eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

(DTM)音楽機材を買いたくなったら読む記事

 レッスンで「音楽機材買いたい」の話があったので、せっかくだから関連事項をブログ記事にしておきます。

(2019年1月24日更新) 

 

 

■実機機材は「贅沢のため」に所有する

過去記事、「小さな選択肢の神話 ~ 音楽制作における「パレート法則」(Sonic Scoop翻訳記事) - eki_docomokiraiの音楽制作ブログ」の中では、海外記事(リンク)で機材購入について下のように述べていると紹介しています。

8) It’s Not The Gear

A poor craftsman blames his tools. A poor audio engineer thinks he needs better ones.

Once the basic requirements are met, any additional equipment is a luxury, not a necessity.

It’s not worth fretting over luxuries. They are to be enjoyed, not worried over.

機材は贅沢のため。基本的な技術がちゃんと身につけば必要ではありません。」

と書かれています。

うなるほどの高級機材に囲まれている人が、「これはただの贅沢だ」と言っているんです。

 

■アナログで行われていること

アナログ機材がどのような加工を行っているかと言えば、

  • コンプレッション
  • サチュレーション(ディストーション、音の歪み)
  • 回路に起因する「上下のパスフィルター」
  • →アナログフィルターということは、レゾナンスが起きる
  • ノイズ

などが挙げられます。

デジタル処理ではこれらの効果が(ほぼ)起きず、良くも悪くもクリーンな音になります。

初期のデジタルはクリーンが悪い方向に働くことが多く敬遠されましたが、その一方でクリーンであってほしい工程では重宝されました。

DAWの付属プラグインだけでもコンプ、サチュ、上下カットとレゾナンスは表現できます。

デジタルワークではそれらを「任意に付け足す」ことで、アナログサウンドの良さを再現することが可能です。「ちょっとコンプ」「ちょっとサチュ」「尖すぎないEQ」という方向性で加工することで、アナログワークに近いサウンドを作れるということです。

アナログモデリングエフェクタではそれらを内部で適度に行うことでそれっぽい音を表現しています。もちろん実機とは異なりますが、似たような音になるならそれで十分です。

 

こういうことを把握していれば、アナログ実機ではなくても近い音は作れます。

 

もちろん実機そのものの音ではないですし、「アナログ実機を通した音にしたぞ!」という納得を得られないので「アナログシムのプラグインじゃダメだね」と考える人もいます。

でも、後で再調整したい時にもう一度アナログを経由させる不便さがあるので「アナログ通したし、別に録音し直さなくても良いよね」という逃げ腰になるデメリットもあります。理想的な調整をしたいのか、アナログを通したという心理的アリバイが欲しいだけなのかを、自分の中できっちりしておくのは大事です。

実際やってみるとアナログを経由させる面倒さを痛感できるはずです。適当な機材で構わないので一度やってみて「毎回こんなことやってられるか!」「これを全トラックやるのか……」という辛さを実感して、その上でどちらが自分に合っているか考えてみてください。

 

妥協の産物であるアナログシムのプラグインの場合、いつでも瞬時に微調整できるメリットがあるので、調整を繰り返したい人の場合にはより良い結果になると言えます。

 

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■お金の使い方

学生時代の話を。

 

・先生を買え

音楽学校に通っていた時、ある学生がカタログを見ながら「これ欲しいなー」「70万かー」と四六時中ボヤいていたのがウザかったので、私は『それ買ってお前の音は良くなるのか?』と攻め立てたことがあります。

私の主張は、

  • 買っただけで誰でも良い音になるわけがない
  • お前には腕がない
  • 70万あるなら、その札束で先生の頬を叩いて専属講師として雇え
  • こんな学校で講師をやっている人の月給が70万以上あるとは思えないから確実に落とせる
  • 国産の先生がイヤなら留学しろ
  • 留学しても言葉ができない?じゃあ通訳を買え

というものです。

 

そういうことがあった上で、私は「買いたい病」に対して私の担当の先生がどういうリアクションを取るのか興味がわきました。試しに先生に「◯◯を買いたい」と相談してみたら割と本気で怒られました。

 

・憧れを買い、手放す勇気

私が大学に入学した時にはすでにOBだった某女史はアマチュアとしては十分すぎる腕のホルンプレイヤーでした。

その人は社会人になり、お金をためて、昔から憧れていた外国製の名機を購入しました。

 

https://www.neromusic.jp/model-23(PAXMAN Model 75-3)

価格はかなりブッ飛んでいるので、ぜひリンク先でどーぞ。

 

しかし「重たいし、何かと使いにくい。後発品の方がよく出来ている。」と評価し、半年もたたずに手放していました。

 「憧れ」を手に入れ、真正面から評価し、不要だと判断したその行動力と審美眼に感服したものです。

 

