eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

添削的な話

 預かった曲をリマスターして明らかになることについて。

以前からメールで色々と相談を受けている人の曲の話です。本人の曲が無いので、音声データ等はありません

この記事は実質的にメールへの返答であり、その他大勢向けのものではありません。

 

 

■過去記事

以前にも書いた添削記事の続編です。今回の作曲はまったく別の人です。

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

■今回の曲

相談でお預かりした曲です。

雑にリマスターしつつ、作編曲もチェック。 

 

■ミックスバランスとか

リマスターすることで、突出してしまう帯域が明らかになります。

これはいわゆる「マスタリングではどうにもならない」ものなので、どうにもなりません。

が、リファレンスに沿ったバランスの仮マスターを作ってみることで2mixの段階を改善する方向性が明らかになります。

 

今回預かった曲は恐らく「自分が気持ちよく聞こえる音」でミックスしたものだと思われます。

そのため、帯域バランスに大きな問題があり、この状態まま通常の方法でマスタリングをすると「そうじゃないんだよなぁ」という音に仕上がってしまうはずです。

このブログでも外部でもたびたび申し上げているとおり、マスタリング屋は曲の内容を聞いていません。流通するためのフォーマットに沿ってパッケージングをするだけであって、音楽的な補正をしてくれるわけではありません。

 

マスタリングではミックスの不具合は解消できません。

ミックスでは作編曲の不具合は解消できません。

仮マスター処理をすることで、アレンジ段階(音色選び)でどう処理するべきかが見えてくることがあります。

 

もちろん慣れてくるとアレンジの段階で「◯◯が足りないから足そう」「これは重複したアイディアだから、どちらか無くても良い。もしくは交互に出す」という選択ができるようになります。

今回の曲はラフ段階でボーカル+AG+Drだけで作られているので、主に「不足箇所」が浮き彫りになります。

(帯域的に)不足している要素は仮マスターでフラット化した際に浮き彫りになるので、同じ帯域をカバーできる楽器を追加しても大丈夫ということが理解できます。

 

この辺に慣れていない人は、往々にしてアイディア過剰になり、楽器を重ねすぎてしまいます。結果、ミックスでおかしなことをしないと共存できなくなります。もちろんそういう状態を巧みに共存させるミックス技術もありますが、せっかく出したアイディアを殺す覚悟が必要になるので、容赦なく音を削るミックス方針になります。作家がこれを成功させるのは酷です。他人にミックスを任せても「そうじゃないんだよなぁ」という結果に感じます。ミックスは魔術ではありません。

 

・帯域バランス

サビの5秒再生でリファレンス比較。

f:id:eki_docomokirai:20180628004301p:plain

上の画像のとおり、預かった状態のままだと300~上がすべて小さく表示されます。

逆に言えば300以下が大きいということです。

 

女性ボーカルとドラムが200周辺を大きく持ち上げているように感じます。ドラムについては後述。

 

また、ハイの7000あたりに大きな膨らみがあり、ドンシャリ仕立てだとしてもやや不良です。

 

これらは「ダメだ」という意味ではなく、「あなたが普通に作るとこういう音になる傾向があるよ」という自己認識です。「あなたが料理をすると味付けが濃いめだよね」とか、「激辛好きなんだねー」とか、そういう意味です。

それを自覚するだけで、自分の好みの音に仕上げてはいけないということを自覚できます。私もそうです。私が聞いて気持ち良い音にするとハイとローが無くて300~500あたりに強いディップのある音に仕上げてしまいます。なので、ある段階でリファレンスと比較しつつハイとローとローミッドのチェックを重点的に行っています。私はそういう要素が下手だと認識しているからよく確認するんです。下手だから「ちゃんと耳を使え」という乱暴な指導はしないんです。

 

・低域の問題

300以下が大きく、ローエンドがやや暴れ気味。

これはたぶんモニター環境の問題だと思います。

が、私はこういうケースにおいて「良いモニター買え」「部屋の音響をどうにかしろ」というアドバイスは絶対にしてません。だってムリですから。

じゃあどうするのかというと、「自分が普通に作ると、300以下が大きくなっちゃうんだな」と自覚すれば良いだけです。

 

