(海外記事翻訳)この記事は執筆者でSonic Scoopのディレクターの(Justin Colletti氏(リンク))を通じて執筆者のMark Bacino氏( popjob.com・en:Wikipedia)から正式に許可を貰った上で、現代の日本のDTM界隈に通じやすい言葉に翻訳・要約・加筆した内容を紹介するものです。
Mark Bacino氏はニューヨークで活躍するシンガーソングライター、プロデューサーです。
(2022年2月18日)
- ■元記事(英語)はこちら
- ■はじめに
- ■周波数バランスのためのアレンジ
- ■中域(ミッドレンジ)
- ■高域(トップエンド)
- ■時間
- ■相乗効果
- ■編者補足
- ■アレンジの個人レッスンを行っています
- ■関連記事
■元記事(英語)はこちら
Great Mixes Come from Great Arrangements: How to Craft a Mix-Friendly Song Arrangement
■はじめに
ミックス作業が中断 される理由は曲のアレンジの強固さによって決まると言われています。楽曲の欠陥はしばしば無意識のうちに生じてしまうもので、誰もが苦労させられることです。
複数の楽器が同じ帯域で響きすぎていたり、歌より強すぎるリズムセクションがあったり……これらの問題によって「曇った曲」となってしまいます。
こうした問題を回避するためには、計測とアレンジの選択肢が必要です。落ち着いてスペースを切り分けて上手く割り振るのです。こうすることで最終的なミックスが可能となります。
単純明快にするため、私たちはミックスのプランを「周波数」と「時間」に分けて考えます。
■周波数バランスのためのアレンジ
周波数は大雑把に「低域、中域、高域」に単純化して考えます。
■低域(ローエンド)
あらゆるミックスでローエンドの問題はちょっと難しい作業と言われています。でも実は「低音は聞こえにくい」ということを除けば大したことはありません。
低音の問題はEQで解決する以外に、ミックス以前のアレンジと録音によって問題を解決できたりもします。
たとえばこんな感じで。
・ベースギターとキックドラムのローエンド
「この曲の低音どうするよ?」という話になると「んー、やっぱ、ズンズン響く系?じゃないかな?」と言われ、キックの加工をします。
ベースの音が中域で動き回っているようなら、キックはEQ操作によってベースよりも低く配置されてしまいます。これだと、確かに太く、丸い音になりますが、低域(ローエンド)がもこもこと唸ってしまいます。
本来イメージしていた「深い重低音」を構築するためには、軽くタイトでパンチのあるトーンを目指してみてください。
これはドラムそのものの選択(ヘッドのチューニングでもOK)やマイクの配置によって実現できます。
キックがタイトでパンチのあるサウンドを目指すことで、ベースとキックがそれぞれの帯域を確保できます。
ローエンド楽器の音色は、一般的に2つの楽器のうち低い方が音の動きが少なくするべきです(less busy part)。
比較的高い方はどうするか?それは後述する「時間」の項目を読んでください。いったん置いておきましょう。
・キーボードのローエンド
次はキーボードのローエンドの話です。
上で述べた「キックとベース」のためのローエンドを確保するためには、キーボードの左手について考えておく必要があります。
一般的にキーボードは右手でコードを演奏し、左手でコードのルートを演奏します。問題は一般的な鍵盤奏者が身につけている左手のルート演奏スタイルがオクターブ重ねだということです。
この「左手オクターブ」のスタイルはピアノソロやボーカルに対してキーボード1人で伴奏する場合に最適なボイシングです。
しかし、ドラムやベースのいるフルバンドではキーボードの左手オクターブ奏法の音はローエンドの戦争をより混乱させる原因でしかありません。
もちろん曲にもよります。ですが、多くの曲においてキーボードの左手を簡略化し、低すぎにしないことができないものか?と考えてください。
左手オクターブの片方(低い方)を削除してみたり、もっと極端に言えば左手そのものを無くした演奏でも構わないことさえあります。
生ピアノでも80年代風のシンセでも、ウーリッツァー(エレピ)でも、B3ハモンド(オルガン)の足鍵盤でも、どんな鍵盤楽器もバンドで演奏する場合には低音の音を減らすようにしましょう。
特にシンセの低音は容赦なくローエンドを支配する威力があるので気をつけて。
なんでもミックスで解決しようとする人は「ローカットすれば良いんじゃね?w」と思っていることでしょう。
でもなんでもミックスで取り除けば良いと考えるのではなく、ミックスで大きくローカットする低音は、そもそもアレンジの時点でなくしてしまえば良いはずです。
ギターで考えてみましょう。
フルバンドの中で演奏するギターの低音6弦と5弦のサウンドは本当に必要ですか?(ローポジションでしか演奏できないとしてもです。)
■中域(ミッドレンジ)
中域で起きる問題はほとんど全ての楽器の音情報が中域に存在するということです。楽器の数が増えるとそれだけ中域が山盛りになっていきます。
中域の処理はエンジニアの腕に任されています。大混戦の中域で全ての楽器を共存させるためにはどうすれば良いでしょうか?
