eki_docomokiraiの音楽制作ブログ

作編曲家のえきです。DTM/音楽制作で役立つTIPSを書いています。

テヌートとスタッカートの扱い

(人気記事!)音楽、楽譜と演奏についての記事です。

テヌートやスタッカートの扱い方にはいろいろな解釈があるのでよく考えましょうというお話。

(更新、2018年3月21日)

Facebookでの話題でこんな記譜が出てきて悩むよね、というお話がありました。

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ディミヌエンドは「音を小さくしていく、減衰」。テヌートは「音を保つ」。スタッカートは「音を短く(※)」と理解する人が多いです。

しかし、スタッカートの扱いは記譜の歴史と慣習によって大きな変化が起きていますから、スタッカートについて詳しく知っておく必要があります。

 

 

■テヌートの意味

テヌートは音価の長さいっぱいに音を「伸ばす」「音量を維持する」。

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ディミヌエンドは「音量を下げていく」。

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この2つに誤解の生じる余地はありません。

 

 

■スタッカートの解釈は複数ある!

問題はスタッカート。

私が知る限り、実際の演奏では4種類の方法で扱われています。

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正しい、というかスタッカート本来の意味は(2)です!

 

画像作り忘れたので追記。

「staccatoは『短く!』」だと思っている人や、そう教えている人がいますが完全に誤りです!!!!!!!1

 

 

 

■1,短縮スタッカート

「音の長さを半分にする」という解釈について。

 

これは義務教育の音楽の教科書などで紹介されていますが、「伝言ゲーム」な意味の変質による誤解です!

この解釈は割りと現代的な解釈であることを知っておいてください!

古典では全音符や2分音符にスタッカートがつくことがあるからです!

 

特にテンポの速い曲では事実上「半分」という演奏で妥当な結果になることと、テンポの速い曲の中での表現で明確な違いが出ることもあり、スタッカートの意味がどんどん誤解されていきました。

レッスン中などで曲の流れ の中で「そこのスタッカートはちゃんと短くして!」と言うことはありますが、それは今のあなたの演奏より短くという意味です。リズミカルに聞かせるために明確に短くという意味です。決して「できるだけ短く」という意味ではありません!

スタッカートが頻出する曲は舞曲やマーチなどテンポが速い曲が多いです。初学者がそういう曲を身につける過程で「短く!」と覚えてしまうのが原因だと思われます。

 

■2,切断スタッカート

これがスタッカート本来の意味です。

 

「次の音と明確に切り離す」という解釈で演奏されます。

「ラーーーラーーー」ではなく、「ラーーン ラーーン」と演奏します。

「ラッ、、、、ラッ、、、」でもありません。

 

風の谷のナウシカ』に出てくる「ランラン。ランララ、ランランラン」と歌ってるあのニュアンスはまさにスタッカートです。

あの歌をスタッカート無しで歌うと「ラーラー。ラーララ、ラーラーラー」になります。

 

この表現は古典で頻出し、遅いテンポの曲の全音符や二分音符にスタッカートがつくことがあります。

スタッカートは速い曲のためだけではありません。

 

■3,減衰スタッカート

現代的な拡大解釈です。

本来のスタッカートの意味とは大きく異なります。

 

スタッカートはあくまでも音の長さを変更する記号なので、音量の経時変化ではありません。

 

 楽譜を書く人が面倒くさがってスタッカートを書くことがありますが、decrescの>を音符ごとに書くべきです。

音符ごとに>>>>と並ぶとアクセントに見えてしまうことを嫌う人も多いですが、浄書の細かいルールのひとつに「音量は音符の後ろから書き始めうましょう」というものがあります。

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 このように書けば、アクセントとdecresc.の書きミスは無くなるはずです。

アクセントはご存知のとおり音符の開始位置と同じです。

また、書き方を知らなくてもプレイヤーは「これはなんとなくdecresc.な気がする」と直感的に判断するはずです。(その直感性に訴えかける工夫の集大成がノーテーション(浄書)のルールです。)

ためしに手書きしてみると納得してもらえるはずです。どんなに短い「>」でも、音符の後ろから開始されていてばdecresc.に見えるはずです。

 

■4,短縮+減衰スタッカート

これも拡大解釈です。本来のスタッカートの意味とはかけ離れています。

 

しかし、事実としてスタッカートを「減衰して、ポーーンと跳ねるように」「ピアノや弦楽器のピチカートのように」と教えている学校やプロ音楽家、プロ指揮者がいます。

よりよい演奏表現のために「ポーーン」という音量変化を取り入れたわけです。

オーケストラの弦楽器や、アコースティックギター、ピアノの曲を吹奏楽などに編曲した場合に音量を減衰させる表現が必要になります。それを表現するためにアレンジャーがスタッカートを記譜してみようと試みたのかもしれません。

 

そういう場合はスタッカートではなく、alla pizz.(ピチカートのように)とかalla piano(ピアノっぽく)、alla chitarra(ギターっぽく)と書くべきだと思います。

 

若い頃に誤った記譜表現を刷り込まれると、大人になっても「テヌート+スタッカート+ディミヌエンド」で悩むことになります。

曲ごとの表現(ケーススタディ)ではなく、原理を教えている人がほとんどいないことが原因でしょう。音大は何やってんのと思う。

 

■テヌート+スタッカート

テヌートスタッカートは頻出する付加記号です。

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テヌートは「維持」であることに異論は無いはずです。

問題はスタッカートを「切断」と読むか、「減衰」と読むか。

 

もしスタッカートを減衰と読んでしまうと、下のような状況で問題が生じます!