この人が注意するべき点は、ミックスの段階で

  • 300以下を自分が「良く聞こえる」感じよりも抑え気味にする
  • ローエンド(100以下)がルーズになるから、少しだけローにコンプする

という加工を追加するだけで症状は必ず良い方向になります。

もしそれ以上のことをやりたいなら、それなり以上の訓練が必要になります。

 

ダイナミックEQで補正します。

f:id:eki_docomokirai:20180628004306p:plain

中域を上げ、中域以上をシェルフ上げ。

シェルフによってハイエンドが大きくなりすぎるので、8000以上を突出しないようにコンプします。

200周辺の暴れる音量をコンプします。

ローエンド。キックのテールが長めだったのでコンプ。遅めのアタックタイムでテンポ感を損なわないように処理。

 

・ローファイチェックとモノチェック

ほぼ問題ありません。

が、モノ時にコーラスが左右100%近くまで振られている箇所で若干破綻します。

これはモノチェック時だけの問題ではなく、そもそもコーラスを横に振りすぎだと感じます。

 

■作編曲

デモ曲。女性ボーカル+AG、Dr。

(ベースが入っているのかもしれませんが、ほとんど聞こえないです。)

AGはコードを明示するためのストローク演奏が主体。

デモ段階なので非常にシンプルですが、コールアンドレスポンス的なパフォーマンスができそうな要素もあり、十分に卓越した作曲だと感じます。

 

・歌い方

明瞭な歌詞と歌い方で、ボーカル曲として非常にアピール力があると感じました。

 

個人的な趣味としては、もうちょいパワーがあって荒れた歌い方で良いかなぁと思います。

特にABとサビの差別化のために、サビをパワフルに歌うと対比が効いて良いかなと。

 

ネガティブな歌詞のAから、心情が変化するB、ポジティブなサビという歌詞の曲です。この歌詞に沿って歌い方も右上がりにするのが正解です。(そういう歌詞じゃなかったとしても、音楽のルールとして右上がりにするのが常套です。)

 

一番強く歌えるスタイルでサビを歌ってみて、そこから逆算で「左下がり」にBメロAメロの歌い方を組み立てるのも良い方法です。

 

もちろんミックス段階で「サビだけ1.0dB上げ」とか飽和感を強くするという方法もありますが、それらはあくまでも二次的な対処法、次善策です。

静かな歌い方を大きな音量にするのと、強い声と弱い声を使い分けて歌うのとでは、訴求力がまるで違います。

 

特に、現在のデモの状態から先に進めて、アレンジでオケが派手になっていくと、相対的にボーカルは弱く聞こえてしまうことになります。

オケが薄いデモ段階ではボーカルはもっと過剰に聞こえているべきです。

 

知人の歌手(SSW)の場合、ギターかピアノだけの伴奏+ボーカルのデータだけで私にアレンジ依頼をしてくるのですが、その時点でボーカルの表情が異様なほど過剰です。「そうやって歌いたいんだな」ということを捉えた上でアレンジをしています。

もちろんアレンジのオケを書いてから歌い直すスタイルの人もいますが、正直なところ前者のほうがアレンジのやりがいがあるというか、やりたい方向性が見えるので安心してアレンジを進めていくことができます。

 

・ユニゾンとハモリ

もし声質の都合で不可能な場合、2回歌って重ねると問題は解決します。面倒ですがハモリ(とユニゾン)を作ってみることを強くオススメします。作業量は増えまずが色々な問題が一発で解消されるはずです。

ニゾンは別の人の声で作る手もあります。省エネ低予算でやる場合には楽器の音にしたり、ハモリを音程修正で強引に作る方法もあります。

 

初歩の和声の理屈を振り回す人はボーカルと楽器とのユニゾンを禁忌するケースが多いですが、サビの聞かせどころなどパワーが必要な箇所では積極的にユニゾンを使って構いません。和声の理屈をオーケストレーションの理屈が上回る状況だということです。(オーケストレーション管弦楽法≒インストゥルメンテーション、楽器法)

 

