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eki_docomokiraiのブログ

作編曲家のえきです。DTM、音楽制作TIPS、およびゲーム(Diablo3RoS)の話を書いています。

プラグインの特性チェックとアナライザ設定

プラグインの検査的な話で「-80表示でもノイズが見えない」的な話があったので、補足的なことを書いておきます。

結論から言うと「-80では不足」です。そのやりかたでは検査になっていません!検査の時にはスペアナを高精度モードにしなければいけません。

(この記事は過去に別のブログで公開していた記事を移転したものです。同じ筆者です。)

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■ノイズの計測

4つのプラグイン
・左上がWaves IDR(ディザーノイズ発生器、Wavesのマスタリング系バンドルに入っています)
・左下がBitter(http://www.stillwellaudio.com/plugins/bitter/
・右上がVoxengo SPAN(デフォ=-78)(http://www.voxengo.com/product/span/
・右下がVoxengo SPAN(-180)

(Bitterはスペアナではなく、当該ビット出力を検出し警告するためのプラグインです。32bit版の方が正確に挙動しているように思えます。環境にもよるのでインストール時に32/64の両方を入れておくと良いと思います。インターサンプルピーク検出を行ってくれるので、神経質にデータを作りたい時にどーぞ。)

 

Waves IDRのディザーノイズ、20bit

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デフォルトの-78dB表示(上)ではディザーノイズは見えません
が、-180dB表示(下)だと、ディザーノイズがはっきりと見えます。

Bitterでも明確に表示されており、ノイズのゆらぎも確認できます。

※SPANの山線が2本になっているのは、最大値固定表示(上)と、通常の平均値表示(中)です。そういう表示にするように設定変更しています。


Waves IDRのディザーノイズ、16bit

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ディザーノイズを20bitから16bitにしてみました。

大きいはずの16bitディザーノイズでも、やはり-78dB表示では見つけることができません。高精度表示にするとはっきり見えます。

 

■比較してみる

比較しやすいように2つのスペアナ画像を合成表示してみます。

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いずれの表示も、音量にして20dB以上の差があることが分かります。

赤の点線を右のレベル表示まで引っ張っておいたのでチェックしやすいはずです。

 


■スペアナがデフォルトで高精度表示モードになっていない理由

-80dBより大きい音の表示は音楽的に必要になる表示であって、精密なチェックをしたい時には不足なんです。

だからたいていのスペアナは80dB程度までの表示がデフォルトになっています。
検査的なことをやりたい時には表示幅を広げる必要があります!

ちゃんとしたスペアナであれば表示範囲を80dB以上まで広げることができるので、検査をやる時には表示範囲を広げてみてください。

 

くりかえしますが、曲を制作する作業では80dBまでの表示でも十分です。
スペアナのモデルによっては60dB程度までしか表示しないものもあるくらいです。

必要以上に精密である必要はありません。
これはデシベル表示だけではなく、高精度表示モードも同じことが言えます。高精度モードでは反応速度が遅くなるので、聞こえる音と表示のタイムラグが生じてしまうからです。

 

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■サイン波の計測

次はディザーノイズではなく、サイン波のチェックをしてみましょう。

 

Steinberg TestGenerator 440.00Hz、-18dB、Sine

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通常の80dB程度の表示だと1つのピークしか見えません。

高精度モードで見ると、音量-100dB以下に整数倍音が生じていることを確認できます。


■Melda MOscillator 440.00Hz、-18dB、Sine

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Steinbergのサイン波ジェネレータと異なり、倍音は発生していません。しかし、4500Hzから上に折り返しノイズが生じていることを確認できます。

(私は全然詳しくないので間違っているかもしれませんが、サンプリング周波数最上部から左下がりの姿で現れるのは、高次倍音ではなく折り返しノイズだったはずです。用語の厳密さを求める必要がある人は各自で研究してください。)

 

