eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

ミックスの前工程としてのアレンジ技術(1)

■まえがき

レッスンや某人の曲とか最近聞いた曲とかのダメ出しや感想、ミックステクニック談義を踏まえ、アレンジの技術について書いておきます。


ミックス技術についてアマチュアでも十分すぎるほど認知されている今日において「マスタリングではどうにもならないから2mixに戻れ」という言葉は多くの人が聞いたことがあるはずです。

それと同列に、「ミックスではどうにもならないからアレンジに戻れ」という言葉も聞いたことがあるはずです。
この記事では「ミックスの前工程としてのアレンジ技術TIPS」として読んでもらえれば幸いです。
具体的な譜例や音源は無し、テキストのみです。

また、「ミックスで可能なこと、不可能なこと」などのコンセプトで、プレイヤー陣に伝えたいことがある人は、この記事を下敷きとして部分引用などしつつ、あなたの言いたいことをブロマガで書いてみてもらえれば、と思います。


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■海外翻訳記事の紹介

 海外エンジニアの記事を翻訳してあります。

eki-docomokirai.hatenablog.com

上の翻訳記事の中で述べられていることの他、この記事では私のアレンジャーとしての立ち位置から ミックスが上手くいかない時、アレンジでどう対処するか?」について書いておきます。

 

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■器楽的アプローチ

単一の楽器の運用法が器楽的アプローチです。
どの楽器にも「これぞこの楽器の使い方!」という音形と奏法があります。
器楽的アプローチは、
・主旋律時(メロディ・ハモ)
・副旋律時(オブリ)
・伴奏時(バッキング・コード)
に大訳できます。
それぞれに「その楽器らしく」するための方法がいくつかあります。いろいろな音楽を聞いて手数を増やしましょう。手数は多いほど下記の選択肢が増えます。

ネガティブな言い方をすれば「楽器ごとのうざさ」と思ってもらって構いません。
最も「うざい器楽的アプローチ」はソロです。
最も「おとなしい器楽的アプローチ」は「機能コード・和声のみを担当」です。


■アンサンブル的アプローチ

複数の楽器の組み合わせがアンサンブル的アプローチです。
・メロと伴奏の組み合わせ時
・メロとオブリの組み合わせ
・複数楽器による同性質の伴奏
の中での時など、担当箇所と使用楽器によって器楽的アプローチの選択が変わってきます。

アンサンブル的アプローチの概念として「この楽器のこの奏法と、あの楽器のあの奏法の組み合わせ」があります。

ここがちゃんとしていれば、ミックスで妙な加工をする必要はありません。


■シーン的アプローチ

イントロ・ABメロ・サビなどをシーンと呼びます。
そのシーンで表現されるべき雰囲気を作るために、どのようなアンサンブル的アプローチを選択するか?
コード・和声による表現を重視するのであれば器楽的アプローチ等は抑えることになりますし、コード・和声によるアピール力が弱いのであれば、器楽的アプローチ等によってシーンに説得力を付与する必要があります。

「器楽的・アンサンブル的アプローチ」がワンパターンだと、そのシーンで表現したい雰囲気を実現できません。

雰囲気の表現ですから、この時点である程度のミックス技術を駆使することが前提となります。
ですから、シーンの雰囲気を表現するために個別トラックはエフェクト込みで録音される必要があります。全てのエフェクトがミックス工程になってから用いられるという考え方は完全な誤りです。
雰囲気は楽譜だけで表現できるものではありません。もし楽譜で製作を行う場合には、文字でどのようなサウンドを求めるか記述しておくことが欠かせません。


■構成的アプローチ

シーン配置の順序と繋ぎです。

・フィル
最も重要でシンプルなものは「フィル」です。
フィルは主にドラムについて言及されますが、どの楽器にもフィル的な運動があります。手数は無尽蔵です。(器楽的アプローチ)
フィルが入っていないのは論外で、どのようなフィルを使って曲のシーンつなぎをマッチングするかを考えます。
どの楽器がフィルをもっとも大きく鳴らすかは「アンサンブル的アプローチ」の延長として考えます。

