eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

ミックスの歴史、音圧戦争の歴史

先日のレッスン(正しくは無料相談の範疇)で言った内容の正誤性に不安があったので、御大に連絡をして再確認。

教えた内容は半分は正解でしたが、補足事項があったので訂正しました。

今後はより良い内容のレッスンをできるように日々精進です。おさらい大事。

 

■ミックスの歴史、音圧戦争の歴史

今回訂正した内容は概ねen:Wikipediaの内容です。
https://en.wikipedia.org/wiki/Loudness_war

Loudness war - Wikipedia

 

私が教えた内容では、1960年代のモータウンの売り込みの一環として行われたいわゆる「音圧上げ」がミックス・マスタリングの転換点であるという話をしました。

その時に完成したレコードの音を聞いたアーティストたちが「俺たちの音はこんなのじゃねえよ!」と言ってレーベルと衝突を起こしていた歴史が1960年代から存在する、という内容です。(←この辺についてはWikipediaには書かれていないですが、古い洋楽系の書籍で何度か目にしたことがあります。明確なソースとして所持していませんが、知っている人なら普通に知っている洋楽の歴史です。)

 

■ミックスの歴史は基本的に音をクソ化する歴史

当時の劣悪なラジオのスピーカーや車で聞いても音がはっきり聞こえるようにプロデューサー・レーベル側が勝手に音を極端に加工する音圧上げが行われた、という話です。音圧戦争の始まりです。

 

結果として聞こえやすい曲のレコードは売れたのでアーティストも喜んだが、やっぱりちゃんとした自分たちの音を聞いて欲しいから「ライブに来てね!ライブの迫力は違うぜ!」という感じ。

 

ここに関連する脱線話として有名なのは、ある有名バンドのわがままなメンバーとエンジニア衝突し「俺のミックスが気に入らないなら、お前らの担当楽器のフェーダーに触らせてやるから自分でバランス取れよ!」と丸投げした際、ボーカルもギターもベースもドラムも全員が自分のフェーダーを最大まで上げ続けたというロックなアホ話です。結果としてその爆音アルバムは驚異的なヒットとなった、というオチ。ミックスって何?

そのバンド名は忘れました。メガデスだかディープパープルだったか、そういう超大御所だったはずです。割りと有名なこのバカなエピソードについて正確な情報があったらコメント欄に書き込みをお願いいたします。

 

そうしたことから、ミキシングは音を良くする加工ではなく、基本的には妥協を重ねる加工の歴史だという認識をするべきだ、というお話もしました。音圧競争が加熱した果てにある今の時代でもそれは変わりません。

 

■お前らミックスミックス言ってるけどさぁ

近年の国内DTM界隈ではミックスミックスとあちこちで叫ばれていますが、「基本的にミックスという行為に過剰な期待をしないほうが良いよ」「ミックス関連用語を覚えた数と同じくらい、作編曲の用語について学ぶべきだよ」というアドバイスをしました。(無料レッスンの範疇なのでそれ以上の具体的な話はあまり言いませんが。)

その時にお話をしていた方が「最近モータウンミックスというものに興味があって」と言っていたので「それ、基本的にカーステレオに特化させるクソ音MIXって意味ですよ」と諭したわけです。

 

■ミックス用語だけじゃなくてさぁ

その人がどこでどういう経緯でどんな人からモータウンミックスという言葉を仕入れたのかについては一切聞きませんでしたが、およそ察しはつきます。ミックス関連の用語を仕入れていてなんとなくスゴい手法だと思った程度なのは聞くまでもありません。頑張って仕入れた情報はすごいものだと信じるのが人間です。

しかし、好意的に言ってもモータウンサウンドというのは昔ならではのアナログ味という程度の意味です。結局CD以降の時代で再販されているものはリマスターされた音ですし。

どうせプラグイン屋がアナログシミュレータを売るための広告用語として使っていたのを見聞きしたのでしょう。

アナログの音を出したいならプラグインなんか買わずにアナログ機器を使うべきです。それこそどんな適当な機器でも良いので一度アナログ機器を経由させてライン録音しなおすだけでも、プラグインなんかよりよほどアナログ味になりますから。クソ高いアナログ機材じゃなくてもアナログの効果を確かめることは今すぐできることですよ?