・告白し、先に進む

最新の機器、最新のプラグインの方が、昔憧れたアレより優れているということはよくあります。

でも、憧れの気持ちがあるなら買ってしまった方が良いです。本当に。

 

迷いがあるならとにかく購入し、実際に経験し、その上で判断することで次のステージに進めるはずです。

私も上ほど高い買い物ではありませんが、購入し、使い、手放してきた過去があります。

いつまでもウダウダ言っているくらいなら、治療だと思って買うべきです。

 

好きな人がいるなら「好きです!」とはっきり言って、付き合えてもそうでなくても、自分から動かないとダメなのと同じです。

 

・憧れは理性ではない

ダメなアドバイスは「最新のこっちのほうが優れているよ。そんな古いものを買うな!」という押さえつけです。どんな正論でも憧れという感情は抑え込むことはできません

 

駄菓子を大人買いしたり、時代遅れのスポーツカーを買ったりするのと同じです。

 

幼い頃のゲームより最新ゲームの方が圧倒的に高品質ですが、「このゲーム、昔やりたかったんだよなぁ……」という気持ちを満たすのは昔のチープなゲームしか無いんです。

 

(でも、そういう気持ちでペットを飼うのだけは止めた方が良いと思います。「こんなはずじゃなかった」という心変わりで、すぐに手放せるものではないからです。)

 

■所有するデメリット

憧れを入手すると、未知のトラブルもセットでついてきます。

ペットを飼う面倒さや、古いスポーツカーを買うとメンテナンスだけでも大変だということです。

 

・メンテナンス、輸送リスク

あらゆる実機は買っただけで完了しません。

保全、メンテナンスの手間がかかることを忘れてはいけません。

 

実機はソフトウェアと違って再インストールやアップデートパッチという手軽な方法では治りません。素人のDIYでどうにかなるわけがないです(別の意味で「どうにか」してしまうのが落ち)。なので工場送りになります。その輸送費は莫大ですし、時間がかかります。特に精密機器の海外輸送という行為そのものが極めてリスキーです。もし国内で修理が可能な代理店に送るとしても、長距離輸送のリスクは避けられません。

これは初期不良の部品交換だけではなく、経年劣化のメンテナンスでも同様です。

つまり、宅録仕事で実機機材を常用するなら、メンテ送りしている間に代替品が無いといけないわけです。数ヶ月のメンテ期間を埋め合わせできる同等のものを持ってるんですか?ということです。車検期間の代車は数日で済みますが、特殊なオーディオ機器が数日で戻ってくるわけ無いですよ。送ってから検査、パーツ取り寄せ。最悪の場合パーツのロット待ちになります。

もし代替品が適当なものでも良いなら、初めからその適当なものだけを使っていれば良いんじゃないの?

自分で修理できるのがベストですが、相応の技術が必要となります。往々にして音楽家は修理という行為をナメています。(まー自分でいじった達成感が、完全な修復を上回る満足感になるならお好きにどうぞ。)

 

メンテナンスとチェックだけでも相当な労力となります。毎日確実に動作するように保全し、トラブルがあった時に結線を変えるだけで1日たってしまうかもしれません。

 

これは音響機材だけではなく、車でも同じです。

外車を購入した人が故障時に極めて長期間を代車で過ごしているのを見たことはありませんか?

ちょっとした部品交換だけでも国内にリサプライヤーが無い場合には、パーツの輸入待ちになってしまいます。

外車(ビンテージ機材)を購入するということは、そいうリスク込みだということを理解しなければいけません。特に地方在住の場合には致命的になることがあります。

国産で共用部品で修理できる車種は確かに陳腐です。しかし、いつでもすぐに修理できるメリットは日常の道具として極めて重要です。

 

流行のペットを買ってみたは良いけれど、世話が面倒で捨ててしまう人がいるのと同じです。音響機材でも「本体」の値段以外の諸問題について情報収集するべきだと思います。

 

■「◯◯買いたい」という人に対する私の意見

上をまとめると、

  • 憧れがあるなら買って試すべき
  • 要らないと分かったら手放す
  • 買わないとモヤモヤが続く
  • 腕とセンスを買えば死ぬまで使える

ということです。

 

DTM的によく見聞きする例だと、Wavesとかソニーのヘッドホンとか、NS10Mとかのことです。

実際今時Wavesを買うくらいなら、同価格帯でもっと良いものはいくらでもあります。もっと言えば、付属エフェクトでも古いWavesと同等の性能になってきています。

新しいWavesならともかく、初期のWavesプラグインってもう20年前のソフトウェアですよ?20年前って1998年ですから、Windows95とか98の時代、つまり携帯電話の出始めの時代で、インターネットには電話接続していた時代です。