このように、サイン波ジェネレーターでもメーカーやモデルによって特性が異なり、高精度モードで見てみればその特性差ははっきりと分かる、ということです。

■シンセ内蔵のオシレーターのチェック

楽器としてのシンセに備わっているオシレーターが出力するサイン波にも違いがあるので、手持ちのシンセでサイン波だけを出力してチェックしてみてください。

曲作りでは不要とされる80dB以下の小さな音量ではありますが、この波に各種エフェクトを当てることによって小さな倍音も持ち上がってきます。また、リングモジュレーターなどで複数の音色を干渉させると、その変化はより大きなものとして聞こえてきます。

 

■マスタリングによる持ち上がり

マスタリングプロセスでそれぞれの帯域を持ち上げると、ノイズとしてはっきり認識できる音量になることがあるので注意が必要です。

特にマルチバンドで持ち上げると顕著なものとなります。

バーブ成分の持ち上がりも同様の理由なのですが、これはちょっと別カテゴリの問題なのでまた気が向いたら別の記事にて説明します。

 

■mp3等の圧縮音源による持ち上がり

オーディオデータ圧縮による厳密に言うと持ち上がりではないのですが、結果として「違った音として聞こえてくる」わけですから、持ち上がりの一種として考えても良いのではないでしょうか。

これもちょっとカテゴリが逸れてしまうのでまた今度。

 

■うんちく「シンセサイザーの不自然な純音」

いずれにせよ楽典に書かれていることがある「シンセサイザー機械的に発生させたサイン波は自然界に存在しない純音である」とか「だからシンセサイザーの音楽は不快」というのは嘘。実のところ完璧な純音を出力するのはシンセサイザーでも不可能ということが分かります。

過去には「完璧な純音が出力されていないからこのシンセはクソ」と言っていた人がいましたが、それは厳密さに欠ける思い込みです。

 

純音 - Wikipedia

 

また、上のサイン波の検査において、440Hzだけがピンポイントで表示されずにゆるいカーブを描いているのはスペクトラムアナライザの検出方式によるものです。440ラの音以外にシやドが鳴っているというわけではありません。

どうしてピンポイントで出ないのか不思議に思った人は調べてみてください。(参考:窓関数とサイドローブ

要約すると、音(周波数)を可視化する際の数式にはいろいろあり、それぞれにメリットとデメリットがあるということです。全てのスペアナでは「これが音楽的には良いよね」という窓関数をデフォルトとして採用しています。設定によって変更することは可能ですが、実際問題としてそれほどメリットのある行為ではありません。

 

この点について過去にニコ生でアナライザの話をしていた某人が完全に間違った認識をしていたので追記しておきます。

何にせよ一定数値以下を表示しないことと窓関数を適切にすることによって「音楽的な」情報提供をしてくれているということだけは知っておくべきだと思います。ほぼすべてのスペアナはデフォルト表示では曲作り的に使いやすい状態になっていて、計測には不向きです。計測をやりたい時には高精度モードに設定変更する必要があるということだけは覚えておいてください。

 

■モデルによる違いを調べてみよう

同じ試験波形ジェネレータ(プラグイン)でも、メーカーやモデルによって特性が異なることが分かりました。
これは同じノイズジェネレータでも同じです。暇人はDAW付属のノイズジェネレータや、シンセ内蔵のノイズ、オーディオプラグインのものも試してみてください。

ただし、どれが良いか悪いかではない、ということは忘れないでください。
計測に使う音波出力機ではなく、シンセは楽器です。

音楽の上で基本波形やノイズを使う場合、それはフィルター(EQ)などのオーディオエフェクトとの組み合わせによって音楽的な音を作り出すことが目的です。
そういう加工を積み重ねる過程において、不必要な帯域が持ち上がってしまった際に、悪い音になってしまうこともあります。逆にそれが思いがけず心地よい音色に化けることもあります。

 

検査で大事なのは思い込みを除去することです。とだけ書いておきます。

推測と願望ではなく、可視化することです。

 

■アナログ領域と部品特性

(やや脱線した話。)

実機シンセでは出力部品の特性によって様々な変化が現れます。

シンセに限らずアナログ回路の通過によって様々な特性が加わります。PC内部だけで終わらず、AIFや外部のミキサーを通過させているなら、そこで通過する各種回路、ADDAによっても変わります。

