eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

R-TYPEのアレンジ、制作後記

1987年のレトロアーケードゲームR-TYPE」のアレンジ曲集が完成し、クロスフェード音源をアップしました。

せっかくなので制作後記を書いておきます。

(2018年7月22日更新、再販開始)

 

ニコ動版

www.nicovideo.jp

Youtube版はこちら

R-TYPEアレンジ、クロスフェード - YouTube

(2018年7月22日~)CD-Rでの再販が可能です。希望者はメールで連絡してください。ショップ委託等は予定していません。

 

■制作前にやったこと

■音色セット

今回は音色のほとんどを先に用意しておく、というスタイルでした。

 

■シンセの音色セット

16チャンネルのマルチラック音源を2つ使い、ほぼいっぱいにしておきました。この音色セット+CubaseのインストトラックでElectri6ityを2本と専用シンセ音色を10本くらい。

シンセ音はほぼ全てHALion SONICのVAで自作。シンク系SAWのバリエーションが多いです。

 

■ドラムの音色セット

生系担当でAddictive Drumsを3本をMIDIセンドでまとめて一括操作。

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Addictive Drumsをまとめて3台扱えるので、キック3種、スネア3種、ハットも3種。タムは12本、クラッシュは9枚、ライド3枚。これだけあればなんでもできるというドラム要塞セッティングです。作るのは手間がかかりますが抜群の対応力があります。

音色はちょっと前に作った曲で調整済みのメタル系の自作プリセット。

と言いたい所なのですが、結局Addictive Drumsはほとんど鳴らしていません。手を込んだ準備をした上でそのトラックを鳴らさないと音が良くなるのは我々の業界では常識です。

 

EDM系ドラム音色はGroove Agent Oneで。

古い付属のGroove Agentなので細かい調整はできませんが、きっちり調整済みのサンプルを使っているのでポン出しだけで問題ありませんし、ミックスの手間も最小限で済んでいます。

 

ループとSEはオーディオファイル貼り付けです。

 

■足りなくなった音色

途中でエレキギターのミュート音に納得行かず、ミュート専用にElectri6ityをもう1つ立ち上げ、その部分の演奏だけ作ってオーディオ化して、さようなら。

 

■スピード重視

わりとスピード重視だったので、汎用的な技術しか使っていません。実験は実験として別の機会にやるので、すでに使える技術だけですべてオペレートしました。

 

■プロジェクト全体像

9曲を1ファイル内でまとめて作業しているので超巨大です。横幅も1時間くらいあります。

f:id:eki_docomokirai:20170813023355p:plain必要に応じてフォルダを開閉しているので、こんな縦長の状態で作業しているわけではありませんよ!

 

上の方の白い部分はアレンジ管理用の物置き場所。

メロやコード、再生範囲を決めるためのガイドやマーカーなどが並んでいます。

 その下にMIDIトラック、インストトラックが並びます。 黒いのがMIDIとオーディオのリージョン、ぼんやり白い箇所はオートメーションです。

 

超重量級のレイヤーシンセを鳴らす箇所はその都度オーディオ化しています。HALion SONICに全力でレイヤーを鳴らさせると30本くらいレイヤーすることになるので死ぬほど重たいです。

オートメが多いのはシンセリードとギターです。バランス取りやセンド送りによる演出用のオートメです。

 

点々とリージョンがあるだけの箇所はオーディオ貼り付け場所。

オーディオ素材は日頃から収集しているフリー素材が多いです。W.A. Productionサマサマ。

知人が自作したループ集も使わせてもらいました。

 

右に黒いのが縦に並んでいるところまでがオーディオファイル。

 

その下の真っ白な部分は音源設定。

今回作ったシンセ音色はあらかじめMIDI CCに反応するように仕込みをしてあるので、音源管理部分でオートメーションを書くことは皆無でした。とても白い。

( ここの部分はスクショいらなかったですね。すみません……)

その下、少しのオートメがあるのはグループトラック。まとめておいてからバランス調整や、テープストップ、残響止めなどの演出のためのオートメでう。 

 

最後。一番下に斜めに並んでいるのが完成した2mixです。

トラック合計数は261でした。

 

