eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

センドトラックの応用的な用法(海外ミックス記事紹介)

ここで紹介する方法は上級者にとっては一般的です。

すでに多くの技術書や雑誌、レッスン、独自の研究で同じ方法を用いている人は多いので、Tricksと呼べるほど突飛なものではありません。

(2018年8月10日更新)

 

 

 

■元記事(英語)

theproaudiofiles.com

今までこういう方法を知らなかった人にとっては「そんなメチャクチャな!」と思う人もいるかもしれません。が、ぜんぜん普通の加工です。

 

■リバーブはセンドだけではない

www.puremix.net

日本国内のミックス技術情報ではほぼ例外なく「リバーブはセンドで使うよ」と書かれていますが、必ずセンドで使うわけではありません。

特にダッキングコンプを使うジャンルでは、全てのリバーブをインサートで使い、リバーブ音もまとめてダッキングさせることで劇的なダッキングサウンドを得られます。そうしないとドライ音だけがダッキングし、リバーブ音が残ってしまうからです。

この手法は特にダンスミュージック界隈のMIX TIPSとして良く紹介されているものです。

もちろん、センド先でもダッキングを行えば良いと言えます。しかし、そうするとダッキングの管理場所が増えてしまうので、直感的に加工できなくなってしまいます。

 

また、上のリンク先記事ではプリディレイの用法についても詳細に説明されているので「プリディレイって何?ディレイじゃなくてリバーブの話を知りたいんだけど?」と思った人は読むべきです。プリディレイはディレイエフェクトのことではなく、リバーブの重要なパラメータのひとつです。

 

 

■センド先でさらにエフェクトをする

元記事で述べられているのは「センド先で様々な加工をしてみよう!」という定番TIPS+クリエイティブな提案です。

 

・センド先でEQ

これには目的が3つあります。

  1. バーブのモデル特性でバランスの狂った音を補正
  2. なじませるための修正
  3. 高度な空間シミュレート目的

手持ちの「音源の特性+手持ちのリバーブの特性」によって使い方は様々ですから、数値がどうこう言うのは全く無意味です。

国内で見られるミックスのTIPSでたまに見るのは「センドリバーブ(ディレイ)のハイ/ローを下げる」という消極的な方法です。しかし、逆に「ハイ/ローをゲインする」という方法もあります。

これはリバーブの特性を加味した上でのことで、IRでは往々にして効果的です。IR特性によってハイローが沈みがちになることが多いからです。

ハイ/ローを下げる方法は、音がまっすぐ出過ぎるアルゴリズミックリバーブで効果的です。

 

・センド先をコンプする

ディレイ、リバーブをコンプします。

言うまでもありませんが、インサート順序の原則はここでも同じです。

上の「センド先をEQ」との順序が重要になります。

また、マルチバンドコンプの可能性も考慮してみましょう。

 

・センドディレイをセンドリバーブに送る

これも古くからある一般的なテクニックです。

ディレイ音だけだと音が立ちすぎるので、リバーブに送って馴染ませるというコンセプトです。

もちろん元トラックから2つのセンドに分けても良いのですが、得られる音が若干違います。

「センド先EQ」の効果も現れるので、「2つのセンドに分割」と「センド→センド」では音が違うわけです。

 

・センド先でワイドにする

イメージャーやMSをセンド先で行います。

また、DAWによってはセンド先にどういうパニングで送るかを指定できる設定(Send Pan)がありますので、まずこれを活用するべきです。

イメージャーやMSは低質(※)なものが多いので過度の期待をするべきではありません。

 

(※)低質というか、破綻するレベルまでツマミが動いてしまう、というのが適切かな?音が崩れていると思ったら、見た目の数値を気にせずに浅い設定にするべきです。手元ではなくとにかく音を聞きましょう。疲れている時にこの手の加工をするのは絶対にやめましょう。寝て起きたらクソ音になっているはずです。

 

ステレオワイドは常に一定の設定ではなく、オートメーションによる表現もあります。

下リンク先の動画、6分あたりからを参照してみてください。

www.recordingrevolution.com

センド+オートメはさらなる表現と管理の容易さを可能にします。

 

 

・センド先でサイドチェインする

サイドチェインによってセンド音を動的に加工できます。

また、センド先のSCは、ある意味プリディレイとして自然に作用します。

SCと言うとダッキングを思い浮かべる人が多いと思いますが、極端なダッキングだけがSCではありません!