 

それでもWavesが欲しいならポンと買ってしまうべきです。

 

買ってみれば「付属と大して変わらない」とか「思ってたほど使いやすいものでもない」と感じるはずです。

そもそも「プロがWavesを使う」というのは、他のスタジオに行っても同じ道具があるから便利だというメリットがあったからです。また、軽量に作られているので大量にインサートしても負荷が低いからです。そもそも普及した理由はデジタル初期にものすごい営業を行い、一気に世界に浸透させたからです。

 

ソニーのヘッドホンやNS10Mも別に音が良いとかいうことは無く、実際に音を聞いて「こんなもんか?」と思うはずです。「業界標準だから」と主張する人もいますが、業界標準っていうのはカブとかハイエースとか、カントリーマァム、かっぱえびせんのようなものです。別に高性能なわけではありません。

そういうのを退屈なミーハーだと割り切って回避する人もいますし、定番だからと言って所有したがる人もいます。

もし憧れがあって、自分でも所有したいなら迷わず買えば良いです。買って実際に試した上で評価すれば、一歩前進できます。

今時は学生でもニートでも簡易ローンを組んで簡単に買えるので、今すぐポチるべきです。

 

・迷うと身動きが取れなくなる

「あの機材の音を手に入れないと曲を作る気がしない」と思ったなら、治療薬あるいは緊急入院が必要な重篤な症状だと思って今すぐ買うべきです。

身動きが取れない時間はもったいないです。

放っておくと悪化します。

決定的な人生の転機が訪れない限り、その病から逃れることはできません。

 

・買うなら一番良いものを買う

中途半端なものを買うと「やっぱりアレを買うべきだった」となる人がほとんどです。

安くはない買い物なのに、「安物買い」をしてしまった後悔だけが残ります。

ある知人は「我が家には昔から『買うなら一番良いものだけを買え』という家訓がある」と言っていました。

またその人は「もし一番良いものを買えないなら、一番安いもので納得せよ」とも言っていました。

消費を抑えたというメリットを得ることができるすばらしい家訓のある家だなぁと感心しました。

 

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■説明書を読み、使い方を学ぶ

プラグインを1つ買ったら資料を1つ読む(買う)、という習慣づけがお手頃だと思います。

たとえ英語が分からないとしてもです。

海外通販サイトで買い物をしてアクティベートができるくらいなら、それはすでにある程度の英語ができるということです。心配はいりません!アクティベートに失敗して冷や汗をかいている時は、頑張って英語を読んでいたはずです。

アクティベートに成功したことでホッとしてしまい、その一歩先にある調査をしない人が圧倒的多数です。必ず機能と特性を調べましょう。

 

良いプラグイン製品には良いマニュアルがついていたり、そのメーカー自信が多くの使い方TIPSを公開しているはずです。そういうのもちゃんと読みましょう。

また、メーカーと提携している(と思われる)人たちが、特定のプラグインの使い方をクローズアップしていることもあります。

 

シンセやエフェクタの基本は「とりあえず触ってみる」のが重要ですが、説明書をちゃんと読むことも大事です。どういう時にどういう使い方をし、どういうサウンドを目指すべきかがちゃんと説明されているはずです。

(このことのみについて啓蒙する記事もあるくらいです。URL忘れた。あとで追記します。たぶん。)

 

また、私も、いくつかの海外プラグインメーカーに翻訳許可申請中でいくつかはすでに許可を得ることができています。もうしばらくお待ち下さい。特にいつまでに書けと指定されているわけでもないので、そのうち書きます。たぶん。(レッスンでは必要に応じて口頭で説明しています。)

 

ただ適当に新作プラグインをいじるだけではなく、まずは道具の正しい使い方を身につけるべきでしょう。「このボタンってそういう効果だったのか!」「そんな設定方法があったのか!」と驚くことになるはずです。仕組みを理解すれば、より優れたアイディアを引き出せるかもしれませんし、新しくプラグインを買い足さなくても、すでに持っているものでいろいろできるかもしれません。(あるいは付属でも全く同じことができるかもしれません!)

