eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

所有したいのは思い出か?性能か?

過去に本ブログで数回翻訳記事をリリースしているSonic Scoopの記事の紹介です。今回は面倒なのと、本ブログの性質との関連性が浅いので未翻訳で要点のみです。

最近あった談義で似たような話があったので、思うところをいろいろ書いておきます。sonicscoop.com

 

 

■入手困難なものを入門者に紹介する阿呆

DTM系の書籍で「昔の機器を所有している」「昔の機器の音が気に入っている」と書かれていることがあります。わりと頻繁に。

ひどいものではどう見ても入門者向けのコンセプトの本なのに、ヴィンテージ機器について書いてある本もあり、挙句、「現在は入手できない」というオチになっているものまで散見されます。

私はそういうのを見聞きするたびに、私は「あのさぁ、そういう話を入門者に伝えて、何をしたいの?」と思います。

入門者向けなら「入門者はまずこういうのでやってみて、もし興味が深まってきたらこういうのを使ってみると良いよ」と教えるのが教育だと思うんです。

でも、そういう機器に思い入れが無いならまったく無価値です。

 

後進に教える場で個人の思い出トークをしてどーすんの?

 

■自宅制作なら必要ない設備

ちょっと意味は異なりますが、「今時Wavesを紹介してどーすんの?」と思うこともあります。実際使いにくいし、宅録DTMで自分の家だけで仕上げるなら、Wavesである必要なんて全くありませんよね。(そもそもWavesデファクトスタンダードになったのは、スタジオがデジタル化された黎明期に一気に流行させたからです。仕事でどこのスタジオに行ってもWavesがあるという環境を作るためです。)

 

■憧れを所有する喜び

「憧れの人、プロが使っているものと同じものを所有したい!」という願望を満たすためなら、お好きにどうぞ。と思います。勧めもしませんし、止めもしません。

ただし、その価値を理解するのはあなただけです。

 

あなた個人の思い出を理解できる人は誰もいません。

思い出を満たすのは、あなたにしかできない美しく愚かな、とても人間的な行為です。

やるなら徹底的にどうぞ!まじで!

 

・記憶と知識は違う

青春時代に聞いたあの曲。そこで使われていた機器の名前を知ったのはずっと後のことのはずです。初めて聞いて感動した時には機器名を知らなかったはずです。

薀蓄はあくまでも薀蓄です。

ラーメン評論家を茶化す言葉に「奴らはラーメンを食べているのではない。情報を摂取している。」という言い回しがあります。

特定のシンセのモデル名を知って、所有し、同じセッティングで音を出しても、それは真似にしかなりません。あなたが音楽をやる最終目的が完全コピーをやることならがんばってください。私はそういうことに興味はありません。あなた以外の誰があなたの完全コピー制作能力に興味を持ちますか?

ビンテージを「良い」と感じているのは本当の感覚ですか?それとも思い出補正や憧れ、あるいは出費額に対する感覚ですか?

 

・ビンテージシンセにまつわる誤解

アナログシンセのシミュレーターはほぼ完全と言って良いレベルです。

完全にコピーできない部分はアナログの回路ではなく、出力部分(AD)です。

どんなに完璧な回路(とその特性の)コピーであったとしても、音として出力する部分が異なるので完璧にはなりません。

実機とシミュレーターの音を同じシステムで鳴らした場合、シミュレーターは「回路」+「あなたのオーディオシステム」で出力されます。実機は「回路」+「出力部」+「あなたのオーディオシステム」です。当然異なる音になります。

だから「実機と違う!」と言っても、それは当然違います。出力部分から先が違うんですから。

 

■確かに初期のデジタルはひどかった

「デジタルの音は悪い」という話の筆頭はCDの音です。が、悪かったのは超黎明期の劣悪な品質のCDだけです。もし入手できる機会があったら、超初期のCDリマスター盤を聞いてみると良いです。明らかに酷いので。

「CDっていう新しいメディアができたから、とりあえずソフトウェアを量産しようぜ!」という当時の流れが生み出した汚物です。

 

プラグインが酷かったのもその頃のコンピューターの性能の低さが原因です。

現在ではそんなことはありません。

確かに本物とは違う音ですが、大差ない性能を極めて安価に入手できます、しかも使いやすく、メンテナンスも不要です。

コンピューターの性能向上に比例し、素晴らしい品質になってきています。

超一流どころのエンジニアでもデジタルのみでミックスする人がいることを思い出してください。

 

■メンテナンスをナメてる

古い機器はメンテナンスが必要です。メンテナンスというのは改造ではありません。

改造と改良は違うし、分解と修理も意味が違います。

高級外車を所有するのと同様、音楽の機器も特殊なメンテナンスが必須です。

適当に分解してスプレーして済むものではありません。適当に分解して、知識も無し内部を触って、ぶっ壊して泣き言を言う。まぁそこまでをテンプレだと言うジョークもありますが。

 

私が楽器店に勤務していた時、修理依頼の何割かはそういうものでした。

品物を預かって症状をチェックしてから「うっはwwド素人がやりやがったww」なんて爆笑するスタッフは私の回りには誰もいませんでしたが、「なんで自分でできるって思っちゃうのかなぁ……」と寂しい気持ちになりました。

ベテラン上司も「こういう『やらかした破損』は良くある修理依頼。こういうのが来たらワンポイントだけ知識を与えて固定客になるように調教するのがベスト。」と指導されました。

 

腕と知識があれば良いというものでもありません。そういう機器を仕事で使うのであればなおさらです。肝心な時に正常に動かなかったらどうすんの?同等のスペアも用意できるの?ということです。特に個体差のある機器は同等性能を発揮するものを常にキープするのはまず不可能です。