「バンド物でSCとか正気か?」と言っている人がたまに居ますが、わりと普通に行われています。

 

ジャンルによってSCの信号ルーチンには気をつけます。

「ウェット音へのSC」を考えるなら、センドではなく「インサートリバーブをまとめてSC」して派手なダッキングを行います。EDM等ではセンドリバーブよりもインサートリバーブが常套手段です。

EDM、ダンス系でダッキング主体のサウンドを目指しているなら、国内DTMで一般化している「リバーブはセンドで使うんだよ」という初歩テクニックを卒業し、インサートリバーブを試してみると良いでしょう。

 

・センド先で歪ませる

センド音に歪み(サチュレーション)を加える方法もあります。

サチュレーションとディストーションは同じ意味です。

 

■センドは空間系だけではない

センドエフェクトが最も使われるのはディレイとリバーブの「空間系」です。

それら空間系エフェクトを同じ設定で共有し、一括管理するのがセンドの主な用法です。

 

ここまではそうしたセンド用法に対し、「インサート空間系」もあるよというお話を書きました。

 

が、単一トラックからセンドする用法もあります。

キックなどの主張を強くしたい音をセンドし、センド先で様々な加工をして合流させる用法です。

ようするにレイヤーするわけですが、2つのトラックで発音させるレイヤーではなく、「センドレイヤー」によって管理が一括化できるメリットがあります。

 

無限にトラックを立ち上げ、自由にルーチンを組み直せるDAWならではの荒技です。

 

が、これもすでにちょっと古い方法で、近年ではモジュラーエフェクト(複合エフェクト)によってレイヤーを単一トラック内のインサートエフェクト1つで管理することも可能になってきています。

こういう使い方はエフェクタとミキサーの基本的な使い方をちゃんと理解していれば、アイディア次第でなんでもできます。

 

自由なルーチングを行えるという点においてはCubaseが非常に優れています。興味のある人はchild busを参照して使ってみてください。分岐・合流が自由自在に行えるメリットは最上位版Cubaseを使う最大のメリットのひとつです。

 

・センドコンプ(ニューヨークコンプ)

いわゆるニューヨークコンプはセンドルーチングで可能です。

が、このNYコンプの音を単一のコンプで簡単に出せるコンプも多くリリースされています。

わざわざ特殊なルーチングをしなくても、新しいエフェクタを使うだけで様々なサウンドを手軽に得られます。

 

同様に、MS処理も一時書き出しをしなくても、ルーチングの工夫や専用エフェクタで普通に行える時代です。

一昔前に頑張って覚えた方法が、今ではフリーのエフェクタでも簡単に行える時代です。

制作が一段落した時期に、すべてのワークフローを刷新するのは効率的です。

 

■注意点

DAWによってはルーチングによって極端な遅延が発生します!

遅延しない設定のDAWの場合には、多重処理の不可によってプチることがあります。

そういう時は軽量のプラグインを駆使し、妥協をもってベストとするべきです。

 

もちろん軽量化のためにウェット音だけをオーディオ化してから加工する方法もあります。

しかし、オーディオ化を前提としたミックスは微調整が非常に面倒になり、結局は妥協が生まれます。直感的、クリエイティブに加工できないの、「一度書き出せば毎回同じ音を得られる」というメリット以上に、使いにくさの方が上回ってしまうのが欠点です。

 

どの種類の妥協を受け入れるか?その種類の妥協を自分が許せるか?という選択になります。

私はバウンスせずに軽量で処理する派です。今ではその方が圧倒的に一般的だと断言できます。

 

バーブ音に限らず、「一度オーディオ書き出ししてからミックスを」というメソッドはすでに過去のものだと言い切って問題無い時代のはずです。

 

・並列処理の問題点

耳で分からない遅延でも、ms単位の遅延によって位相がめちゃくちゃになることもあります。

たとえ位相について知識が何も無くても、おかしな音になったと感じたらすみやかに使用を中止し、専門医に相談してください。

 

厳しい人は「今時この程度のことで同期が取れないものはDAWとは呼べない」とさえ言います。

もし並列処理が適切に行えないDAW(とプラグイン)をメインに使うのであれば、別の方法で求める音を追求するか、通常の方法で取り組むべきでしょう。

 

近年よく聞くのは、音符の配置などをやりやすいDAWで組み立て、ミックスは別のDAWでやる、というスタイルです。

が、個人的にはこの方法はアホじゃないかと思っています。何のためのDAW、何のための1台完結か?と疑問を感じます。1つのまともなDAWでシームレスに加工し続けた方が断然良いと思います。

本当に必要なのかどうかも分からないプラグインをいくつも買う悪癖を捨てて、まともなDAWの最上位版を買えば良いだけのことです。DAWを複数使ってまで熱心にやる労力を、新しいDAWの習熟の時間に回せば、すぐに習得できるはずです。

 

・ミックスのみ依頼時の注意

この手のこった加工はミックスのみを依頼した際にはまずやってくれません。

保守的な手法で手堅いミックスをするのが彼らの仕事です。

クリエイティブなアイディアを含めたミックスの場合には、ある程度以上まで自分でしっかり仕上げてからステムで渡すか、最後まで自分で仕上げた方が良いです。

 

■初歩知識だけのコミュニティを抜け出そう

事実、ニコ生DTMが盛り上がっていた頃にこういう手法を紹介したら、ニコ厨に「それはおかしい」「この人分かってないからNG」と怒られたことがあります。

初歩の知識で「ディレイとリバーブはセンドで使いましょう!」とだけ簡潔に解説しているサイトや動画は多いです。しかし、初歩の知識だけで応用を否定していると先に進めなくなってしまいます。

 

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