eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

ドビュッシー『交響詩 海』のMIDI打ち込み

せっかくだからクラシック曲を連作してみた。

前回の『ローマの松』に続き、今回はドビュッシーの『海 - 管弦楽のための3つの交響的素描』です。アイディアに満ち溢れた文句なしの傑作クラシック曲です。

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■曲名

ドビュッシー作曲
交響詩『海』(1905年作曲)
第三楽章『風と海との対話』

Claude Achille Debussy (1862-1918)

"La Mer"
trois esquisses symphoniques pour orchestre
Ⅲ Dialogue du vent et de la mer

 

・曲の解説

海 (ドビュッシー) - Wikipedia

音楽の歴史を大雑把に説明するために、「10分で音楽史を総ざらい!基本の流れがつかめるクラシック音楽の歴史 | nanapi [ナナピ]」を引用、要約しておきます。

 

中世(教会音楽)

14世紀初~ルネサンス(世俗的な歌曲)

17世紀初~バロック(宮廷スポンサード)(バッハ、ヘンデル、ビバルディ)

18世紀中~古典(音楽が単体の文化として独立し始める)(モーツァルト、ベートーベン)

19世紀初~ロマン派(作家の個性的な表現)(ワーグナーショパンブラームスチャイコフスキー

19世紀末~近代( 新しいサウンドの幕開け)(ドビュッシーラヴェル

19世紀序~現代

 

ドビュッシーの『海』は1905年の作品で、『牧神の午後への前奏曲』と並び、近代サウンドを切り開いたサウンドを表した曲として重要な作品です。人類史レベルで時代を変えた曲だと言っても間違いではないです。

ドビュッシーは既存の音楽理論の学習段階で落第し、先生から「おめー何がやりたいんだよ」と怒られて「こんなの」と言って聞かせた個性的かつ完成度の高いサウンドで「うむ。免許皆伝を授ける。がんばりたまえ。(意訳)」とされています。

とても希望のある話ですね。

その後の私達の感覚で言えば「エレキギターなんか音楽じゃねえよ、お前何やりたいんだよ」「ギャオオオオ!!!ウィィン!!」「合格。」とか、「電子音楽ぅ?なんだぁてめぇ」「ビュビュビュ!!びゃおおお!!」「おk,卒業。」みたいな感じです。

もしドビュッシーがその後の時代に現れたとしたら、とてつもないロックスターや人気DJだったということです。

 

ただ、このエピソードについて勘違いしてはいけないことがあります。

それは何も作らずに「理論とかクソ」と言っているのではなく、具体的にサウンドを示し、そのサウンドの独自性で権威者を納得させたという点です。


■動画、音

この曲にはファンファーレの有り・無しのバージョンなど、版による選択肢がいくつかあります。もちろんファンファーレあり版です。詳しくはWikipediaなどを参照してください。

初めて聞いた時の演奏がファンファーレ付きだったこともあり、ファンファーレ付きの方がしっくりくると思っています。私が金管楽器プレイヤーだったことも理由です。

6分19秒からの部分です。

 

また、スコアの一部を改変しています。PDなのでOK。

演奏時間は7分40秒です。

 

Youtube

https://youtu.be/yV8oz6dPwCs

youtu.be


Soundcloud

soundcloud.com

https://soundcloud.com/ekieki/la-mer-3

 

ニコニコ動画

www.nicovideo.jp

http://www.nicovideo.jp/watch/sm32106429

 

背景画像はフリー壁紙サイトのものを加工したものです。

 

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■曲名表記について

この曲を初めて知った頃は「交響詩海」という表記が一般的でした。その後、原語に即した「海、3つの交響的素描」という表記が一般的になったように思います。過渡期には「交響的スケッチ」という表記もありました。

いつか演奏したい曲として「交響詩海」という名前で覚えていましたし、学生時代に演奏した時の演目名も「交響詩海」でした。なので私は死ぬまでこの曲を「交響詩海」と呼び続けます。たぶん。

 

■資料

・楽譜(IMSLP)

http://imslp.org/wiki/La_mer_(Debussy%2C_Claude)

 

Wikipedia

海 (ドビュッシー) - Wikipedia

 

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■制作内容

せっかくなので書いておきます。

 

・低ダイナミクスレンジ仕上げ 

今回もダイナミクスを極力殺す方向性で、音量に気を使わずに聞きやすい仕上げにしました。こういう方針には賛否あるかもしれませんが、生演奏でもないのにフルレンジで聞かせる価値は無いと思うんです。フラットな音量で聞こえることのメリットもあると考え、DTMならではのサウンドを指向しています。(そもそも、やったところで打ち込みクラシックをフルレンジを綺麗に聞かせるってほぼ無理だと思いますよ。)

 

波形を見ても分かるとおり、バッキバキの大音量仕上げです。

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・低音センター定位

ミックスの方向性はシネマティック寄り。

低音は原則的にセンター、楽器個別&グループバスで多重コンプした上でリミッターに当てるというやり方です。

 