もちろんEQやコンプと言った標準的なツールを使う手もあります。
しかし、もっと優れた方法として「スマートなアレンジ」を選択してみましょう。
・ギターのミッド
シンプルで明確なアレンジを追い求めるべきです。
逆に安易に重ねてしまう方向でよくあるのが、ベースと同じリズムで8分音符で刻まれるギター。まぁ古典的で良いかもしれませんが。
さらにその状態に加えて、アコギでジャカジャカし、さらに安易にパンを使った左右ダブするのをやめてみてはいかが?
こういう加工はミックスの世界では定番です。
しかし、このようなことをすると、間違いなく曇ったミックスになってしまいます。
ベースとエレギの8分音符が連打され、さらにアコギも連打し、そこにボーカル、ストリングスが重なって中域を混乱させてしまいます。本当に重要な、その曲で聞かせるべき楽器が隠されてしまうんです。
豊かに動くカウンターメロディ、音域の広いアルペジオ、コードに対する飾り音。中域ではそういう動きのあるアレンジについて工夫をしたほうが良いです。
可能な限り簡略化するアレンジを目指すことで、それぞれの楽器がリスナーの耳を引き付ける機能性を持ち、ミックスも明快になり、インパクトのある楽曲に仕上がります。
■高域(トップエンド)
ここで言う高域とは4000Hzから上。
シンバルのクラッシュ、ボーカルの艶。
トップエンド、高域はより鮮明で興奮する要素に役立つ領域です。
しかし、ひどい管理をすると酷い音になってしまうので注意しましょう。
慎重な録音とミックスの技術によって不快な高域にならないようにできます。
思慮深く作られたアレンジもトップエンドの鳴りを改善する手段です。後述します。
・ボーカルのトップエンド
経験豊富なエンジニアが口を酸っぱくして言うように、ボーカルの高域の良さを残して適切にミックスするのは難しいことです。
トラック全体の中でボーカルを豊かに響かせるための障害要素としてシビランス(歯擦音)があります。
歌う際に起きる「P」「T」の発音による破裂音や、「S」子音の発音によるノイズがあります。
これらの除去のためにはマイクの選択やポップスクリーンの使用、ディエッサー・エフェクトの活用があります。
そうしたツールを使う以外にも、アレンジと演奏の手法で解決する方法もあります。
歌う際に破裂音や歯擦音など、問題になる可能性の高い子音を弱く歌ってもらいましょう。特にメインボーカル以外のハモリの歌唱においてこの工夫をすると良い結果を得られます。
ただ、この歌唱法をマスターするにはしばらく時間がかかるでしょう。
例えば英語の歌詞で"She loves you"だった場合には"she love_ you"のようにします。他の歌詞、日本語の歌詞についても手元の歌詞カードを見て考えてみてください。
そのハモリだけをソロで聞くとおかしく聞こえるかもしれませんが、トラック単体での良さばかりを追求せず、音楽制作の工程を先読みすることです。後のミックス段階で不快になることが予想可能な場合にはそのように歌うべきです。特に何度も多重録音で作る場合にはノイズ要因も蓄積していきますから、この方法は効果的なんです。
リードボーカルは全ての子音を明瞭に発音するべきです。全ての破裂音や歯擦音を除去するわけではありません。
こうすることでボーカルセクション全体をクリーンにしつつ、ミックス時間をより充実したものとすることができるでしょう。
■時間
ここまでは「周波数」について述べてきました。
ここからは「周波数」の他のもう1つの要素「時間」について考えていきましょう。当たり前のことと思うかもしれませんが、これは重要なテーマです。
トラック内での周波数の衝突と同様に、「時間」の問題があります。リズム演奏のズレや、もっと微細な位相のズレです。これらはミックスを曇らせるマスキングの問題を引き起こす要素でもあります。(編者注:マスキングは周波数・倍音の領域で生じるだけではない、という解釈です。)
■ドラム、パーカッション系
バラード曲のサビでライドを4回叩くとしましょう。この曲のサビ(chorus)のドラムパターンはライドだということになります。これをさらに強調したい場合、ライドを強く叩くのではなく、軽く叩いているライドをミックスで大きくするという不自然な方法でもなく、他の楽器を加えてみましょう。アレンジでの問題解決です。
たとえば小物パーカッションを追加します。
タンバリンを入れるのも良いかもしれません。しかしタンバリンのサウンドはライドと同じ金属板から得られるサウンド特性があるので、さらにアイディアを出してみましょう。
