(人気記事)某所で話題に上がっていたんだけど、おいおいって思ったのでブログ記事でマジレスしておく。その記事は中身が何もない。
どういうわけだかすごい数のアクセスです。あざーす。
(2018年1月2日更新。)(2023年6月20日ちょい更新)
- ■問題の記事www.evenant.com
- ■予備知識
- ■三度音程って?
- ■和声的視点
- ■自然倍音列
- ■周波数的視点
- ■倍音を考える際の弊害
- ■実は単なる音域の話でしかない
- ■というひどい記事だった
- ■もちろん三度の扱いは重要
- ■某人の話を引用
- ■私事近況
- ■関連記事
■問題の記事
www.evenant.com
面倒くさいので翻訳はしません。というか、率直に言ってクソ記事なので翻訳する価値がありません。
上のリンク先記事が主張していることは「初心者がよくやるオケ曲のミス」という話。内容は「和音とオーケストラの積み上げにおいて、三度音程を入れすぎるなよ」という話です。
が、その内容がめちゃくちゃです。
内容を流し見するだけでおかしな主張であることがすぐに分かるレベルで変な内容です。
楽譜がちょっとでも読めれば一瞥しただけで分かることですし、サンプル音を聞けば根本的なミスが三度音程重複と無関係であることも一瞬でわかります。
いや、誤解されないように言っておきますが、「楽譜読める俺すげえだろ」とか「分かる俺すげえだろ」という意味ではありません。
何がおかしいのかは今見ているこのブログ記事の末尾に書きますので、まずはリンク先の記事をざーーっと見てきてください。
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■予備知識
上の記事で主張していることと、関連知識について一通り書いておきます。
書いておきますが、当該記事の内容とはほとんど関係ありません。
■三度音程って?
ドミソのミ。ソシレのシのこと。
ド(1)
レ(2)
ミ(3)
ファ(4)
ソ(5)
で、ド1+ミ3+ソ5の和音。その「3=ミ」のこと。
和音について無知な人がたまに致命的な勘違いをしているので補足すると、
レファラの和音の場合は、「レ1、ファ3、ラ5」です。
これを勘違いして「レはドレミファソの2番目だから『レ2、ファ4、ラ6』だよね?」と言う人がいますが、間違いです。
ある瞬間に鳴っている和音の中の構成に限定した呼び方です。
ソシレの場合は、ソ1、シ3、レ5ということです。ソシレの和音の三度はシです。
OK?
■和声的視点
和声理論において、一般的に「三度は欠かせない」と紹介されています。
なぜかというと、メジャーコードとマイナーコードを決定づけるのが三度音程だからです。
三度音程が鳴っていないと、コード感がはっきりしないから「三度音程は省略してはいけない」という公理が唱えられているわけです。
また、和声においては「三度音程は重複するべきではない」と紹介されています。
当該記事が言おうとしていることはこの公理に基づいた「三度音程の重複は避けるべき」という和声の基礎ルールの話のようですが、まるで的外れな解説になっているんです。
学習和声における「三度重複」はピュアな4声におけるルールです。
「じゃあフルオケで三度を担当するパートが1つなの?」と誤解している人が稀にいますが、そんなことは無いです。当たり前ですが、大きな編成では複数のパートが三度を演奏しても和声禁則違反にはなりません。決して「100人のフルオケの中で三度を演奏して良いのは1人だけである」という意味ではありません。
そもそもそういう疑問や誤解をしている時点で、既存楽曲の分析をひとつもやっていない証拠なので、お前は一体何を勉強したんだと問い詰めたい。
■自然倍音列
全ての楽器の音には自然倍音が生じていて、これが音色の特性を形作っています。