フィルの他では「アンサンブル的アプローチ」に用いる楽器編成と、その奏法(器楽的アプローチ)の組み合わせで、楽曲の構成によって楽器と奏法の出し入れが重要です。おとなしく演奏していた楽器がうざさを増すことによって、相対的に次のシーンの迫力が増大します。

例えばサビで最も迫力を出したいなら、ABメロでは器楽的(アンサンブル的)アプローチのうざさを意図的に下げておいて、サビで最大のうざい器楽的アプローチを行えば良いということになります。
いずれにせよ、構成的アプローチは相対的なものです。
「サビで迫力が無いからミックスでどうにかする」という方針でミックスをしても無謀です。仮にミックスで飛び道具的な手法を用いてサビの迫力を増大させようとするなら、そこで用いるミックス手法は邪道なものになるでしょう。
よく言われている「ミックスじゃ無理だからアレンジを直せ」とはこういうことです。
アレンジの時点でちゃんと迫力が増すように設計されているなら、ミックスの技術は通常のミックス技術でOKです。


また、フィルは単純なドラムフィルのように定型句的にとりあえず挿入されるものもあれば、次のシーンに向かって長い時間をかけて繋ぎを行っていくものもあります。近年のEDMでは「ビルドアップ」と呼ばれているアレです。
A・B・サビの構成の場合、Bが淡々と進んで、サビで急に盛り上がるスタイルと、Bで徐々にパワーを増してサビに繋ぐスタイルがあります。

この構成繋ぎを最適化するためにコードワークはアレンジ工程で修正されて当然です。
作曲初期にメロディに添えていただけのコードワークでは適切な繋ぎが行えないことがほとんどです。
「とりあえずコードがメロディにハマっているからOK」という考えは間違いです。そのままアレンジを進めても、表現したいシーン構成にはなりません。当然ミックスでどうにかしようとしても無駄です。


■メロディやコードの改変

要求されるシーン構成によっては、メロディを部分的に改変する必要性が出てきます。
初心者向けの作曲法の教科書や、妙にプロ向けの教科書では「メロディは絶対に変えない」とされていますが、自分の曲の場合や、メロディ変更許可を取れる場合であればメロディは改変できます。「メロディは絶対に変更しないのが正しいアレンジ」という考えにとらわれる必要はありません。

また、コード理論の高度な運用はこういう場面でこそ試されます。(リハーモニクス
メロディに合っていればOKとか、代理コードでとか、そういう初歩的なコード理論の使い方を卒業し、さらに高度な理論運用が必要になるのはこういう場面においてです。メロディを変更せず、雰囲気をより良い方向に操作していくために高度なコード理論が存在すると言っても過言ではありません。コード理論に興味が強い人は、作曲初期段階で用いられる「メロにコードをはめこむ」方法の習得だけではなく、シーン構成を踏まえたコード理論の学習をすると良いと言えます。


■アイディアの衝突回避

上は「足し算」で音数を増やして目立たせるアプローチだと言えます。
どんなに優れたアレンジでも最後には「引き算」が必要になります。
あちこちで楽器が動きまわって非常に主張が強くなりすぎると、陰影が明確に表現できません。どれかの楽器が一歩下がってアピール度を減らし、聞かせたい要素を相対的に浮き彫りにするか?この選択をベストに行うことが何より重要です。

まずは徹底的に「足し算」で各トラックを書いてみて、不必要にでしゃばっているトラックを「引き算」するという方針です。
慣れてくると最初からバランス良く作ることができます。

マチュアの人が作っている曲を聞いていて思うのは、ほぼ全てのケースにおいて「足し算」が足りていません。「引き算」を考える状態に達していません。まずは徹底的にうざいほど音を足して動かしてみるのが、良いアレンジへの第一歩だと私は考えています。


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上の概念についてどこまで具体的に詰めることができるかが大事だと私は考えています。