たとえば、卵型のシェイカーのおもちゃなどはどうでしょうか?楽器店で500円くらいで売っているアレです。砂やプラスチックの音はライドシンバルとはまったく異質なサウンドですから、ミックスが容易になります。「なんでもミックスで解決する」というゴリ押しをしなくても良いことになります。
シェイカーの奏法として4分音符4回はおかしいので、16分音符にして密度を高めるのが良いでしょう。シェイカーは軽い音ですから、16分音符でも曲を支配的に占有することはありません。
この工夫のメリットはミックスの簡単さだけではありません。(編者注:当然です。ミックスのために音楽を作っているわけではなく、音楽を流通させるためにミックスが存在します。)
細かいリズムが加わることと、ライドとシェイカーの2段リズムの混合によってサビでのリズム感が高まります!サビに入るとエネルギーが加わるでしょう。良いアレンジは一石二鳥というわけです。
熟練したスタッフはこういうことをサラっとやっています。初心者や学習者は、熟練者のさりげないテクニックに隠された多くのヒントに着目してみましょう。
■複数ギターの振り分け
あくまでも例です。
1本のギターで4分音符を4回鳴らす場合、2本のギターで左右交互に演奏する変更をしたとしましょう。
これはディレイ、ピンポンディレイですね。でもディレイによるサウンドとは明らかに違います。ユニークでインパクトのあるサウンドです。
あくまでも例ですから、4分音符を交互なんていうダサいことは実際にはやりません。もっと複雑なリズムを左右で鳴らすのが実践的でしょう。
同時に同じことを重ねるダブではなく、違うことを巧みに重ねるアレンジです。
■相乗効果
よく考え抜いたアレンジ。そしてプロダクションの意思決定。
明快さを打ち出し、音の混乱を解消し、そしてどのようなミックスに向かうか。
上記の「周波数」と「時間」という2つの角度からヒントを書きました。
これらが上手く絡み合うと、良いアイディアと高い生産性、シンプルで美しい仕事が生まれます。
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以上が翻訳です。
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■編者補足
マーク・バシーノ氏はレトロポップを主に作っているシンガーソングライターです。
主に扱うジャンルの都合から上のような説明になっています。
私やあなたがレトロポップ作家ではなくても、そこに「ヒント」があります。
別ジャンルだから何も参考にならないとか、俺には関係ないと考えるのは良くないことでしょう。たとえ好みじゃないジャンルだとしても、そこで使われる「方法論」だけはどのジャンルでも(そしてもしかすると音楽以外でも)通用するはずです。
あなたがいつも作っているジャンルでも「周波数」と「時間」を管理しつつ楽曲に彩りを添える一石二鳥のアイディアがあるはずです。
そのジャンルでのヒット曲や、あなたのフェイバリットを改めて分析してみましょう。
私はどちらかというとアレンジャーだと自負しており、個人的なテクニックをいくつか編み出しています。
アレンジというと原曲をめちゃくちゃに加工するものだと思いこんでいる人も(特に同人音楽の人に)多いように見受けられます。しかし、アレンジという言葉の意味は広く、原曲(作曲)の良さを活かしつつ、さらに魅力を引き出すテクニックだと私は考えています。
■アレンジの個人レッスンを行っています
機能的で効果的なアレンジの具体的なテクニックについては個人レッスン(有料)でいろいろやっています。希望する人はお気軽に連絡してください。
docomokiraiあっとgmail.com
eki-docomokirai.hatenablog.com
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■関連記事
過去に書いた同テーマの記事をはてなブログに移動しました。
eki-docomokirai.hatenablog.com
他の翻訳記事もそうなのですが、私個人が主張するだけでは信頼度が低いよなぁ~と思って翻訳を行っています。
実際、国内ブログで私みたいな無名の作家が書いてることより、『海外ではー』って話にしたほうが受け止めやすいでしょ?
単に翻訳をしているだけではなく、ずっと以前から私は同じことを指導しています。国やジャンルが違っても、やってることは同じなんです。
国内のDTMの話題において、こういう話題がちゃんと盛り上がれば良いなぁ~と思っています。
個人レッスンではそれぞれの理解度に応じて丁寧に説明をしています。
オンラインレッスンを受けてみたい人はお気軽にご連絡ください。docomokiraiあっとgmail.com