デジタルのプラグインに個体差はありませんし、コンピューターそのものが破損しないかぎり常に一定の性能を発揮できるという大きなメリットがあります。

 

・関連、オリジナリティ幻想

ビンテージ所有に近い錯覚、あるいは人の業として「オリジナリティ」を必要以上に尊ぶ悪癖があります。

先日スピーカーについて相談を受けた際、その人は「スピーカーを自作したい」とのことでした。

話を聞いていると、どう考えても基本的な知識がまったく無いのにスピーカーを自作したがっていて、そのパーツ選定をしたいと言うのです。

 

私は「メーカーの人たちは一年中勉強している専門家です。社内プロジェクトとしてあらゆる要素を吟味し、過去のノウハウをつぎ込んで製品化しています。なので、まず、あなたが専門家集団を上回る事ができると考えた根拠を教えてください。」と返答しました。

 

私たちは料理をしてもインスタントの味を上回ることすらできないものです。それでも自炊をしたい理由は性能とは無関係の何かを満たすためです。

 

まースピーカー自作というのも「憧れ」のひとつで、犬小屋やログハウスを作ったり、庭で野菜を作ってみたいという欲求と同じです。犬小屋やログハウスは材料費だけを見れば確かに安いですが、その手間を考えると既成品の方が安いです。自家農園も種だけ考えれば安いですが、肥料や各種設備費のことを考えると、出来上がった野菜を買った方が安いです。

品質は言うまでもなく安定しています。

が、巨大になりすぎたキュウリを見て爆笑することなどができるのは自作なので、品質以外の何かを求めるなら自作は楽しいです。決して性能を求めないように!

 

・オリジナリティにまつわる海外ジョー

「音色にオリジナリティが無い?じゃあ音色を自作しなきゃ。回路も既製品だとダメだから回路図を作り、コンデンサを自作し、コイルを巻こう。より高いオリジナリティのためにはボディの木材もオリジナルじゃなきゃダメだ。木を切るだけじゃまだまだオリジナルとは言えない。土を耕し、種を蒔こう。」

という旨の海外楽器ジョークがあります。

 

なお、音律(ドレミとか、A=440とか)も既成品なので、音律を再発明するところから開始しないとダメです。

そういう音楽はいわゆる「現代音楽」でさんざんやり尽くされているので、まともな精神で思いつくレベルでは太刀打ちできませんよ!

妙にオリジナリティばかりを求める姿勢は、無学な田舎の中学生が個性個性言ってチャリを改造しているのと同レベルだと知るべきです。無学な人に共通するのは奇抜で過剰なことに惹きつけられてしまうことです。

 

・「生録音した方が良い」という理想トーク

どこかで見聞きしただけの知識で「それは生楽器を録音した方が良いね」と言う人がネットにはかなりいます。

そのうち数人をつかまえて問い詰めたことがあるのですが、例外なくアマチュア初心者で、生楽器録音の経験の無い人でした。

知識だけ先行していて「生楽器でやった方が良い」という正論だけを振りかざしているだけでした。

知識を集めて高い理想を持つのは素晴らしいことですが、ソレを実行するコストとリスクについても同じくらい勉強してきてほしいものです。(でも、そういう現実的な情報は「理想の話」とくらべて圧倒的に少ないですよね。)

情報を集めるのは良いことですが、実経験の無い知識を人前で出すのはとても恥ずべき行為だと知るべきです。

正論だからと言って口に出しても「お前が言うな」と思われるだけです。そういうことで説教されるのは中学生までに済ませておくべきじゃないでしょうか。

いい年して理想トークをし始めた時点で、大抵の場合は「あっ、この人やばい人だ……」と思われていますよ、というお話です。

 

・知識先行で恥をかく

ある仕事で「ドラムの音源、何使いました?」と聞かれたので『Addictive Drumsですが何か?』と答えたら、「次からはドラムにAddictive Drumsを使うのをやめて欲しい」と言われたことがありました。

次の依頼の時に私が『今回はBFDにしました!』と言って提出すると「やっぱりBFDは違うねー」と何やら語り始めたので、しばらく薀蓄を聞いた後で「ですよねー。でも実はソレ前のと同じAddictive Drumsなんです。」と言って以下省略。

同様に「今回はギター生で入れたんですか?」『友人に弾いてもらいました!』「やっぱ生だと全然違うねー」『その友人の名前はElectri6ityって言うんです。』というのもありました。

その逆もありました。メジャーバンド経験のあるギタリストが弾いたものなのに「いい曲なんだけどさー、やっぱりあなたの曲って打ち込みのギターだからさー」と言われたこともあります。

つまりですね、そういうポイントで文句を言ってくる人って知識先行で聞いて文句言ってるケースがあるということなんですよ。しかも中途半端な知識と耳で。

分からないなら黙ってろと思います。恥かくだけです。よほどの確信が無い限り、そんなことを言うものじゃないと思います。間違いを認めて取り繕ったところで、そういう聞き方しかしてないクソ耳だという評価は二度と変わりません。

その相手先(複数)とは前々から色々なことでかなり頭にきていたのでもう取引していません。続けてもキャリアにもお金にもならない内容でしたし。

 

こういう話をすると「プロなんだから」とか「どんな仕事でも受けなきゃ」と言う人もいますが、そういうことを言ってる人の正気を疑います。それマジで言ってますか?と思う。ほんとに。そういう綺麗な正論ばかり言う人も知識先行なんだなーと思います。

 

■この記事は翻訳記事ではありません

元記事の内容を織り交ぜつつ、私が普段から思っていることを合わせた記事です。

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