試しに、上の概念について自分がどの程度の知識と具体策を身につけているかテキストで書きだしてみるのが良いと思います。

「なんとなくコードとメロディができて、あとはミックスでどうにかしよう」という考え方は誤りで、しっかりとアレンジを考えて煮詰めることこそが大事です。

近年はミックスについては非常に高度な技術までネット上でやりとりされていますが、アレンジについては「ミックスが悪いのはアレンジが悪いから」という程度の認識しか無いんじゃないかな?と感じています。それ以上の具体的なアレンジの技術についてやりとりされているのをほとんど見たことがありません。
ミックスの技術を身につけたはずなのに、なんとなく「曲に説得力が無い」という場合の多くはアレンジの不具合ですが、アレンジの技術について分かりやすく書かれている書籍があまり流通されていないのも事実です。


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■習得のヒント

こうしたアレンジ諸技術を習得するために私が提唱している練習方法は「トラック個別に聞いてみる」というメソッドです。
特定のトラックだけを聞いてみると、もし仮に生で演奏してもらったとした場合に、非常につまらない内容だったりすることがあります。そういう陳腐なトラックをしっかりしたトラックに改良していくことで「それっぽい説得力」が宿ります。

そのために必要なのは「個別トラックで手抜きをしない」ことです。

面倒なドラム等生楽器系の演奏シミュレートや、和声の最適化などのことです。
マチュアでも多くの人が薄々気がついているとおりで、「やれば絶対にワンランク上のトラックになるんだけど、面倒くさい、バカバカしいからやらない。」「まぁこんなもんで十分だよな。」と思っている部分のことです。
それらをきっちり仕上げようとすれば、誰にでも必然的に見えてくる部分を最適化することがアレンジの真髄だと私は考えています。超人的なテクニックや知識が必要なのではなく、自分が作りたかった音楽に対して、真正面から向き合い、絶対に逃げないことがアレンジ技術を習得する秘訣です。逃げなければ楽器個別のことも理論のことも勉強するしか無いので。


こういうことが及第点レベルでできていれば、珍妙なミックステクニックを使わなくても、初心者向けの書籍に書かれている程度のミックステクニックを駆使した上で、音圧上げをそれなりに行うだけで、十分なレベルの楽曲ができあがるはず、だと良いな。

 

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■周波数と音量

和声について学習和声ではない実務レベルでの運用原理を理解することは重要です。

ここでは和声の具体的な理論については一切書きませんが、もっともシンプルな考え方は「音楽とは周波数と音量でしかない」というミクロな考え方です。

もうひとつ重要なのは、「和声とオーケストレーションはアコースティックによるミックスである」という考え方です。そして、オーケストレーションはクラシックのオーケストラにだけ使う技術ではなく、ロックでもEDMでも、あらゆる音楽ジャンルに応用できる万能の理論です。

言うまでもなく、オーケストレーションにも学習段階と実践には大きな差があります。クソ真面目なふりをして管弦楽法の教科書を買って勉強したところで、そこで身につくのは名曲を教材にした僅かな判例だけでしかありません。実践的なオーケストレーションというものは、クラシックオーケストラ以外のあらゆるジャンルの音楽に応用できる力です。

 

その考え方を理解していれば、学習和声にとどまらない実践的で魅力的なサウンドを作れるようになり、それはミックスの観点から見ても非常に合理的なものです。

 

ポピュラー音楽で名曲と呼ばれている曲の中で、応用和声的・応用管弦楽法的な観点で「これは上手くできているな!」と思える曲を見つけて分析してみることです。

逆に言えば、「これは名曲と呼ばれているけれど、技術的には甘い部分があるな」と分析することです。あなたがその曲を「好き」であることと「上手くできている」ことに関連性はありません。

ですからあえて「この曲がスゴい!」という例を一切あげません。誰かがすごいと言っていたから分析するのではなく、多くの曲を分析的な視点で観察し続けることでしか応用的な能力は身につかないからです。いじわるに聞こえるかもしれませんが、それしか無いと確信しているからです。


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■あとがき、とレッスン宣伝

どう運用するかについては無料で教えることはありません。長年研究し学習して習得してきたことなので、そうやすやすと赤の他人に教えることは沽券に関わるからです。

製作中の楽曲を聞かせてもらええればどういう方針で手直しするかについてアドバイスを行っています。

レッスン受講についてはSkypeID:docomokiraiまで連絡をお願いします。

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