・隙間埋めが無い

9秒~

間奏に何も入っていない状態なのはデモ曲なのでともかく、サビ開始のイントロ9秒からコードしか無いのは第一印象がまずいです。さらに言えば、同じコードのまま8小節はかなりまずいです。何も動きが無いと4小節でも長いと感じてしまいます。

 

サビ開始の曲は開幕は絶対に良い感じになるのが最大のメリットですが、その直後のAメロまでのブリッジ部分に落差があると「ガッカリ」になってしまう危険性があります。実際そういう曲は市販のものでも多いです。

その部分だけのオリジナルのメロディを追加してインストで演奏させる、印象的なリズムを入れるなどの工夫が絶対不可欠です。

 

難しいメロディを考える必要は無いので、他の箇所から音符の動きを部分的に引用したり、コード&スケールをそのまま使った単純なものでも構わないので「隙間埋め」を必ず書くように習慣づけると良いです。そういう仮のメロディが入っているだけで「まぁこのままで良いんじゃね?」となることは実際多いです。なんでも良いので入れておくだけで悩みが半分くらい解消するはずです。

 

隙間埋め用に適当な楽器のトラックを作っておいて「ここは隙間埋めですよ」とだけわかる何かを書き込んでおくようにすると良いです。あとでちゃんと仕上げる時に別の楽器に差し替えたり、隙間じゃない場所でどう鳴らすべきかを模索すれば良いだけです。

「これはデモ段階です」と言っても最低限の要素は必ず入れるようにすると、想像力が無い人でも「この曲はちゃんと作れば化けるぞ!」と着目してくれます。そういう想像力のある人が減ってきているのが現状で、デモ段階でも相当作り込んだ状態じゃないと箸にも棒にもかからないのが実情です。そういう無能プロデューサーに腹を立てている人も多いのですが、文句を言っても彼らに想像力が備わるわけじゃないです。DTMによって作家がハイレベルなデモを作れる時代なので、作れるところまではちゃんと作らないといけない時代です。

今回お渡ししたリマスターもそういう意味において重要です。最低限の音量とバランスになっていないと聞いてさえもらえません。聞いてもらっても「音が小さいね」というアホなコメントしか言えない人が多いからです。

 

・つなぎ要素

1分12秒が瞬間的すぎてキャッチーさに欠けます。

1分27秒は明確に2発のキメが入るので良好です。

 

どちらもギターがキメを入れていますが、それにドラムが沿っていないので訴求力に欠けます。

キメは原則的にすべての楽器を揃えて「ジャジャッ!」とやるのがこの手のポピュラー音楽の文法です。笑っちゃうくらいシンプルに直球を投げるくらいがちょうど良いです。

 

0分58秒も同様です。

 

キメでストップ感を作るか推進力を作るかは曲の流れによります。ほぼ全てのケースにおいて「推進力のあるツナギ」が正解です。

今回聞かせてもらった曲では「キメがストップ的」に聞こえます。

色々な曲を聞きながら「キメとツナギ」がどういう音形で、どういう役目になっているかをチェックしまくることをおすすめします。

 

私はこの「キメとツナギ」を偏執的に研究していた時期があります。市販の曲でもいまいち機能性に欠けるツナギの曲もありましたし、本当に大ヒットしたと言える曲は総じてツナギが機能的で実に巧妙でした。

近年はヒット曲と言っても相対的なヒットでしかなく、ギョーカイ的にはヒット曲だとしても世間にさっぱり認知されていない曲も多いです。たしかにそういう曲はツナギがうまくないです。変にテクニカルで音数が多く、キメ要素が薄いと感じています。単に私がポピュラー音楽に「くどくてキャッチーな曲」を求めているだけかもしれませんが。何にせよ「これだ!」というキメの音形を叩き込んでいく意思が必要じゃないかなぁと。

 

・ドラム

打ち込みドラムの音色選択に若干の違和感を感じます。メタル系の薄胴スネアに強くコンプがかかった音で、曲想的にミスマッチを感じます。キック、タムもややパワー過剰な気がします。