 

■訂正した内容

しかし、正確には1960年代のモータウンではなく、1920年代のジュークボックスで再生される劣悪な騒音環境に適合させるために音圧上げが始まった、というのが正しい。という訂正をしました。

モータウンサウンドがラジオや車でもはっきり聞こえる音を目指していたものであったように、ジュークボックスが再生される喧騒の中でも聞こえやすい音を追求した人たちがいたというのがミックスを工夫する歴史の始まりだと言うことができるわけです。

 

うろ覚えの内容だったことと誤りを認め、事後訂正するのは教育を行う者の責務だと思っています。今後もちゃんと勉強し、本当に身につけるべき情報とノイズをきっちり分離するレッスンを行うように努力いたしますm(_ _)m

 

■もしキャリアアップしたとしたら?

ミックス・マスタリングは作編曲をしている人が担当するものではなく、専業エンジニアさんが担当することになるのは当然です。

エンジニアになりたいのであれば話は別ですが、ミックスを上達させることばかり考えるより、作曲と編曲など、根幹に関わる部分を磨くべきですよ、という話もしました。

 

事実、私の知人の作家さんはピアノと歌、作詞作曲だけを仕事にしています。アレンジやDTMの勉強もしているようですが、根本的にセンスが無いようでまるで上達しません。それでも驚くほどのキャリアを持ち、私なんかは比較にならないレベルの音楽仕事をしています。

私はそういう人の作品がコンペで通るようにするためにアレンジの依頼を受けています。でも、その人の場合は適当な環境で録音した歌とピアノだけでものすごい数のコンペで勝っています。どうしてもオケが必要なタイプの曲でコンペに出す時にアレンジを担当している、という感じです。それと自主制作のアルバムを作る時のオケ制作やミックス・マスタリングも担当しています。

 

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以下、やや脱線話。

 

■クラシックにおける音量問題

関連する話なので、クラシックにおける音量問題を列記しておきます。

私がクラシックの人と接することも多いのでこの機会に文章にしておきたい、という願望もあるからです。

 

よく吹奏楽などでポップスを演奏する際に「小さい音は大きく、大きい音は小さく演奏するのがポップスだ。CDの音はそうなっている」と指導されることがあります。

しかしそういうサウンドはコンプレッサー(エフェクター)を使うことによる音量の圧縮の結果であり、本来は小さい音は小さく演奏したものを録音しています。

例えばボーカルのささやき声は大きく聞こえるように加工されているということです。爆音のエレキギターと生のフルートの音はアンサンブルできません。フルートの音はマイクで収録され、大きな音にされるということです。こうした加工を「ミックス」と呼びます。

バンドやコンピューター音楽などをやっている人にとってはこのミックスの技術が不可欠です。バンドのライブが下手くそに聞こえる原因のほとんどはミックス担当者の腕の悪さだとさえ言われています。

 

アコースティックギターの音量問題

クラシックの分野で古くから問題とされている編成の最たるものはギターとオーケストラの演奏です。ご存知の通りクラシックギターは音量が非常に小さい楽器であり、そのままの編成ではオーケストラの音に完全に負けてしまいます。それを防ぐために、クラシックの演奏であるにもかかわらず、マイクを使用することがあります。

ギター+オケの曲は当初から音量バランスに問題がある欠陥編成だとさえ言われており、マイクによる電気増幅の恩恵を受けているジャンルだと言えます。

 

■私が吹奏楽をやめた理由のひとつ

音量に関連して言いたいことが1つあって、吹奏楽が楽器編成をむやみに変更することは、作編曲者が想定した音量バランスを崩壊させる行為なので、できるだけ本来の楽器数で演奏してほしいな、ということです。

これは大学生の頃からずっと思い悩み続けていたことです。

幸いなことに大学で吹奏楽をやっていた時には音大教授の指揮者が(曲によっては)指定人数で演奏することを実践していました。そのサウンドは素晴らしいものだったと記憶しています。

 

多くの国内吹奏楽団がその演奏人数(楽器数比率)を変更し、私の曲をおかしなバランスで演奏した挙句に、「作曲(編曲)がいまいちだった」と言ってくることがありました。たしかに私の腕は未熟だったとは思いますが、そういうことがあったのも私が吹奏楽と積極的に関わらなくなった理由のひとつでもあります。「どうせおかしなバランスで演奏されるんだろうな」と思いながら曲を作るのはこの上ない苦痛だったわけです。

音楽とは音量と周波数です。それは演奏人数が変わればすぐに崩壊するものです。

吹奏楽に対する愚痴と音量バランス問題は話題が逸れるので、またそのうち。

 

 

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