自然倍音の分布は、楽器とその音域・音量※によっても変化します。
「※音量によって変化する」というのは、強く演奏した音色と、弱く演奏した音色の違いという意味ですので、シンセサイザーのシンプルな音色の場合は均一です。変化しません。
自然倍音の出現は、(1)・1・5・1・3・5・1……なので、
五度、ソの倍音=(ソ)・ソ・レ・ソ・シ・レ・ソ……
三度、ミの倍音=(ミ)・ミ・シ・ミ・ソ・シ・ミ……
一度、ドの倍音=(ド)・ド・ソ・ド・ミ・ソ・ド……
問題になるのは三度ミの第三倍音のシ。この倍音はドミソのコードに含まれない長7度のなので、サウンドを大きく変えてしまうよ、ということ。
五度の第五倍音にもシがあるのだけれど、高次倍音は音量が小さいのでそれほど問題にはならない。
■周波数的視点
上リンク先記事で重点的に述べられている事象です。
「すべての音には倍音(自然倍音)があり、特に三度の基音から生じる倍音が和音のクリーンさを阻害するから気をつけろよ」と書かれています。
クリーンな和音の場合。
低い方から、赤(ド)、青(ソ)、緑(ド)、黄(ミ)の4つの音が同じ音色(同じ倍音)で重なる場合、このようになります。
三度は黄色のミです。
ボイシング=担当オクターブ位置によって高次倍音の分布順も当然変わりますので、上画像の右端に黄色が多く見えるのは、このボイシングでたまたまミが一番上だからです。
■倍音を考える際の弊害
倍音についてい過敏に考える一派は「倍音が響いているから、この音は省いても良い」という無茶苦茶な考え方をしている。そういう考え方を教えている人や組織(流派)があるので注意してほしいです。
省くのは確かに大事だけど、もっと問題なのはどの程度重複させるかのさじ加減だ。
ある理屈Aでは正当性があっても、実践においてその効用に疑いあり!というケースは、分野を問わず多いですね。「机上の空論」や「事件は現場で起きている」とかとか。音楽理論においても、実験的な理論がたくさんあり、そのほとんどは実用性がまったくない理論です。まぁアタマの体操としては効果があるのかもしれませんが、そういう机上の空論によって作られたことによって斬新で効果的なサウンドを生み出した音楽理論は無いんじゃないでしょうかたぶん。
実際、上の記事を書いた人の曲はテクスチュアが希薄に感じられる。こういうのはもっと分厚くてハッタリの効いたサウンドのほうが良いとさえ思うがどうだろう?
あちこちの和音重複というか、そもそものオーケストレーション的観点において、音を省きすぎではないだろうか。
「倍音があるから省いて良い」系のトンデモ理論に片足突っ込んでる音がする。
■実は単なる音域の話でしかない
冒頭のリンク先記事で言っていることは三度重複や倍音の話のようで、
実は単にロウアーインターバルリミット(LI)の話でしかない!
普通に音楽やってるなら初心者ボカロ厨でも体感的に分かってるレベルのことで、「低音で和音組まないほうが良いよ」という話。専門用語で言うと「LI」という2文字で片付く話でしかなかった。
記事内でNGとされている譜例が下画像。面倒なのでそのまま引用する。
http://www.evenant.com/wp-content/uploads/2016/07/static1.squarespace-5.png
見ただけでイッパツじゃん?
へ音下加線に何書いてるんだよってなるでしょ?
だからこれはどう見ても適正音域における三度重複の話じゃなくて、どう見てもLIのミスでしかないです。
もし三度重複を適切にやろうねって話なら、LIではなくて中高音域に三度が過剰になっている例を出さないと妥当性が無い。
和声や倍音の話を持ち出すまでもなく、基音の時点でLI(ロウアー・インターバル・リミット、ロー・インターバル・リミット)なんだもん。
・ロウアー・インターバル・リミットって何?