作業中はこれよりもう少し多く、オーディオ貼り付け作業の際にライブラリをチェックして、使えそうだと思ったオーディオを片っ端から貼り付けて、後で合いそうな曲の位置に動かしつつ取捨選択をしています。

 


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■TITLE

タイトルバック曲。

ズンズン、じわじわと響く不気味な曲。

R-TYPEは当時流行していたH.R.ギーガー的なビジュアル(映画『エイリアン』のデザイナー)を踏襲したグロテスクなビジュアルが特長のシューティングゲームです。機械と生命体の混在した世界です。

 

普通の場面で使うために用意したElectri6ityのサイドギターの設定だと重厚なミュート音が鳴らせなかったので、このためだけにElectri6ityをもう1本立ち上げ。

とにかくズンズン鳴ることだけに特化した設定で、水戸黄門あるいはホルストの火星、ボレロのような三連符をベタ打ちで鳴らす!かっこいい!

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こんなものだけのために重たい音源を放置できるわけがないので、オーディオ化してさようなら。

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右全振りで書き出してしまったけど、どうとでもなるので問題ないです。

 

太鼓の音はシネマティック系のサンプルでも良いと言えば良いんだけど、ギターの刻みが完全にメタルのソレなので、ドラムもメタルに寄せるという選択。

 

映像が無い、すべて音だけの作品集ではこの選択で正しいはずなんです。

その場その場のベストをやると、曲集全体から浮いてしまうという悲惨な結果になる。

 

■BOSS THEME

ボス戦のテーマ曲。

 

同様に、その場一発だけのシンセ音を作り、すぐにオーディオ化してサヨナラ!

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シンプル過ぎる曲に対して厚みを出すためだけの役割なので割りと雑で良いんです。

こんなものに手間を掛けているよりやるべきことがあるよね!

 

■MONSTER BEAT(Stage2)

1面が無い理由は後述。

 

2面は執拗な下降音シーケンスが印象的な雰囲気一発系のミニマル要素が強い曲。

シンセの音色と演奏パラメタを整えて、そこそこできたら早々にオーディオ化。

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場面に応じてバッキングの空間エフェクトをオートメ。

トラック判別用に色付するのも面倒くせえ!一気に仕上げる!

 

カットアップ

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さらにカットアップ!カカカッ!

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ギターがフィルのフレーズを吠えて、そのままバッキングに参加。

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あとは適当に吠えてろ。

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ベースは割りと丁寧に仕上げたフレーズを雑にループさせる。

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■BATTLE PRESSURE(Stage3)

ゲーム史に残るインパクトを残した巨大戦艦ステージ。強烈さが必要だ。不協和音で押す!

原曲自体が半音階を多用した調性感の薄い曲なので、たぶんこういうのやりたかったんじゃねーかなーと想像し、不協和音をガツガツ叩き込む。

 

ストラヴィンスキーに敬意を!

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上モノはsus2無双。かっこいい。

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他にもいくつかの交差する音を入れて緊迫感のあるサウンドにする。

 

そこにバカなEDM文法をミクスチャー!

ビルドアップだ!レッツゴー!

ダッ!ダッ!ダッ!ダッ!打打打打打打打打!!

ンッドゥーーンッ・・・・・・ズバババババ!!ドッシャァァァー!!!

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ちょうかっこいい。

細かい打ち込みよりビビッドなアイディアこそEDM。

 

重厚だからフルオケって考えるのは、ダメ絶対!

 

■ブツ・ブツ・・・(Stage4)

燃えるギター曲。風呂で顔面にシャワーを当てている時にファンキーにしようと決めた。

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派手に動いている青いのはワウペダルです。

過去に他のブログでも書いていたのと同じやり方です。High-MidのEQで明るくしたい部分を持ち上げ、センド送り量を変えて浮かせる。

 

同箇所、Electri6ityの打ち込みは、

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CCは上からPB、弦指定とオンオフ制御、ポジション指定です。わりとシンプル。とにかくワウでゴリ押しした場面です。

 