往年の実機シンセがプラグインとしてリバイバルしています。
しかし、実機に含まれる出力回路などの特性まで再現されていない場合、実機とはまるで違う感触の音になってしまっています。当たり前です。
シンセサイザーとしての回路やサンプルだけではなく、出力周辺の部品特性までシミュレートしないと、本当の意味での再現には至らないということは忘れてはいけないと思います。
実際そういうことをやっているシンセもあるのですが、CPU処理の負荷が高くなる傾向があります。当たり前ですね。

 

■演算シンセとサンプリングシンセ

PC1台で完結させるDTM音楽制作のみの場合でも、
・演算出力による出音の特性と(いわゆる専用シンセ)
・PCMサンプリング(波形として収録した音を鳴らすタイプのシンセ、いわゆるロンプラー)
による特性が異なる点は知っておいて損は無いと思います。

質の悪いPCMシンセだと長い音で微妙に途切れるように聞こえたり、EQ/フィルターの効き具合が微妙だったりすることがあります。イメージした通りの効果を得られない場合、PCMサンプリング式ではなく、演算式のシンセに変更する価値はあります。
逆に、半端な演算式よりも、優れた実機の音を収録したPCMの方が音楽的に扱いやすい場合もあります。
必ずしも演算式の専用シンセのほうが上だとは限りません。これは本当に要注意。

 

■スペックを楽しむ

また、高スペック好きな人は、自分が持っているシンセの出力が高品質であることや、味付けが多いことを見て満足度を高めることもできるでしょう。

 

■手持ちのプラグインの計測をしてみよう

各種プラグインの特性を調べてみると何か発見があるかもしれません。
ノイズやサイン波などに対して、EQをかけてみるのが面白いです。

ノイズやサイン波の出力はシンセで行うよりも、専用のプラグインを使うのが良いでしょう。テストジェネレータとか、そういう名前のプラグインです。

「良いEQだから良い音がする」と鵜呑みにするのではなく、どのようなカーブ特性を持っているのかを確認してみたり、GUI上で見えるカーブと実際に出力されるカーブの違いを確認してみるのも有意義なことだと思います。

アナログ系のプラグインだと、通過させるだけで上述のような倍音が生じたり、基音と無関係にノイズを乗せるものがあります。

特に確認して欲しいのが、DAWGUIでバイパス(Cubaseだと黄色くなるボタン)しているのにノイズを吐き続けるプラグインがあることです。アナログシミュレート系のプラグインでたまにあります。

 

細かな性能チェックだけではなく、そもそも「このプラグインってどういう効果があるの?」という基礎知識の充実のためにも、検査はとても有意義です。

 

■注意!

長時間サイン波やノイズを聞いていると耳がおかしくなります!(耳鳴りがしてくることがあります!)
実際に音を聞いて質感をチェックする必要が無い場合は、スペアナを目で見るだけにしたほうが良いです!

私は過去にこの手の検査を長時間やっていて耳をおかしくしてしまったので、気をつけて欲しいです。

 

気が向いたらアナライザの話は続きを書くかもしれません。
かいつまんで書いておくと、アナライザは当てになる部分と当てにならない部分がある、ということです。演算の特性からくる誤表示がどういう形で現れるのかについて書く、かも?

 

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追記。
プラグインのアナライザは各社から出ていますが、例によってMeldaのアナライザ(フリー)も少し紹介。
Meldaのアナライザにはマキシマイズという機能がついています。
これによって非常に小さな信号を検出した時でも、それを明確に表示してくれます。
音楽的な周波数分析をする時には邪魔になってしまうことが多いので、この機能をOFFにして使うべきなのですが、ワンタッチでON/OFFできるのはちょっとだけ便利です。これによって、本記事のようにSPANの設定を変えたり、不安定な挙動になりがちなBitterを起動しなくても済みます。

別にMeldaのアナライザが優れているというわけではないです。
RMSが無い、初設定が非常に面倒、という不満点もあるので、総合的にはSPAN(ただし最新版)が良いと思います。

個人的にはMeldaのアナライザが各種の平均値表示と精密表示を重ねるモードが追加されればなぁと。

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手持ちのサチュレーター系のスペアナ画像を特集した記事を作りましたのでどーぞ。

 

eki-docomokirai.hatenablog.com

 

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