こういうことです。
https://html1-f.scribdassets.com/2hel2sx6rk5yf8cf/images/1-d1eb09408f.jpg
近年は「ロー・インターバル・リミット」という呼び方の方が一般的だそうです。が、私はこれを「ロウアー~」と教わっています。刷り込みのせいでついつい「ロウアー」と言ってしまいます。「ロウワー~」「ローワー~」「ロワー~」と呼ぶ人もいます。カタカナ難しいね。
実際そういう呼び方が少数ながらネット検索でもヒットします。
"lower interval limit" music - Google 検索
が、「"ロウアー・インターバル・リミット"」だとこの記事しかヒットしない!すげえ!
・念のため補足
LI違反はすべての音楽において絶対に禁止というルールではありません。
周波数から数学的にゴニョゴニョ計算した結果として、「数学的にも非合理的な音になるから避けたほうが良いよ」という、理系アプローチによる音響心理学の概念であって、意図的に不快な音を出したい時などには積極的に使われています。
私も低音楽器を複数使う室内楽曲の中で意図的にLI違反をしたサウンドを使った曲を書いたこともあります。
これに違反しているからと言うだけで、他人の楽曲を非難するのはやめましょう。
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■というひどい記事だった
もうちょっと実践的な話が書かれている記事なのかと思ったら、初歩のLIの話だったというオチ。
「和声的に三度音程がー」とか「オーケストレーションとしてー」という話ですらなく、単に「低音で和音組むな」というだけのことなんです。
こんな記事をありがたがっているのはどうなのよと思うぞ。まじで。
当該記事の話を持ってきた某人は、海外の生音劇伴系の記事だから本格的な何かが書かれていると思い込んだのかもしれないけど、LIの話でしかないし、最後までLIについて一言も触れていない時点で、以下省略。
海外記事だからと言ってなんでもありがたがるのをやめるべきだと思うよ。
■もちろん三度の扱いは重要
譜例が劣悪だったことは否めないが、こういう記事にもし興味を持ったのであれば、OK例の4つのボイシングを踏まえた上で、どの音域に三度を入れるとどういうサウンドになるか?という一歩先の考察をしてみるのが良いと思う。
http://www.evenant.com/wp-content/uploads/2016/07/1469047253154.jpg
この箇所で4つの異なるボイシングが挙げられていて、かなり低い音域に「のみ」三度がある例、内声の各音域に三度のある例、外声に三度が出る例が紹介されている。
実際に鳴らしてみて詳細に観察し、それぞれの特性を自分なりに感じ取り、使い分けの必要性を習得するのであれば、この記事は示唆に富む内容になるかもしれない。
つーか、LI違反という初歩的なNG譜例に行くのではなくて、OK例の4つの使い分けについての記事なら面白かったのにねと思う。
■某人の話を引用
せっかく三度音程の話になったので、映画音楽のジョン・ウィリアムズの代表作『スターウォーズ』テーマ曲の面白い話を聞いたので書いておきます。
「冒頭の和音で三度を演奏している楽器がめちゃくちゃ少ないんだよ」という話。
https://d29ci68ykuu27r.cloudfront.net/product/Look-Inside/large/3979685_02.jpg
■私事近況
なお、ここ数日の間で「ピアノ弾き語りで9thコードがあった場合、左手で9を演奏しないほうがベター」というワンポイントレッスンをした。つまりLI違反になりやすいからだ。
これは音域にもよるが、左手の三度音程でも同様だと言える。
ピアノにおいては、ちょっと理論をかじった+指制御が器用な人が、左右の手でボイシングを完成させようとするケースが散見されます。
が、その省略の仕方がおかしかったり、適当なインバージョン(転回)をしていて、わけのわからない演奏内容になっている人がいるので気をつけよう。変に削除したりヒネたことをするくらいなら、素直に左手ルートに右手3和音の方が優れています。
■関連記事
見た目だけ綺麗な動画や画像は、中身をともならないことが多いです。
今回の記事でダメ出ししたオーケストレーション資料はまさに「ダメ資料」ですね。
eki-docomokirai.hatenablog.com