理由は、現地で最終調整をすることでより大きなプラスを出す可能性を得るためです。
が、実際にやった知人の話では「実際に現地でそんな丁寧にやっている時間があるはずもないので本末転倒だった」とのことでした。専用の訓練が不可欠なようです。
■関連記事
同著者(Jason Moss氏)によるその他のTIPS集の紹介記事です。