でも一番うまく行ったのは間奏、アドリブソロ部分のコードワーク。

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Em9からのクリシェが綺麗にまとまる。俺すげえ。ここはまじでかっこいい。

 

その他、キメのリズムなどもファンクの文法に添わせて16分引っ掛けを多用する。

 

この4面BGMの冒頭のペンタトニックのギターソロはゲームオーバー音です。初期のサントラではゲームオーバー音の次に4面BGMという曲順だったことに倣っています。

 

■洞窟に潜むモンスター(Stage5)

シンプルに4小節ループをベタベタ貼って、オートメでゴリ押しするテクノ調アレンジ。

 

怪しいベースがぴょんぴょんするんじゃー!

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シンセベースの音色はベロシティとCC74で綺麗にぴょんぴょんするようにシンセ内のいろいろなパラメタにマトリクスを仕込んであります。

ループ再生させながらどんどん数値を書いていくのが超楽しい。

 

ドラムループはシンプルに4小節を繰り返す。普段こういうのを作る時は全部打ち込みにしたりループ素材を細かくカットアップしたりしているのですが、今回はフィルターとオートメーションで仕上げる手法で作りました。

 

ツマミをひねるDJの姿を想像すると腕が多くて気持ち悪い。もし乳首のような感圧センサー付きの3Dツマミなら可能かもしれないので、そのスジの人は乳首コントローラーを自作してください。つまむとQがキュっとする感じで。

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EQはハイローカットとそれぞれのQを常時動かしてウネウネさせる。

コムフィルターのDry/Wetを変化させてもっと変態的な音にする。途中で「ビャアアアア」っていう狂った音になっているあたりがコムフィルターの顕著な箇所です。これ書きながら改めて聞いてみたんですが本当にバカな音してますね。

真空管ドライブと空間センドも動かしているので、4小節ノループ素材を1つしか使っていないけど多彩な音が出せる。ちょうたのしい。

 

「2017年の同人はR-TYPEのアレンジをするぞ!」という話はかなり前から決まっていました。初代R-TYPEの30周年という年だからです。

しかし、正直な所、R-TYPEのBGMの中には非常に退屈というか、どうアレンジしたものかまったく思い浮かばないものが幾つかありました。特にこの5面の曲。

この手の同人活動では「できるだけ原曲の持つ雰囲気を壊さない方針」でやっているので、どうしたものかなーと悩み続け、最終的にツマミをひねる方向性にしました。

普段はクラシック寄りで音符の配置で良いアレンジを作る仕事をしていることが多いので、「お前こんなのもやるんだw」と笑って貰えればなと思います。クラシックの人だと思われていることもありますが、兄の影響でミニマル系、ループ音楽への理解も一応あります。

 

■SCRAMBLE CROSSROAD(Stage6)

「来年はR-TYPEやろうぜ」という話になった時点で悪寒が走ったのはこの6面の曲のせい。

なんで不気味シューティングにこんな曲が挿入されたのか理解に苦しむほど底抜けに明るい曲。レトロゲームに多いですよね、こういうミスマッチ。昔のゲームって開発期間もものすごく短いし、音楽を作る人も音楽の専門家というよりプログラマ寄りだった時代だから仕方がない。できちゃった曲をどんどん乗せないとマスターアップに間に合わないんだから。

でも、すでに出来上がったものに対して外野が何を言っても意味が無い。

もし自分がやったとしても、ビジュアルが先に完成しているとは限らないからミスマッチを完全に回避するのは難しい。避ける方向が分からないんだから。(実際、ビジュアルがすでにあるのに大急ぎで作った曲がミスマッチになってしまった経験もある。)

 

ぶっ壊しアレンジにしようかなーと何度も悩んだんだけど、コンセプトは「原曲を作った人はたぶんこうしたかった」「今作ったらこうするだろう」というリスペクトを重視しているので、別物にするのは却下。慣れればぶっ壊しアレンジの方が簡単なんですよ。どの程度原作を残すか、まっすぐ引っ張り上げるかを達成するアレンジの方が断然難しい。まじで。