 

あえて書きますが、私がレッスンをやっていて色々な人の現状を多く見聞きしているのですが、ほぼすべての人が「宝の持ち腐れ」な状態だと言わざるを得ません。すばらしく良い高価な道具を持っているにもかかわらず、根本的にそれらの使い方を誤っています。その機材の個性的な機能にまったく触れていないケースもあります。

 

あと、憧れのプラグインを買うのは素晴らしいことではありますが、同等あるいはそれ以下の価格で、より優れたプラグインがあるかもしれません。欲しいのが性能なのか、思い出なのかを切り分けるのは重要です。

 

・「最新」「最強」の賞味期限は半年

最新のものは高性能PC向けに作られているので、異常なほどの負荷がかかったり、容量が異様に巨大だったりします。確かに「最新!最強!」なものを手に入れたことには間違いありません。

しかし、その「最新」はあっという間に後続に追い抜かれます。半年後には半額かもしれません。

「最強」は負荷も使いにくさも「最凶」かもしれません。1年後には使いやすさ重視のモデルが出るかもしれません。

後発品が優れているのは当然です。

 

別の角度から見れば、軽量コンパクトに設計された付属プラグインで一貫性のあるワークフローを組めることもを考えれば安定性も含めて最強だと言えます。たとえば古いWavesプラグインの最大のメリットは何本指してもスムーズに動く軽量さです。

 

■慣れ最強

長く使い、毎日使うことで熟練度が上がります。

操作のスピードも上がります。

慣れた道具は疲れを感じることもありません。

 

新しいものを使うワクワク感は得られませんが、道具としては慣れたものの方が上です。

 

メリット/デメリットを比較してから新しい道具を導入しましょう。

 

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■昔の自分の場合

近年の私の様子から「お前、本当に買い物に興味無いよね」と言われることがあります。

が、以前は他人から心配されるくらい買う人でした。音楽機材に関わらず、ありとあらゆるものを買うタイプでした。借りられるものは遠方まで足を運んででも借りに行きました。

 

その買い方も迷って選んで買うのではなく、「ものすごくつまらなそうに買い物をする男」と言われるくらいスピーディに買う人でした。

サラリーマン時代には仕事をやめたくならないようにと思い、カードの限度額まで一気に音楽機材の買い物をしたこともありました。会社で仕事をし、帰宅したら黙々と音楽をやり、寝て起きて仕事に行く日々でした。おかげで会社での成績も新人1位でしたし、音楽制作を副業にできる腕もすぐに身につきました。

 

そういうことをしてきた上で今は非常に簡素な環境だけで音楽仕事をしています。

何が必要で、何が必要ない贅沢なのかを切り分けることができたんだと思います。

私がほぼ一貫して新製品について「いらん」と一刀両断するのはそういう経緯があってのことです。

はじめから簡素な環境でやっていたわけではありません。

 

・フリー縛りは無価値

が、勘違いしてほしくないことがあります。

フリーソフトだけで「縛りプレイ」をすることにも興味はありません。

むしろ「フリーだけでやっている」と自慢げに言う人には「そんなこと自慢にならないから、さっさと基本的な道具を買え」と強く勧めているくらいです。

リー環境で音楽をやっていても、作業の手間が増えるだけで効率が上がりません。身につくスキルは「フリーでやること」を最終目的にしたスキルだけであって、本質的な音楽スキルの向上に費やせる時間を逼迫しているだけだからです。

 

・人生は有限

若く活力に満ちた時間はすぐに終わります。

映画『風立ちぬ』では「創造的な人生の持ち時間は10年」という印象的なセリフがあります。

shintaro-hato.com

 

新しいことをどんどん身につけられる時期はあっという間に終わり、すべての男はおっさんになり、すべての女はおばさんになります。価値観も感性も凝り固まってしまいます。老いは定年後に訪れるものではなく、20代後半から確実に始まります。(老後にお金があっても、旅行する体力が無くなる、という話です。)

そういう大切な時期を「フリー環境で音楽を作る」という行為に費やすのは、若さをドブに捨てているのと同じだと断言します。借金をしてでもそれなり以上の音楽環境を手に入れるべきです。

今は大金だと思うかもしれませんが、地方に住んで必需品となる車のローンだと思えば大した金額ではありません。ドーンと買い物をして引き返せない状況になれば、真の能力を発揮できるきっかけにもなります。

 

メメントモリ

先日、作曲家の友人が亡くなりました。

30代なかば。結婚を予定し、音楽仕事をやりやすい環境に引っ越した後でした。

闘病しつつ、完治を前提として作品を作り続けていましたが、最後の数ヶ月は入院。

 

既存の治療法はどれも効果が得られず、終末期医療へ。

通話する体力もなくなり、肉声を聞くことはできませんでした。SNSへの投稿だけで1日の体力の多くを奪われるとか、握力を使わないフリック入力に感謝すると言っていました。

病の発覚から1年ほど、あっという間のことでした。

病床で書いた遺作は穏やかで明るく、理路整然とした曲でした。

 

死は定年後にゆるやかに訪れるものではなく、理不尽に唐突に襲いかかるものです。

買うか買わないかで悩んでいる時間などありません。今すぐ買いましょう。そして前に進み、次の曲を作りましょう。

 

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