総じてドラムがおとなしい演奏(おとなしい音符配置)で、それを補う意味でパワフルな音色セットを選択したのかな?と想像します。

地味めのドラムの音色セットでも、適度に動きをつけることで十分に派手な感じに聞こえるものです。

イントロのサビ開始のドラムは面白い動きで惹き付ける要素があるので、たぶんちゃんと作ればちゃんとできるはずだと思います。

デモ段階でそれができないということは、ドラムに対するアイディア不足ではなく、作業手順の問題があるんじゃないかと思います。

コピペや同じ演奏パターンを流用できる機能をうまく使い、省エネ打ち込みをする技術を身につければ同じ作業時間でアイディアをどんどん実装できるようになるはずです。

 

■その他

・演出

本仕上げに行く場合、いろいろな演出ができます。

そういう隙間も用意されているので優れた構成だと感じます。

 

演出には全体的な構成的な演出と、トラック別の装飾的な演出があります。また、細部の微調整のための演出があります。

「こういう時はああいうのをやるよね」「あるある」という程度のものでも、それがあるのと無いのとで印象は大きく変わります。「なんか分からないけど、なんとなく物足りない」という印象は音楽の素人でも感じるものです。それを適切にアドバイスしてくれる人は音楽をある程度以上やっている人でもなかなかいません。普通であることは案外難しいです。

 

ボーカルのフレーズ終わりの処理、ボーカルの長い音の処理、フィルのタムの処理、など。

 

・前後の無音時間

非常に些細な点ですが、曲の最初と最後の無音時間は1秒以内にするべきです。

今回の曲では開始に2秒の無音があります。

2秒ならまぁ許容範囲だとする人もいますが、音が鳴る前に印象が悪くなってしまいます。

 

DAWの作業スペースの都合で冒頭に長い空白ができることは良くあります。

が、オーディオ書き出し時にどの位置から書き出し、どこで終わりにするかを決めておくべきです。

 

これはデモ曲でも仕上げた曲でも同じだと思っておくべきです。

たとえデモ曲だったとしても、冒頭は1秒以内にするクセを付けておくと良いよ、ということです。

 

たまにYoutubeSoundCloudなどで冒頭に10秒以上の空白のある曲を置いている人がいます。もうその時点で他人に聞いてもらう意思が無く、準備を怠っていると言わざるを得ません。それだけで大きな損をしていると気がつくべきです。

 

テレビやラジオでは2秒の無音時間が続くと放送事故だと判断されることがあります。局ごとのガイドラインにもよりますが、概ね2秒だと思っておけば大丈夫です。(仕事上、正確に知る必要のある人は局の人に現在のルールを尋ねて正確な情報を仕入れてください。こんな場末のブログの昔話を真に受けないでください!)

そこから逆算し、音楽ファイルの冒頭の無音時間は1秒が限度だということです。しゃべり終わり、再生し、音が鳴るまでの時間を考えれば理解してもらえると思います。

で、そういう「冒頭1秒以内」で作られている市販曲がほとんどなので、ポチっと再生ボタンを押して1秒以内に音がならないと「あれっ?」となってしまうわけです。

 

逆に早すぎるのも問題です。

一般的に0.2秒~0.5秒で曲が始まります。手持ちの市販曲をDAWで表示してみるとわかるはずです。

ただしこれはアルバムマスタリングの結果として、前の曲との関連性で「曲間」バランスが作為的になっているものもあるので、そういう例外には注意してください。

 

また「無音」が完全な0.0dB無音であるべきかどうかについて。

これはデモ段階では完全な無音に仕上げる必要はありません。

今回預かった状態で十分です。

 

・レッスン対応できます

このくらいまで作れる人だと私もレッスンをやっていて楽しいですし、このくらいまで作れる人は次のステップに進む具体的なアドバイスを得にくい状態(中級者、上級者)です。私が主にやっているレッスンはそういう人が対象です。

初心者だと「コードがー」「ミックスがー」という関心の持ち方でスキルを向上できるのですが、中級者上級者ともなると、ポピュラーの域を脱してしまう複雑なコードワークを身に着けても無意味ですし、専業エンジニアでもないのにミックスをこれ以上上達させても無意味です。

 

不明な点などがあればまた連絡してください。

有料のレッスンであれば耳コピで作例なども作っています。

© docomokirai 2017 非常識な無断転載、商用利用を禁ず