そのスジを通すためという目的もあって、こういう明るい曲も共存できるように、という目論見から今回はEDM要素を入れた音色セットにしました。

バスコンプやマスターリミッターが曲全体をなじませるように、曲集では音色セットが一貫性の根拠になる、と信じて作っています。

曲順にも配慮していて、5面がぴょんぴょんしているのもそういう意味。

もし5面単体の雰囲気で不気味系に寄せすぎると、次にくる6面のオールドスクールな感じがあまりにも浮きすぎるはず。

6面以降は曲ごとのサウンドの変遷を意識して作っています。単曲ではないので。

 

和声的に明らかに間違っているコード進行とボイシングを修正しています。

 

夢の島(OGORERUMONO WA HISASIKARAZU)(Stage7)

すごく雰囲気が良い曲。ただ、原曲は発音数の取捨選択をミスっていて、あるべき音が入っていないと感じていました。そういう点を補う方向でアレンジ。

これも音色セットの話なんだけど、こういう暗い曲をやると安易に生ストリングスとかを使ってしまう人は多いんじゃないかと思う。

先日のレッスンがらみの相談でも俺は「その選択って本当に合ってるの?」という話をしていました。

シンセやギターの音色に対してオーケストレーションオーケストレーション管弦楽法≒インストゥルメンテーション、楽器法)の技術を発揮するべきじゃないかなーと思うんです。重厚だからフルオケとか、ギターだからロックとか、そういう選択をしちゃった時点でもう先がない。どんなに頑張ってもクソアレンジ。

というわけで、シンセやギターを巧みに絡み合わせるサウンドで重さと暗さを引き出す方向性でアレンジしました。

途中で挿入されているフレーズは『R-TYPE2』のスタート音のフレーズを変容(展開)したものです。

アレンジ全編通してシリーズ他作品のフレーズがちょこちょこ挿入されています。見つけた人がニヤっとしてくれれば良いかなぁ~と思っています。

 

■母胎(Stage8)

原曲は信じられないくらい短いたった2小節ループの繰り返し。

重ねて、積み上げて、粘って、盛り上げて。クサい締め!

 

この積み重ねの最中に出てくる(16分+白玉へ)

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この音形はゲームオーバーの音形モチーフを反行(上下音程を逆に)させたものです。

 

R-TYPEというゲームをご存じない人向けの説明ですが、この8面のボスは攻撃が効きません。倒すためには持っている武器(敵の細胞を使った強力な兵器で戦っている)をボスの体内にめりこませ、爆発するまでの間を丸裸で戦うことになります。一切の文章無しでこの虚無感を表現したのは本当に芸術的だと思っています。

 

それを表現するために「死」を意味するモチーフが聞こえてくる必要があるかなーということで、ゲームオーバーの音を入れたアレンジです。

下降する死のモチーフはやがて上昇音に変化し、絶望的な戦いに光明が見えてきます。

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というクラシック文法を使ったアレンジです。

 

 

オーディオ素材を複数使って作った爆発音を入れてから聞こえる長い和音は、続編「R-TYPE2」のエンディング、脱出シーンで聞こえる音です。(R-TYPE2 _ Escape From The Empire(All Clear))

 

■RETURN IN TRIMPH(Stage Clear) & Ending(R3)

このアレンジはR-TYPE1ではなくR-TYPE3のエンディング曲です。

3のエンディング曲は1のクリアジングルとそこからつながるメロディアスな曲で構成されています。非常に臭くて、ドラマチック。3のエンディング曲はさらに続き、R-YTPE1の1面のテーマを奏でて終わりを迎えます。

R-TYPEシリーズは完全決着していないので、最後には続編を予感させる不気味な効果音を入れています。

 

■NAME ENTRY

ネームエントリーはゲーム本編から完全に離れた、ゲームプレイを終えた後の曲なので意図的に浮いた曲想、手前の曲からのつながりを意図的に断ち切っています。

 

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という感じで一部欠けている曲番号もありますが、全曲の要素をちゃんと盛り込んでいます。

同人音楽活動として販売するのですが、宣伝活動は非常におとなしくやることにしています。グレーゾーンの作品を大々的に宣伝するのはブラック度が高くなるので、ということで節度ある同人活動にとどめています。

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