というミックスを前提にしているので、演奏内容もかなり激しめ、スリリングな方向性です。コンセプトを一貫させるために、スコアを部分的に改変しています。

 

■使用音源

使用音源は前回の『ローマの松』とほぼ同じです。

・VIENNA SPECIAL EDITION VOL.1 BUNDLE
http://sonicwire.com/product/35520

・HALion Symphonic
https://japan.steinberg.net/jp/products/vst/halion_symphonic_orchestra/details.html

・HALion SONIC
https://japan.steinberg.net/jp/products/vst/halion/comparison.html(ページ無し)

 

Viennaのパッチ/マトリクス構成は過去の曲制作で使ってきたものを改善した汎用オリジナルパッチを使っているので全体的にさくっと終わりました。『海』専用用に若干変更を加えています。これでより洗練されたはず!

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 ■プロジェクト内容

全体はこういう感じ。一部省略しているけど基本的に全パート分け。

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MIDI打ち込み

打ち込み内容は 驚くほどベタです。

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が、語尾の処理とパート受け渡しの際のバランスはかなり入念に編集を繰り返しています。

曲としてのダイナミクスはそれなりに自然に聞けるように制御してあります。

ただのリミッター潰しによる音圧上げではなく、各トラックのバランスによる音圧制御がほとんどです。リミッターのスレッショルドに対するオートメーションなどは一切行っていません。

 

手順としては、

  1. まず音符だけを並べる
  2. キースイッチとベロシティレイヤーを大まかに決める
  3. 主役となるセクションの音量を決める
  4. それに合わせて伴奏の音量を作る
  5. 細部を整える

という流れです。

 

レッスンでも頻繁に質問される点はオケ打ち込みの音量の制御の方法です。

上の3,4,5の順序が極めて重要です。

初心者にありがちな「製作中に細部を仕上げるスタイル」だと何時間作業しても絶対に整いません。

 

以下の手順を守れば製作スピードも早くなりますし、仕上がりも良好になります。

  1. そのフレーズをどのくらいの音量で演奏するのかを大雑把に決める
  2. メロなのか伴奏なのかを考え、音量を相対的に決める。もちろんメロが大きい
  3. その音量を逸脱しないように抑揚をつける
  4. が、シンセのサンプルそのものの抑揚があるので、イメージ先行で音量を書かない

 

各トラックのMIDI CC7のボリュームの基準値を中央にしておくとこういう作り方もかんたんです。

よく見聞きする失敗例だと、ボリューム基準値を最大値にしたまま作っている人が割りと多くて、これだと音量を上げたい時に上げられません。

 

また、マージンを設けようとしているのになぜか100とかを中央値にしている人もいますが、MIDI CC的に考えれば当然中央は64です。「127じゃ大きすぎるから100かな?」という考え方がそもそも間違いです。

 

それを後からどうにかしようとするからおかしなミックス手法を使ったりすることになって、「オケ系のミックスは難しい」ということになっているんじゃないかなと思います。基準値は原則的に64にするべきです。そうすればミックスでやることなど皆無です。

 

ただ、ある程度の演奏バランスを作った時点でダイナミックEQを使ってリバーブによる特定帯域の膨らみを避けるようにかなり緻密な調節を行っています。

いずれにしても「あとからミックス」という手法にこだわる必要がないのが現代的な制作手順です。

 

そういうことを考えつつ大雑把に作り、制作のかなり終盤で音の末尾で減衰する傾斜を書き込んでいます。

最初から減衰を書くとフラフラした演奏にしかなりません。絶対。

 

・細かさより相対的な音量差

どんなに細かく綺麗な音量曲線を書いても、その曲線の美しさと出音は関係ありません。

初心者の人は「オケ打ち込みは音量を書いてナンボ!」というおかしな情報を刷り込まれているようですが、それは大昔のチープなMIDI音源用の打ち込み方針です。

ちゃんとサンプルの音量(ADSR)を聞いて、その音量変化に対して相対的に音量操作をするべきです。

音量を書きすぎるとほぼ間違いなく音量がフラフラしているだけの出音になります。

 

■テンポの多重処理

テンポが揺れ動くのがこの曲の面白さ。テンポ制御には傾斜が多めです。

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そこそこのテンポ設定でベタ音符を書いた後、プロジェクト全体のテンポを9割厳密に決め、テンポ感の異なるフレージングをする部分ではノート位置修正をすることで、楽器によってテンポのフィーリングが異なる演奏を共存させています。

作業手順的にもこれが最速だと思います。たぶん。

 

 

・テンポ指定は傾斜と段階が半々

クラシック系の打ち込みの指導をする際にほぼ毎回言っているのは「基本的に傾斜は使わない」というやり方です。

傾斜の方がスムーズで優れているように感じ、イメージ先行でやっている人が非常に多いようです。

しかし、基本的には音符単位でテンポを階段状に書いたほうが良いです。

異なるフレージングが共存していて、なおかつテンポを積極的に動かす場合のみ傾斜を使うのが良いと思います。

 