 

■テヌート+スタッカート+ディミヌエンドは?

 

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テヌートとディミヌエンドは悩む余地がありません。

「長さを維持し、音量を減衰する」ですね。

 

これにsta.をつけるのですから、sta.の意味を「減衰」と解釈するとdim.と重複してしまいます。意味が無くなってしまいますね。

 

だからこの場合は、

 

という3つの組み合わせが正解です。

 

モダンなスタッカートの読み方(減衰)だけを覚えていると、こういう複合付加記号を見た時に疑問が生じることになります。

 

なお、「アクセント+テヌート+スタッカート」もほぼ同じ演奏になると言えます。

アクセントは音量変化の記号だからです。

アクセントの場合は音のスタート付近を強調するので、減衰のタイミングが異なると考えてください。

 

アクセント系でよくある勘違いがアクセント+テヌートで常に音量を大きく維持する演奏です。なぜ間違いなのかはこの記事をここまで読んできた人なら完璧に説明できるはずです。

 

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■記譜と表現

スタッカートは1つの曲の中で同じ扱いになるとは限りません。場面によって扱い方が異なるのは当然です。曲によっても異なりますし、テンポや曲想によっても異なります。さらには音楽的な役割によっても異なります。

だからと言って、毎回適当な演奏をやって「音楽は自由だ」と言うのはおかしいです。

なぜその場面、その音で、そのような表現を行うのか、根拠を持って説明できるようにするべきです。

 

楽曲解釈の他、それぞれの楽器の演奏上の制約、慣習があるので、それぞれの理由をうまく組み合わせて、最終的には「良い音楽」となるように組み立てるのがベストです。

 

対立する幾つかの理由をうまく組み合わせましょう。

 

たとえば、アレンジ曲の場合、元がピアノ曲でテヌートが書かれていたとします。それをクラリネット・アンサンブルに編曲したとしましょう。

原曲のテヌートをそのまま記譜してしまうと、音が減衰してしまうピアノのために書かれたテヌートの意味と、音が減衰しないクラリネットのテヌートは出てくる音がまったく異なります!

編曲する人も、演奏する人も、この問題については常に考えてください。

 

特にオーケストラ曲を吹奏楽用に編曲した場合、弦楽器用の記譜が管楽器で演奏されることになるので、強い注意が必要です!

 

■記譜は標準的に、演奏は自由に。ただし根拠を持って。

なお、過去に吹奏楽の曲で最低最悪な付加記号の解釈を与えた楽曲がありました。

曲名は失念しています。

その曲の解説では「スタッカートは長くならないようにという意味です」「テヌートは短くならないようにという意味です」と書かれていました。

完全な誤りです。もしそのような記述が許されるなら「fは小さく演奏しない」「pは大きく演奏しない」になってしまいますし、「Vivaceは遅くないテンポで」となってしまいます。ありえない表記です!

 

この曲はアマチュアが書いた適当なアレンジ曲などではありません。日本の吹奏楽団のほとんどが参加するコンクールの課題曲です。多くの楽団が一生懸命に練習する曲の中でこのような独自の記譜ルールを使ってしまうと、若い奏者が誤った解釈を刷り込まれてしまうことになります。

コンクール課題曲は公募なので、曲の良し悪しによって採用されたのでしょう。しかし、全国的に配布される前に校閲をし、適切な音楽用語で記述するように修正してほしいものです。

 

ようするにそういう記述をミスだと言い切れる人が皆無なんだということです。

 

ケーススタディをやめよう

指導をしている人も、曲を作っている人も、記譜法の原理を理解していないんです。

で、その曲固有の、あるいは自分たちの演奏固有の表現のために捻じ曲げた表現を指導しているんです。

その場その場に対するピンポイントの指導のことを「ケーススタディと言います。

たしかに「その曲のその場面」では「そういう奏法」が正解になるでしょう。しかし、標準的な奏法を理解していないのにケーススタディ100%の指導をしているから奏者が育たないんです。

 

指導する指揮者が何も言わなくても、音楽の原理原則を学んでいれば、

  • 曲が作られた時代
  • 作曲者のクセ
  • 記譜の限界
  • 楽器固有の慣例
  • オーケストレーションの組み合わせと、対処法、慣例

という根拠によって「ここはpで書かれているが、フルスコアを見るとこういうオーケストレーションになっている。故に音量を大きく演奏するべき」「ただし、pは音量ではなく雰囲気を表すと考えるから、大きいけど穏やかに」などの的確な解釈が可能になってきます。

それを根拠を説明せずに「そこはもっと大きく!」「違う!」「周りを聞いて!」という指導ばかりしているから原理原則が理解できないんです。

 

まー仕方ないですよね。音楽の原理原則を分かっていない人が気分で指導してるんですから。しかも指揮法の指導と言いつつ、アナライズも何もやらずに棒振りテクニックばかり指導してるんですから。

 

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■人気記事です

非常に多くのアクセスがある記事です。

 

私はもうプレイヤーとしての生活をやめているのですが、以前はセミプロのプレイヤーで演奏の講師だったこともあります。

そういう経験を経て、DTM(コンピューター音楽)で生演奏を再現するために、生演奏の細部を非常にシステマチックに理解し表現するように努めています。

 

今後も機会があれば、生演奏をする人が悩みがちなポイントについて記事を書いていこうと思います。

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