 

■分割打ち込みによる表現

変態的な打ち込みをしたのはソロの箇所。 

5分51秒からのトランペットなど。

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Viennaの自動レガートが邪魔になることがあるので、2パートを使って合成しています。

 

この部分のミックスのためにオートメーションとかグループトラックとか使いたくなかったので、2パートをドライでバウンス。オーディオ1本にしてからミックス。(やろうと思えばオーディオ化しなくてもできるんですが、作業の手数を減らすためです。)

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他のソロの箇所もほぼ同じ手法で作っています。

 

オーボエ(1分21秒など)

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フルート(1分55秒周辺など)

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これをやらないと、自動レガート判定に引っかかってしまい、フレーズの入り直しで適切にアタックしてくれないのがViennaの欠点です。Release Sample Offを使っても勝手に繋がってしまいます。

『ローマの松』の4分10秒~12秒のフルートのような演奏になってしまいます。確認してみたい暇人はチェックしてみてください。明らかに音がひっくり返っています。(無知な人はそれをリアルだと言いますが、楽器ごとに対する知識があれば、ただのミス演奏か、いかにも打ち込みの演奏だと判断されてしまうポイントです。)

 

個人的な意識としては「この曲専用」の風変わりな打ち込みテクニックは一切使っていません。

 

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■フレージング用音量の制御

音量書きはそれなりに丁寧に。

下画像は6分50秒からの金管コラール部分。

やっていることはCC07だけです。 

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楽器の音域やパッチサンプルによって音量がまちまちなので、1パートでそれなりにカーブを書いてコピペした後でうまい具合にCCを潰して最適化させています。この編集をやる時にCubaseは本当に便利です。

steinberg.help

 

この手の音量カーブを書く際の注意点は、絶対にイメージ先行で書かないことです。

ベタ状態の音をちゃんと聞いて、いわゆる「後押し」に聞こえる箇所を潰します。

また、拍を意識して書くと良いです。

ヘタクソな人はたいていイメージ先行で、雰囲気だけでカーブを書いています。例外なくそういう人はカーブの綺麗さにこだわっています。よほどのことが無い限りカーブは割りと適当でも演奏結果に支障はありません。

あと、言うまでもありませんが「ストリングスだからアタックをやわらかく持ち上げる」という書き方はナンセンスです。それ20年前の初心者がやってた打ち込み手法ですよ。(それを未だに推奨しているDTM本もありますが、アホじゃないかと思います。)演奏されているサンプル波形の音を聞いて、聞こえた結果に対して加工をするのは当然です。

 

■オートメーション必須 の箇所

今回オートメーションを使ったのはViennaのティンパニに対するEQ上下のみでした。

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音量変化だけだと出せない雰囲気作りのためにEQオートメを使っています。

もっと質の良いティンパニ音源を持っている人であればこんなのは必要ないと思います。

また、EQではない音源内部パラメタへのオートメでも同等のサウンドにすることは可能でしょう。たまたま開きやすかった箇所で作業をしただけです。

 

 

■レイヤー処理

すべての楽器で、必要に応じてHALion Symphonicの音を重ねています。

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HALion Synphonicは ノートエクスプレッションが使えるので表現力、というか無茶編集による可能性だけはあらゆる音源の中でトップクラスだと言えます。(最強がサンプルモデリングであることは間違いないと思います。その分扱いも極めて大変だそうです。)

 

HALion Symphonicの音は安定感担当で、Viennaが突出担当、という扱いです。

レイヤーの際には細かく加工するのをどの音色にするのか決めておかないと、両方の音色を常に細かくいじることになり、結果としてクオリティコントロールができずに時間がかかるだけです。ベストよりベター。なによりスピード。 

 

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■スコアを見ていて面白かった点

ハープで異名同音を重ねる指定。(4分10秒~)

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ハープのペダル処理について分からない人はggrks。

異なる弦で異名同音を重ねることで、弦の響きを止めずに音を重ねていく、という演出です。

シンセの場合はCC64で鳴りっぱなしにできるのですが、音色が均一すぎてしまうので、アタックを適度にバラつかせることで表現してみました。何種類かの方法を試しましたが、Viennaの場合はアタックを乱す方法が効果的かな、と感じます。もっと良い方法があるかもしれません。

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■俺と海

長くなりそうなのでまたの機会に雑記として書きます。たぶん。

とても思い入れの強い曲です。

 

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まだまだ拙い点は山積みですが、それなりの音にはなったと思います。

作業コストと出音を天秤にかけ、良い演奏を良いスピードで作れるようになりたいものです。

 

この後はアレンジ仕事などが控えており、年明けまでこういう制作をやっている時間が無いはずです。また来年以降にクラシック打ち込みの続編を作れたら良いなと思います。

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